HAIKU日本2025写真俳句大賞 発表
2025 春 大賞
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(評)この句は、桜の散り際という季節の儚さを出発点に、「黄泉への道」という死生観を重ね合わせた深い象徴性を持ちます。花びらの敷き詰められた道の視覚が「冥界への導き」として昇華されており、写真と俳句の言葉が完璧に呼応しています。美しさと無常感、余韻と深層心理を併せ持った、詩性の極みに達した作品です。
次点
(評)阿蘇山の稜線を「涅槃」に見立てる大胆な構図と、春田打ちの音を「まどろむ」という感覚で捉えた詩的な対比が見事です。春の営みと大地の安らぎが重層的に響き合い、土地の気配と時間の流れを濃密に閉じ込めた良い写真俳句です。自然・宗教・人間の営みが見事に溶け合っています。
<春 秀逸句>

季を送る流れ嫋やか花筏
宮城県仙台市 遠藤一治
(評)「嫋(たお)やか」は美しい大和言葉の一つで、しなやかで、しとやかな様を言います。優美な「花筏」を見事に捉えています。上部の空色から群青色へと太陽の光が創り出すグラデーションが、写真に深みを出しています。美しく流れる花筏を見事に表現した「嫋やか」がピタリとはまる写真俳句です。

風光る移動スーパー巡回日
宮城県仙台市 山田由紀子
(評)菜の花に焦点を当て、少しぼやけた移動スーパーのやりとりが写し出されています。写真半分を菜の花の黄色で埋め尽くしたことで春の陽気さがよく出ています。移動スーパーの巡回日を心待ちにしていた気持ちが、「風光る」に込められており、この日の陽光や風の柔らかさなど様々なことを感じさせます。

朝霞晴れて早池峰光りけり
茨城県水戸市 打越榮
(評)早春の移りゆく風景を幻想的に捉え、朝の霞立つ平原が美しく表現されています。光りが差し込んで、日本の原風景のような景色が広がっています。柳田国男が著した『遠野物語』で「早池峰の山は淡く霞み、山の形は菅笠のごとく、また片仮名のへの字に似たり」とある北上山地の最高峰。明るい緑が春の優しさを感じさせます。

紅梅や乙女の恋の色に似て
千葉県木更津市 雛
(評)「紅梅」の色が「乙女の恋」の色に似ているとは、何ともロマンチックな写真俳句です。まだ寒い内から咲き始める梅。鮮やかなピンク色も、乙女の幼い中に恋をしている色香を感じさせます。紅梅の伝来は平安時代だとされ、古より愛されてきた紅梅の魅力が十分に伝わってきます。

にぎやかな鳥語の世界青き踏む
東京都足立区 miyakodori
(評)賑やかな鳥たちの声の入り交じる野に足を踏み入れた作者。草の芽が萌え出る下萌えの時期が過ぎ、野山は春本番を迎えています。花が咲き始め、草が青々と生える喜びを「青き踏む」と表現しています。鳥のさえずりも読者に伝わり、町の喧噪を離れた自然の中へと読者を誘ってくれます。

小手毬の揺れて奏でる風の詩
東京都町田市 雅
(評)名のごとく「小手鞠」は、小さな花が鞠のように集まって愛らしく咲きます。風が吹きしなやかに枝先が揺れる様を「風の詩」と表現しました。詩心の感じられる言葉を紡ぎ出すことで、写真に表情が生まれ写真俳句としての魅力が高まりました。

桜の木さあ出番だと揃い踏み
東京都町田市 渡辺理情
(評)大きく広がった枝振りが、訪れる人を出迎えてくれています。軽妙な措辞が桜の木の魅力を増幅させます。訪れた人を大いに楽しませようと、それぞれの木々がお互いに声を掛け合っているかのように想像させます。「さあ出番だ」と、そんな桜の木々のやりとりがあったとしたら嬉しくなってきます。

桃の香に山の根雪も緩み出し
神奈川県平塚市 八十日目
(評)薄紅色の花が薄いベールのようになり、写真に優しい風合いを出しています。山里はもうすっかり春ですが、遠景の山の根雪がゆっくりと季節が移り変わっていく様を伝えています。空色の美しい空も広がっていて、これからの穏やかな明るい春の訪れに心が浮き立ちます。

釣り人の背にはらはらと散るさくら
大阪府大阪市 安子
(評)大分桜も散ってしまった水際の公園で、長閑な春のひとときを写し取っています。仲間内で見せる気さくな表情が自然に出ていて、釣り人たちの話し声が聞こえてきそうです。日差しのたっぷりとある絶好の釣り日和。穏やかな時間が流れ、「背にはらはらと」散る桜とともに春の一日を素直に切り取った秀作です。

菜の花の香の漂ふや薩摩富士
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
(評)「薩摩富士」とは美しい円錐状の山容を持つ、鹿児島県薩摩半島の活火山「開聞岳」のこと。菜の花と丸木橋、そして薩摩富士のそれぞれの個性が際立った写真俳句。素晴らしい写角の一枚に感心します。鮮やかな春のスケッチをしたかのような写真に、「菜の花」の黄色が際立つ明るさで存在感を示し、その香も感じ取れます。

落椿安らぎの場所見つけたり
和歌山県橋本市 徳永康人
(評)椿の花が、落花してもなお美しさを放っています。一輪一輪の椿の花が敷き詰められたように落ちていて、未だに輝きを失わない落花たちへの作者の愛情を汲み取ることができる写真俳句です。その光景を「安らぎの場所」と詠んだ作者の情愛が感じられます。

如月の雲の端追ふ行方かな
徳島県徳島市 今比古
(評)「如月」は陰暦二月の異称。山々は厳しい冬の名残を残していますが、上空には春の青空が見え、如月の空にたがわぬ雲の行方を表わしているようです。冬に一足早く咲いた手前の蝋梅の黄色い花が対比となるよう配置され、その先には春本番を待っているかのようです。
2025 夏 大賞
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(評)「虹の糸」が蜘蛛の糸の光彩を見事に表現し、写真のプリズム効果と完璧に調和しています。「虹」という夏の季語も効果的に機能しており、「幾匹の生命食べたか」という問いかけが、美しい糸の背後にある食物連鎖の現実を深く洞察し、自然の美と厳しさを同時に表現しています。写真俳句として高い完成度の作品です。
次点
(評)新緑の圧倒的な生命力を「眼球に満つる」から「肺までも」へと身体感覚で表現した発想が卓越しており、写真の深い森林風景との相乗効果が抜群です。五感を通じた体験的表現により、単なる視覚的描写を超えて、新緑に包まれる全身的な感覚を見事に抽象化しています。
<夏 秀逸句>

今生の時を広げて夏の蝶
宮城県仙台市 繁泉祐幸
(評)精一杯短い命を生きている「夏の蝶」。目の前に存在する命あるものへの郷愁が詠み込まれています。背景を切り取った写真は、句のイメージを際立たせるためなのでしょうか。作者の表現したい一つの写真俳句の形として評価したい作品です。

ラベンダーに私きれいと夏の蝶
茨城県日立市 松本一枝
(評)放射線状に写し出したアングルの面白さが魅力の写真に、遊び心一杯の句が寄り添います。ラベンダーの美しい紫の世界に夏の蝶が存在感を放っています。口語俳句の軽妙さが読者の心を捉え、「私きれい」の問いかけに素直に反応させられます。

炎昼や人影在らず遊歩道
茨城県水戸市 打越榮
(評)蝶や虫が揃って蜜を吸う微笑ましい写真。背景の落ち着いたトーンが虫や花を鮮明にしています。炎昼の中の静かな遊歩道で、人の気配を気にすることなく花に止まっている蝶や虫。目の前の自然がくっきりと写し出されています。

大地へと雲従へて大西日
千葉県柏市 岩下菜智
(評)西日が地平線に沈む雄大な光景に、地球という素晴らしい星に住んでいることを実感します。この雄大な光景は見る人を圧倒し、名詞止めの「大西日」の季語が鮮烈に生かされています。夏の太陽の烈しさがよく分かるダイナミックな写真俳句です。

山間の植田に水車かろき音
東京都足立区 miyakodori
(評)手前の紫陽花がポイントとなり、美しい光景が広がっています。山間の植田の詩情に、水車の音が重なり独特の空間を伝えています。植田に水を送り続ける水車の軽やかな音が聞こえてくるようで、いかにも長閑で心が和みます。

オリーブの花咲く初夏や妻の笑む
東京都町田市 長雄澄里
(評)オリーブの小さな花が愛らしく、育ててきた妻が思わず微笑んだのも頷けます。添えた手が愛情を物語っています。日常の何気ない一コマですが、繊細で傷つきやすい花を撮った一枚からは、愛と安心感に満ちた生活が窺えます。

梅雨晴れの空に献杯一人酒
東京都町田市 渡辺理情
(評)雲と沈む夕日とのハーモニーが宇宙の荘厳さを実感させます。梅雨晴れの空に盃を掲げた作者。梅雨の晴れ間は貴重で、作者はそんな美しい空に向かって「献杯」。具体的なシチュエーションは語らず、ただ「空に」と置いたのが巧みです。厳かな心境にさせられます。

曲ること嫌うて一途麦の秋
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)直立に近い形で実る麦の穂が一直線に並んでいる光景。定規で計ったように同じ高さに成長した麦の姿を、作者は麦の気質だと擬人化しています。心を込めて育てているのでしょう。「麦の秋」に向かって一途に成長している麦の穂は感慨深いものがあり、作者の愛しさと優しさを感じます。

いそいそと膳部整へ冷し酒
神奈川県横浜市 楽ハイシャ
(評)「いそいそと」に準備した膳と共に、「冷し酒」を楽しもうとする喜びが自然と伝わってきます。見るからに冷酒に合いそうな肴の数々。添えた手には相手に対する優しさとおもてなしの心が見られ、この先の和やかな酒宴を想像させます。冷酒の「てまえみそ」の銘柄に、くすっと笑ってしまいます。

泡立ちは雲のようなり髪洗う
富山県射水市 中村理起子
(評)「髪洗う」は夏の季語。眺めていた雲が、まるで髪を洗っている時のモコモコの泡みたいに思えたのでしょう。髪を洗うと気分もリフレッシュします。見上げた雲に対する作者の感性が、読み手も楽しい気分にさせてくれます。
2025 秋 大賞
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(評)古刹への静かな参道を捉えた写真と、光と風を詠み込んだ句が見事に融合した秀作です。苔むした石段と杉木立の間から差し込む神聖な光が、一句の清澄な世界観を完璧に視覚化しており、極めて高い相乗効果を生んでいます。季語「風白し」は、澄み切った秋の清浄な空気感と光の質を巧みに表現。「木漏れ日」という無季の言葉も古刹の静謐な雰囲気と響き合い、視覚的な情景を鮮やか描いています。リズムも美しく整い、音の流れが心地よい韻律を創出しており、理想的な作品と言えます。
次点
(評)雪を戴いた立山連峰の雄大な写真と、その迫力を詠んだ句が見事に呼応しています。「せまりくる」という動詞が、山塊の圧倒的な存在感を力強く表現しています。季語「秋雪」は初雪の意味で秋の季語として適切です。リズムも韻律の美しさがあります。写真に映る紺碧の空と白銀の峰々が鮮やかな対比を描き出し、句が持つ力強さを視覚面から一層際立たせる見事な調和を実現しています。
<秋 秀逸句>

一年の思ひの束の稲を干す
宮城県仙台市 遠藤一治
(評)米作りは、稲刈りの後に稲わらを鋤き込む土作りの作業から始まり、春の田打ちから収穫まで常に天候と闘いながらの一年です。「一年(ひととせ)の思ひ」と詠んで、農業の労苦に思いを寄せながらも、何やら楽しく活気ある雰囲気も伝わってきます。

点滴の一粒ずつの梅擬
宮城県仙台市 繁泉祐幸
(評)「梅擬(うめもどき)」は、落葉低木で山野に自生します。葉の形や枝ぶりが梅に似ているので「梅擬」の名があります。写真では、美しい赤い実がびっしりと実り印象的です。赤い実が点滴の一滴一滴に思えたのか、そんな梅擬と点滴との対比が巧い秀吟です。

何もかも狂ひたるかや暮の秋
宮城県仙台市 山田由紀子
(評)「秋の暮」と「暮の秋」は違っています。「暮の秋」は、秋の終わりが近づいている晩秋の頃を指します。季節の終わりに向かう心理的な要素が強く、心細さを感じさせます。「何もかも狂ひたるかや」と記した心情が見て取れます。季節外れに咲いた僅かな花に止まっている赤トンボ。背景の色も肌寒く何か不安な心持ちになります。

朝一の金木犀を吸って吐く
千葉県柏市 岩下菜智
(評)「金木犀」は秋の彼岸頃から咲き出します。群がるような黄色の小花は、甘い芳香を漂わせます。その香りを「吸って吐く」と表現し、しばらく至福の時を味わったことでしょう。その芳香は郷愁を誘い、温かく優しい気持ちにさせてくれます。

銀杏踏みそぞろに歩む参詣路
千葉県柏市 小草
(評)穏やかな気候と人の優しさあっての光景です。一本の木に吹き集められた銀杏が、道路に重なりあっています。誰しもが美しい黄金の絨毯を荒らさぬように、そっと歩いたに違いありません。流麗なタッチの俳句で、参詣の路が優しく彩られています。

曼珠沙華ぼくとタンゴを踊ろうか
東京都板橋区 千舞
(評)何とも楽しい秋の写真俳句。有難くない名で呼ばれることのある「曼珠沙華」ですが、楽しい気分にさせてくれる作者の発想の素晴らしさが光ります。さらりと詠んだ一句が秋風に爽やかです。

隠岐の海を我が物顔に鰯雲
東京都町田市 渡辺理情
(評)空と海のみを切り取った写真。現れては消え、そしてまた風に流され雲の形は絶えず変化するものです。この日の雲を「我が物顔に」と、力強く詠んだところが写真にピタリと合っています。明るい空とは対照的に、冬に向かうやや暗めの隠岐の海が存在感を放っています。

芦原のカラカラさわわ釣日和
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)釣場へ行くのに通る芦原を、振り分けつつ歩む時に相応しいオノマトペが冴えています。七音はア段で統一されていて、明るい軽快な気分になります。自然の良さを味合わせてくれる、「釣日和」の一日の高く爽やかな秋空が印象的です。

新米や非の打ちどころなき白さ
神奈川県藤沢市 吉田光季
(評)新米の白さを賞美し一気に詠み下した写真俳句。黒い土鍋と相まって白さが際立っています。新米を味わう喜びを、「非の打ちどころなき」と最大限の表現で表しています。新米ならではの様がしっかりとクローズアップされ、炊き上がった瞬間の喜びが伝わってきます。

秋茜忘れず秋を連れてくる
神奈川県平塚市 八十日目
(評)暦の上では秋の季節が年々秋らしい気候にならず、もう四季のない国になってしまったのかと、誰もが心配する程今年も長く暑さが続きました。それでも「秋茜」を見つけたことで、短い秋を実感させてくれます。訪れた秋に安堵する思いが滲んでいます。

三秋の誇り背にして鉦太鼓
徳島県徳島市 今比古
(評)実りの秋、稲が無事に収穫できたことを神様に感謝し、新穀を供えもてなすのが秋祭りです。提灯で飾った華やかな山車を曳く面々の背には、誇りが漲っていると詠む作者。作者もまた熱い想いでこの光景を眺めているのでしょう。

実むらさき喜寿の友あり差し集ふ
福岡県飯塚市 日思子
(評)「実むらさき」は季語「紫式部」の傍題で、落葉低木で鮮やかな球形の紫の実をたくさん付けます。『源氏物語』の作者、紫式部の気品ある姿に由来すると言われ、写真からも美しさが充分に伝わってきます。秋の一日の喜びが込められた一句からは、集う面々の笑顔が見えてきます。
2025 冬 大賞
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(評)冬砂丘という広大で無機質な景の中に、「夫の背ナ遠く」と人間の存在を置いた構図が見事です。自然の広がりと夫婦の心理的距離とが重なり、説明を排しながら深い余韻を生み出しています。「背ナ」という表記には生活の実感がにじみ、親密さと隔たりの両義性が感じられます。景と心情が静かに響き合い、写真俳句としての融合度も高く、余韻の持続力に優れた完成度の高い一句です。
次点
(評)初雪を「色が大地へ還り初む」と捉えた発想が新鮮で、哲学的な美しさを感じさせます。雪が覆い隠すのではなく、色が還っていくという逆説的な視点が自然の循環を静かに表現しています。「還り初む」という古語の措辞も格調を高め、時間の移ろいを繊細に伝えています。やや観念的ではありますが、その分、読者に深い思索を促す力を持った秀句です。
<冬 秀逸句>

一葉忌名残の光住むところ
宮城県仙台市 繁泉祐幸
(評)「一葉忌」は明治時代の小説家・樋口一葉の忌日で11月23日です。生活に苦しみながら戸主として、一家を支えるため作家への道を決意します。僅か一年半で『大つごもり』『にごりえ』『たけくらべ』『十三夜』などの名作を発表し、女性職業作家の先駆けとなりましたが、肺結核により24歳の若さで亡くなりました。一葉の名残の場所に、光輝く花が捉えられており、いくつもの名作を残した一葉を偲ぶ気持ちが表れています。

決戦日毛嵐の湧く海を見る
宮城県仙台市 山田由紀子
(評)海面にまるで湯気のように立ち上がるのは「毛嵐」。“気嵐”とも言い、早朝の冷え込みが厳しい日に、温度の差異で水面に立つ冬の風物詩です。冷たく張り詰めた空気が伝わる写真です。その景色を眼の前に、特別な日であることを感じさせます。力強く詠んだ句からは、作者の決意が存分に伝わってきます。

ひゅうひゅうと走る風音山眠る
茨城県水戸市 打越榮
(評)青白く輝く遠景の山並と趣を変える近景の山々。その無機質な山々に、風が吹くと詠むのではなく、「走る風音」と詠み凄みを感じさせます。一方で風音を擬音語「ひゅうひゅう」とひらがな表記し、風音の凄みと柔らかさが共存している不思議さもあります。冬の山の静まり返った様子を表す「山眠る」の季語が、情景にピタリとはまっています。

気嵐の釣り師に宿る仏かな
茨城県日立市 松本一枝
(評)冬の幻想的な景「気嵐」。冷え込んだ冬の朝に、水面から湯気のように霧が立ち上がります。何とも神秘的な美しさです。厳寒の海は緊張感があり、その景と対峙する釣り人に「仏が宿る」と詠んだところに、作者の感動が凝縮されています。

冬めきて天と地を分く雲の帯
東京都町田市 渡辺理情
(評)大胆な構図と太く棚引く雲の帯を、水平に捉えた写真に驚きます。雲で分けられたビル群は、人の気配もなく静かな景です。その景を十七音に纏め上げた句の「冬めきて」が、季語としての力を十分に発揮しており、「天と地を分く」の措辞が言い得て妙の写真俳句です。

けふあたり薬師詣や帰花
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)暦の上では冬でも日差しがたっぷりと降り注ぎ、暖かさを感じられる日中だったことでしょう。「帰花(かえりばな)」は、春のような暖かい陽気に誘われて咲く季節外れの花のこと。俳句ではサクラを指す場合が多く、冬でも小春日和の暖かい天気に誘われて、見掛けることがあります。幟が連なって立つ様も写真を明るくし、軽やかに詠んだ句と良く合っています。

バケツの水凍らせたのは宇宙人?
神奈川県平塚市 八十日目
(評)影がバケツの青色を濃紺に変え、光はメタリックな光沢を作り出し、まるで3つの液体が入り混じったように見えます。その様を「宇宙人」の仕業と捉えた、ユニークな感覚が光ります。光沢が金属性を帯び、まるで宇宙人が凍らせたかのように読み手にも伝わります。

街なかの遊歩道にも錦あり
大阪府大阪市 安子
(評)晩秋から初冬にかけてあらゆる木々が色づき、人々の目を楽しませてくれます。この桜並木の遊歩道も春はサクラの淡い色に包まれ、夏は緑が大きく育ち、歩行者に優しい影を作ってくれたに違いありません。秋には色づきが和ませてくれたことでしょう。作者の穏やかで幸せな日常が伝わってくる作品です。

クリスマスローズ咲くころ君想ふ
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
(評)「クリスマスローズ」は、クリスマスの頃に径5〜6センチ程の清純な白い花を付けます。「私を忘れないで」「追憶」「慰め」などの花言葉そのもののように、うつむき加減に咲きます。中世ヨーロッパ、戦場へ行く男性が恋人に贈った逸話に由来すると言われています。花言葉と呼応するかのような一句で、花の名の響きは美しく、流れるような句の音調も印象的な秀作です。

年の暮ぢつと手を見るはぐれ猿
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
(評)「わが生活(くらし)楽にならざり ぢつと手を見る」―石川啄木の歌を彷彿とさせます。雪の中、温泉に浸かり、ほっこりとした表情は雑誌などでもよく見掛けるおなじみの姿ですが、どこか哀愁を漂わせる仕草に読者は見入ってしまいます。何とも微笑ましい光景に読み手も、くすっと笑ってしまい温かい気持ちになります。

雪あらし火の鳥列車唸り来る
和歌山県橋本市 徳永康人
(評)赤い列車は大阪難波駅から、近鉄名古屋駅を約2時間で結ぶ特急「ひのとり」。北国では当たり前の景色ですが、西日本を走行する列車にあっては、とても珍しい景です。「雪あらし」「火の鳥」「唸り来る」の言葉を繋ぎ、吹雪の中を豪快に走ってくる姿に出合った感動を臨場感たっぷりに伝えています。

冬の海そっと隠した宇宙船
島根県松江市 宮本朝陽香
(評)透き通ったきれいな海の底。ヒトデや岩場に身を潜めるウニなども、くっきりと写し出されています。石に付いた黄色やオレンジの正体は不明ですが、それらが海底の模様となり不思議な世界を創り出しています。ヒトデを宇宙船に見立て、冬の海の中に隠したという作者の遊び心溢れる作品になりました。

鉛色に挟まれ冬の口開く
徳島県徳島市 今比古
(評)オレンジ色の強烈な光が、自然の雄大さを物語っており、遠景は朝日に染まり朝の始まりを感じさせます。時が止まっているかの様な、朝の束の間の静寂を切り取った写真。幻想的な早朝の静寂の中、陽の当たっていない場所を「鉛色」と表現し、美しい朝日を「口開く」と詠んだ作者の感性が光ります。

冬枯れや心澄みぬる入日どき
福岡県飯塚市 日思子
(評)一枚の絵画のように洗練された写真。青と黒の配色のバランスが良く、2色の間には夕日に染まるオレンジ色の雲、中央には燃えるように落ちていく太陽の輝きをしっかりと捉えています。「冬枯れ」の中、草木が枯れ寂しくはあっても、この景を前にして心がすっかり澄み渡ったという作者の心境が伝わってきます。
<入選>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。
























