HAIKU日本大賞2017冬の写真俳句発表
2017冬の写真俳句大賞発表
(評)春が来て氷が溶ければすぐにでも動き出し、山河を変えていくであろう瀑布をうまく切り取った、躍動感ある写真と俳句がうまくマッチした一枚です。動きを止めた氷瀑でも、春の芽吹きを、山河が動くという擬人法を用いて感じさせる表現を評価しました。
次点
(評)凍てた水の冷たさを実際に感じられるような写真と俳句です。また、「骨」という言葉を選んだところに冬の恐ろしさが表されていて、さらに冷たさが増しました。けれどもその中に、一筋の春への希望が感じられるのが印象深いです。俳句は得てして明るさのあるものが多いのですが、その中にあって、異質な部分が光っていると評価しました。
<秀逸賞>
どっしりと三脚据えて初富士を
埼玉県所沢市 青木風葉
(評)元日に初めて眺める富士山は、普段とは違う気高さがあります。その様が、しっかりと収められた一枚です。中七の「三脚据えて」の具体的な行動が生きています。富士山を撮影するその一瞬の喜びが感じられます。
無人島一人ボッチの冬日かな
埼玉県所沢市 秋岡邦夫
(評)まるで天上の神々が舞っているかのような一枚。空と海が相まって、荘厳な地球の美を見せてくれています。そして、無人島と作者。両者が「冬日」を浴びて独自の世界を創り出しています。その時間は、貴重で有意義だったことでしょう。「ボッチ」とカタカナ表記にしたところに、作者の心境が反映されています。
冬風や葦のマフラー沼囲む
千葉県柏市 小草
(評)天空へと吸い込まれそうな美しさです。青さは冴えた大気の証しであり、冬の持つ透明感が伝わってきます。この冬ざれの景に、作者が感じたのが「葦のマフラー」。枯れた葦が空と湖の青さを伴い、冬の詩情たっぷりの写真俳句となっています。
冬浅し漫ろ歩きの骨董市
東京都清瀬市 粕川偉三男
(評)立冬は過ぎたけれども、まだ寒さも厳しくない頃の「漫ろ歩き」。「骨董市」の雰囲気と相まってのんびりとしています。日常の一ページを俳句に記しました。日記のような素直な作品。季節の中で暮しを詠むのが俳句です。
氷点下暖色一つ鳥に落ち
東京都新宿区 愛鳥
(評)鳥はコゲラ。雀ほどの大きさで、日本に生息する最も小さいキツツキです。雄の後頭部にある赤い斑点を、詩情を持って詠む作者。生き物への愛情が見て取れます。一羽の鳥の姿が、写真と句でクローズアップされました。
凍つるとも春待つ命ひそみをり
東京都新宿区 牛鬼
(評)氷の張った池に、ハクセキレイと思しき鳥が佇むように立っています。氷上の一羽の小鳥が冷たさを物ともせず楽しそうに見えるのは、この景色の何処かに春を感じられるからでしょう。作者の自然への愛が織り込まれた写真俳句です。
空からの銀杏落ち葉が地を覆う
東京都杉並区 藤井理沙
(評)銀杏が一斉に落葉しています。私たちは、本当に美しい地球に住んでいると実感します。写生の眼がそんな場面をそのまま俳句にしました。印象的な写真俳句です。
雪吊りの松初雪を待つ朝
東京都町田市 渡辺理情
(評)「雪吊り」は、雪で枝が折れないように縄で保持することです。雪への備えを終えました。雪の朝(あした)を待つだけです。雪国のこの時期のいつもの光景を詠みました。一句一章の素直な写生句で、のどかな情感を出しています。
冬ざれや枯れ百合なほも立ちつくす
神奈川県横浜市 蓮七
(評)枯れてなお、美しき百合の姿です。季節が移り変わっても、咲いたままのその姿は語り掛ければ答えてくれそう。生命力を感じます。「冬ざれや」の季語が決まり、背景に枯れた百合が映えた写真俳句。色のコントラストも美しいですね。無常観にも通じる世界です。
白杖の触るる物みな冬の詩
石川県金沢市 百遍写一句
(評)なんとデリケートな句でしょうか。先を歩むのは作者でしょうか。冷えたアスファルト、薄く積もった雪、石ころ・・・。今を共に生きる人たちの優しさが滲み出ています。また、作者自身の生きることへの喜びも感じさせてくれる写真俳句。何とも切なくて、美しい曲がり角です。
冬の日に背中預けて土いじり
愛知県名古屋市 久喜聖子
(評)冬の日の中で捉えた黄色い花。日差しを探して、懸命に咲いている様が愛おしい。一輪の花の輝きを前に、土の手入れに精を出す作者。もうすぐ春もやって来るでしょう。楽しそうな背中が目に浮かびます。
水仙と潮の香りや深呼吸
京都市山科区 筒井治代
(評)作者が訪れたのは淡路島の黒岩水仙郷です。急こう配の斜面に500万本の水仙が咲き誇ります。太平洋に面し、水仙と黒潮の香りが漂います。俳句は文字で行うスケッチです。簡潔に景が表現され、「深呼吸」で時間がゆったりと流れます。
年の暮男らに暇多すぎる
大阪府高槻市 多田檀
(評)写真も句も独特の世界観があります。「暇多すぎる」とされた人たちのカメラの放列には、真剣さと迫力があります。カメラの先には何があるのでしょうか。色々と想像たくましくさせてくれます。「年の暮」に発見したおやと思う景。俳句に定着させるのが俳人たる所以です。
亡き父を想いて滲む霜の月
兵庫県西宮市 浅田さや香
(評)「霜の月」とは、降霜の厳しい頃の月。月光は冴え渡り、白い月です。吐き出す息も白い。一人歩くと亡き父を想います。涙で滲みます。素直な表現に、読み手の胸が痛みます。
冬ざれし日の魁夷まで遠き思慕
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
(評)昭和を代表する日本画家のひとり、東山魁夷。作品の多くに青い絵具を使うことから、「青の画家」とも呼ばれます。人が描かれることは、ほとんどありません。作者の目の前に広がる真冬の風景は、自然に魁夷へと繋がります。句跨りの技法が、うまく音の流れを作り出し詩的表現を高めています。
東欧のぬくもり羽織る雪人形
奈良県奈良市 藤森雅彦
(評)旅吟の俳句でしょう。日本の雪だるまとは、やはり少し違いますね。駆け出しそうにも、日差しに溶けて崩れそうにも見えます。「東欧のぬくもり」と表現したように、その表情はとても愛らしいですね。出会った人たちの優しさも含まれているのでしょう。温かさが心に残る作品。
蝋梅に道ゆく人と立ち話
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
(評)「蝋梅」は黄色い花で、蝋を引いたような光沢があります。
この句は、簡潔で自然な詠みぶりが良いですね。俳句の表現は、簡潔で素直なものが良いとされます。句材を発見し素直に表現すれば良いのです。和やかな場面が浮かびます。
アルプスの雲海照す初明り
徳島県板野郡 木下米子
(評)長野県・南アルプスの初明りです。2,000メートルを越える山々に雲海が広がり、初日の出を迎えました。渾身の一枚です。俳句からも気迫が伝わってきます。
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。