句集遍路−そして水と空と風と 大崎紀夫

一笠一杖をたよりに、
春は阿波、夏は土佐、秋は伊予、そして冬は讃岐と、
四国88カ所を四季に分けて歩いた遍路行――

「句集遍路−そして水と空と風と 大崎紀夫」より

機^で

花楓雨つぶ伝ふ幹のいろ

1番・霊前寺

花あしび磴をゆく背に鐘のこゑ

2番・極楽寺

弁慶の力石とや春の鵙

3番・金泉寺

咲きみちて重たく揺るるさくらかな

4番・大日寺

春雨の空のあかるさ鐘のこゑ

5番・地蔵寺

反り橋を鯉くぐりゆく春の昼

6番・安楽寺

山門に登れば花の下界かな

7番・十楽寺

灯の揺れて春寒の闇揺るるかに

8番・熊谷寺

墓域ゆく小径に春の落葉かな

9番・法輪寺

遍路ゆく午後の砂利音とどきけり

10番・切幡寺

里よりのうぐひすのこゑ磴にきく

11番・藤井寺

雲間より阿波の日差しや山桜

12番・焼山寺

囀りは梢にもまた下枝にも

13番・大日寺

花冷えの日なり雲間を日のこぼれ

14番・常楽寺

磴なべて阿波の青石花楓

15番・国分寺

仁王門くぐり春陰脱けにけり

16番・観音寺

花の昼撞木の揺れのかすかにも

17番・井戸寺

春の夕日向日陰に鐘のこゑ

18番・恩山寺

鐘楼に春の夕風かよひけり

19番・立江寺

沈丁の香をやうやくに鶴林寺

20番・鶴林寺

息継ぐや磴の手摺に春ひかり

21番・太龍寺

裏山を蝶のひとつの過ぎりゆく

22番・平等寺

花の下にて花仰ぎ見てゐたり

23番・薬王寺

くわんおんの寝息野にあり花の昼

番外・鯖大師

供‥攤

岩灼くる磯に竿振る釣り師かな

室戸岬

涼風は木かげを拾ひゆく坂に

24番・最御崎寺

御手洗の水に涼とるしばしかな

25番・津照寺

山なみの上を雲ゆく糸蜻蛉

26番・金剛頂寺

老鶯や向ひの山に朝日さし

27番・神峯寺

境内にのこる箒目蝉しぐれ

28番・大日寺

熊蝉のこゑやめば鳴く油蝉

29番・国分寺

夏萩の下枝を風のわたりゐる

30番・善楽寺

空かたくあり赤とんぼ飛びをれど

31番・竹林寺

緑蔭に坐し真昼間の海ながむ

32番・禅師峰寺

夏の夕賽銭あつめゆく馬穴

33番・雪蹊寺

目白鳴く槙の梢に日かげ濃し

34番・種間寺

さはやかに真言三度唱へけり

35番・清瀧寺

向拝の梁に蜂巣の穴いくつ

36番・青龍寺

山門を風またくぐる白桔梗

37番・岩本寺

岬への道灼け岬はるかなり

足摺岬へ

葉のかげに重すぎる身を椿の実

38番・金剛福寺

宿坊に夏の遍路の笠を脱ぐ

39番・延光寺

掘^僕

秋時雨分かちがたきは空と海

40番・観自在寺

秋の暮御詠歌のこゑ透くがごと

41番・龍光寺

鐘つくや秋のこゑとし消えにけり

42番・仏木寺

大師堂のかたへにこぼれ姫椿

43番・明石寺

歌碑と句碑黄落しきりなるなかに

44番・大宝寺

きりぎしに雨のひかりや蔦紅葉

45番・岩屋寺

菩提樹の黄葉下枝に濃かりけり

46番・浄瑠璃寺

色変へぬ松ヶ枝の下くぐりけり

47番・八坂寺

子規句碑の句意をあれこれ秋の風

48番・西林寺

コスモスや尾根はなれゆく雨雲も

49番・浄土寺

鐘のこゑ紅葉の山の暮るるころ

50番・繁多寺

納経をすませすなはち秋の暮

51番・石手寺

秋晴れや地に影を引く遍路杖

52番・太山寺

秋風は泰山木の枝々に

53番・円明寺

笠とつて白山茶花を仰ぎけり

54番・延命寺

風のこゑ明日は冬立つ日といはる

55番・南光坊

吹かれきて秋蝶堂を越えにけり

56番・泰山寺

御手洗のあたり綿虫すぎにけり

57番・栄福寺

先達の木魚の音や暮の秋

58番・仙遊寺

へんろ道くらきに白き茸生え

59番・国分寺

石垣に咲かせて秋の鴨足草

60番・横峰寺

目白鳴く寺に五色の吹き流し

61番・香園寺

ひとときを桜紅葉の下に坐す

62番・宝寿寺

コスモスや甍のひかり午後に入る

63番・吉祥寺

水煙は風のなかなり鰯雲

64番・前神寺

秋深みゆく空のあを空のかぜ

65番・三角寺

検〇彰

五色旗揺るる雪後の雲辺寺

66番・雲辺寺

大樟の根方に冬の日差かな

67番・大興寺

徒(かち)遍路焚火のそばへ寄りゆける

68番・神恵院

樟の根の瘤の数多や冬の鵙

69番・観音寺

涸川の底石ひとつづつ白し

70番・本山寺

鐘撞いて冬の大気を震はする

71番・弥谷寺

鐘楼を出て白息を長く引く

72番・曼荼羅寺

どの山もまろし讃岐の冬霞

73番・出釈迦寺

樟の枝わたる鳥かげ雪催ひ

74番・甲山寺

地におりる鳩の羽ばたき雪催ひ

75番・善通寺

昼過ぎの霙の空のたひらかに

76番・金倉寺

庭歩くばかりの鳩やしぐれ寺

77番・道隆寺

しぐるるや讃岐のぽつくりさんに会ふ

78番・郷照寺

冬の夕灯明尽きんとして旺ん

79番・天皇寺

冬の雨しとど香煙渦をなし

80番・国分寺

岩にまた草に雪つむ白峰寺

81番・白峰寺

本堂の大屋根を雪しづりけり

82番・根香寺

実南天寄せ墓かくも高きかな

83番・一宮寺

除けし雪踏みゆき仁王門くぐる

84番・屋島寺

裏山はきりぎしの山実万両

85番・八栗寺

雪催ひ墓石は江戸のころのもの

86番・志度寺

寒椿剃髪塚に日の差して

87番・長尾寺

冬風のわたるこゑごゑ枝々に

88番・大窪寺

やぶれ傘主宰 大崎紀夫

著書
句集『草いきれ』『竹煮草』『からす麦』『虻の昼』『俵ぐみ』『ふな釣り』
詩集『単純な歌』『ひとつの続き』
旅の本『湯治場』『旅の風土記』『おーい、旅』
釣り本『日本全国雑魚釣り温泉の旅』『ぶらり釣り行』など

 

 

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