HAIKU日本大賞 大賞発表

HAIKU日本2019秋の句大賞 金賞

秋燕散って山肌にじみけり

[ 兵庫県西宮市 幸野蒲公英 ]

(評)春に渡ってきた燕が子育てを終えた秋、南方へ帰って行きます。子燕と一緒に大きな群れになって飛ぶ燕の姿が夏の終わりから秋の初めにかけて見かけられます。群れを作るのは、燕たちが南へ帰る準備なのです。「秋燕散って」は、果てしない旅に出ようとする燕たちの山里への別れでしょう。あっ気ない別れには淋しさが募ります。来年もまた来てほしいという気持ちと、愛しい燕たちが去ってしまう寂寥感で山肌がにじんで見えたのかもしれません。「山肌にじみけり」は様々な思いを想起させ、深い余韻を残す一句です。

銀賞

新涼や回転ドアの二秒間

[ 愛知県岡崎市 岡田修平 ]

(評)夏の暑さが急に衰え外気を冷たく感じたのが、「回転ドア」を出た「二秒間」のこと。「新涼」は秋に入ってから初めて感じる涼しさのことです。ふと覚えた涼気。夏の終わりを知った瞬間です。そのほんの少しの瞬間を「二秒間」としたことで読み手に印象付け、去りゆく夏と訪れる秋のドラマが生まれました。さらに、作者にはこの「二秒間」にもっとセンセーショナルな出来事が起こっていたのかもしれません。読者に謎を投げ掛ける衝撃の「二秒間」です。

銅賞

秋立つや風信帖のある茶の間

[ 神奈川県相模原市 中村成吾 ]

(評)「風信帖」は「弘法も筆の誤り」の諺に出てくる弘法・空海の筆による最澄宛ての書簡のこと。国宝に指定され京都の東寺に所蔵されています。書道は古典を臨書することで筆法を学んでいくと言います。手本に忠実に書かれた掛け軸の一文字一文字から漲る力が伝わって来るようです。「秋立つや」の響き、そして「風信帖」へと重厚感を増し「茶の間」で軽みへと転じるリズムの良さが俳句の技を心得た秀句です。

君逝きて十度染む道アメリカ楓

[ 石川県金沢市 玲 ]

(評)作者の住む金沢市には、“アメリカ楓通り”という約200メートルの並木道があります。金沢城公園と現代アートの21世紀美術館を結ぶ道です。それは、まるで過去から現代へとタイムスリップする通り道のようです。恋の歌はたくさんありますが、俳句ではなかなか難しいもの。“アメリカ楓通り”の色付く道を亡き人との思い出の数々を偲びながら歩く作者。あれから十年・・・。その月日の長さを「十度染む」とした慎ましやかな表現が句の味わいを深くしました。

方寸に舌禍のごとき木の実降る

[ 福井県福井市 濱田新之助 ]

(評)「方寸」とは、約3センチ四方でごく僅かな広さのこと。この句では心の内を指すのでしょうか。悪口や中傷によって他人を怒らせることを「舌禍」を招くと言います。“口は災いの元”の格言通り、口を慎まなければ自らに災いを招く結果となってしまいます。反省しきりの心の内を木々から降ってくる木の実に重ねました。木の実の音が作者の心に響きます。誰にも起こりうる場面を感慨深く詠んでいます。

梨剥きて病窓の空青きこと

[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)ひとつひとつの言葉が心に沁みる巧みな一句。「青きこと」と言い切ったことで空の青さが強調され、読者の目を空一点に引き寄せます。「梨剥きて」と病室で過ごす日々はいつ終わりを告げるのでしょう。病気でなかったら気にも留めなかっただろう空の青さに不安と希望が映し出されていますが、秋気に満ちた空は明るい未来を印象付けるかのようです。空の青さに心癒される作者の姿が描き出されています。

月明に香る昭和のハイボール

[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)ハイボールは昭和50年代に大いに流行しました。その頃はウイスキーに特級、1級、2級の区別があり、特級のジョニ黒、オールドパーなどは昭和のお父さんのステータスシンボルでした。ジョッキではなくタンブラーグラスに入れて飲む。高級ウイスキーの贅沢な香り。そんな「昭和のハイボール」を思い出しながら月明りの中で一人グラスを傾ける作者。「月明」と「ハイボール」の取り合わせが情趣たっぷりに一人の男性の姿を映し出しています。

<秀逸句>

知らぬ間に家ひとつ建ち秋燈す

[ 茨城県常陸太田市 舘健一郎 ]

(評)近年の建築技術の進歩は凄まじく、あっという間に家が建ちます。灯りが点ったことで、いつもの帰り道に家が建ったことを知った作者。近くに新しい営みが生まれたことは嬉しいことでしょう。「秋燈す」には、人懐かしい静かな雰囲気があります。作者の家族への愛おしさへと繋がります。味わいのある一句です。

巻きぐせのとれぬ賞状暮れの秋

[ 埼玉県所沢市 内野義悠 ]

(評)「暮れの秋」は晩秋の中でもいよいよ秋が極まった頃を言います。これに対し「秋の暮れ」は秋の夕暮れのことです。「暮れの秋」は、“行く秋”や“秋深し”の季語と同様に秋を惜しむ気持ちが強く出ていて主情的です。秋の終わりを実感する頃に取り出してみた過去の賞状。昨日までと何も変わっていないのに、ふと何かが目に留まる瞬間があります。過去を見つめることで新たな自分が見えてきます。「巻きぐせのとれぬ賞状」の措辞を「暮れの秋」がしっかりと受け止めた一句。

新米の手の甲までの水加減

[ 東京都青梅市 渡部洋一 ]

(評)一年でほんの僅かな期間しかそう呼ばれない「新米」。ただでさえ美味しいに決まっているのに炊き加減もいつもより慎重に。手に触れる新米の感触を確かめながら手で行う水加減。新米は少々控えめ、これが鉄則です。この時期ならではの誰もが分かり合える心境を作者の一句一章が見事に決めた一句です。

新涼や父の残せしジッポの火

[ 神奈川県川崎市 宮本俊伍 ]

(評)「ジッポ」はアメリカの企業・ジッポー社が製造するオイルライター。1933年に第一号が発売され、今も世界中で親しまれています。この句は、季語の「新涼」と「ジッポの火」を取り合わせた“切れ”の効いた一句。遺品の「ジッポ」なのでしょうか。親子の情愛が詠み込まれています。「新涼」には夏が終わったことを知るどこか別れの淋しさがあり、「ジッポの火」に父の面影が浮かんだのでしょう。

掌に闇にぎりしむ秋出水

[ 神奈川県相模原市 渡辺一充 ]

(評)「秋出水」は秋の大雨です。超大型台風が週末ごとに上陸したこの秋。特に被害の大きかったのが台風19号。東日本を中心に広範囲に洪水をもたらし大災害となりました。凄まじい夜の豪雨でした。夜、避難もままならない家の一室で、差し迫る水の恐怖にじっと息を潜める作者。「闇にぎりしむ」の七音が緊迫した一夜を如実に表しています。

一重菊殊に蕾をめでるなり

[ 京都府京都市 太田正己 ]

(評)春の桜に秋の菊。菊の種類は実に多彩です。楽しみ方も一本仕立て、千輪作り、懸崖作りと様々です。花弁が一重の「一重菊」は花嫁に例えられる素朴な美しさ。蕾は小さく可憐で独特の風情があります。「殊に蕾をめでるなり」と蕾に心惹かれる作者。下五のまろやかな響きが一句に余韻をもたらせ、楚々とした「一重菊」の蕾が目に浮かびます。

涙目を残して逝った君の月

[ 京都府京都市 西崎薫 ]

(評)「涙目を残して逝った」の措辞が心に響きます。その死からどれくらい月日が経ったのでしょうか。落ち着いた作品となっています。今日の月の美しさと清らかさが君の涙に重なります。悲しみは深くただ月を眺めています。時は流れても、今も変わらぬ愛を抱き続けている作者。亡き人の面影を重ねて切々と詠んだ一句が悲しみを誘います。

炊きあがる米の匂ひや秋気澄む

[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)「秋気澄む」は秋の気配というよりも、夏の空気と入れ替わった秋の澄み切った空気の感触です。澄み切った空気の中では、炊き上がる米の匂いは尚更届いたことでしょう。肌の感覚と匂いだけを詠むことで、この句は人間の五感を研ぎ澄まさせます。季語「秋気澄む」が、炊き上がる米の美味しさをより鮮やかに表現してみせた一句。

こんなにも人慕ふ草草虱

[ 大阪府枚方市 藤田康子 ]

(評)「草虱(くさじらみ)」は、夏に白い花を咲かせ秋に実となります。実には鉤状の毛が生えており衣服に付くとなかなか離れないのでこの名が付きました。それを嫌がりもせず「こんなにも人慕ふ」と詠んだ所が人情もあり詩情豊か。くっついてきて迷惑なのに付けて来た恥ずかしさと可笑しさもあって、腹を立てるどころか作者は人目に付かないところでそっと優しく払うのでしょう。

菓子皿に溢るる色や小鳥来る

[ 広島県東広島市 葵そら ]

(評)「菓子皿に」盛り付けられたトッピングのフルーツなど。その華やかさを「溢るる色」と詠んだ作者。友人とのティータイムでしょうか。渡り鳥や山から下りてくる秋の小鳥たち。鳥は色を見分けることができるらしい。カラフルな一皿に魅せられて集まってきたに違いない。その姿と鳴き声。秋の一日の喜びを優しく詠い上げた「小鳥来る」の季語にふさわしい一句。

鈴虫の鳴き声庭を狭くする

[ 愛媛県松山市 宇都宮千瑞子 ]

(評)「狭くする」という作者のユニークな感性が一句を引き立てています。秋の閑かさの中、「鈴虫」の鳴き声が庭を覆っています。庭に隙間がないほどに覆い尽くされたと感じる鳴き声が「庭を狭くする」の措辞へと繋がったのでしょう。りーんりーんという鈴を振るような鈴虫の鳴き声が涼やかに澄み渡っています。

<佳作賞>

北の秋カレー南蛮始めました

北海道札幌市 夢老人

縮尺の富士を土産に秋時雨

岩手県北上市 川村庸子

草紅葉マラソン人の頬に照る

岩手県盛岡市 蘭延

残照の色とどめをり山の柿

宮城県仙台市 鹿目勘六

車窓には刈田てんてん紙芝居

宮城県仙台市 繁泉祐幸

大嵐去りて我あり望の月

宮城県仙台市 奥山凜堂

曼珠沙華君の分まで生きてやる

宮城県名取市 松本裕子

菩提子や人連なりし古刹かな

山形県山形市 一日一笑

待ちかねて落穂啄ばむ雀あり

山形県米沢市 山口雀昭

柿の実の赤空青し筑波山

茨城県つくば市 草雲

ひつじ田を耕す後に鷺の群れ

茨城県つくばみらい市 池端絹子

ひとり言ちょっと大きめ秋の暮

茨城県土浦市 株木謙一

満作や稲も農夫も笑みの眉

茨城県土浦市 沼澤篤

いま去りぬ帳り伝いて吹く秋思

茨城県水戸市 一本槍満滋

山眺め谷見て祖谷の走り蕎麦

栃木県宇都宮市 平野暢月

世阿弥の忌一張羅着てロックフェス

群馬県伊勢崎市 白石大介

ふと香る送り手やはり金木犀

埼玉県入間市 荘然

新涼の潮風に鳴るイヤリング

埼玉県さいたま市 加藤啓子

球審の投げる白球秋の色

埼玉県さいたま市 坂西涼太

栗鼠たちの忘れ木の実が森守る

埼玉県さいたま市 本橋葉月

名月にのしかかられて川堤

埼玉県さいたま市 アヴィス

テーブルに襟元正し柿ひとつ

埼玉県狭山市 石田泰生

山小屋のコーヒー熱し渓紅葉

千葉県市川市 田村さよみ

コスモスや風そよそよと里の道

千葉県野田市 大竹充利

コスモスの空分けゆくやトロッコ車

千葉県船橋市 井土絵理子

赤蔦の学舎の壁やピザに列

千葉県船橋市 川崎登美子

掛け声は屋号となりて秋祭

千葉県南房総市 沼みくさ

帰り路の金木犀やことごとく

東京都足立区 繁泉まれん

軒先に西瓜ごろりと陰細く

東京都新宿区 黒川茂莉

紅葉にも裏と表がありにけり

東京都世田谷区 岡田玲凜

盆参り初孫抱いて背筋伸び

東京都中央区 浦上真貴子

業物とお見受けいたす初秋刀魚

東京都中央区 八木大地

丹色さす身にしむ秋や砂の城

東京都豊島区 潮丸

抜け道に思いがけなき秋の風

東京都練馬区 符金成峰

太刀魚のまさに斬れんがごと光る

東京都文京区 遠藤玲奈

本切羽捲り秋暑の銀座行く

東京都国分寺市 じょにー

野が薫るふっくらうまし茸飯

東京都小平市 佐藤そうえき

嵐去り鼻を啜れば金木犀

東京都西東京市 彦丸

雨宿る轍鏡や鰯雲

東京都三宅島 瀧沢みさ子

木犀の纏う香りぞ慎ましく

東京都武蔵野市 尾魚小僧

ゆくりなくフェイスブックに秋の君

東京都武蔵野市 伊藤由美

相方の寝息聞きつつ夜なべかな

東京都八王子市 村上ヤチ代

降り月ドロップの缶振ってみる

神奈川県相模原市 あづま一郎

短歌帳ははの余白を編む秋思

神奈川県相模原市 盛みさを

秋の日の折り紙少し上手くなり

神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦

亡き人の遺伝子継ぎて体育祭

神奈川県茅ケ崎市 廣瀬順子

喉仏見せて飲み干す新酒かな

神奈川県三浦郡 葉山さくら

パプリカを唄う園児や秋高し

神奈川県横浜市 要へい吉

大空を破いておりぬ稲びかり

神奈川県横浜市 神田央子

秋めくや岩波文庫みな古び

神奈川県横浜市 竹澤聡

マンションのポストに届く秋の風

神奈川県横浜市 山田知明

電車過ぎ茜雲掃く芒の穂

新潟県新潟市 川崎郁夫

秋麗横断歩道でお出迎え

新潟県南魚沼郡 高橋凡夫

故郷は母の居る場所芋の露

富山県南砺市 珠凪夕波

亡き母の墓に寄り添うアキアカネ

石川県金沢市 岩本公子

台風に備へ庭師の縄捌き

石川県金沢市 百遍写一句

老いてなお子慈しみて里の秋

福井県大飯郡 薫葉

病窓に雲立ち昇る秋の暮れ

福井県小浜市 香月

星月夜海馬に宇宙閉じこめぬ

山梨県韮崎市 三八五

コスモスが好きだったよね河原風

山梨県南アルプス市 小林克生

青山に燃え急ぐ楓一本

山梨県南都留郡 雨子

眠れぬ夜ちんちろりんの仲間かな

山梨県大月市 坂本真史

秋めきて貸自転車屋しやがれ声

長野県安曇野市 小川都

島流しされて秋刀魚の味を知る

長野県北安曇郡 母子草

夕日背に友と家路のあけびとり

長野県南佐久郡 高見沢弘美

紅葉かつ散り急き暮れる嵐山

岐阜県多治見市 樋口緑

やんわりと刃受け止め水蜜桃

静岡県湖西市 市川早美

点点と点点点と黄落期

静岡県静岡市 川上森

わたしより淋しい秋になりにけり

静岡県富士市 城内幸江

老猫永眠水鉢ぽつり秋の朝

愛知県瀬戸市 風璃月

産みに来し娘寝かせて秋の風

愛知県高浜市 篠田篤

独り居の増ゆる日本ちちろ鳴く

愛知県名古屋市 久喜聖子

コスモスや銃座から見る空の青

愛知県名古屋市 白沢修

木々揺らす律の調べに胸騒ぎ

愛知県名古屋市 藍太

鰯雲親族総出の旅芝居

愛知県日進市 嶋良治

帯とかれ魂をとく菊人形

三重県志摩市 廣岡梅生

輪描いて立ち去り渡る秋燕

三重県松阪市 春来燕

鈴虫や夜の手習い公民館

三重県松阪市 谷口雅春

空隠し樹下に絢爛紅葉かな

滋賀県大津市 つよし

通関を待つ間に霧の船となる

滋賀県彦根市 馬場雄一郎

風吹けばふわり乗りたるとんぼかな

京都府京都市 市来菊花

駅ビルに映るタワーや今朝の秋

京都府京都市 水色

吾の名呼ぶ人工知能秋うらら

京都府京都市 横滝友子

長き夜句集の中の恋一途

大阪府池田市 木りん

路地の空ひととき雁の渡る見ゆ

大阪府和泉市 小野田裕

秋時雨カフェにかけこみ盲ひたり

大阪府和泉市 清岡千恵子

オーライと朝の荷受け場冷まじき

大阪府大阪市 浅山幹也

轆轤より立ち上がる壺野分来る

大阪府大阪市 上田禮子

駄菓子屋の裸電球みみず鳴く

大阪府大阪市 清島久門

秋の空テリア一匹何思う

大阪府大阪市 田口武男

紅葉狩り親子そろっていこうかな

大阪府大阪狭山市 ひでみ

ヘルパーのハザードランプ小鳥来る

大阪府堺市 椋本望生

西鶴忌反橋登る影ふたつ

大阪府泉南郡 藏野芳男

銀杏散るそれぞれに散る人のごと

大阪府高石市 岡野美雪

地の底の静けさ畏れ虫なけり

大阪府寝屋川市 伊庭直子

希望抱き病床で見る秋朝日

大阪府枚方市 妃斗翠

土木機の皆俯いて秋日和

大阪府八尾市 乾祐子

野葡萄を髪に飾りて魔女の飛ぶ

兵庫県明石市 田淵克洋

長大な女権の書物我の秋

兵庫県明石市 康子

新人の盗塁数え涼新た

兵庫県尼崎市 尼島里志

異国語に慣れたる車夫や竹の春

兵庫県尼崎市 大沼遊山

シュッとした秋刀魚を食えと医師は言ふ

兵庫県神戸市 季凜

着せ替へて菊人形の若返る

兵庫県神戸市 平尾美智男

産声や苦難もろとも秋の空

兵庫県宝塚市 花田しづこ

見ると観る調べ尽くすや長き夜

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

托鉢の僧の胸にも赤い羽根

岡山県岡山市 岸野洋介

干し柿が狭いベランダ通せんぼ

岡山県岡山市 みくちゃん

草の実や日がな一日何もせず

岡山県岡山市 森哲州

病む身にも案内の届く旅の秋

岡山県倉敷市 小郷幸子

UとIターンで再興村祭り

広島県安芸郡 ゆうでん

廃線を一陣のあと曼珠沙華

広島県尾道市 広尾健伸

がん検診紅葉且つ散る帰り道

広島県広島市 黒うさ狐

青きビロード天に開けんと朝顔や

広島県広島市 前田節

不覚にも芒を手折り指を切る

広島県福山市 林優

もみじ葉の風に競いて渦に入る

島根県隠岐郡 谷村美都子

柿簾村から村へ郵便夫

島根県松江市 寺津豪佐

テーブルに石榴ベッドに女画家

島根県安来市 永谷明美

さわやかや馬上の少女風まとふ

鳥取県米子市 淑

秋薔薇やカルテ手書きの若き医師

山口県山口市 鳥野あさぎ

袋開けば匂ひ立つ今年米

徳島県阿南市 白井百合子

黄昏の案山子に道を尋ねけり

徳島県阿南市 土肥つや子

鳴く鳩も秋の色なる大聖堂

徳島県阿波市 井内孝子

軒の下余すとこなく柿すだれ

徳島県徳島市 粟飯原雪稜

流灯の光の帯に巡る過去

徳島県徳島市 京

黄落や弁当ひらく宮大工

徳島県徳島市 山之口卜一

包丁とペン競ふ真夜中の月

香川県仲多度郡 佐藤浩章

名月や湖底に村を眠らせて

愛媛県伊予郡 松田夜市

御手洗の柄杓新し秋彼岸

愛媛県西条市 渡辺国夫

天高く我儘な客釜山から

福岡県飯塚市 千年岩

一円の切手が秋の風に飛ぶ

長崎県長崎市 牧野弘志

天窓のいき先見えぬ流れ星

佐賀県唐津市 浦田穂積

亡き姉の茶室の香り秋の朝

大分県豊後大野市 洋子

髪染めて何か始まる西鶴忌

宮崎県日南市 近藤國法

秋の灯に日記の中の母に逢ふ

鹿児島県鹿屋市 鮫島啓子

癌術後五年の妻とましら酒

沖縄県那覇市 成瀬敦

虫の楽委ねる祈り霊山寺

アメリカ合衆国カリフォルニア州 鈴木ロジー

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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