HAIKU日本大賞 大賞発表

HAIKU日本2022冬の句大賞

大賞
子に頼むタイヤ交換冬日和
[ 岐阜県岐阜市 辻雅宏 ]

(評)自動車のタイヤを冬用のものに交換する場面でしょう。降雪量や路面の凍結状況は地域によって異なるので、タイヤ交換をせずノーマルタイヤで一年を過ごす所もあるでしょう。掲句で注目したのは、「子に頼む」という上五です。ここから想起したのは、これまで作者は自分でタイヤ交換をしていたが、今冬からは子に頼まざるを得ない事情が生じたのではないかということです。私の周りでは、年波による体力的なことで、タイヤ交換は業者に頼むようになったという方もいます。これまで自分でできたことを子に任せるようになったという感慨が、下五に据えられた「冬日和」の青空を通して、私の胸内にも晴れやかに、そして切なく響いてくるのでした。

特選

特選
寒紅の微笑みダンスパートナー
[ 東京都渋谷区 駿河兼吉 ]

(評)ダンスの優雅さと真剣さの中に、一人の女性の存在がくっきりと浮かび上がります。「寒紅」は寒中に紅花から作られた紅。俳句では寒中に口紅をさすことも言います。凜とした風情を醸し出す冬なればこその彩りがあり、「ダンスパートナー」に対する憧れや尊敬の眼差しが感じられます。「微笑み」によってピリピリとした感覚ではなく、優しさや柔らかさも感じ取ることができます。

特選
ふるさとに洗い晒しの冬銀河
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)ふるさとの夜空に冴え冴えとかかる星たちは、冬の容赦ない寒風に晒されています。その輝きに親しみを込めて「洗い晒し」と詠みました。キラキラとした特別な夜空ではなく、いつも通りの見慣れた夜空。目立たず少し色褪せたようにさえ感じる「冬銀河」です。「洗い晒し」の措辞が絶妙で、上五と下五の両方の名詞に掛かっており、スケールの大きい漆黒の空間を詩情豊かに表現した作品です。

準特選

準特選
悔い多く束ねてくべる焚火かな
[ 東京都練馬区 符金徹 ]

(評)かつては町中や野山や浜でも、焚火の周りに人が集まり、暖を取り話に興じました。最近はなかなか焚火をする場所も見つかりませんが、キャンプブームもあってその魅力が復活しています。火を見つめつつ思い起こすのは在りし日の自分。楽しかった思い出と共に、悔いることも増えてきます。「悔い多く」と言いながら、何処かさわやかさの漂う一句です。焚火を見つめる作者の心情が強く炙り出され読者の共感を誘います。

準特選
一杯のセイロンティーや日脚伸ぶ
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)冬至を過ぎると、一日ごとに日が長くなります。日脚が伸び春の足音を感じますが、現実は寒の盛り。「セイロンティー」はスリランカで生産される紅茶で、セイロンは旧国名です。スリランカの山間地域の標高によって、風味も異なり個性豊かな味わいを楽しめるそうです。「セイロンティー」に懐かしい茶葉の香りと昭和の香りが漂います。静かに春を待つ心境が句に込められています。

準特選
オリオンの哀輝あふれて吾ひとり
[ 香川県高松市 宮下しのぶ ]

(評)冬の夜空はいくつもの一等星が輝き、とても華やかです。その中でも、三つ星を中心に均整の取れたオリオン座は雄大です。ギリシャ神話の美しき狩人オリオンが、天に上げられた姿だと言われています。作者は星になったオリオンの哀しい光を「哀輝あふれて」と叙情たっぷりに詠んでいます。「吾ひとり」が味わい深く、大自然の大らかな活力の中に立つと、己れの矮小さに気付かされます。

秀逸句

放ちたるあとの直立弓始
[ 栃木県宇都宮市 斎藤光星 ]

(評)「弓始」の清々しさが感じられます。年初に神社で行われる弓の神事や、弓道場での初稽古での射手の姿を見ての一句。「直立」と詠むことで静寂が流れ、弓を引く音、矢の音、射抜く音が読者に届くようです。礼節を重んじる日本伝統の弓道の緊張感が伝わってきます。武芸の道は、世情の嫌なことをも忘れさせてくれるものでしょう。

北窓を塞げば赤城静かなり
[ 埼玉県行田市 吉田春代 ]

(評)寒風が吹き込んでくるのを防ぐため、窓に目貼りをすることを「北窓を塞ぐ」と言います。日本海側で吹いた強い季節風が、山脈を越えて太平洋側に吹き降ろしてくる上州名物の空っ風が“赤城おろし”です。「赤城」の固有名詞を入れることで作者の安堵した心境が際立ち、自然と対峙する知恵と苦労が読者の胸に届きます。

荒事の目玉に沸きし初芝居
[ 千葉県船橋市 熊谷温古 ]

(評)「荒事」は歌舞伎で、怪力勇猛の武人や鬼神などによる荒々しく誇張した演技や演出のことです。顔に隈取をし、大胆な扮装や動きとなります。初代市川團十郎が創始し、当代までお家芸として受け継がれています。「目玉」とは睨み。思わず声がかかる見せ場で、誰もが芝居に心酔する様を十七音で見事に表現して見せた一句です。その迫力と豪傑ぶりに沸く「初芝居」の様子が伝わります。

寒凪の木もれ日一条枯山水
[ 東京都杉並区 市川伸一 ]

(評)「寒凪」は、寒さの冴え渡った時の凪です。「枯山水」との取り合わせが意表を突いて絶妙です。以下、作者の解説です。「この枯山水は私の人生です。そこに居る私自身も枯山水と一体となっていることに気付きます。その少しばかりの陽によって、さらに前に進む気持ちになりました。」一条の光は、作者の心を奮い立たせるかのように、活路と希望を与えてくれたのでしょう。

斥候の一羽離るゝ鴨の陣
[ 神奈川県鎌倉市 志魔比呂樹 ]

(評)「斥候」は、敵の状況を探るために本隊が差し向ける単独兵または少人数の部隊のこと。詠み手は、水面に浮かぶ群れを「鴨の陣」とし何気に飛び立つ一羽を「斥候」に例え、敵陣に備えたかのごとくの俳句としました。鴨の姿を戦国武将の勇ましさで詠んだセンスに感服です。一読明快で大自然の厳しさも伝えています。

葉牡丹の真昼の影の虚ろかな
[ 神奈川県横浜市 要へい吉 ]

(評)「葉牡丹」は、その葉が牡丹を思わせるアブラナ科の多年草で、生け花では正月を彩る迎春の花でもあります。花の少ない冬に華やかさを添え重宝されています。その影を虚ろに感じるのは、真昼と言いながらも冬の日差しの弱さのせいでしょうか。愛らしい豪華さの中にも、そこはかとない寂しさを漂わせる一句です。

マスクしてマスクの人に目礼す
[ 神奈川県横浜市 竹澤聡 ]

(評)「マスク」のリフレインが小気味よく響き、今の世の中の生活感や人情までも伝えています。パンデミックも二年も経てば、日本中がマスク姿にすっかり馴染んでいます。マスクはしていても体の自由は利き、お辞儀くらいはしてもいいのだけれど、「目礼す」となってしまいます。慣れたとはいえ、顔の半分を隠して生活する世の中はやはり奇妙です。冷ややかな目線の時事俳句としての切り口で、今を詠んだ秀句となっています。

衣衣の雪やしんしん依依恋恋
[ 石川県金沢市 玲 ]

(評)「衣衣」は“きぬぎぬ”と読み、共寝をした男女が翌朝めいめいの着物を着て別れること。「依依恋恋(いいれんれん)」は恋い慕うあまり離れるに忍びない様です。「衣衣の雪」の繊細な言葉は作者の心細さを表わし、リフレインを駆使した音律の調べによって優美な作品となっています。その音の響きは細雪のような儚さを思わせます。重ね言葉を多く使ってオリジナリティを高めた見事な作品。

自分史を鸚鵡に口伝冬籠
[ 岐阜県土岐市 近藤周三 ]

(評)冬籠と相まってコロナ禍の今、「鸚鵡(おうむ)」を相手に教える現状に悲哀も感じられます。余程、利口な「鸚鵡」なのでしょう。人の言葉を真似ることさえ驚きだった鸚鵡ですが、最近はもっと利口になり、飼い主の家族それぞれの声色まで真似ることもあるそうです。「冬籠」の季語もしみじみと感じられ、ペーソスのある措辞に一層孤独感が漂います。

湘南に江ノ島のあり初茜
[ 静岡県駿東郡 野月真人 ]

(評)作者の住まいからは東方に位置する湘南の海。“太陽族”と呼ばれた若者や、街の名を歌詞に織り込んだサウンドが一世を風靡しました。「初茜」は元日、初日の昇る寸前の空が茜色に染まっていくことを言います。あらゆるものを省略して地名のみを並べた措辞が、この地で見た初日の出の感動を物語っています。夢や希望を抱いていた若かりし頃を思い出したのかもしれません。

読初に『俳句文法心得帖』
[ 愛知県東海市 桃始笑 ]

(評)「読初(よみぞめ)」は新年に初めて読書を行うことです。『俳句文法心得帖』は中岡毅雄氏の著書です。初心者にも分かりやすい詳細かつ丁寧な優れもので、文法書の中でも人気だと言います。作者の俳句熱の高まりが窺えます。季語「読初」と措辞の固有名詞を繋ぐのはたった一音の格助詞「に」。この一音が一句の中で大きな働きをし、勉強熱心な作者がのどかに過ごす正月の景を伝えています。

靴音が背中を抜ける路地寒し
[ 大阪府池田市 宮地三千男 ]

(評)妙味ある一句一章句。背中を抜けていく靴音が粋で哀愁を感じさせます。下五の止めが絶品で、男のロマンを読者に与えてくれます。冷え切った路地裏に響くのは己が靴音のみ。句の最後に置いた「寒し」は、作者のポツリとこぼした言葉のように読者の耳にいつまでも離れず残ります。

寒燈下独りの黙のゆたけしよ
[ 大阪府和泉市 小野田裕 ]

(評)形容詞に終助詞をやさしく置いた「ゆたけしよ」の響きが、詩心を誘い余韻のある秀吟。燈も季節によって趣が異なると捉えるのが日本人の繊細さです。月が冴え、星が冴えるように冬の燈もまた冷たく光る夜。その灯りの下の静かなる時を「ゆたけしよ」と詠み、誰にも邪魔されることのない一人の時間をゆったりと詩歌に遊ぶ作者が想像されます。

手のひらを透きとほりたる初湯かな
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)元日は主婦を休ませるため、二日に初めて風呂を立てて入ることを「初湯」と言います。我が身への労いを込めて詠んだ一句。「透きとほりたる」の中七の措辞に、新年を迎えた喜びをしみじみと味わう作者の心が見えてきます。生を受けてから何十回と巡ってきた年の節目。先人から受け継いできた暮らしの中の細やかなしきたりが、日本には存在し人々の心を潤しています。

泣く子抱く母の微笑や冬菫
[ 大阪府堺市 伊藤治美 ]

(評)俳句の基本通り、心情を季語「冬菫」に託した一句。冬枯れの中、菫の花が小さいながらも胸が躍るほど輝いて見えます。充分な温もりもない日差しに懸命に咲く花の姿を、「母の微笑」に取り合わせました。作者の注ぐ眼差しに愛情が溢れます。しとやかさと気品の漂う母の微笑と、優しさに満ちた母の姿が描かれています。

星見あぐ梟ソクラテスのごと
[ 大阪府寝屋川市 伊庭直子 ]

(評)ソクラテスはギリシャの哲人。梟は西洋では賢者の鳥と称され、知恵あるものとして扱われています。終止形「見あぐ」と詠んで中句との間に切れを入れ、倒置法を使って梟の動作を強くアピールしています。梟を哲学の祖に見立て、ソクラテスの容姿風貌を思い起こさせるという大胆な発想が光ります。

波音の近き三浦の干大根
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)「三浦」はマグロ漁の拠点であり大根でも有名。「干大根」は、海辺に近い大根畑や砂浜で鉄パイプなどに数日間、潮風に当て大根を掛けておく三浦海岸の冬の風物詩。風で水分も抜けやすく、凍りにくいこの地の気候が最適です。切干にして煮たり酢の物にしたりして、その味は絶品です。「波音近き」が情景を容易に想像させてくれ、初冬の旅の充実ぶりを窺わせる一句となっています。

菅公と同行二人梅探る
[ 兵庫県神戸市 平尾美智男 ]

(評)「梅」「梅見」は春の季語ですが「梅探る」は冬。早咲きの梅を訪ね山野を歩くことを言います。菅公は菅原道真。太宰府に流された道真のもとに、道真を慕った梅は一夜のうちに飛んできたというのが“飛梅伝説”。その菅公との探梅は何とも贅沢です。四国巡礼の「同行二人」の言葉を入れて詠んだことで、俳諧味も感じられます。菅公の梅への想いを重ねた一句は読者を魅了するに充分です。

歳末や夜汽車の過ぎる枕元
[ 奈良県奈良市 堀ノ内和夫 ]

(評)歳末は一年の内、最も忙しく慌ただしさの中にも活気があります。「夜汽車」という言葉が懐かしく響く一句。下五の「枕元」が俄然生きています。正月を静かな場所で迎えようとやってきたのか、旅の夜の風情を感じさせます。世の喧騒から逃れた趣のある俳句となっています。

雪晴れに見渡す360度
[ 島根県出雲市 後藤英興 ]

(評)雪の降り止んだ朝は、快晴無風の日が多いものです。目の前に広がるのは、きっと雪に太陽の光が乱反射して眩いほどの景色でしょう。作者は白銀の世界と青空を詠まず、ただ行動を示して肌で感じる風や、街の静けさ、白銀と青空のコントラストを読者に伝えています。360度という数詞がこの句を活かしていて、心地よい一句となっています。

極月や左右の指紋似て非なり
[ 岡山県岡山市 森哲州 ]

(評)「極月」は陰暦十二月の異称で、今の陽暦でも同じように十二月に使われます。押し迫ったという季節感を色濃く含んでいます。作者は左右の指紋が違うことに、句の眼目を置きました。年の瀬に指紋を見つめながら、一年間しっかりと働いてくれた我が身を振り返っているのかもしれません。類想のない鋭い切り口の句となっています。

寒いねと言ひオムライスにソース
[ 徳島県徳島市 山之口卜一 ]

(評)生活詠の魅力は、行住坐臥の中から詩情を発見することと言えます。芭蕉は「日常の卑近の世界に目を向けるなら、俳境は限りなし」と言われました。まさに、作者は身近なありふれた光景を詠んでいます。オムライスを食べる二人の間の何気ない会話が、その場の雰囲気を生き生きと伝えていて、日常の光景が印象的に浮かびます。

初旅の終わりコンビニカップ麺
[ 徳島県小松島市 長楽健司 ]

(評)楽しかった初旅の終わりに、心も体も普段通りに戻ったのか、いつものカップ麺をコンビニで買った様子。何でもないように思える一句は、そこはかとない寂しさを伴います。カップ麺を啜るその哀愁のある姿に読者は惹かれます。「初旅」以外には行先も手段も何も示さず、ただ旅の果ての姿のみを見せる作者。充実した旅であった分、現実に引き戻されていきます。

年新た白寿の旅の始まりぬ
[ 徳島県板野郡 秋月秀月 ]

(評)「白寿」は百の文字から一を取れば白となるところから、99歳のことを言います。「始まりぬ」と、人生の旅が始まるのだと言い切ったところがこの句の良さで、強意完了の助動詞「ぬ」がよく効いています。一生の内には節目があります。今年、卒寿の年を迎え、白寿への道を歩みだした作者。その気概に満ちた姿と淑気ある「年新た」が響き合い、人生の重みをひしと感じさせます。

煌々と虚空の天に寒北斗
[ 熊本県荒尾市 黒田修一 ]

(評)「寒北斗」は、冬の空に輝く柄杓の形に見える北斗七星のこと。約100光年離れた遠さにあります。その遠さは、現実の人生との対比で感慨深いものがあります。果てしなく広がる天上を「虚空の天」と詠み、三音の助詞を除いてはすべて漢字で詠んだ句の硬さが、寒さで引き締まる身の感覚や煌めく星の鋭さを言い表しています。掲句は、カ行が小気味よいリズムを生み出し、風格のある作品に仕上がっています。

束の間の一家団欒福寿草
[ 大分県国東市 吾亦紅 ]

(評)「福寿草」は、新年の季語で正月を飾る縁起の良い花とされています。コロナ禍の中、感染拡大の懸念を抱えては年始の挨拶も儘ならないのが現状。「束の間」にはそうした世情がよく表れています。訪れる方も迎える方も心の隅にある心配事を拭うことはできません。早々に切り上げ通常なら帰った後の寂しさも感じられる一句ですが、黄金色の「福寿草」との取り合わせで明るい気分にさせてくれています。

凍蝶や言葉一つで消ゆる笑
[ 大分県豊後大野市 後藤洋子 ]

(評)誰かが発した言葉が一瞬の内に、その場の雰囲気を変えてしまうことがたまにあります。言った本人に悪気があっての事ではないのだけれど、その時の様子を象徴させたのが「凍蝶」です。冬まで生きながらえてきて、寒さで凍ったように動かない蝶の様子。女性の激しい感情の起伏を見る思いの衝撃的な一句となっています。素敵な言葉が溢れると「凍蝶」も温もりを取り戻し飛ぶことができるのでしょうか。

佳作

雪囲元女子高のマリア像
北海道旭川市 夏埜さゆり女
風生まれ雪舞う朝の束ね髪
北海道千歳市 春
紗幕より透けて古町雪の街
岩手県一関市 砂金眠人
そよぐ風吾子も笑うや春隣
岩手県奥州市 千葉薫風
転び方起き方習ふ初スキー
岩手県北上市 川村庸子
独り居の部屋の広さや夜半の冬
岩手県盛岡市 吉村翌桧女
あれこれと祝い日しるし初暦
岩手県盛岡市 蘭延
子を宿すしゃなりと猫の年始め
宮城県白石市 森律子
あはき日に色を添へたり帰り花
宮城県仙台市 遠藤一治
星ひとつ生まれる際の福寿草
宮城県仙台市 繁泉祐幸
寝たきりの父が急かせる年用意
宮城県仙台市 渡辺徹
冬の虹だれか溜息つけば消ゆ
宮城県仙台市 渡辺徹
冬座敷床の間飾る結納品
山形県米沢市 山口雀昭
迫りくる戦争の影冬薔薇
福島県白河市 伊藤正規
ゴミ出しに心に灯る冬薔薇
茨城県日立市 松本一枝
ウイルスの絶えぬ星なり寒昴
茨城県常陸太田市 舘健一郎
折檻といふにはあらず成木責
栃木県宇都宮市 平野暢月
寒鰤を肴に酒の銘問はず
群馬県伊勢崎市 川野忠夫
もういらぬ肩書を捨て星新た
群馬県伊勢崎市 白石大介
秒針の深く染み入る寒夜かな
群馬県前橋市 荒井寿子
今日もまた犬に被せる冬帽子
埼玉県行田市 吉田春代
絵馬の鳴る八幡宮の筆始
埼玉県行田市 吉田春代
老友と会ふ通夜の座十二月
埼玉県越谷市 新井高四郎
冬ざれや薄まっていく僕の影
埼玉県深谷市 深谷健
仏壇に南天の実と今日のお茶
埼玉県和光市 此順
白息の白に寄り添ふ旅愁かな
千葉県浦安市 三島閑
列車降り先づ迎ふるは雪蛍
千葉県佐倉市 佐々木宏
城跡に栄華の名残返り花
千葉県佐倉市 佐々木宏
白鳥や印旛の村の田は平ら
千葉県佐倉市 山口鵙
ボーリングはプロ並みといふ冬帽子
千葉県船橋市 井土絵理子
猫二匹りっしんべんな冬の床
千葉県船橋市 浮き草
浮寝鳥地軸かたぶくこの星に
千葉県船橋市 川崎登美子
機体飛びいずこの国も初御空
千葉県南房総市 沼みくさ
煮凝りの待てば溶けゆく誤解かな
東京都江戸川区 羽住博之
寒鯉の池の暗さへひきこもり
東京都渋谷区 駿河兼吉
裸木の大小挙手に奮い立つ
東京都杉並区 市川伸一
ルーレット回る小部屋に冬珊瑚
東京都杉並区 田中有楽
口達者の婆は難聴初すずめ
東京都杉並区 田中有楽
冬茜背負って急ぐ家路かな
東京都豊島区 潮丸
累々と水の傷口凍りたり
東京都練馬区 喜祝音
大欅呟き聞こゆ神送り
東京都練馬区 符金徹
朝ドラにマントの似合う醤油顔
東京都文京区 遠藤玲奈
ながれゆく枯葉の船があとさきに
東京都文京区 柴山修丈
炉話や遠野の人になりきって
東京都青梅市 渡部洋一
さつきから妻か娘か木の葉髪
東京都小平市 佐藤そうえき
冬の日の統べる空には風ばかり
東京都西東京市 はぐれ雲
山の雨山茶花の紅溶かしけり
東京都八王子市 石塚明夫
問はれても生返事して蜜柑剥く
東京都八王子市 村上ヤチ代
退院の背中をさする小春かな
東京都町田市 のんちゃん
鳥影の射して迷いし賀状来る
東京都武蔵野市 伊藤由美
蒲団干し昼の温みを集めたり
神奈川県川崎市 下村修
大寒や鳥のまなざし凍えけり
神奈川県川崎市 下村修
身のこなし板に付きたり独楽を打つ
神奈川県相模原市 あづま一郎
小春日の出迎え嬉し無人駅
神奈川県相模原市 金本節子
さよならの形のままに息白し
神奈川県相模原市 渡辺一充
踏切の赤き点滅月冴ゆる
神奈川県茅ケ崎市 坂口和代
風花や被りくるまるふくら耳
神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦
御籤ひき人より上にしずり雪
神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦
長谷寺の水子地蔵も雪の中
神奈川県横浜市 教示
湯洗ひの湯気のぼりたつ淑気かな
神奈川県横浜市 古関聰
コロナ禍に幽けく降りし暮れの雪
神奈川県横浜市 高田柗風
海豚の子フレスコの海泳いだか
神奈川県横浜市 鷹乃鈴
大寒や球児いずれも声高く
神奈川県横浜市 竹澤聡
枯山に野鳥の乱音留まる靴
神奈川県横浜市 頂狩者
八千キロ津波が渡る冬の海
神奈川県横浜市 前田利昭
迷ひなど何一つ無く冬の海
新潟県新潟市 小野茶々
湯けむりを和に吸い込む深雪かな
新潟県南魚沼郡 高橋凡夫
温湿度計鳴る水墨画寒し
富山県下新川郡 きみなか
手袋の穴を広げて待つ行列
富山県下新川郡 きみなか
冬うらら母となる日の退院へ
富山県滑川市 祐宇
コロナ禍のシャッター街や去年今年
石川県加賀市 敬俊
凍て星や南半球四十度
山梨県中央市 甲田誠
コンビニの募金できます初詣
長野県松本市 米村脩佑
柊挿し猫集まりて福は内
長野県南佐久郡 高見沢弘美
冬ごもり生き物たちの力だめし
岐阜県岐阜市 西垣順子
青空よ入る陽差しよ春隣
岐阜県郡上市 海神瑠珂
一握の切り干しなれど大根切る
静岡県湖西市 市川早美
正月や孫らに負ける七ならべ
静岡県藤枝市 三輪志津子
元旦の三日月をずっと見ている
愛知県岡崎市 清水貞雄
疫病を断ち切るごとき御神渡り
愛知県岡崎市 松本暁春
小春日や飛び跳ねしミニ耕運機
愛知県小牧市 西尾桃太郎
スイッチオン仕事始めもテレワーク
愛知県高浜市 篠田篤
暖房の一番列車に深く掛く
愛知県知多郡 伊藤京子
寒き夜とぎれとぎれの子守歌
愛知県豊川市 宮田恵里
飛び起きるこむら返りや三島の忌
愛知県名古屋市 稲熊明美
追い焚きの音も弾みし柚子湯かな
愛知県名古屋市 久喜聖子
野水仙ドラの響に身を反らす
愛知県日進市 嶋良二
福笑い妻と私の福笑い
三重県亀山市 岩谷隆司
一思案ありて落ちたる寒椿
三重県松阪市 宇留田敬子
北風にとぎれとぎれのニニ・ロッソ
三重県松阪市 谷口雅春
冬田鳴る貨物列車の揺れ響く
三重県松阪市 春来燕
路傍の雪闇に一灯獣痕
京都府木津川市 米倉八作
ひなたぼこ仔猫のしっぽのの字かな
京都府京都市 太田正己
アリ・ヤアと蹴鞠初めの声弾け
京都府京都市 廣川孝彦
吸い物の蓋に手こずる冬座敷
京都府京都市 古川邑秋
掛け時計光の揺れて去年今年
京都府京都市 古川邑秋
リフォームの帯はバッグに一葉忌
京都府京都市 水色
寒椿落花色好く陽を集む
京都府京丹後市 川戸暉子
大寒の月に欅の影ちぢむ
大阪府池田市 宮地三千男
煮凝りを崩せば海の匂い立つ
大阪府池田市 宮地三千男
術もなくただマフラーを巻いてやり
大阪府和泉市 清岡千恵子
雪吊りの三歩さがりて青き空
大阪府茨木市 吉野春夏
行き場なき記憶のなかのあなぜかな
大阪府大阪市 清島久門
九頭竜川の音ふくれ来る宿の冬
大阪府大阪市 清島久門
たこやきのころりと小春日和かな
大阪府大阪市 清島久門
重ね着の少しきゆうくつ鍋磨く
大阪府大阪市 三木節子
カタカナの言葉あふれる去年今年
大阪府大阪市 安子
眼が活きる虎に落款年暮るる
大阪府河内長野市 新田嘉子
入院の子置いて陸橋の寒月
大阪府堺市 伊藤治美
針の孔見えて通せぬ芭蕉の忌
大阪府堺市 椋本望生
各停の旅冠雪の富士凛と
大阪府泉南郡 藏野芳男
カップ酒掲げひと口寒北斗
大阪府豊中市 黄鶺鴒
しあはせごっこできぬ独り居冬蒲公英
大阪府寝屋川市 伊庭直子
初湯への一番木札掴みたり
兵庫県尼崎市 大沼遊山
初雪を蹴散らすササラ電車かな
兵庫県尼崎市 大沼遊山
国旗掲揚柱叩く空つ風
兵庫県加古川市 やまわけひろふみ
晦日蕎麦湯気の向こうの君愛し
兵庫県加古郡 ばななわに
水仙よ風の向こうは淡路島
兵庫県神戸市 鞍馬睦子
所化なるぞ門前座る雪仏
兵庫県神戸市 小谷徹
読初はかなはぬ恋の物語
兵庫県三田市 立脇みさを
添書に思ひのこもる賀状かな
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
起きぎはのコロナを憎むくさめかな
兵庫県西宮市 森田久美子
神無月空の天国隠す雲
兵庫県姫路市 和田清波
初星や兎座撫ぜるアリスの眼
奈良県生駒市 チェシャ猫
時雨るるや見回りの音はたと止む
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
繰り返す歴史を照らす寒の月
和歌山県御坊市 水村凛
母白寿の笑みこそよけれお正月
岡山県倉敷市 高木起未子
縮こまるあの鳥思う凍てる窓
鳥取県東伯郡 因伯兎
なにやらか突き抜けてまた年新
島根県松江市 大倉正嗣
包まれし猫の寝顔の冬深し
広島県尾道市 広尾健伸
足早に雑煮作りし早出勤
広島県広島市 朋栄
朝一つ夜二つ食う蜜柑かな
広島県福山市 永見昂大
見晴るかす野は見納めの枯れ尾花
広島県福山市 林優
貸布団に積む雪寺の一夜かな
山口県山口市 鳥野あさぎ
七草や指を折りつつ名前挙げ
徳島県徳島市 藍原美子
マスクにて歳若返る写真かな
徳島県徳島市 京
縁結びの宮の真柏年明くる
徳島県徳島市 山本明美
乳母車なきだす吾子の息白し
徳島県阿南市 白井百合子
お手玉を縫う一針や窓小春
徳島県阿波市 井内胡桃
鍋どれも光る厨の淑気かな
徳島県板野郡 伊藤たつお
送電線峰から峰へ虎落笛
徳島県板野郡 佐藤一子
息災の他は願わず初詣
徳島県板野郡 佐藤幸子
着ぶくれて鏡に笑う己が顔
徳島県美馬郡 美葉
くるくるとスケートリンクで励む吾子
香川県高松市 宮下しのぶ
気嵐や負けじと野風呂謳ひ出す
香川県仲多度郡 佐藤浩章
星形の沢庵ここは伊賀の里
愛媛県松山市 秋本哲
初山の供えを分かつ母立ち日
福岡県飯塚市 日思子
冬日和七匹の野良屯して
福岡県北九州市 赤松桔梗
村を発つ父母の遺骨や山眠る
福岡県福岡市 青木草平
海水を浴びて湯気立つ寒稽古
佐賀県唐津市 浦田穂積
凍て月や猫も薬を欲しげなり
長崎県長崎市 笹井登美子
柔肌で包む大福冬苺
大分県国東市 吾亦紅
鉄鉢の寺に今でも時雨来る
大分県国東市 吾亦紅
友病みて誰も頼らぬ冬薔薇
大分県豊後大野市 後藤洋子
喜びの真心届く初荷かな
鹿児島県鹿児島市 有村孝人
冬満月別れの駅のモニュメント
沖縄県那覇市 渡嘉敷五福
窓の数ほど願ひあり街聖夜
アメリカオレゴン州 ロイ美奈