HAIKU日本大賞2017夏の写真俳句 発表

写真俳句大賞

水遣りに浜木綿の青臭ひ立つ

水遣りに浜木綿の青臭ひ立つ

[ 石川県金沢市 百遍写一句 ]

(評)まず写真がいいですね。水のしぶきが夏を運んで、画面から匂いが感じられるようです。よくこのような瞬間を捉えられたと感心しました。そして、その瞬間を「青が臭い立つ」と表したのが素晴らしいです。夏のみずみずしさ、清々しさを見事に切り取って句にした作品だと感じました。

次点

はつなつの海辺に寄りて石となる

はつなつの海辺に寄りて石となる

[ 徳島県徳島市 今比古 ]

(評)海の青さと砂浜の影の対比が印象的な作品です。両手を広げても足りない海の広さを初めて見ているのであろう小さな子供が眼に浮かぶようです。「はつなつ」と出だしは可愛らしいのですが、下の句に海と対峙した時の心象が表されていて、ハッとさせられました。

<秀逸賞>

蜘蛛の巣や破るに惜しき雨上がり

蜘蛛の巣や破るに惜しき雨上がり

東京都中野区 高原洋

(評)背景の柔らかい色が雨粒の美しさを引き立て、華やかな写真俳句となりました。雨粒の動と雲の巣の静との調和がすばらしいですね。自然とは、人の手の及ぶものではないと改めて感じます。句と写真がそっと寄り添い合い、作者の人柄が感じ取れる作品。

梅雨曇り龍馬の土佐にモネの池

梅雨曇り龍馬の土佐にモネの池

東京都町田市 織辺遊情

(評)フランスのモネの庭を再現した高知県北川村のモネの庭。池にはモネが熱望した青い睡蓮が咲き、絵画のように美しい世界が広がります。龍馬がはるばるやって来たモネに親しく呼び掛けているような一句。龍馬の発した一声が、梅雨曇りの池から聞こえて来そう。

mean  mean 蝉もの言いたげなエメラルド

mean mean 蝉もの言いたげなエメラルド

埼玉県さいたま市 近藤いずみ

(評)蝉を至近距離で捉えた一枚。蝉の色とエメラルドの対比。そして、背景の緑も濃い。季節のスペクタクル。生まれたばかりの蝉をじっと見つめる作者。どうやら心まで捉えたらしい。

大夕焼け宇宙に届くシンフォニー

大夕焼け宇宙に届くシンフォニー

埼玉県所沢市 秋岡邦夫

(評)大夕焼けの不思議な光沢に包まれた世界を「宇宙に届くシンフォニー」と詠みました。この神々しさは、他には何も語らせない程の迫力があります。この瞬間に居合わせた作者の喜びを、句が充分に語っています。これが写真俳句の醍醐味だといえる作品。

この夏も現役という誇り持ち

この夏も現役という誇り持ち

神奈川県平塚市 八十日目

(評)自然のなすままという水車。作者の眼差しが優しい。回り続ける水車。びっしりと付いた苔が時の流れを感じさせます。水車を捉えながら、自身の姿を重ねる作者。この句は、自分へのエールの句でもあります。

待つことに慣れたつもりの晩夏かな

待つことに慣れたつもりの晩夏かな

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

(評)待ち人は、あの道からやって来る。さりげない一枚の中に、それはしっかりと配置されています。夏の暑さが後を引く「晩夏」。午後のひと時でしょう。句と写真が符合し、一編の小説のような深みのある作品です。

子燕の横一線に生き初むる

子燕の横一線に生き初むる

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

(評)横一線で想像されるのは、かけっこのスタートライン。子どもたちが一斉にゴールのテープを目指します。写真の五つの子燕も生まれると同時に命のゴールへと進みます。元気に育ってほしいと願わずにはいられません。句と写真が響き合う奥深い作品。

澄みわたる光南都の晩夏かな

澄みわたる光南都の晩夏かな

奈良県奈良市 藤森雅彦

(評)平安京に遷都した後の奈良を南都と呼び、対して京は北都です。また、南都は興福寺を指すこともあります。写真に写り込む白い球体は玉響(たまゆら)。肉眼では見えませんが、神社仏閣などの写真ではよく見られます。オーブ現象とも呼ばれます。“気”の澄み渡った一枚。一句一章句が小気味よい。

ときめきの八方池のヒメシジミ

ときめきの八方池のヒメシジミ

徳島県板野郡 木下米子

(評)白馬三山を水面に映す長野県の八方池。ピンクの高山植物にヒメシジミが止まった瞬間を切り取りました。「ときめきの」一瞬です。幸せな時間が、臨場感と共に伝わってきます。夏の蝶、梅雨の蝶、揚羽蝶など蝶の夏の季語はたくさんありますが、ヒメシジミは珍しい蝶故に季語にはなっていませんが・・・。

尻に青残るふたりや晩夏光

尻に青残るふたりや晩夏光

徳島県徳島市 山之口卜一

(評)夏の終わりを楽しむ兄妹。カメラを構えているのは、両親でしょうか。それとも、祖父母なのでしょうか。二人を見つめる眼差しに、作者の深い愛情が溢れています。ファミリーの成長の記録として、大事に仕舞っておきたい写真俳句ですね。

余生にて逢ひし鷺草飛ぶ構え

余生にて逢ひし鷺草飛ぶ構え

徳島県鳴門市 兆井大

(評)時代の流れに順応し、作者はこれまで生きてきたのでしょう。そして今、人生を余生と感じるようになりました。初めて出逢った鷺草。その美しさに心打たれます。しかも、飛んで行きそうな構え。鷺草は作者に、新たなる力を授けたようです。

ニンゲンは軋み山百合咲き通す

ニンゲンは軋み山百合咲き通す

長崎県長崎市 堀夕子

(評)複雑な人間模様の世の中で、人間を「ニンゲン」とした作者。ニンゲンという人類の軋みが、社会の軋みとなり、さらには世界の軋みとまでなった現代に私たちは生きています。白く気高い山百合にニンゲンを重ね、この花のように生きるという作者の決意が滲み出ています。

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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