HAIKU日本大賞2017秋の写真俳句 発表

2017秋の写真俳句大賞発表

帰るとは秋夕焼けへ向かふこと

[ 徳島県徳島市 今比古 ]

(評)思わず帰り道を急ぎたくなる句です。車の後ろ側に陽が沈んでいくのも、秋の夕暮れ時のわびしさや肌寒さを感じさせて、趣深いものになっています。海の水平線と吊り橋の縦線の対比も見事です。

次点

凪ぐ里に秋白波ぞ打ち寄する

[ 長野県塩尻市 御子柴彰 ]

(評)写真の構図がすばらしいです。一面に蕎麦の花の里に凪いでいる風を感じさせる俳句です。風に吹かれて波のように動くさまが、白い花がさざめく様子を切り取った観察句としてとても印象的です。

<秀逸賞>

ピエロめく木々は黄金に秋の昼

青森県十和田市 泉陽子

(評)「公園の手品師」という曲があり、「銀杏は手品師老いたピエロ」のフレーズがありました。「ピエロめく木々」は銀杏の黄葉。銀杏の大木のユニークな枝振りと美しさに誘い込まれたファンタジーな世界。銀杏黄葉は、作者の周りの「秋の昼」を一段と明るくしています。

吊り橋のゆれてもじっと赤とんぼ

東京都中野区 高原洋

(評)空中に留まり留まりしながら、そしてゆったりと飛び続ける赤とんぼ。今は、吊り橋のロープにとまっています。山村の豊かな自然がこの一枚の中にあります。「ゆれてもじっと」に作者の優しい目線を感じます。「吊り橋」が、秋の山々の彩り、水の清らかさなど写真にはない風景を想像させてくれます。

柔らかく光を孕む芒の穂

埼玉県さいたま市 近藤いずみ

(評)柔らかく光を孕み、白い芒の穂が今にも溶けてしまいそうな一枚です。芒には独特の淋しい風情がありますが、光によってこんなにもきらきらとするものなのですね。黒とブルーの背景が、その美しさを際立たせる会心の写真俳句。

甘い蜜ありて苦瓜生まれ出づ

神奈川県平塚市 八十日目

(評)苦瓜は黄色い花を付け、秋に長円形の実に変わります。実には苦みがありますが、花には甘い蜜。色んな虫たちがやってくるのでしょう。写真はちょうど受粉期。可憐な雌花の姿です。苦瓜の成長を見守っている作者が素直な実感を句にしました。

黄金しか纏わぬ銀杏0度C

福井県福井市 清田誠亮

(評)この堂々した銀杏の大木は、年によっては一斉落葉をする木だそうです。年月を経た銀杏は、空気や土の温度など一定の気象条件が整うと一斉に落葉することがあります。バラバラと一気にすべて落葉します。この「黄金しか纏わぬ銀杏」の潔さ。いつか見届けて下さい。

木の実降る小さな森のコンサート

愛知県名古屋市 久喜聖子

(評)切株の上は、コンサートホールであるかのようです。木の実には、温もりがあります。童心に誘ってくれます。心楽しいひとときを、「小さな森のコンサート」としました。平和で暖かい作品です。

八階にヘブンリーブルーの開き初む

東京都武蔵野市 伊藤由美

(評)ヘブンリーブルーは西洋朝顔の中でも特に人気が高いですね。八階で撮られたこの写真は、秋の澄んだ空気によく映えています。言葉の響きの心地良さからか、字余りは気になりません。作者の楽しそうな園芸生活が浮かびます。日常生活に句材を求めた素敵な写真俳句。

幾星霜よみがへる緋の紅葉かな

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

(評)スポットライトを浴び、夜空に浮かび上がった紅葉が見事ですね。大自然の活力を前に、人間という存在をしみじみと考えてしまいます。苦労や努力を重ねた歳月を経て今、目の前にあるのが「緋の紅葉」です。目の前のシーンに作者ならではの視点があります。幻想的な夜の紅葉に相応しい一句。

帆を降ろすヨットばかりの秋思かな

徳島県鳴門市 兆井大

(評)夏の海のことを思えば、人のいないヨットハーバーは対照的です。まっすぐに天を衝くマストも、どこか空しさを感じさせます。帆を降ろしたヨットの静かな佇まいに、作者が感じた物思い。季語「秋思」が、代わるもののない存在感で句を締めくくります。

十五夜や浜の湯宿の薄タオル

徳島県徳島市 波美奈子

(評)「十五夜」は、一年中で最も美しい月とされます。その年の初物を供えて月を祀る風習があります。この日、旅の人となった作者。海岸の湯宿から月を眺めながら、「そこから、この月が見えますか」と誰かにメールでもしているような写真俳句。

幾何学は知らねど直し秋の影

石川県金沢市 百遍写一句

(評)白い壁に描き出されたのは、幾何学模様。この発見が、作者の詩心を掻き立てました。句は柔らかい語り口調で、直線のシャープな写真と絶妙のコンビネーションです。

通勤は紅葉の街遠回り

佐賀県佐賀市 佐々木舞

(評)春は桜並木、秋は紅葉と、道を違えての通勤は何とも贅沢。この季節を待ちわびていた心が、「遠回り」によく表わされています。作者の清明な生き方を、作品は映し出しているようです。

天高し土産の重き復路便

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

(評)あまり人が関心を持たないであろう所に、焦点を絞った作者。空港のスタッフも入り込み、味のある一枚となった写真俳句。季語の「天高し」が、実りある旅であったことを物語っています。

これこそが天使の笑顔菊日和

大分県別府市 三好スミヱ

(評)菊を慈しみ育ててきた作者。その愛情が、句にも写真にも表れています。一日は、菊との「おはよう」に始まり、「行ってきます」「ただいま」と交わす言葉。作者と菊との物語が、生き生きと描かれた作品です。

敗荷や破れて風を往なし立ち

神奈川県横浜市 蓮七

(評)蓮は秋風の中、葉の緑を失い傷付き出します。敗荷(やれはす)と呼びます。敗荷の向こうに立つ塔も印象的な写真俳句。寺へと続く道で、往く人を見守ってきたのでしょう。傷付きながらも堂々とした写真の敗荷には、ここまで踏ん張ってきた自負があるかのようです。

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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