HAIKU日本2016冬の句写真俳句大賞

大賞

干し大根トンネルの香の甘きかな

[ 奈良県奈良市 堀ノ内和夫 ]

(評)大根の香りに着目したところに、この作品の味わいがあります。干し大根のトンネルという表現もおもしろい。写真も青空に大根が映えて、干した大根がトンネルになっています。この構図がいいですね。
大根の香りが甘いと称されているのが、春を感じさせ、あるいは見る人によっては故郷を感じさせて、それぞれの懐かしい光景を思い出させてくれるのではないかと感じます。

次点

降り止まぬ銀杏落ち葉に手をかざす

[ 熊本県天草市 鈴井真佐子 ]

(評)一瞬の風にあおられ、降りしきる銀杏の美しさが想像できます。堆く積もった銀杏落ち葉の写真もきれいです。
手をかざしても時間は止められないのだということを、降り止まぬ銀杏になぞらえていて、心切なくなります。広場に一本だけ立った半分葉の落ちた銀杏と、奥の古いけれど立派な家の対比も、ここまで生きてきたんだという時の流れを感じさせていいですね。

<秀逸賞>

短日やポストに届く音静か

青森県八戸市 宮本三千歳

(評)短日は、冬至に向かう十二月の感じが色濃いですね。日の出は遅く、木々の影と落葉が枯れた景を強めます。目は覚めていて、耳を澄ませていたのでしょう。配達人が早朝の暗がりの中、音を出すまいとそっと届けてくれています。静まり返った中に、小さな音が届いたという生活の中の実感です。この季節特有のおもしろい味が出ています。

日が差しているだけで良しお元日

千葉県浦安市 白井桃香

(評)何かと気忙しかった年末から一夜明けただけで、ゆったりとした気分になるのが元日。昔も今も変わらないお正月の気分です。「日が差しているだけで良し」は簡単明瞭でまさにその通りです。新しき年の始めは、ゆったりと始まります。お元日という呼び方に、何とも言えない慎みと親しみが込めれれています。

寒梅の固く冷たき垣根かな

東京都目黒区 岸本現世

(評)寒梅は、晩冬に花を開く梅。この梅が今年はまだ、蕾も固く触ってみるとひんやり冷たいという。写真全体の雰囲気からも、冷え冷えとした感じが伝わってきます。何気ない自然のままの庭の一角。こんな一隅が俳句になります。気の利いた洒落っ気のある挨拶句となっています。

野水仙陽の射す場所に咲いてをり

神奈川県藤沢市 吉田とも女

(評)野水仙は寒気の中に凛として咲き、気品ある美しさがあります。陽の射す場所にあることで、美しさが際立って捉えられます。写真では、電柱のそばに一輪咲いています。しっかりと、作者の心に響いたのでしょう。いつまでも咲いていてほしいという心情が読み取れます。

気になって中身確認お年玉

群馬県高崎市 今野信夫

(評)お年玉は、本来神様からの賜り物。神棚に供えた餅玉から名前が付いたと言われます。写真は、正月の朝の食事時。男の子は我慢できずに、中身を確認しています。無邪気な様子が伝わってきます。この句には、単純明快な表現の良さがあります。

春近し古書店に買う古書100円

徳島県徳島市 笠松怜玉

(評)色々なものを百円ショップで売っていますが、この本は古書店で見つけたもの。帯には「分け入っても」の代表作が印字され、まさに掘り出し物でしょう。古書店、古書の頭韻も、この句の味わいとなっています。「春近し」の季語が効果的で一層、心楽しい気持ちにさせてくれます。

冬夕焼けいつもの昭和に帰るとこ

徳島県徳島市 今比古

(評)冬夕焼けと昭和の取り合わせに、心が魅かれます。冬の夕焼けは、夏の夕焼けに比べて短く、淡く、はかなく感じられます。どこか懐かしい昭和に、私たちを連れて行ってくれるのでしょう。「帰るとこ」というすっきりとした表現の中に、作者の思いが込められています。木の電柱に白熱灯。心の中のもう一つの写真で、昭和を味わっています。

里の家また一つ消え枇杷の花

佐賀県佐賀市 佐々木元

(評)枇杷の花は、黄色味を帯びた白く小さな五弁の花です。あまり目立たず、ひっそりとしています。その枇杷の花が残されたまま、家人がいなくなりました。山間地などでは、高齢化が急速に進んでいます。そして、また一つ人住まぬ家が増えました。訪れる人の少ない静かな景に、枇杷の花のイメージが合っています。

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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