HAIKU日本大賞 大賞発表

HAIKU日本2023冬の句大賞

大賞
チェロケース下ろす聖夜の控室
[ 東京都練馬区 喜祝音 ]

(評)クリスマス・イブに催される音楽会の楽屋における一齣を静かに書き留めた作品です。クリスマス・イブで賑わう街の交通を抜けて、会場の楽屋に無事チェロを運び入れた安堵感が、抑制の効いた表現で描写されています。この後、楽屋では舞台用の衣装に着替えたり、髪型を整えたりされるのでしょう。本番に向けて、チェロのチューニングもしなければなりません。楽屋に到着してから、音楽会の幕が開くまでにすることはいくつもあるのでしょう。聴衆に最高の演奏を届けて聖夜のかけがえのない思い出になるよう、練習を重ねてきたことと思います。聖夜を演出する舞台裏に注目して作品化した秀吟です。

特選

特選
原潜を孵化して冬の海の黙
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)核ミサイルまで搭載できる原子力潜水艦。現在ではアメリカなど6か国が、核ミサイル搭載の原子力潜水艦を戦略核として持つようになっています。何とも物騒な世の中を「冬の海の黙」として詠んだ社会詠の秀吟。原潜は原子力によって駆動し、潜航は半永久的に可能だとされています。「孵化」は生物の卵がかえることを言いますが、孵化するかのごとく日本の海域にやってきたのか。作者の怖さや不気味さの心情、今の世情を憂える気持ちが強く伝わってきます。

特選
とめどなく山茶花の散る日であるよ
[ 徳島県徳島市 山之口卜一 ]

(評)一気に読み上げた個性豊かな詠みが、散る「山茶花」を強く印象付けています。説得力のある美しい情景が詠まれ、散る花の緊迫感が伝わってくる作品です。「山茶花」の花は、花首から落ちる椿とは違って、ひとひらひとひら舞い散ります。副詞「とめどなく」が、その様を言い当てており、独特の言い回しに作者の優れた詩心が感じられます。

準特選

準特選
初御空余生の夢を描きけり
[ 東京都江戸川区 羽住博之 ]

(評)「初御空」は初めて明けた元日の大空を言います。厳かな気分の中で仰ぐ空には、いつもと違う感慨があります。誰しもが良き年であるように願うものですが、掲句は「余生の夢を」に余情と余韻が込められています。まさに、一年の計は元旦にありです。力強く「けり」で言い切った一句は、新春に相応しいのびのびと明るい秀句です。

準特選
夫の掌を握れば薄し龍の玉
[ 大阪府寝屋川市 伊庭直子 ]

(評)「龍の玉」は、常緑の多年草「ジャノヒゲ」の実のこと。細長い葉が蛇や龍の髭に見えることから付いた名です。冬と共に実が熟して瑠璃色の光沢のある玉となります。地面を覆って茂る葉に、隠れるように実を付ける「龍の玉」の瑠璃色はまるで涙のようです。薄く感じられた夫の掌の感覚が伝わってきて、「握れば薄し」の措辞が何とも悲しみを引き寄せる一句。夫への愛情が深く感じられます。

準特選
白飯にパキリと落とす寒玉子
[ 大分県豊後大野市 後藤洋子 ]

(評)玉子かけご飯は日本中の人気の食べ物の一つです。白いご飯に玉子の黄身を落とし込む瞬間の擬音語「パキリ」が、効果を発揮した一句。何気なく聞いている音を実際に言葉で表現するのは容易ではありません。誰もが言葉にしてこなかった音を詠み、それを万人に納得させてしまう秀句。「パキリ」の冴えた音からは早朝の静けさや冷ややかな空気感が伝わります。冬の一日の始まりの作者の心をも表出しています。

秀逸句

いつの間に揃ふ師走の急ぎ足
[ 栃木県宇都宮市 光光星 ]

(評)師走の声を聞いた途端に、年末に向けての準備が始まります。初めは気持ちに余裕がありますが、だんだん焦りとなり、大晦日に向けてのカウントダウンが始まります。街の人々が、みんな急ぎ足に感じた作者。しかも、不思議とも感じ取れるくらいに足並みが揃っています。そんな間合いを句に仕立て上げた感性は見事で、臨場感に富む俳句となっています。

冬の蝶銀座並木のさざめきに
[ 埼玉県行田市 吉田春代 ]

(評)作者の目にとまった「冬の蝶」は、「銀座並木」に触れるように舞いつつ去って行ったのか。銀座並木の「さざめき」の中へと。「冬の蝶」は、“夜の蝶”とも掛け合わせた措辞とも言えるのかもしれません。「冬の蝶」は力もすっかり衰え弱々しい姿なのでしょう。銀座というきらびやかな街との対比で、さらに切ない気持ちになります。

切り株にこれ見よがしの返り花
[ 千葉県佐倉市 佐々木宏 ]

(評)「切り株」から咲いた「返り花」。本来咲く春ではなく、初冬に咲くのが「返り花」です。小春日和に誘われて思い出したようにほっと咲きます。中七の「これ見よがし」が俗っぽくて逆に味わいがあります。思いがけなく咲いた健気な花を見ながら、自然の力は人知を越え、自然に教えられることがたくさんあるのだと感じます。

山茶花や亡き人の椅子そのままに
[ 千葉県船橋市 井土絵理子 ]

(評)「山茶花」の咲く窓辺に、「亡き人の椅子そのままに」。山茶花という馴染みの深い花と「椅子」の取り合わせが、作者の今の心情をくっきりと浮かび上がらせています。感情を露わにせず目の前の状況を綴ることで、尚更深い悲しみが伝わってきます。生前の姿、そして思い出のすべてを季語「山茶花」に託した秀句。

ならぬことはならぬたかが冬帽子
[ 東京都青梅市 渡部洋一 ]

(評)九音、八音と詠んで、その深層心理に近付いていく破調の一句。「ならぬこと」とは、いったいどんな事なのでしょうか。読者は考え込まざるを得ない巧みな一句。意味深な内容に対して「たかが」が安心感を届けてくれています。中七の途中で大きく切れる「ならぬ」の間がよく効いており、「冬帽子」の季語が印象深い俳句です。

港町そこに一輪返り花
[ 東京都小平市 佐藤そうえき ]

(評)まるで歌謡曲のような出だしを、上手く一句に纏め上げた手腕は中々のものです。「返り花」は初冬の暖かい日が続く頃、春に咲き終わった草木が再び季節外れの花を咲かせることを言います。島国の日本には港を中心に栄えた都市が数多くあります。どの港にも華やかな歴史があり、上五に置いた「港町」には作者の懐旧の想いが込められています。一輪の可憐な花が殊更、昔を懐かしく思い出させたのでしょう。

番台へ今の寒さを教えてる
[ 東京都町田市 のんちゃん ]

(評)街のお風呂屋さんでの何気ない会話の様子が、温かく身近に聞こえくるようです。俳句は楽しい庶民の詩です。人情味豊かな会話が一句となりました。虚子は「日常生活のどこにも季題はある」と言っています。素直な表現と口語俳句の良さが、余情さえも読者に与えてくれます。番台の主人との人情味溢れる場面が想像される一句です。

年賀書く友の顔さえ薄れゆく
[ 神奈川県横浜市 教示 ]

(評)長い間会うことはなく、年賀状だけのお付き合いの人も多いものです。自然体の日常詠が心に残ります。「年賀書く」と動作を上五に置くことで、その時間を大切にする作者の心が伝わってきます。友と過ごした尊い時間がゆったりと流れています。受け取った友も懐かしむ気持ちは、きっと同じことでしょう。

凍蝶にハマの優しき薄日かな
[ 神奈川県横浜市 要へい吉 ]

(評)冬の初めは珍しいながらも蝶に出合うことはありますが、本格的な寒さがやってくると、それもほとんど無くなります。それもそのはず、もう飛べないのです。「凍蝶」は寒さに凍えてしまったかのように、じっと動かずにいる蝶のこと。「ハマ」によって横浜の生活や人情までが偲ばれ、「薄日」だからこその優しい情景に、凍蝶に寄り添うかのような場面が浮かびます。

いよいよか窓打つ音と虎落笛
[ 新潟県新潟市 小野茶々 ]

(評)北国に住む作者の言葉が重みをもつ一句。覚悟を決めて冬支度を始めた作者の心の芯まで震わせるかの如き「虎落笛(もがりぶえ)」。虎落笛は竹を組んだ柵や垣根に強風が吹きつけ、笛のような音を発することで付いた名。冬支度で窓を打ち付ける音と、風でヒューヒュー鳴る音を同時に詠んで、雪国に暮らす人々にとっての厳しい冬の実感を伝えています。

寒月に酔うこともなし白き肌
[ 愛知県豊川市 宮田恵里 ]

(評)このシーンを想像してみると、この女性は露天風呂に入っていて桶酒などを静かに楽しんでいるかのよう。「白き肌」がいかにも官能的です。秋の月ならば心ゆくまで酔うひとときですが、冬の月となるとそういうわけにはいきません。「寒月」には研ぎ澄まされたような美しさがあって、緊張感が付き纏うのでしょう。どこか寒月に邪魔されたような一夜に、「白き肌」の措辞が読者の想像力を掻き立てる一句です。

「生きてます」難病の友初電話
[ 三重県松阪市 谷口雅春 ]

(評)「初電話」は新年になって、初めて電話で話すことを言います。上五で一気に読者を引き付けるインパクトのある一句。友との「初電話」での優しいやり取りが思い浮かびます。「難病の友」を作者は、いつも案じていたのでしょう。メールと違って電話では「生きてます」の一言もそのトーンによって、受け止め方が異なってくるものです。友の声の様子に作者は、きっと心から安堵したことでしょう。文字だけでは分からない空気感が「初電話」から伝わってきます。

ふるさとや雲はクジラに似て小春
[ 京都府京都市 水色 ]

(評)平仮名の「ふるさと」や、ゆうゆうと泳ぐ姿を連想させる「クジラ」は片仮名と、春の穏やかな雰囲気が表記からも伝わってきます。巧みな表記と切れによって、作者の俳句の世界が美しく広がります。「小春」は立冬を過ぎてからの春に似た晴天の日を言います。作者の懐かしい「ふるさと」への思いをしみじみと感じさせます。

雪がふる無常なき世の海に消ゆ
[ 大阪府池田市 宮地三千男 ]

(評)無常とは、一切のものは生じたり変化したり滅したりして、一定ではないことをいう仏教の教えです。生涯変化して移り変わり、同じ状態に留まらないことですが、雪は変わらずただ海に消えてしまっていると作者は言います。雪は自然美の極地の一つで、俳人の好むところです。雪が海に消えるだけという光景は、淋しさと空しさを読者の心に響かせます。反実仮想的な中七の措辞が心に沁みる秀吟と言えます。

冬虹に傅くあべのハルカスよ
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)日本一高い高層ビルと謳われ早九年の「あべのハルカス」。シンボルタワーも虹に「傅く(かしずく)」という作者独特の視点が冴えています。傅くように聳え立つ高層ビルと「冬虹」の取り合わせは壮大な空間です。助詞「よ」が、何とも雄大な景色の中の感慨を見事に収め切っています。大阪人の心そのもののような一句は、スケールの大きさが魅力です。

楪や母の着物は吾で終わる
[ 大阪府河内長野市 若林瑠香 ]

(評)新年の季語「楪(ゆずりは)」は、春にかけて新葉が生長した後に古い葉が落ちることから、成長した子に跡を譲る子孫繁栄の縁起物として、古くから正月飾りに用いられてきました。母から娘へと受け継がれてきた着物の数々。自分以外もう誰も着る人はいないと思い込んでいる作者の心を、下五の言い切りが尚更淋しく思わせます。上五の詠嘆の優しい響きと措辞の強さが、一句に入り混じることで複雑な心模様も見えてきます。

亡き弟の部下より来たる賀状かな
[ 大阪府堺市 伊藤治美 ]

(評)死が突然のこと故、投函した年賀状が元旦、相手先に届くということがあります。作者の一句もそうなのか、あるいは姉弟共に親しくしていた間柄で、今も変わらず年始のご挨拶が届くということなのでしょうか。下五を詠嘆の助詞「かな」で終えることで、「賀状」に対するしみじみとした思いが読み取れ、姉としての思いも推し量ることができます。

郷愁のきらきらこぼれ花柊
[ 大阪府寝屋川市 伊庭直子 ]

(評)「きらきら」のオノマトペが一句を際立たせています。玄関先や鬼門にも植えられることの多い「花柊」。郷里の家にもあったのでしょう。初冬に白い小花をたくさん付け甘い香りを漂わせます。懐かしい風景が、きらきらとこぼれるように蘇ってきたという作者。花びらを地にこぼす趣のある風景も見せてくれています。

寒梅のほつほつ開く源氏池
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)鎌倉を象徴する神社である鶴岡八幡宮には、“源平池”と呼ばれる池があり、東を“源氏池”、西を“平家池”と言います。厳冬の中、生命力を吹き込んでひと花ひと花を咲かせる「寒梅」。気品があり、芳しい香りも届いてきそうです。少しずつ開いていく様を「ほつほつ」のオノマトペが上手く言い表しています。

鍋見つめ言と葉かき混ぜ進路きく
[ 兵庫県西宮市 森田久美子 ]

(評)「言の葉」と言わず、「言と葉(こととは)」と一工夫されたところに興味を覚えた作品です。また、下五の「進路きく」が絶妙です。「言と葉かき混ぜ」と敢えて字余りにして、ゆっくりと優しく聞いたのであろうと推察できます。視線を合わさぬようにして、鍋の野菜をかき混ぜながら。そんな場面が心を揺るがせます。相手の気持ちに寄り添った一語一語に味のある秀句です。

座敷終え帰る老妓の黒ショール
[ 兵庫県姫路市 和田清波 ]

(評)「老妓(ろうぎ)」は年配の芸妓さん。季語「黒ショール」が仕事のはねた「老妓」の姿を何とも艶っぽく演出し、心に深く沁み込んできます。防寒ではなく、むしろお洒落な趣きが漂う道具立てとなっています。花街の夜のワンシーンを、まさにドラマのように見事に描き出した一句には、作者の句作に対する力量を感じ取ることができます。

なぞるorion米津玄師を聴きながら
[ 奈良県生駒郡 葉月十八 ]

(評)冬の星はいずれも魅力的で、冬の冷え切った大気にあっては、どの季節よりも美しく見えます。冬銀河の東南には、三ツ星のオリオンが鮮やかに浮かんでいるのでしょう。オリオンを眺めながら、今を時めく音楽家・米津玄師の「orion」を聴くとは、最高にロマンティックな若さ溢れる一句です。十七音の詩の中に好きなワードが散りばめられた一句は、作者の世界観に満ち溢れています。

凍てる夜ショーウインドーに暖を取る
[ 奈良県桜井市 喜多隆文 ]

(評)あまりの寒気に凍り付くこと、あるいは凍り付きそうなことを言うのが冬の季語「凍てる(いてる)」。そんな「凍てる夜」のこと。人を待っているのか、孤独な時間は長く感じられ、寂しさも増してきます。背中に伝わるその明るいショーウインドーの温もりがどれ程、作者の慰めになったことでしょう。感情を入れずに、行動のみを示すことで読者の鑑賞の幅は広がり、作者の思いに寄り添っていけます。

初乗りは夜汽車の旅と決めにけり
[ 奈良県奈良市 堀ノ内和夫 ]

(評)「初乗り」の緊張感と興奮が伝わってきて、作者のワクワク感が読者を楽しくさせてくれます。旅は計画を立てる時点から始まっていて、行き先を選び旅先で何に興じるのか、食は何を楽しむのか、もうすでに十分旅をしているのです。作者の決めた「夜汽車」は西に向かうのか、東に向かうのか。夜汽車がロマンティックな旅情を醸し出した一句です。

うつむきて風に首振り水仙花
[ 徳島県徳島市 河野章子 ]

(評)頭を垂れて風に揺れる姿を素直に叙述しています。妙な技巧を凝らすことなく、自然と零れ出たような一句が詩情を誘います。「水仙花」は冬の季語ですが、この花が咲き始めると春の近さを感じさせてくれます。寒風に咲く水仙の、か弱いながらも一途な姿が見えてきます。

初恋の人の表札見て冬日
[ 徳島県徳島市 島村紅彩 ]

(評)この様な発想の句を詠むことの出来る作者の感性に驚きます。一句には暖かみのあるユーモアが宿っており、思わず笑ってしまいそうです。季語「冬日」は冬の太陽。寒い季節の中、その日差しを詠むとき、人は束の間の安らぎを覚えるのかもしれません。「冬日」と「初恋の人」との取り合わせに妙味があって、あの甘酸っぱい気持ちを思い出させます。「冬日」が柔らかく作者を包み込んだことでしょう。

一族の笑顔あふるる初写真
[ 徳島県板野郡 佐藤一子 ]

(評)コロナ禍も収まりつつある中、やっと一族が一堂に集った今年のお正月だったのでしょう。人生百年の時代、四世代揃っての集合写真も珍しくありません。「初写真」には、充実したひと時が凝縮されていて、孫やひ孫たちの元気な声も飛び交ったことでしょう。心温まる会心の作。先祖から続いてきた系譜の中にあって、いま存在する一族が一枚の写真に納まる晴れやかな場面の一句には、新春の目出度さが溢れています。

初美空鴉は同じ声で鳴く
[ 愛媛県南宇和郡 川村栄 ]

(評)新年の季語に「初御空」があり元日の大空を言います。天を崇める気持ちが込められています。その空を作者は「初美空」と詠んでいます。元日の美しい空の中、いつもと変わらない鳴き声で鴉が飛んでいく様が浮かびます。同じ音でも、元日の空が晴天に恵まれたことを喜んでいるように思えます。「鴉は同じ声で鳴く」と詠み、素直な措辞を続けたのが作者の力量でしょう。

佳作

音が消え天衣無縫な雪の朝
北海道札幌市 鎌田誠
泣き帰る吾子や上見よ冬銀河
岩手県一関市 荒星笑石
山眠るすこし鼾をかきながら
岩手県一関市 砂金眠人
親指の疼きかつては冬の恋
岩手県北上市 川村庸子
元旦や柏手凍し空き実家
宮城県仙台市 奥山凜堂
鋭角は記憶のかたち初氷
宮城県仙台市 繁泉祐幸
独り居を遠巻きにする枯野かな
宮城県仙台市 渡辺徹
城跡をはみ出してをり冬花火
山形県山形市 栗原ただし
マッチ売り居さうな銀座冬林檎
山形県山形市 芳彦
異境の娘想いを馳せし冬の空
山形県米沢市 山口雀昭
枯木星パンデミックを知らぬ父母
茨城県日立市 松本一枝
正月に電気も餅もある平和
茨城県常陸太田市 舘健一郎
おだやかや池の形に泳ぐ鴨
栃木県大田市 片桐洋
覚めてすぐ子離れ決める霜の朝
栃木県那須町 落合みどり
荒星に問うまほろばは何処やと
群馬県伊勢崎市 白石大介
命日や朝日迎えし福寿草
群馬県北群馬郡 夏原弓月
外気温知らずに過ごす大寒日
群馬県前橋市 荒井寿子
食卓にいつまで来るか冬の蠅
群馬県前橋市 小森真一
着膨れてふんはり廻る宇宙かな
埼玉県加須市 佐藤貴白草
祖母の家に三代総出雪降ろし
埼玉県さいたま市 アヴィス
降る雪や若き兵士の墓の数
埼玉県和光市 此順
魚跳ねし水の音痛し冬深し
千葉県柏市 旅舟
サンタさん何か変だよ包装紙
千葉県佐倉市 佐々木宏
軒下の達磨に成れぬ雪兎
千葉県佐倉市 山口鵙
背負う子に厚着をさせてママチャリ漕ぐ
千葉県白井市 朝日伸光
余所行を買って独りの年の暮
千葉県成田市 樹魔璃
生姜酒寒中見舞いの筆重く
千葉県八街市 築山和久
最終に「またね」を誓し冬銀河
東京都葛飾区 泉田夕輝
刃のすべる荒砥の音や息白し
東京都杉並区 田中有楽
宵っ張り仕送りの餅あとひとつ
東京都豊島区 潮丸
臨月や傘が小さき初時雨
東京都練馬区 符金徹
運勢を雑煮に溶くる餡に見る
東京都文京区 遠藤玲奈
風花や口笛の主探しをり
東京都港区 佳菜子
自転車の手にしんしんと冬深し
東京都西東京市 はぐれ雲
短日や亡父の手帳の丸い文字
東京都武蔵野市 伊藤由美
冬の空メーテルの涙消える星
神奈川県厚木市 天利健一
初氷鳥の重さに割れにけり
神奈川県川崎市 下村修
何もせぬ一日であり根深汁
神奈川県相模原市 あづま一郎
シャガールの驢馬も空飛ぶ聖夜かな
神奈川県相模原市 金本節子
去年今年人生夢のごとく過ぐ
神奈川県相模原市 渡辺一充
ギニョールの幼き声や聖夜劇
神奈川県茅ケ崎市 坂口和代
寒晴や歓声やまぬジャンプ台
神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦
鉄鍋をつつくまたぎの習ひかな
神奈川県茅ヶ崎市 つぼ瓦
春近しまだ定まらぬ父の墓
神奈川県平塚市 寺尾明子
冬空に横雲さすやスカイツリー
神奈川県横浜市 高田柗風
枯葉掃き凪待ち顔の寿老人
神奈川県横浜市 鷹乃鈴
駅伝の襷を待ちて息白し
神奈川県横浜市 竹澤聡
冬夕焼けがん病棟に光差す
神奈川県横浜市 前田利昭
門松や遠くで犬が吠えている
新潟県上越市 多見
「想ひ出」を思ひ出せない雪下し
新潟県長岡市 安木沢修風
雪を来し汝の髪獣めくにほひ
新潟県新潟市 田代草猫
時雨るるや客引き女の腕力
新潟県南魚沼郡 高橋凡夫
求婚す炬燵の中にある平和
富山県滑川市 祐宇
蝋梅や才色兼備の君に似て
石川県加賀市 敬俊
寒紅を拭いて戻る妻の顔
石川県金沢市 玲
縄跳びの跳ぶたび富士を輪に入れて
山梨県中央市 甲田誠
日を数え就活ノート買い求め
長野県南佐久郡 高見沢弘美
門に立つものの気配や鬼やらひ
岐阜県可児市 聞羊
馬に御慶「見習」取れし装蹄師
岐阜県土岐市 近藤周三
初雪の一粒ごとの波紋かな
岐阜県本巣郡 伴田聡
寒夜行くチャルメラの音はもう遠く
静岡県静岡市 花波杏咲
冬草やのけ反る吾子の後頭部
静岡県浜松市 雨井花野
東京の切符冷たく折れ曲がる
静岡県富士市 城内幸江
パソコンのロックを外し初仕事
愛知県大府市 小河旬文
グランドを均す補欠へ冬の月
愛知県知多郡 伊藤京子
警官の自転車駆ける枯木立
愛知県東海市 桃始笑
身じろがぬ寒鯉の眼の底光り
愛知県豊橋市 岡野寛十郎
新色のインク出揃う春隣
愛知県豊橋市 岡野寛十郎
余生なお熱く生きたき冬桜
愛知県名古屋市 久喜聖子
叱られて眠る炭小屋冬の月
愛知県日進市 嶋良二
初夢に福女が顕われ肩流す
三重県伊賀市 岡本光彦
首都高に富士の影見る初茜
京都府宇治市 どすえ輝久
粉雪に気づくは君からのLINE
京都府京都市 どすえ輝久
ステルス機粉雪巻いて着艦せり
京都府木津川市 米倉八作
冬の波太鼓のバチの返るごと
大阪府池田市 宮地三千男
手を挙げて乗車するバス日脚伸ぶ
大阪府和泉市 清岡千恵子
冬銀河かくもしづかにひと逝けり
大阪府大阪市 清島久門
冬めける道頓堀のグリコかな
大阪府大阪市 清島久門
獄中記に真冬の月を栞とす
大阪府大阪市 清島久門
甘苦し時雨て香るカプチーノ
大阪府大阪市 無明
日めくりをめくりめくりて除夜の鐘
大阪府大阪市 安子
賀状書く自己満足と知りつつも
大阪府大阪市 安子
針穴の光覗きぬ風邪二十日
大阪府堺市 伊藤治美
日脚伸ぶノイズの多き補聴器と
大阪府堺市 椋本望生
金青のガス立ち上がる冬至かな
大阪府堺市 森野哲州
今日までのあれこれ鎮め雪や積む
大阪府泉南郡 藏野芳男
冬椿苔に散る身やいさぎよし
大阪府高石市 岡野美雪
ひとひらのおちばてにしてさりしひと
大阪府豊中市 向井加代子
氷面鏡眩しき生へ踏み出さむ
大阪府寝屋川市 伊庭直子
初鴉神社にあれば徒のごとく
大阪府枚方市 藤田康子
万物の影長くなる初日かな
兵庫県尼崎市 大沼遊山
素朴なる伊勢のご朱印冬うらら
兵庫県尼崎市 大沼遊山
信じろよ抗ひし子よ寒オリオン
兵庫県伊丹市 植松佰代
雪女肺病む我を抱きにくる
兵庫県神戸市 五月兎
理髪店出て目深なる冬帽子
兵庫県神戸市 平尾美智男
煮凝や男二人の世帯なり
兵庫県三田市 立脇みさを
新年を迎えて我はたおやかに
兵庫県西宮市 仲村成美
初夢が正夢となり全快す
奈良県桜井市 喜多隆文
買初や抽選会の赤い玉
鳥取県米子市 福本敬子
合わせし手雪が覆いて天神宮
島根県出雲市 後藤英興
冬花火さざなみ寄する厳島
広島県尾道市 広尾健伸
開戦は同時に炬燵を立ちし時
広島県広島市 章子
冬枯れや庭を眺むる母と猫
広島県広島市 朋栄
過ぎし日の思ひに浸り水仙花
広島県広島市 前田佳恵
夕暮らむ狭庭にのこる石蕗あかり
広島県福山市 林優
病んだ葉も愛し真紅の冬薔薇
山口県下関市 山元時枝
レプリカの御子を厩屋へイヴの夜半
山口県山口市 鳥野あさぎ
寒に入り里への土産カップ麺
徳島県徳島市 藍原美子
吊したる蜜柑に鳥来去り又来
徳島県徳島市 青空和子
大吉に足取り軽き初詣
徳島県徳島市 黒田達哉
野良猫の音の出ぬよう落葉散る
徳島県徳島市 楓香
モノレール軌道の向こう冬深し
徳島県徳島市 京
寒紅や君を知りたい夢覚める
徳島県徳島市 宮崎遊月
朝明けの笹鳴き続き目覚めけり
徳島県徳島市 山本明美
寒落暉中洲に鷺の黒き影
徳島県徳島市 柚木克子
寺訪えば開け放たれし白障子
徳島県徳島市 怜玉
藍倉の虫喰い梁や寒土用
徳島県阿南市 中富はるか
もう一つ椅子寄せ日向ぼこりかな
徳島県阿波市 井内胡桃
駄菓子屋の錆びたフックの注連飾
徳島県小松島市 長楽健司
好きな事思う存分三ヶ日
徳島県板野郡 秋月秀月
働く手かざし迎える初日の出
徳島県板野郡 伊藤たつお
風一陣落葉舞い上げ舞い下ろし
徳島県美馬郡 美葉
先客が炬燵の中でにゃあと鳴く
香川県高松市 宮下しのぶ
午前三時の母乳かな冬凪ぎぬ
香川県仲多度郡 佐藤浩章
毛糸編むゆふべの喧嘩引きずつて
愛媛県今治市 藤原洋美
快方の母へ拙き蕪汁
愛媛県松山市 久保田凡
祖母の食むいりこ砕きて冬温し
愛媛県八幡浜市 しまのなまえ
寝惑ひて夜気沁む今朝や初日影
福岡県飯塚市 日思子
冬木立喝采浴びるその日まで
福岡県久留米市 銀漢
それぞれにそれぞれがあり冬の里
佐賀県唐津市 浦田穂積
冬萌や川面に映る影ふたつ
佐賀県佐賀市 松尾直幸
そこかしこ探して歩く冬日向
長崎県諫早市 伊達史子
小春日に薄く紅さし歩もかるく
熊本県荒尾市 黒田修一
水仙の香り漂う朝が来た
大分県大分市 安部あけ美
山里の心にしみ入る除夜の鐘
大分県大分市 牧吏恵
粥占は吉運我も華甲なり
大分県大分市 古庄青玉
流木を骨と晒すや冬の海
大分県国東市 吾亦紅
探梅行妻にあはせる歩みかな
宮崎県日南市 近藤國法
寒風に雲海姿見え隠れ
鹿児島県鹿児島市 有村孝人
水底の動く魚影や日脚伸ぶ
アメリカオレゴン州 ロイ美奈