HAIKU日本大賞 秋の句大賞発表

HAIKU日本秋の句大賞 金賞

夕月夜スマホの君は下を向き

[ 東京都杉並区 藤井沙也加 ]

(評)夕月と君、作者と君との関係が印象的な素敵な一句となっています。夕月夜は、夕方に出た月がもう沈んでしまう月の薄明かりの宵。「スマホの君」は、この夕月夜の美しさに気付いたのでしょうか。古よりの月に物思う詩情豊かな世界と対比された、スマホを弄ぶ君の現実。俳句は、文字で行うスケッチ。写生の眼に、作者の心象風景も浮かびます。

銀賞

桜紅葉さまざまな人通りゆく

[ 徳島県徳島市 笠松怜玉 ]

(評)このシーンは、赤らみ所々黒くなってしまった侘しい桜紅葉の姿ではありません。秋の明るい光の中に、真っ赤な桜紅葉の並木が続いています。さまざまな人が、桜紅葉の美しさに見とれ通りゆきます。秋空が桜紅葉の美しさを引き立て、春の華やぎにも見劣りしません。作者の視点が伝わってきます。さり気無く詠んで、新鮮な感覚が光ります。

銅賞

虫の音に寝息加わる一夜かな

[ 山梨県大月市 坂本真史 ]

(評)素直な一句一章に好感が持てます。中七がやさしく響いて臨場感が伝わります。この十七音には、色々な思いを巡らせる楽しみがあります。寝息は誰なのか。団欒なのか寂しいのか。作者にとっての日常の景が俳句に凝縮され、穏やかな世界が醸し出されています。

紅葉且つ散る夕暮れの児童館

[ 埼玉県さいたま市 加藤啓子 ]

(評)「紅葉且つ散る」は、美しく紅葉しながら早くも散り始めることを言う晩秋の季語です。この季語と「夕暮の児童館」の取り合せが読み手をオヤッと思わせます。子供たちで賑わっていた児童館も、一人二人と帰っていき静けさへと移ります。季語は静から動へ、児童館は動から静へ。その二つを十七音で描きました。

天指せる平和の像の秋思かな

[ 京都府京都市 筒井絵里 ]

(評)下五の「秋思かな」で、この句は何とも微妙な陰影を深めます。平和の像の秋の物思いに、現代人の心理が託されています。昭和二十年八月九日の長崎。歳月を経ても今だ、世界に戦禍は絶えません。平和の像にとって心安らかではない日々が続きます。平和の像の前に立てば、誰もが平和を願います。

何回も生きて八月十五日

[ 東京都板橋区 咲妃 ]

(評)言葉にすれば、わずか十七音。しかし、その向こうには作者の渦巻く想いが読み取れます。それは、あの夏の日を知る人のみが発する声にならない声。「何回も」とは、戦争で逝った人たちへの詫びなのでしょうか。少女から今に至るまでの道のりの中に、決して消えることのない作者の痛みを思わずにはいられません。

病窓は宙の縮図や銀杏散る

[ 大阪府和泉市 清岡千恵子 ]

(評)病窓とありますが、窓の外景は晴れやかに見えます。銀杏の黄葉は鮮やかで、散る葉も輝いています。四角い枠の中に果てしなく広がる空を、「宙の縮図」と見た作者。時空を超えて生きている実感と共に、「や」の詠嘆で作者の心をさっと現実に引き戻します。作者の心を表現しつつ、十七音の詩の世界が広がります。

<秀逸句>

終活の秋の一日友と酒

[ 三重県松阪市 谷口雅春 ]

(評)作者の明るい人柄が偲ばれる一句。終活とは、2010年の新語で相続のこと、墓のことと遺された人を思いやっての言葉でした。今は、それに加えて“これからの人生をより充実させるための活動”という風に変化してきました。友と酒を酌み交わすことも重要な終活。作者の充足の日々が窺えます。

三日月や未だ真白きテミス像

[ 愛知県春日井市 湖黎 ]

(評)作者は十九歳。混沌とした世の中。見上げた三日月にふと、テミスを思い起こしたのでしょう。テミスはギリシャ神話の正義の女神です。剣と天秤を持つ姿は、司法の公正さを表わすシンボル。三日月には、剣という昔ながらの見立てがあります。この取り合せの後ろに、作者はどんな世界を見たのでしょうか。「今だ」で奥行と余韻が出ました。

手相見に手招きされる秋の暮

[ 徳島県徳島市 島村紅彩 ]

(評)“行列のできる手相見”でもない限り、占い師もそう忙しくはないでしょう。客待ちの間、プロの目が行き交う人を観察します。一方、通行人は、ただ通り過ぎて行きます。目が合うだけでも稀な事。手招きされたとは、余程の事態となります。秋の夕暮は淋しい。作者は一体、どう切り抜けたのでしょう。その心が透けて見えて、可笑しみのある一句となっています。

塩を炊く夜業の釜の炎かな

[ 兵庫県尼崎市 大沼秋獅子 ]

(評)「夜業」は晩秋の季語です。秋の夜長の作業です。塩作りは、釜炊きの火加減で決まると言われます。この昔ながらの製法が、極上の塩を生むと職人の背中が語っています。重要な工程の最中。職人の気概の伝わってくる力強い一句。

母が娘を押して花野の車椅子

[ 福島県喜多方市 伊藤登久子 ]

(評)会話は少しでいい。ゆっくりと歩む母娘に静かな時間が流れます。季語「花野」が、そうした場面を自然と描き出してくれます。上五、中七と落ち着いたリズムになっているのもこの句の良さです。下五の「車椅子」で余韻が広がります。

父の句のにほひ移りて柿美味し

[ 兵庫県西宮市 幸野蒲公英 ]

(評)ふるさとから届いた柿。この荷には、句も添えてあるという。これが生きがいなんだという父の声が作者に届いたに違いありません。親子の愛情が読み手の胸を打つ柿日和です。

文字褪せし要の件秋の空

[ 千葉県船橋市 川崎登美子 ]

(評)涙で文字が読めないということはあっても、この時代、インクであれ墨であれ簡単に色褪せることはありません。となれば、心の有り様でしょうか。青春の日の恋文でしょうか。それとも・・・。色が褪せることは、誰にもあります。「秋の空」が移ろいやすい人の心をうまく言い当てています。

早々と校長も来る秋祭

[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)収穫に感謝を捧げる秋祭。神事は、神主の祈祷に始まります。統合で学校を無くした町も多々ある中、ここには地域の要として学校があります。校長となれば、多忙は言うまでもありません。校長を一人立たせただけで、子ども神輿の賑わいはもちろん、句の背景が大きく広がりました。集う人々の人情さえ感じさせてくれる秀逸句。

蓮の実の飛んで迷子の夜となる

[ 埼玉県上尾市 くもがくれ ]

(評)花が終わると、蓮の黒く熟した実は飛んで水中に落ちます。夜なら、飛んだ場所は到底分かりません。提示されたこの十七音から生まれる何か。「迷子の夜」に秘められた作者の思いは、読み手に任せられています。作者の残してくれた意味の空間を楽しみましょう。

デザートはコーヒーゼリー汀女の忌

[ 熊本県阿蘇郡 興呂木和朗 ]

(評)中村汀女は、熊本生まれの俳人。家庭的な日常の風景から、情感豊かな句を生み出しました。暮らしの中で、つつましやかな気持ちで作る俳句。そんな汀女は、お菓子を愛したことでも有名。全国の銘菓を俳句と共に紹介した著書『ふるさとの菓子』を出版したほど。「女にとって菓子とは・・・」のくだりでは、「そしてひそかな手頃な(?)恋人であるといったら怒る人がありますかしら。」と締めくくっています。

重陽や昼は甘口酌み交はす

[ 東京都八王子市 村上ヤチ代 ]

(評)重陽は、陰暦九月九日の節句。ちょうど菊の盛りの頃で、この日に飲む酒が菊の酒と呼ばれます。昼は甘口、夜は辛口と続くのでしょうか。秋の昼、親しき人たちと酒を酌み交わす作者。重陽に相応しい雅趣のある席であったことを、句が語っています。

<佳作賞>

徹夜目に染みる紅葉明烏

北海道札幌市 井瀬菫

鈴虫が宇多田ひかるのレクイエム

北海道札幌市 鎌田誠

天高しソナチネ漏るるすべり窓

北海道留萌市 三泊みなと

星満天銀河の滴落ちんかな

青森県黒石市 福士謙二

人はみな空に焦がれて曼珠沙華

岩手県盛岡市  森哲州

玄関で子等がむにゃむにゃハロウィン

宮城県仙台市 伊世貴志

鳥渡る太宰の「津軽」携へて

宮城県遠田郡 武田悟

柿吊るすつま先立ちの母の口

宮城県宮城郡 松浦ゆきみ

蓑虫やお久しぶりと風に揺れ

山形県山形市 山岸宙旅

人生の引退はなし菊の杯

山形県東置賜郡 高梨忠美

甲子園黙祷八月十五日

茨城県土浦市 株木謙一

秋の空ビルの高さに目が慣れぬ

栃木県大田原市 金野露山

渡舟跡碑文にしかと水の秋

栃木県宇都宮市 平野暢月

秋雲や竹馬の友は死語となり

群馬県伊勢崎市 白石大介

鈴虫の命を懸けしラブソング

群馬県藤岡市 居間正三

榛名湖や水面の秋も凛として

群馬県高崎市 奈々志野幻語

肩書は外すものなり栗の毬

千葉県木更津市 鶴岡満

点滴の窓辺を照らす月夜かな

千葉県市川市 田村さよみ

二刀流夕餉の皿にサンマ二尾

千葉県市原市 伊東真

鳩一羽紅葉突き突き何想う

千葉県浦安市 三島閑

吉報を賜るごとく庭に月

千葉県松戸市 山田和子

幾星霜開かぬ店屋をつたもみぢ

千葉県船橋市 川崎登美子

妣の居るセピアの写真秋深し

東京都板橋区 湯浅美登利

歯の裏でキャラメル溶かす終戦日

東京都品川区 永野ぼう

見送るはまろき背中よ銀杏の実

東京都杉並区 藤川都

静寂の風にゆれるや秋そばの花

東京都世田谷区 鈴木倭文子

秋神輿声枯れ担ぐ意地と意地

東京都豊島区 潮丸

栗飯を杓文字で切れば来たる子ら

東京都練馬区 笠間紫苑

吾もまた情けに止まるトンボかな

東京都練馬区 符金成峰

野葡萄を嗅ぎて柴犬目を細む

東京都文京区 遠藤玲奈

新米の持ち味しかと吟味せり

東京都目黒区 安達秀幸

長き夜のカーテン一枚砦とす

東京都青梅市 渡部洋一

うっかりと夜になるまで曼珠沙華

東京都国分寺市 小林雅野

秋めくや温泉街の赤提灯

東京都狛江市 中田潤

十方へ好奇の目もつ栗のいが

東京都町田市 野村信廣

台風の逸れてまとめて雲流る

東京都清瀬市 林優

朝寒の農家より買ふ卵かな

東京都八王子市 村上ヤチ代

やっと立つ仔牛に敷けり今年藁

神奈川県相模原市 あづま一郎

台風の間や空に青一すじ

神奈川県相模原市 平幸恵

椅子の道かまきりギョロリ脇そろり

神奈川県茅ケ崎市 秋アカネ

銀漢やさくらが叫ぶおにいちゃん

神奈川県横浜市 石川夏山

好きなだけランボー読んで秋を病む

神奈川県横浜市 竹澤聡

青年の六法全書秋の暮

神奈川県中郡 野谷真治

稚児達の呼び合ふ屋号秋祭

神奈川県三浦郡 葉山さくら

直ぐと立つ杉が突き抜く秋の空

新潟県新潟市 川崎郁夫

渋柿は剥いて吊るして干されけり

新潟県南魚沼郡 高橋凡夫

すすき梅雨果てぬしずくの病床

石川県金沢市 Rey

思ひ出も閉づ片隅の秋扇

福井県福井市 山下博

晩秋の西口出れば本屋街

山梨県中央市 甲田誠

秋晴れに街のはずれの温泉郷へ

岐阜県中津川市 西尾真理子

深爪に甘えてしまふ水蜜桃

静岡県富士市 城内幸江

秋桜や風になびいて咲きわたり

愛知県刈谷市 水仙

白帽にほのと赤透く運動会

愛知県高浜市 篠田篤

彼岸花ごんの無念か赤く燃ゆ

愛知県名古屋市 荻野陽子

滝壺に色彩りうつる紅葉かな

愛知県名古屋市 佐々木惠子

芝に寝て雲を数える秋の昼

愛知県名古屋市 横井美佳

駅前の吸い殻拾う文化の日

滋賀県草津市 中村ケンジ

じゆうじゆうと秋刀魚の命焼きにけり

滋賀県彦根市 馬場雄一郎

秋惜しむミニ盆栽の欅かな

三重県桑名市 小林三華

赤のれん菊師匂ひをまとひ来し

三重県志摩市 廣岡光行

紅の色流行ものなり彼岸花

三重県松阪市 谷口雅春

抱けぬ程細く気高き芒かな

京都府木津川市 初霜若葉

秋雨や看板猫の訃報貼る

京都府京都市 田久保ゆかり

青北風や学ぶに齢なしと孫

京都府京都市 太田正己

杖となり手を携えて紅葉坂

京都府与謝郡 真本笙

きれぎれの雲間あかるき野分かな

大阪府和泉市 小野田裕

団子見て童ぐ我の月見かな

大阪府大阪市 妃斗翠

成り行きのまま敬老の日のリボン

大阪府大阪市 清島久門

京言葉はんなり緋色紅葉狩り

大阪府大阪市 橘雅子

自慢げに紅葉にわが手かさねる子

大阪府大阪市 夜風

雨の朝昨日ここでの運動会

大阪府吹田市 橋口雅生

文化の日平和も古希を迎えけり

大阪府高石市 浅野敬一

山の辺の空にたわわな柿の秋

大阪府東大阪市 明霞

紅葉から紅葉へ母の乳母車

大阪府泉北郡 池田武

まっすぐな線路に浮かぶ鰯雲

兵庫県芦屋市 風舞

リムジンの大旋回や秋の空

兵庫県尼崎市 大沼秋獅子

金木犀悪阻の記憶も甘く染め

兵庫県伊丹市 杉田多美

折からの月に見得切る村芝居

兵庫県神戸市 河内きよし

紅葉に囲まれ地蔵の頬も紅

兵庫県神戸市 中川兵庫

最果てのへの字の鉄路草紅葉

兵庫県神戸市 平尾美智男

秋の風紙ヒコーキの並び飛ぶ

兵庫県神戸市 吉田あゆみ

秋月は鳴門の渦をたぐり寄せ

兵庫県神戸市 渡辺誠男

紅萩の小花散り敷き時移る

兵庫県丹波市 渡辺早苗

紅葉映え音羽の山に永劫ぞ

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

どんぐりをひとつどうぞと小さき手

兵庫県三田市 冬月雪音

天高くトスを上ぐるや黄のボール

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

月光や素振りのバットキラキラと

岡山県瀬戸内市 小橋辰矢

朝顔にお勤め感謝茎を刈る

岡山県岡山市 柳瀬和之

名月を渋茶でめでる爺と婆

岡山県倉敷市 桃太郎

わざと端歩いて散らすもみじの葉

広島県広島市 燈

前髪を切って校舎と青蜜柑

山口県下関市 西村剛

芒野は里の風うけ狐色

山口県防府市 宇多村順一

秋の風巫女の袴を膨らます

徳島県徳島市 粟飯原雪稜

村人と紛う案山子とバスを待つ

徳島県徳島市 有持貴右

十六夜を句帳に納め今日終る

徳島県徳島市 笠松怜玉

赤とんぼ家路に急ぐ風の音

徳島県徳島市 河野章子

したたかに我生きてこそ生身魂

徳島県徳島市 島村紅彩

秋風や流れ逆う魚の群

徳島県徳島市 隶罐▲ヨ

ああここが父のふるさと鵙高音

徳島県徳島市 山之口卜一

かまきりの親子で通うカフェの窓

徳島県徳島市 山本明美

秋風や色紙浴びる舟一つ

香川県仲多度郡 佐藤浩章

新酒買ふ軒に古りたる酒林

愛媛県西条市 渡辺国夫

新米の湯気はまっすぐ立ちのぼり

愛媛県松山市 宇都宮千瑞子

運動会手を繋げずに終りけり

愛媛県松山市 森田欣也

菊人形いのちなきいのち光りけり

愛媛県松山市 土居光也

朽ち株を鹿と見ている老いの目よ

福岡県北九州市 赤松桔梗

読み返すカズオ・イシグロ夜長かな

福岡県北九州市 平井梨彩

運動会古稀をむかえてスプーンリレー

福岡県北九州市 山翁

孤老の身さらさら撫でる菊の風

佐賀県唐津市 浦田穂積

末枯れやハーモニカ吹く浜漁師

大分県大分市 小野山道山

愚図る子に乳房ふくます豊の秋

宮崎県日南市 近藤國法

高土手に一輪残し彼岸花

熊本県阿蘇郡 興呂木和朗

本来無一物なれど秋嬉し

鹿児島県大島郡 未央

朝陽あび金波銀波のすすき原

沖縄県南城市 相本輝

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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