HAIKU日本大賞2023冬の写真俳句 発表
2023冬の写真俳句大賞
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(評)冬山と枯れ木の対比が美しい写真俳句です。雪が溶けはじめた山の峰と茂みの草は、冬から春への移り変わりを象徴しています。「緩る緩る」という言葉は、自然の息吹と共に動物や人の心も緩んでいく様子を表しています。平地を大きくとった構図は、広がりと開放感を与え、春の色はまだ見えないけれど、新しい季節の訪れを予感させる作品です。
次点
(評)水鏡に顔を下げた白鳥の孤独が、写真と俳句で見事に表現されています。白鳥の泳いだ跡が斜めに広がっていく構図は、水面と空間の対比を強調しています。写真の中央にある白鳥の羽はハートに見えて、寂しさと愛情という相反する感情を呼び起こします。自分でも鏡を覗いてみたくなるような、深みのある作品です。
(評)氷上に垂れ下がる枝が、冬の厳しさを表現しています。枝は凍っていて、生命力を失っているように見えます。写真の色彩も青と白が主で、冷たさと静寂さを感じさせます。「風断つ」という俳句は、外界からの刺激や影響を遮断する様子を表しています。冬籠という言葉は、季節だけでなく心理的な孤独や閉塞感も含んでいます。寒さと拒絶という強い感情が伝わってくる写真俳句です。
<秀逸賞>
冬夕焼私は邪魔になってゆく
宮城県仙台市 泉陽太郎
(評)季語の「冬夕焼」と相俟って、荘厳な自然美を読者に届けてくれた写真俳句です。シルエットになった街並みや何とも言えない色合いの「冬夕焼」を見つめていると、人は郷愁にふけったり、物悲しくなったりするものです。「私は」で始まる口語体の措辞が新鮮に響き、ひとつの新しいかたちを見た思いがします。
初氷星のささめき閉じ込めて
宮城県仙台市 遠藤一治
(評)うっとりする程の素敵な表現で、何ともロマンティックな写真俳句。作者の大自然への畏敬の念を感じさせる自然詠の秀句です。アスファルトの僅かな水溜まりに張った「初氷」。氷の枠が凍っていく時間の経過を見せています。白い斑点は雪なのでしょうか。その景を「星のささめき」に見立てた一句が、冬の夜空へと読者を誘います。
雨上がり枯山水に冬茜
茨城県日立市 松本一枝
(評)冬の夕焼は短いものの妙に余韻が残ります。「枯山水」の庭園を染める寒の内の凍えるような「冬茜」は、儚く身に沁みる感があります。雨が洗い流した景色はあらゆるものの色が鮮やかになり、枯山水の白砂は輝くように白く、塀は明るさを増しています。「冬茜」の優しさが印象深く残る写真俳句です。
生くるとは愉しむことよ都鳥
東京都足立区 yuriha
(評)「都鳥」は、在原業平が詠んだとされる「名にし負はばいざ言とはむ宮こどりわが思ふ人は有やなしやと」に由来していて、隅田川に浮かぶユリカモメのこと。冬鳥として飛来し水辺で過ごします。ダイナミックな動きを見せる都鳥に触発されたかのような一句には、「愉しむことよ」と作者の人生観が込められています。
路地裏に赤い灯ひとつ冬の夜
東京都荒川区 涌井哲夫
(評)通りを一筋なかに入ると、辺りの雰囲気は全く違ってきます。周辺の灯りをカットし一軒の灯のみに絞ることで、闇の中を行く心細さ、提灯の温もり、店内から漏れてくる笑い声など多くを想像させます。冬の日暮れは早く、異空間に紛れ込んだかのような裏通りの飲み屋の赤提灯が、冬空の夜には特に目に沁みます。
色褪せし日々の暮らしよ霜無辺
東京都杉並区 裕子
(評)寒さが一段と身を刺す朝、目にしたのは地面を優しく輝かせる霜柱。心を吐き出すかのように詠んだ「霜無辺」が、読者の心に強く響きます。中七の終助詞「よ」が、措辞と相まって無常観を誘っています。「霜無辺」に取り合わせた「日々の暮らし」は、色褪せて見えるという作者の心の内。誰しもそういう日があると共感を覚え納得してしまいます。
柔らかき心を我に波の花
東京都町田市 織辺進一
(評)「波の花」とは、強風を受けて波が岩礁に砕け散った際にできる白い泡を花に譬えたもの。主に日本海側で見られますが、条件が揃わなければ見られない貴重な現象です。波の花が舞い上がるダイナミックな大景を切り取った写真と、もの静かに詠んだ一句が絶妙の取り合わせを見せる写真俳句です。
人けなく遺跡に見ゆる冬都心
東京都町田市 渡辺理情
(評)東の空をうっすらと朝日が染めていて、寒い朝の凜とした空気感が伝わってきます。大都会の一面を切り取った感慨深い一枚。スカイツリーの見える遠くの大都会と、近くのベッドタウンの対照的な二つの街。ベッドタウンの一軒一軒にはやがて灯りが点り、日の当たる都心へと人の流れは続いていくのでしょう。冬の薄暗い朝の光景を「遺跡」に見立てた作者の感性が光ります。
神殿の柱の傾ぎ凍つる朝
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)古代ギリシャ文明の象徴パルテノン神殿か、エーゲ海を見下ろすポセイドン神殿か。寒い朝、野中に立った霜柱を、作者の目は神殿の傾ぐ柱と見ました。ニョキニョキと土を押し上げて、這い出して来る生き物のような霜柱。凍てる朝の水の匂いと土の匂いが感じられます。読者の想像をはるかに超えた発想で、個性際立つ作品となりました。
鴨ならび何を待つのか空を見る
神奈川県鎌倉市 奈賀子
(評)秋に寒い国から渡ってきた鴨は、春にはまた群れになって北方へ帰ります。同じ方向を向いてのんびり過ごす鴨たちは、仲良く会議でもしているよう。旅立ちの時期を相談しながら羽を休ませているのでしょうか。空を見上げながら、鴨に思いを寄せつつ、春を待つかのような作者の姿も浮かび上がらせています。
不本意な賛意の余波や冬ざるる
岐阜県岐阜市 木華
(評)もともと自分の望むところとは違っていたことで、その後に「あおり」や「なごり」が波紋のように広がっていく様を詠んだ心象句。「冬ざるる」は、冬になって何もかもが荒れ果てて凋落した様子を見せること。冬ざれの湖畔を窺うように掠め飛ぶ一羽の鳥の姿は、作者自身の姿と重なります。人生の一コマの微妙な心の揺らぎを詠んだ秀句。
寒の水指の先より身を走る
愛知県名古屋市 久喜聖子
(評)「寒の水」は、秋の水の爽やかな澄み方に対して、研ぎ澄まされた透明な色です。手に受けた水は、どこか尖ったような鋭さがあり驚くほど冷たい。茶道の禊ぎの水でしょうか。上五で軽く切れを入れ、一気に詠み下した巧みな一句。一句一章句の明快な表現が光ります。
雪の朝猫よお前も寒いじゃろ
大阪府大阪市 安子
(評)語り掛けるような下五の口語調に、猫を愛する作者の優しさが滲み出ています。毛色と同じトーンのマフラーに包まれ、凛々しい顔で見つめる猫。猫との会話がそのまま措辞になったことでリアリティーが生まれ、愛くるしい猫と心豊かな時間を過ごす日々が伝わってきます。
石蕗の花遠き記憶の戻り来る
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
(評)「艶ブキ」の呼び名が語源となって「ツワブキ」になったとの説があるように、葉の濃い緑が印象的な花ですが写真は葉に斑のある一枚。蛍がとまっているように見えることから「蛍斑」と呼ばれ、葉によって違う斑模様の美しさを好む愛好家も多いそうです。道端に咲く花に蘇った記憶は、どんな懐かしい風景だったのでしょうか。
神無月空にもイベントあるらしき
徳島県徳島市 今比古
(評)澄み切った青い空に白い雲の動く好天に、白いテントや赤い幟が立っているイベント会場。「神無月」は旧暦十月の異称。全国の八百万の神々が出雲大社に集い、縁結びの相談がなされるという言い伝えがあります。この時期には色々なイベントがあり、雲の賑やかさに「空にもイベント」と感じた作者の発想が素敵な写真俳句です。
攀じ下りて久女が英彦の冬落暉
福岡県飯塚市 日思子
(評)杉田久女と言えば、真っ先に思い浮かぶのが「山ほととぎす」の句です。熟練の名句「谺して山ほととぎすほしいまま」は、幾度も夏の「英彦山(ひこさん)」に登って下五の「ほしいまま」に辿り着いたと言われています。久女が見た景色を、読者も感じることができる喜びがあります。
<秀作>
冬花火窓を開ければ西の天
山形県米沢市 山口雀昭
(評)音がするので西側の窓を開けてみれば、息を呑むような冬の花火の打ち上げの真っ只中。年末の年越しカウントダウンイベントなどの「冬花火」は、空気が澄んでいる分、夏の花火よりくっきりと鮮やかに見えます。冬の夜空に咲いた白とゴールドの花火が、これ以上なく気高く見えます。
二拍子が揃ふ他人と初詣
神奈川県横浜市 風人
(評)作者によると写真は鎌倉の鶴岡八幡宮。去年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の人気も相まって、驚く程の数の参拝人が列をなしています。知らない者同士が同じ呼吸で柏手を打った時、その驚きもあり嬉しさもあっての共感を、優しい言葉でふっくらと詠んで仕上げた印象深い写真俳句。心地よい二拍子が一年の平和を約束してくれているようです。
大雪の後は晴々雲動く
富山県射水市 中村理起子
(評)雪国に住む人ならでは感覚で詠まれた一句。大雪の後の晴れ間には、雲が大きく動くのでしょう。真っ青に晴れた空に吹き渡る風に乗って雲が動いていて、清々しさが漂っています。故郷を愛する郷愁の念が感じられる生活詠の良さが滲み出ていて心に残ります。
初明かり水の惑星照らしをり
静岡県熱海市 矢崎歩人
(評)「初明かり」が虹色の美しい色合いで捉えられています。この年、この世に射す初めての光に、作者は特別な思いで接したことでしょう。青い球体を地球に見立て、大宇宙より俯瞰した如くの不思議な写真です。「初明かり」を視覚化した作者の芸術的なセンスが光っています。
<佳作>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。