お遍路俳句

遍路の傘と杖で、ただ歩く。
寺で、路辺で、川で、海で、何も考えないようにしながら。

「句集遍路−槃特(ぱんたか)(ほうき)  西池冬扇」より

お遍路俳句 春…阿波

鐘一つ阿弥陀被りの遍路笠

第1番・霊前寺

道標の指は右向き花の雨

第2番・極楽寺

山桜ここにも一人笠濡らし

第3番・金泉寺

鶯のしばしつまりて法華経と

第4番・大日寺

春寒し羅漢が開く腹の中

第5番・地蔵寺

軽口も無口も細き遍路道

第6番・安楽寺

真っ新のサンヤブクロや春の風

第7番・十楽寺

徒遍路どんと山門またぎけり

第8番・熊谷寺

山門の下の宿りも雨遍路

第9番・法輪寺

南無三宝杖で金柑たぐり寄す

第10番・切幡寺

遍路笠急に鳴り出す通り雨

第11番・藤井寺

花遍路そっくりかえって降りる坂

第12番・焼山寺

口開けて枝垂れ桜を見上げおり

第13番・大日寺

春日の法螺貝高く吹き納む

第14番・常楽寺

鐘楼をただ横切りし紋黄蝶

第15番・国分寺

蕗の薹一本だけが闌けており

第16番・観音寺

春陰の己を映す深き井戸

第17番・井戸寺

破れ笠の破れより覗く花の空

第18番・恩山寺

ぼうたんの花芽大きく恙なく

第19番・立江寺

菜の花の中で地蔵の真似をする

吉野川

春疾風水煙の雲飛ばしけり

第20番・鶴林寺

六角堂右回りして花楓

第21番・太龍寺

たんぽぽや磴の途中で立ち止まる

第22番・平等寺

花の雲鳶舞うときは一羽でも

第23番・薬王寺

太平洋の怒濤を前に亀鳴く夜

日和佐海岸

お遍路俳句 夏…土佐

室戸岬爪むき出しの鳶翔ちぬ

室戸岬

蚊柱や豪傑墓は小屋の中

第24番・最御崎寺

落蝉や納経所への石熱く

第25番・津照寺

逆打ちの遍路の影よ晩夏光

第26番・金剛頂寺

遠くより般若心経滝の音  露けしやマッチの炎手でかばい

第27番・神峯寺

拍手を打ちて蚊を撃つ古祠  百合の花倒れてもなお地のラッパ

第28番・大日寺

栗落す物干し竿をふらふらと

第29番・国分寺

雲の峰これぞ錦の納札  山門の向こうまぶしく黒日傘

第30番・安楽寺

鳴かぬ蝉阿弥陀堂にぶつかれり

第31番・竹林寺

蚊を撃ちてしきりに乾く咽喉の奥

第32番・禅師峰寺

水掛不動の顔からふいに黒揚羽

第33番・雪蹊寺

空蝉やお大師像の布脚半  鐘楼のくずれ石段夏の雲

第34番・種間寺

蒲は穂に川面をさっと風の筋  土手高しここにも揺れるかやつり草

仁淀川

稲原やハングライダーくるくると

第35番・清瀧寺

滝出でし行者の肋水はじく

第36番・青龍寺

鹿子百合格子覗けば歓喜天  抱く杖の鈴鳴りにけり野の昼寝

第37番・岩本寺

芋の葉の丸まっている昼寝かな  山積みの土管の穴に雲の峰

四万十川

杖に顎乗せて晩夏の海の色  天高し海円心に立つ人よ

第38番・金剛福寺

えのころ草バイク遍路に抜かれけり  二期作の稲田へ二階開け放つ

第39番・延光寺

お遍路俳句 秋…伊予

逆打ちの人と時雨の音を聴く

第四十番・観自在寺

納経所のことに墨の香実南天

第四十一番・龍光寺

秋澄むや線香の煙まっすぐに

第四十二番・仏木寺

線香の炎振り消し冬間近  南無山門堅く閉じらる秋の暮

第四十三番・明石寺

秋深し龍の吐き出す水の音

第四十四番・大宝寺

木の実降る背中の文字は南無大師

第四十五番・岩屋寺

ボディソワカだんご薬師に木の実独楽

第四十六番・浄瑠璃寺

笠脱いで秋明菊を誉めており

第四十七番・八坂寺

行く秋の門前の猫鳴きつづけ

第四十八番・西林寺

境内の太極拳や赤とんぼ

第四十九番・浄土寺

秋風やことに水屋の白手ぬぐい

第五十番・繁多寺

石叩き地獄に届け秋の音

第五十一番・石手寺

鐘楼の中に地獄図鵙高音

第五十二番・太山寺

影長き方へ歩むや露の朝  山茶花を杖で除けては小さき句碑

第五十三番・円明寺

菊盛り女先達赤錫杖

第五十四番・延命寺

夢に出る里にも似たり楠は実に

第五十五番・南光坊

わが影の暗さ増しけり葉鶏頭

第五十六番・泰山寺

田の神の後ろ姿や柿たわわ

第五十七番・栄福寺

蜘蛛の囲や雁の編隊通過中

第五十八番・仙遊寺

菅笠の天辺に穴秋の雲

第五十九番・国分寺

蜜柑三つ姉さん被りの御接待

第六十番・横峰寺

はたはたや納経所には長い列

第六十一番・香園寺

本堂の階へ落ち葉と杖の影

第六十二番・宝寿寺

いのこずちお下げの長き少女いて

第六十三番・吉祥寺

閉めて開け源氏窓から鱗雲

第六十四番・前神寺

鳥雲に先の減りたる遍路杖  うろこ雲次の札所は峰の先

第六十五番・三角寺

お遍路俳句 冬…讃岐

雪布団首まで被る寝釈迦かな

第66番・雲辺寺

先達の赤き手袋遍路道

第67番・大興寺

御札寺の隣も札寺楠も冬

第68番・神恵院

靴マット叩いておりぬ雪催

第69番・観音寺

梅ケ香や賓頭廬いつも堂の外

第70番・本山寺

白山茶花小さく昼の鐘一つ

第71番・弥谷寺

万両といえど木の下暗きかな

第72番・曼荼羅寺

槃特の箒は梁に寒雀

第73番・出釈迦寺

冬霞讃岐に数多むすび山

第74番・甲山寺

かじかみし手をあわせけり誕生寺

第75番・善通寺

錫杖を一つ鳴らすも春遠し

第76番・金倉寺

時雨てはまなこの光る仁王様

第77番・道隆寺

襟巻の女が落とす厄の銭

第78番・郷照寺

朱印捺すマスクの中でぶつぶつと

第79番・高照院

電気ストーブ数珠の売り場に猫の居て

第80番・国分寺

地蔵にも毘沙門天にも雪降り積む

第81番・白峯寺

地下足袋と錫杖の跡雪古道

第82番・根香寺

猫飛びぬ門の雪庇のどすと落ち

第83番・一宮寺

土器を投げ損ねては雪の海

第84番・屋島寺

花八つ手ここにもおわす歓喜天

第85番・八栗寺

灯を雪が揺らせり「海女」の墓

第86番・志度寺

笹鳴きの寺の築地を越えにけり

第87番・長尾寺

結願の九輪の彼方雪の嶺

第88番・大窪寺

遍路とは、ただ歩くことである。無になって歩くことである。だが、歩くほどに思いが去来する。そして、凡夫の悲しさ、それを書きとどめてしまう。

ひまわり俳句会主宰 西池冬扇

著書
句集『阿羅漢』『8505−西池冬扇句集』『碇星』
随筆『ごとばんさんの夢』『時空の座第1巻』
評論『俳句で読者を感動させるしくみ』
『2006年、ひまわり俳句会』『俳句の魔物』
『俳句表出論の試み』

 

 

 

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