HAIKU日本大賞2018春の写真俳句 発表

2018春の写真俳句大賞発表

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午後に閉ず春の思いぞ筆竜胆

[ 宮城県仙台市 繁泉祐幸 ]

(評)何を抱えて春の午後へと閉じていくのか、思わず花に聞いてみたくなりました。薄青とも薄紫ともいえない筆竜胆を中心から左に寄せて、奥をぼやかせた構図も玄人なみです。春の、少し気だるげで、ゆるりと流れる午後と、そこに込められた薄くともはっきりとした祈りを思い起こさせる良句です。

次点

花満ちる息苦しさは君のせい

[ 東京都江戸川区 大舘圭子 ]

(評)春といえば恋。恋といえばピンク色。けれどもピンクは決して優しい色ではありません。その意味で、甘さも苦さもある恋の句に「息苦しさ」という言葉がよく効いてます。片思いなのか、両想いだけど、何か心に秘めたものがあるのか。想像を掻き立てられます。また、全体にピンクが迫る背景がどこか「息苦しさ」を感じさせるのも句に合っています。

荒磯や滾る波間の和布刈り

[ 茨城県水戸市 打越榮 ]

(評)ぼかした葉を額にして、荒磯と和布、そしてかかる波を写した写真がまず目に留まりました。それを滾ると表現したことに新鮮味を覚えます。春の訪れを喜んでいるのでしょうか、それとも最後の試練のように、まだ冷たい水の凍える厳しさを和布に与えるのでしょうか。それも含めて見る者に力強い海の春を思わせる句に仕上がっています。

<秀逸賞>

白雲と旅する時間春の昼

新潟県魚沼市 前田明子

(評)春の昼には、何とも長閑な雰囲気があります。眠気を誘われますね。寝転んで空を仰いでいると、綿雲がくっついたり離れたりしながらゆっくりと流れていきます。そんなひと時を「旅する時間」と表現した作者。「春の昼」の季語がピタッと決まっています。

信号を待つ束の間の背な温し

石川県金沢市 百遍写一句

(評)「温し」は、季語「暖か」の傍題で日和に暖かさを感じることです。写真の薄い影は春の浅さを物語っていますが、四季は確かに巡っています。信号待ちの束の間に感じた「温し」が一句となりました。一枚の写真に込められた春への思いの深さを句がさり気無く伝えています。

鳥達も菜の花畑歓喜の舞

茨城県取手市 雀の涙

(評)菜の花の本意は淡い郷愁。そこに、「鳥達の歓喜の舞」を見つけました。温かく迎えてくれたふるさとの景でしょうか。作者のうれしい思いが写真とのコラボレーションで広がります。写真俳句の良さは、写真と俳句の取り合わせによって生まれる広がりにあります。

初物の苦味味わう蕗の薹

埼玉県川越市 涌井哲夫

(評)早春の山路の土の香りが漂ってきそうです。春を見つけた作者の弾む心も素直に伝わってきます。蕗の薹は天ぷらや吸い物にして賞味します。日常の中にある小さな喜びの積み重ねが、人生の豊かさに結びついていくのだということを教えてくれる作品。

ヒロインとなりてまた咲く花絨毯

埼玉県入間市 荘然

(評)足を踏み入れるのが躊躇されるほど見事な「花絨毯」。桜は咲いている時期は短いものの姿を変えながら美しさを放ち続けます。この写真俳句には「ヒロイン」の言葉がぴったりで、作者ならではの視点があります。

場所取りはパパの役割花辛夷

東京都大田区 素人

(評)場所取りと言えば桜ですが、この句では「花辛夷」です。純白の花の下に小さなテントがふたつ。しっかりと据えられ準備万端です。これからどんな物語が展開されるのか楽しみです。「パパ」の言葉が良く似合う家族の愛を感じさせる写真俳句。

青春よ桜花と競へ天目指せ

東京都新宿区 貞住昌彦

(評)花見を楽しみ、音楽を楽しむ若者たち。和やかな光景が人の足を止めます。表情豊かで若さいっぱいの若者たちの前途にエールを送りたくなります。「青春」と「桜花」を組み合わせたこの写真俳句は、読み手の心を元気に優しくさせてくれます。春到来の喜びが凝縮されています。

夫の背の遠くありけり竹の秋

東京都杉並区 浅野純子

(評)「竹の秋」は、筍を育てるために一時的に竹の葉が衰える現象です。「夫の背」が遠いのは作者の心象風景でしょうか。竹のそよぎは、作者の心中を表わしているかのようです。辺りの鮮やかな緑とは対照的な「竹の秋」の情景を印象深く詠んでいます。

花屑を踏めば小さな山河あり

東京都東久留米市 愛宕平九郎

(評)根走りしている古木に舞い降りた花。普段ならば気に掛けなかった走り根に目が向きます。落花がもたらした天からの贈り物です。見上げればどんな桜が待っているのでしょうか。「山河あり」で風格のある一句に仕上がりました。見れば見る程に奥行きのある写真俳句。

藤の滝くぐれば開く明日の夢

東京都町田市 渡辺理情

(評)藤は幾筋も下がり揺れるさまを「藤の波」とたとえられ古くから愛されてきましたが、この写真俳句では「藤の滝」とダイナミックに詠まれました。下からのアングルが美しく迫力があります。潜った者でなければ分からない爽快感と明るさが織り込まれています。写真俳句の良さが充分に発揮された華やぎのある作品です。

桜の間半月のぞく神宮外苑

東京都港区 白雪

(評)満開の桜の間に、半月が浮かびます。写真の構図、色彩ともに美しく仕上がりました。句の方は、神宮外苑の固有名詞が効いています。この固有名詞で読者の受け取る心情も変わってきます。印象深く詠み上げられていて風情と深みのある写真俳句。

花のもと踊れマティスの「ダンス」ごと

東京都武蔵野市 伊藤由美

(評)アンリ・マティスの「ダンス」は、輪になって踊る女性たちの生きる喜びを表現した油彩作品です。桜の木の下で輪になって踊る子どもたちの世界は、この絵に重なります。桜の幹と枝が、手足のようになって踊っているようにも見えるから不思議です。幻想的なシーンは、写真俳句ならではの醍醐味。

誰ぞ待つおぼろ夜道の金色塔

神奈川県川崎市 藤田ケヲリ

(評)写真が醸し出す抒情が句によって更に深みを増した写真俳句。灯り一つ一つに様々な人生が詰め込まれたタワー。その一戸へと急ぐ作者。「誰が待つというのあの部屋で・・・」と往年のヒット曲が頭の中を流れます。朧夜はそんな憂いを含んでいます。

長閑さや美形地蔵のよだれかけ

神奈川県横浜市 蓮七

(評)慈悲の心で人々を苦しみから救ってくださる地蔵菩薩。子どもの守り神でもあることから頭巾やよだれかけを奉納します。焦点を中央の地蔵にあて、バックは黒い古木という一枚。暗いトーンの中に赤が鮮やかさを放ちます。「美形地蔵」の柔らかい微笑みに、思わず手を合わせてしまう想いが伝わってきます。

カラカラと鋤簾呼び込む春の水

長野県塩尻市 御子柴彰

(評)水の流れを整えるために鋤簾を使うらしいわさび田。「カラカラ」のオノマトペが句に軽やかさを出し、作業が軽快に進んでいることを窺わせます。そして、「春の水」の流れる音と響き合い心地良くさせられます。写真と俳句の距離が絶妙の作品。

祈ることの巨大なるかな古都の春

岐阜県関市 細見康子

(評)世界最大級の木造建築、奈良・東大寺の大仏殿。754年の開眼供養以来、大仏様に人々が思いを託す祈りは絶えません。下五の「古都の春」で深い余情が生まれました。写真に相応しいスケールの大きな一句です。

茅葺や花の記憶のゆかしきを

岐阜県岐阜市 鈴木白湯

(評)古民家を覆い隠さんばかりの桜が時代の流れを感じさせます。「茅葺」の屋根に桜がマッチして古くからの山里の姿があります。「を」で止めた一句。切れは弱いですが、句に余韻を残す点で活かされています。句が写真の情景に溶け込んでいます。

散り際を風は残さず花筏

愛知県岡崎市 山田草風

(評)時が止まって、音すらしない時があります。そんな美しいシーンです。春の風物詩のひとつ、花筏。桜は散った後も、人の目を楽しませてくれます。川の流れと共に変わる花筏に作者の心が映し出されています。実感のこもる写真俳句です。

四方より光集めて寒明くる

愛知県名古屋市 久喜聖子

(評)咲き切った一花を見事に切り取っています。息遣いが聞こえてきそうな一枚。「寒明くる」は冬と春の境目となる節分の翌日のこと。立春と同じです。まだまだ日差しの少ないこの日を措辞が的確に表現しています。句と写真の双方が魅力を引き出し合っています。

あす信じみな上を向く白木蓮

京都府京都市 河太郎

(評)白木蓮には周りを圧倒するほどの存在感と美しさがあります。そして、気高く慈悲深い白です。この美しさを、作者は「あす信じみな上を向く」と希望に満ちた姿だとしました。人のあるべき姿を示すかのように咲く白木蓮の写真と句が相まって深みが出ました。

夢ならば覚めるなよゆめ春の夢

大阪府高槻市 多田檀

(評)「春の夢」の儚さと、人と動物の友情がリンクした作品。作者の意図は、どこにあるのでしょうか。それを見つけようとするもどかしさと、女性の手と猿の手の握手の現実感が独特の空気を醸し出します。読者に対して意味の空間を残した作品として成功しています。

夜桜や古城の闇に色香たつ

兵庫県加古川市 処一

(評)このライトアップされたシーンの美しさを味わってほしいという作者の気持ちが伝わってきます。日中の荘厳さとは異なり夜は別の美しさを称える城。桜の咲く一年で最も美しい夜の城です。写真の中で控えめな桜は、「色香たつ」の下五でたっぷりと華やかさを持たせています。写真と句のバランスが完成度を高めました。

いつまでもこのままでいて蓮華畑

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

(評)画面いっぱいに広がる緑とピンク。草の香が、花の香が届いてきそう。でも、この光景もそう長くは続かないのです。作者の切なさを知ってか、懸命に咲こうとする姿でもあるようです。きっと作者は、アミニズムの世界を知っているに違いありません。

春の市買ひ物客の笑ひ声

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

(評)京都の錦市場のアーケードを真下から撮った一枚。アングルとカラフルな色彩が目を引きます。そこに合わせた句は、至って陽気。人の姿は見えませんが、情景が浮かんできます。春の市の気分を十二分に伝えた写真俳句。

一族を引き連れ春の野に遊ぶ

徳島県板野郡 木下米子

(評)「春の野に遊ぶ」和やかな風景とやや荒っぽさのある句との取り合わせがユニークな作品。言葉とは裏腹に一族を見つめる作者の眼差しの優しさを写真はしっかりと伝えています。皆で集った喜びに溢れる写真俳句です。

如月へ雲の切れ端ピンクなり

徳島県徳島市 今比古

(評)ここ数年、世界各地で見られるのが“ピンクの空”です。どうやら地震の前兆ではなく、大気中の粒子や光の波長によって起こる現象だそうです。作者の撮った空は架空の空のようで、宇宙空間までもイメージさせるスケールの大きさがあります。上五を「如月へ」と置いたところに春の到来に対する喜びも込められています。

少年に小さき翼や夏隣

徳島県徳島市 山之口卜一

(評)夏が近いという実感の中にいるのが「夏隣」ですが、まだまだ春の海は容易に少年を受け入れてはくれません。恐る恐る波に近づく少年。そんないじらしい姿を捉えた一枚。そして、句はどこまでも優しい。作者の深い愛情が読み手の心を打ちます。

この時のこの場所のこの桜かな

徳島県鳴門市 兆井大

(評)桜咲くこの時期に、一樹へどんどんフォーカスする作者。桜を前にして去りがたき想いは、永遠の別れでもあるかのように熱い。「この」を三つ重ねて終助詞「かな」で締めた一句一章の俳句。十七音に詩情が生まれます。

遠山の春霞背に伸びる夢

香川県丸亀市 山口悦子

(評)手前に土筆を置き、「遠山」は「春霞」に包まれています。平坦でまっすぐに伸びる道が、未来の明るさを象徴しているようで嬉しくなります。土筆も伸びることだけを考えています。「伸びる夢」で締めくくった一句は、希望に夢膨らませる春に相応しい作品。

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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