HAIKU日本大賞2017春の写真俳句 発表

2017春の写真俳句大賞発表

いつのまに日陰となりぬ春浅し

[ 神奈川県横浜市 蓮七 ]

(評)写真は写真、そしてその写真を俳句で描写している点を評価いたしました。夕暮れ時の春の儚さを感じさせ、そこから移される陰影が見るものに深い印象をもたらすいい作品です。時の移り変わりをうまく捉えています。

次点

賑わいの中の告白花吹雪

[ 青森県十和田市 泉陽子 ]

(評)実景でしょうか。花見客の賑わいの中でされる告白も桜が祝福している感じが受け取れます。桜の季節に恋心を告白するなんて、とても粋だと感じました。桜吹雪の中で打ち明けた思いが叶ったのか・・・幸せな未来を予感させるいい作品です。

<秀逸賞>

人知れず咲く桜花山優し

東京都町田市 織辺遊情

(評)山深き場所にある夕景の枝垂れ桜。何年こうして咲き続けてきたのでしょう。何とも妖艶な一本に心が動きます。下五を「山優し」と止めたところにこの句の良さがあります。普通、形容詞止めは句が多少動くものですが、この句の場合はぴたりと納まりました。この桜への作者の労りが表現されました。

早春の香を綴じ入れて朱印帳

神奈川県横浜市 岩田潤

(評)朱と墨の芸術作品と言われる朱印帳。写真のように細かい文字を書く時に、書き手は手を重ねます。一字一字丁寧に書き進めていく静寂と緊張感が伝わってきます。何か冬の名残のように澄んだ気配のある早春。中七の軽い切れが、朱印帳を閉じ、また早春の旅を続ける作者の姿を語っています。

吹く風に香りかくせぬさくら餅

神奈川県横浜市 柴山洋

(評)さくら餅は、塩漬けの桜の葉の香りが独特の味わいを醸し出します。ボートの上でのお点前は風情がありますね。岸辺の桜と相まって、とても贅沢なひと時です。水上茶会の写真の目新しさが句に、可笑しみをもたらしました。吹く風も穏やかで、心をほっと和ませてくれる作品。

外来の花も集ひて花祭

石川県金沢市 百遍写一句

(評)「花祭」は、釈迦の誕生日を祝う仏教行事、仏生会のことです。桜の咲く中、稚児行列など子供たちの参加もあり明るく華やかです。この一枚は、そんな場面とは異なる不思議な光景。石仏が皆、同じ方向を見つめ静かに微笑を浮かべています。「外来の花も集ひて」とありますが、後ろに咲く雪柳も印象的な写真俳句。これもまた、「花祭」の姿です。

散り際をわきまへてこそ千代の花

兵庫県明石市 靖山

(評)「散り際をわきまへて」散った桜の花びらが、浮かべられています。いきいきと浮かんでいます。表現の美しさと、写真の美しさが印象的な写真俳句。散ればこそ、この美しさがあるのです。千代の花への郷愁も、この句には同居しています。桜への賛美が込められた、繊細でありながらも重みのある作品

蒲公英や息吹く草間に使命あり

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

(評)緑一面を点々と灯るように咲く「蒲公英」の花。濃い緑が、ズームアウトした野原の息吹を存分に感じさせてくれます。そこに、作者は「使命あるもの」を見つけたらしい。人を幸せにするという尊い使命を持つクローバーです。それを読み手に教えてくれた作者。幸せを分かち合うかのような優しさは、まるで「蒲公英」のような人だと思います。

静謐の空にたゆたふ遅桜

奈良県奈良市 藤森雅彦

(評)文句なしの青空に、桜が穏やかに咲いています。「たゆたふ遅桜」の響きが何とも心地よい。ゆったりと過ぎてゆく春の一日が描かれています。一語一語が心に沁みて説得力のある一句。得も言われぬ美しいシーンを詩情豊かに詠み上げています。

春の海叱られし子の丘に立つ

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

(評)「春の海終日のたりのたり哉」に代表されるように、春の海は穏やかで、明るく優しい海。この包み込むような大らかさが母を連想させるのでしょう。歯切れの良い詠法の中に、傷つきやすい子供の心情が取り込まれています。回想句でしょうか。春の海は、少年を母のように受け止めてくれます。

一つまわせば一つ春進み

徳島県徳島市 今比古

(評)リフレインの効いた破調句が、読み手の心を力強く打つ作品となっています。春まだ浅い頃、公園で無邪気に遊ぶ幼子の目は真剣です。上へ上へと登っていきます。「けり」などの助動詞で十七音にも出来たでしょうが、「進み」で止めて句がいきいきとしました。“俳句は世界で一番短い詩”という言葉にぴったりの句。

仲直りして春潮の中に入る

徳島県徳島市 山之口卜一

(評)波と戯れる幼い兄妹のツーショット。その姿がなんとも可愛らしい。春の海は優しくて、二人の喧嘩などあっという間に仲直りさせたに違いありません。少年の眩しい笑顔、影まで楽しそうな少女。これが「春潮」のなせる業。小さな物語がほのぼのと伝わってきます。

ふわふわの椿を踏んで下山せり

徳島県板野郡 木下米子

(評)落ち敷かれた椿が美しい写真俳句。花を踏むには勇気が必要です。道端に落ちている花を踏む人はいません。しかし、それが敷き詰められた道なら、その道しか他になければ踏まざるを得ません。「ふわふわ」は、心優しい作者の椿へのお詫びです。下五に文語を使っているので、「ふはふは」と旧仮名遣いにしても良いですね。

句帳閉じ桜吹雪をしんがりで

香川県観音寺市 滝川歌仙

(評)桜で一句と俳人たちがゆっくりと歩いている吟行の光景があります。桜を詠むのは俳人にとって、難しいものです。類想句に惑わされます。自分だけ句帳を閉じて、目の前のシーンに見入っています。つぶやきのような素直な表現で、桜吹雪を印象的に描いた一句。結局、俳句はあるがままに詠むしかないのです。

花盛る三椏に村人消える

香川県高松市 青木匠

(評)三椏(みつまた)の花が見事に咲き誇っている幻想的な写真。「花盛る三椏」の出だしで一気に読者の心をつかんでいます。俳句は出だしが肝心です。こんな美しい山里に、もう人が住まなくなってしまいました。高齢化が進んだ後、最終的に村が消えていきます。この美しい三椏の風景も、いつかは消えてしまうのでしょう。

海峡の巨大主塔や遠霞

高知県南国市 笹本博史

(評)海峡に巨大主塔がそびえています。世界最長の吊り橋の主塔の高さは約300メートルです。「遠霞」は懐かしい情景や感情と一緒に表現されることが多いものの、この句では明石海峡大橋の主塔との取り合わせです。現代の粋を集めた建築物が、海峡にぼんやりとしています。堂々とした姿にかかる「遠霞」も独特の風情です。

pheasantや我は peasant春の畑

熊本県阿蘇郡 興呂木和朗

(評)pheasantはフェズントで雉。peasantはペザントで農夫。英単語を対句的に使っています。春の畑に見つけた雉。確かに、この色合いは日本育ちではなく、外国から飛んできた鳥のようにも見えますね。ただし、雉は日本の国鳥です。遊び心を持って英語表記にしたことで、面白い形の俳句となりました。

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

ページの先頭へ