HAIKU日本大賞2018冬の句大賞発表

HAIKU日本冬の句大賞 金賞

冬の月ネオン沈める頓堀に

[ 神奈川県藤沢市 松田優子 ]

(評)大阪の盛り場を流れる道頓堀川に映り込んだ揺らめくネオンの向こうに冬の月。この冬の月は、研ぎ澄まされた三日月なのか冴え冴えとした満月なのでしょうか。冬の月の本意は、孤高の美とされます。冬の月に、一夜の人間模様が垣間見えるようです。夜の都会の空に上がった月が、読者に色々な思いを呼び起こさせる奥行き深い句となりました。

銀賞

気嵐の奥より妣の来たりけり

[ 北海道留萌市 三泊みなと ]

(評)気嵐は、北海道の方言です。極寒の朝に、海や川から立ち上る冬の霧のこと。この気嵐が、句の意味を深め心に響きます。誰にとっても、母という存在は大きい。「妣」は亡き母の意。母を恋う句に尽きることはありません。気嵐の奥に亡き母の姿が浮かびます。

銅賞

初茜校庭樹々の影ばかり

[ 徳島県徳島市 粟飯原雪稜 ]

(評)初茜は、元旦の明け方の空が茜色に染まること。新しい年への期待が込められています。周りはまだ薄暗く冬休みの校庭に遊ぶ子供の姿はありませんが、気配はいつもと違います。漂うのは、淑気に満ちた元旦の気というものです。それを察するのは、人だけではありません。作者を振り向かせたのは樹々。初茜の季語の効いた一句。

朝はトースト雪見の温泉宿

[ 神奈川県鎌倉市 狭静香 ]

(評)花、月と並び雪見は江戸時代から広く庶民の間で楽しまれてきました。風雅な趣の「雪見」に「トースト」の軽やかさを合わせてきた作者。取り合わせの新たな発見です。句の意外性は、作者の生き方そのものを映し出します。しなやかに生きるひとりの人間像が浮かび上がります。

厚底に急かされるごと冬の駅

[ 東京都清瀬市 林優 ]

(評)厚底ブーツや厚底スニーカーが、若い女性の間で人気になったのは20年ほど前からです。上五と中七の十二音が都会の朝を思い起こさせます。冬の駅の雑踏が見事に描かれています。誰もが早足になる冬。朝の時間帯なら尚更のことです。

宿直の三分間の晦日蕎麦

[ 兵庫県尼崎市 大沼秋獅子 ]

(評)三分間、カップ麺の出来上がりまでの時間です。常備してあるカップ麺の中から、迷うことなく蕎麦にする。たとえ独りの夜であろうと、新しい年を迎える厳粛な気持ちに変わりはありません。読者はこの句から湧いてくるイメージを共有し、蕎麦を啜るその姿に寄り添います。

爪を切る遠く弾けて大晦日

[ 京都府京都市 筒井絵里 ]

(評)正月に爪を切ってはいけないとの習わしのある地域もあるそうです。この句は「爪を切る」と「大晦日」の取り合わせの一句。新年の準備をすべて終え、心身を清め、除夜の鐘を待つといったところでしょうか。勢いよく飛んで行く爪に、中七が俳諧味を持たせました。細かい動作を句にするのは楽しい。あっけらかんと詠んで印象的。

<秀逸句>

大鷲の孤影ダム湖の赤電話

[ 埼玉県上尾市 くもがくれ ]

(評)大鷲の数は減りつつあり今、保護活動が続けられています。作者は、大鷲から赤電話へと視線を変えます。上空には弧を描く大鷲。視線を落とせばダム湖畔に赤電話。赤はアクセントとなり、句に弾みを付けます。作者の目の前にある大自然の大らかな光景を、読み手は心と肌で感じることができます。

如何様にでもしてくれと鮟鱇かな

[ 栃木県宇都宮市 平野暢月 ]

(評)鮟鱇は、江戸時代からの珍味の代表格。口に鉤をかけて吊るし、「鮟鱇の吊るし切り」として料理されます。鈴木真砂女は「いたましや」と詠みましたが、作者は「如何様にでもしてくれ」と。何とも気の毒な鮟鱇が見得を切った一句。切なくもリアルな存在感の中に俳味があります。

ふるさとの山はなだらか雪が降る

[ 和歌山県有田郡 秋冬 ]

(評)冬の景観美のひとつが雪。その形により、降り方により雪とつく季語はさまざまです。雪を見て思う故郷。雪と共に暮らした日々を十七音に込めた秀逸句です。易しい言葉でありながら、しっかりと自分の言葉で描写しています。

朝市の婆さま丸く股火鉢

[ 新潟県上越市 志賀野修一 ]

(評)火鉢にまたがるようにして暖を取っているお婆さん。北国の朝市の様子が目に浮かびます。この様子を、コミカルな表現で句に仕上げた作者。女店主「婆さま」との息の合った会話が聞こえてきそうです。

自転車の一漕ぎに割る初氷

[ 大阪府和泉市 小野田裕 ]

(評)「自転車の一漕ぎ」なら、爽快な初夏の風、早春の土や草の匂いなど心地良いものへと続く。この句では「割る」と置きます。何を?と思えば、「初氷」。「割る」とは、この冬一番の寒さの中へ漕ぎ出す作者の闘志の表れです。氷ではなく、初氷が読み手に緊張感をもたらせ精悍な一句となりました。

着ぶくれてゴリラと手話をしてをりぬ

[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)名古屋・東山動植物園のイケメンゴリラ「シャバーニ」が写真集を出すほど、今やゴリラは人気者。シャバーニの動作を見ていると、手話も簡単にこなせそうです。実際、アメリカでは、ゴリラと人との手話が成功したとされています。死の概念さえ理解していたとされます。この句も作者は、ありのままを詠んだのでしょう。ゴリラとの手話合戦、そして友情物語です。

旅の途に君の夢降る冬田かな

[ 東京都狛江市 中田潤 ]

(評)冬田の荒涼とした姿を見て、君を思い浮かべます。ここは、旅の途中の冬田。君を夢見た夜は、君と共に過ぎ去ってしまったのでしょうか。目の前の冬田に、詠嘆の「かな」が響いて句を締めくくります。美しい別れほど哀しいもの。ひっそりと物寂しい雰囲気が漂います。

うたた寝の妻に三日の日差しかな

[ 岐阜県岐阜市 洞口武雄 ]

(評)愛妻家ならではの一句でしょう。年末の忙しさを乗り越え、年始客のもてなしも滞りなく済ませた三日。仕事始めまでの束の間の休息です。日の当たる場所で、うたた寝を始めてしまった妻。日差しも妻への眼差しも優しく柔らかい。

きざはしは漆の朱塗淑気満つ

[ 愛媛県西条市 渡辺国夫 ]

(評)淑気が新年の季語で、新春のおごそかな気分を詠みました。淑気は、もともと漢詩に用いられた言葉です。天地に満ち溢れた瑞祥の気を言います。漆塗りの階を前に、凛とした作者の姿が目に浮かぶようです。

楪やレシピ一冊娘に残し

[ 大分県大分市 小野柊子 ]

(評)楪(ゆずりは)は、新しい葉が生えると古い葉が譲るかのごとく落ちます。つつがなく子に代を譲ることができ、目出度いとして新年の飾りにされます。今まで書き留めて来たレシピを、いつか娘に渡そうと大事にとっておいた作者。楪とレシピの取り合わせが愛情あふれる作品となりました。

初空が清らかにすみ幸多く

[ 愛知県刈谷市 水仙 ]

(評)年が明けて誰もが胸を膨らませて仰ぐ新年の空。今年の元旦は清らかに澄んでいました。下五の「幸多く」は我のみならず、世の中の一人一人への願いです。胸がじんとなります。HAIKU日本に投句を続けられて三年。水仙さんは、一月に天国へと旅立たれました。「みづうみの水のやさしき花野かな」「雪だるま作りし子らに明るい未来」これらの遺作に水仙さんのやさしい人柄が偲ばれます。

<佳作賞>

親鶏の胎の温みや寒たまご

北海道札幌市 斉藤康

初孫やだはんこいてもお年玉

北海道札幌市 夢老人

初茜八十路の覚悟さそひけり

青森県黒石市 福士謙二

地風吹の風にあおられぴりりとす

青森県五所川原市 山川剛健

吟詠の海鎮めたる初日かな

岩手県花巻市 佐々木凡空

雪月花冬にきらめく雅かな

岩手県八幡平市 スペシャルまさ

湯わかしもこんこんといふ冬の朝

宮城県仙台市 伊世貴志

大寒や不協和音の膝小僧

宮城県遠田郡 武田悟

新年の一重二重に三重の重

山形県東置賜郡 高梨忠美

地吹雪は手作りマント吹き上ぐる

福島県喜多方市 伊藤登久子

首反って捜しあぐねし寒昴

茨城県笠間市 川又弘子

新年や過去を忘れて今日生きる

茨城県常陸太田市 舘健一郎

ネットにも住まふ人あり山眠る

茨城県常陸大宮市 細貝雅之

冬銀河身を任せたる観覧車

茨城県土浦市 株木謙一

献杯は核なき明日に年始酒

群馬県伊勢崎市 白石大介

山の端の初東風のすみれ色

埼玉県さいたま市 加藤啓子

晩年と言う齢得て唐椿

埼玉県狭山市 翆雨

終電車降り立つ駅の寒昴

千葉県市川市 田村さよみ

埋め火を赤子のやうに揺り起こす

千葉県鎌ケ谷市 みやこまる

ひとつづつ生んでもらひし霜柱

千葉県千葉市 千葉信子

昼ぬきの往診終えて冬の星

千葉県船橋市 内田康美

寒月や郊野に増ゆる発電板

千葉県船橋市 川崎登美子

配達夫凍てし紙面を置きて去る

東京都足立区 大野哲太郎

枯菊や崩れしままの石灯籠

東京都足立区 木山宏美

南天の目にしみる赤つい見とれ

東京都板橋区 山崎芳美

寒夕焼烏の点の五つ六つ

東京都杉並区 浅野純子

底冷えの閑けさ響く除夜の鐘

東京都豊島区 潮丸

軒を借る雨の吉原冬ぬくし

東京都練馬区 符金成峰

雪、雪、雪、犬もひっこむほどの雪

東京都文京区 遠藤玲奈

寒猿や哀哭一つ谷へ落つ

東京都目黒区 すみのは

日本に心技体あり梯子乗り

東京都青梅市 渡部洋一

八卦見の店仕舞ひして着ぶくれて

東京都八王子市 村上ヤチ代

高らかに新年の犬尾を立てて

東京都町田市 のらちゃん

若菜摘む指の先まで女の子

神奈川県厚木市 北村純一

大雪原雑草と呼ばれ咲きけり

神奈川県鎌倉市 青山涼

吊革の三角の中冬の月

神奈川県鎌倉市 上崎海風

恋心貼り絵のように春を待つ

神奈川県川崎市 雲舟

冬怒涛崖に張り付く修験道

神奈川県相模原市 あづま一郎

通学路燥ぐ童子と霜の声

神奈川県相模原市 平幸恵

鏡餅にも正面の面構へ

神奈川県相模原市 渡辺一充

大仏が雪衣羽織るや養父の医者

神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦

しりとりの麒麟に果つる柚子湯かな

神奈川県中郡 松井瑞石

焼藷屋軍手も黒に焦げにけり

神奈川県藤沢市 藤之沢いなほ

降り立てば陣を解きたる冬の鳥

神奈川県三浦郡 葉山さくら

厨にて月に向き合う寒卵

神奈川県横浜市 穴澤秋彦

冬ざれや線路高速持たぬ町

神奈川県横浜市 石川夏山

はればれと山河塗りゆく初日かな

神奈川県横浜市 吉良水里

雪掻きの人と笑ひて朝の道

神奈川県横浜市 杉山太郎

赤色のドロップ嘗めて春を待つ

神奈川県横浜市 竹澤聡

幼き目みかんの皮とにらめっこ

神奈川県横浜市 俊希

青冴えの樽酒飾る初芝居

神奈川県横浜市 政子

いつ落ちる見たこともない長つらら

新潟県新潟市 川崎郁夫

ロゼット葉春待ち侘びる葉広々

新潟県南魚沼郡 高橋凡夫

雪ひらり追いつ追われつ冬の道

富山県富山市 位寄典子

三行の楷書の賀状ホームから

福井県福井市 清田誠亮

寒禽の餌場は白く閉ざされり

福井県福井市 山下博

初空にパトカーの音かすかなり

山梨県大月市 坂本真史

餅花を翳りなきやう飾りけり

長野県北佐久郡 内堀隆久

鋭澄の湖氷率いて神音走る

長野県下伊那郡 成実

水際に光の溜まりたる冬野

岐阜県高山市 湖黎

初茜さすこんなにも愛されて

静岡県富士市 城内幸江

肺に濃く水仙の香の浸潤す

静岡県藤枝市 二峰珪

冬満月辻に針金細工人

愛知県岡崎市 太田風子

妄想の谷へと下る探梅行

愛知県岡崎市 山田草風

写メで来て掌に載る初日の出

愛知県高浜市 篠田篤

平昌や世界をひとつに統べる冬

愛知県名古屋市 杉村憲子

手袋の左を探す帰り道

愛知県名古屋市 横井美佳

冬の日の温もり背に三千院

愛知県日進市 嶋良二

道一つ違へたるかな雪連山

滋賀県彦根市 馬場雄一郎

枝の先てぶくろかたて通学路

三重県松阪市 谷口雅春

風花や千手の指に舞い散りぬ

京都府亀岡市 清流

三山を囲む鳶二羽初日の出

京都府京都市 斎藤実

無人駅雪は切符を切るように

京都府木津川市 初霜若葉

千年の古都見続けしぼたん雪

京都府京都市 田久保ゆかり

がまんする口元もれる福笑い

京都府京都市 太田正己

氷上に和心結ぶワンライン

京都府与謝郡 真本笙

寒紅を引くおのが罪あかすごと

大阪府和泉市 小野田裕

モーニングサービス混みて雪もよひ

大阪府和泉市 清岡千恵子

我家出て一人酒場の熱燗よ

大阪府大阪市 妃斗翠

冬ざるる神崎新地遊女塚

大阪府大阪市 清島久門

新年に心あらたに文を書き

大阪府大阪狭山市 ひでみ

雪霏々と玻璃にゆらめく湯の灯

大阪府堺市 森哲州

黒門の匂ひ交わる鮪かな

大阪府寝屋川市 伊庭直子

葱ラーメン屋台でコート襟を立て

大阪府泉南郡 藏野芳男

一月を漕ぐ江戸川の渡し舟

兵庫県尼崎市 大沼秋獅子

ああ言えばこう言う冬帽子の男

兵庫県神戸市 音羽和俊

キリストの洟かんでやる聖夜劇

兵庫県神戸市 河内きよし

初電車ぴたりと決まる停止位置

兵庫県神戸市 平尾美智男

初雪に足をとられて二歩三歩

兵庫県神戸市 渡辺誠男

擦り切れし歌留多の箱に祖母の墨

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

寒干しは冷たく熱くすするよし

奈良県桜井市 喜多隆文

名も知らぬ花の香りや冬霞

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

里山に草山残る冬紅葉

和歌山県有田郡 秋冬

居候に鍵をあづけて春隣

山口県下関市 西村剛

反りかえりくせのつきたる初暦

徳島県徳島市 藍原美子

無縁仏二百余体に風花す

徳島県徳島市 有持貴右

海鼠噛むなまこの姿思いつつ

徳島県徳島市 笠松怜玉

子ら揃い笑い声満つ初座敷

徳島県徳島市 河野章子

畳屋の閉ざして久し寒の月

徳島県徳島市 島村紅彩

ふいに来て年賀述べたる夫婦かな

徳島県徳島市 関富和子

ポインセチア猫待つ家に帰りたし

徳島県徳島市 山之口卜一

電線にすずめ整列寒の雨

徳島県徳島市 山本明美

白梅の香に惹かれひと休み

徳島県阿南市 高田俊孝

新雪は握り締む手に音がする

香川県丸亀市 寒川靖子

大寒波得たりやおうと歩みけり

愛媛県伊予郡 松田夜市

会話まで寒さが響き途切れがち

愛媛県松山市 宇都宮千瑞子

大仏の闇を濃くして冬の月

福岡県福岡市 青木草平

深々と逝ける人らを偲ぶ雪

福岡県福岡市 首藤翁

湯豆腐や眼鏡も白くなりにけり

福岡県福岡市 水音

星々が道標となるや神の旅

佐賀県唐津市 浦田穂積

影伸びて音なき冬の美術館

佐賀県唐津市 桐野みづえ

雪催い空き家の隣りまた空き家

大分県国東市 吾亦紅

長崎市蘇鉄の傘に雪兎

長崎県長崎市 塩豆

里神楽舞ひ手腕白三兄弟

宮崎県日南市 近藤國法

友去りし初冬の磯や忘れ潮

鹿児島県大島郡 未央

庭先にうっすら雪が舞う景色

鹿児島県鹿児島市 有村孝人

冬ざれやローカル線の軽き音

鹿児島県鹿児島市 東いつ子

室咲きの蘭に秘めたる夫婦縁

米国カリフォルニア州 鈴木良子

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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