HAIKU日本大賞 大賞発表

HAIKU日本2022夏の句大賞

大賞
本音つい聞こえましたか水中花
[ 徳島県阿波市 井内胡桃 ]

(評)水中花は、紙やプラスチックなどを素材とした造花で、水中に入れると花が開く仕掛けになっています。掲句では、口語体による「本音つい聞こえましたか」という上五中七の措辞との配合によって、シニカルとユーモアのある読後感となりました。造花の水中花は、生花のように散ったり、枯れたりすることのないものです。俳句では、そのような水中花の特質をモチーフに、涼感と人工物の無機質さを踏まえて詠まれることが多いです。掲句では、水中花のありさまに人間の内面と外面を投影させているようです。句中の「本音」の一語から「建前」へと思いが及び、そこに「生花」と「造花」の関係性が重ねられます。作中人物は、あえて本音を聞かせたのかもしれません。本音を聞かれても動じず、涼しい顔をしている様子もまた、水中花という季語からうかがわれました。

特選

特選
旱星誘拐犯のくれる飴
[ 東京都小平市 紫檀 ]

(評)「旱星」は炎天続きの夏空に赤々と見える星です。深刻な出来事を敢えて重く詠まずに、警鐘を鳴らしてくれているように思えます。明智小五郎に加勢する少年探偵団のような話に、季語「旱星」が実に効果的です。誘拐は世界中に存在し、現代社会の闇とも言われます。夜空の赤と飴との対比が鮮明で、作者の非凡さを知らしめます。赤い飴が想像でき、赤が危険なイメージの色として読後のインパクトを強めています。

特選
お気に入りのアロハ柩に掛けてやる
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)友人との別れを詠んだ一句には、深い情愛が滲み出ています。上五を「お気に入りの」と六音にした理由。友人と作者の間で交わされてきた言葉の中で、「お気に入り」が最も相応しかったのでしょう。情の細かい男気が感じられ、優しさに溢れていて胸にジーンと伝わります。心情を露わにせず、控えめな表現に一層心惹かれます。「アロハ」に託した作者の想いに、省略の文芸である俳句の原点を見た気がします。

準特選

準特選
南無三と夏のVegasのカジノかな
[ 東京都豊島区 名山花仙 ]

(評)「南無三」は南無三宝の略で、仏・法・僧の三宝に帰依すること。感動詞的に、驚いたり失敗したりしたときにも発します。名詞と助詞のみで詠んだ一句。漢字、ひらがな、カタカナにアルファベットまで登場させて賑やかに詠まれ、視覚からも取り合わせの妙があり、ドキドキする様子を窺い知ることができます。一瞬の状況を明快に十七音に仕立て、気迫と緊張感が感じられます。

準特選
再会を約して終はるキャンプの炎
[ 兵庫県神戸市 花袋 ]

(評)ここ数年人気が高まっている「キャンプ」。キャンプ場で知らぬ者同士が仲良くなって、再会しようということもよくあることでしょう。大自然の中にあっては、人は皆、素直になれるようです。炎を囲んで集う人たちの楽しげな表情が見えるようで、キャンプ地ならではの解放感が詰まっています。人生は一期一会の連続で、キャンプが出会いの絆を深めてくれます。

準特選
薫風や十八歳の分水嶺
[ 島根県出雲市 石佛三太 ]

(評)「分水嶺」は、降った雨水が異なった水系に流れる境界を成す山脈のこと。転じて、物事の方向性が決まる分かれ目をも言います。「十八歳」と「分水嶺」を繋ぎ合わせることで、将来の方向性を決める色々な分かれ道が浮かび上がります。「薫風や」で迷いなく切って、十八歳の明るい未来へと繋がっているかのようです。若葉の香りを運んでくる風が、さわやかなエールに感じられます。

秀逸句

渓流の観音巡り川蜻蛉
[ 茨城県日立市 松本一枝 ]

(評)流れるようなリズムの俳句。渓流沿いの観音巡りとは、いかにも涼しげです。その上に「川蜻蛉」が、心地よささえ感じさせてくれます。「川蜻蛉」は名前の通り川縁に棲み、糸蜻蛉と似ていますが体形は少し大きく五センチ程あります。厳しい夏の巡礼の中、清流に見つけた川蜻蛉に、どれ程心を癒やされたことでしょう。

病窓の一日くづれぬ雲の峰
[ 栃木県宇都宮市 斎藤光星 ]

(評)病窓から眺める「雲の峰」は少しずつ形を変えても、崩れることなく夏の空に存在しています。ムクムクと立つ雲を雄渾な調べでダイナミックに捉えています。退院の日を心待ちにしながら、日に何度も窓の外を眺めて過ごす作者の心情を推し量ることができます。

噴水を避ける子浴びる子泣いてる子
[ 埼玉県行田市 吉田春代 ]

(評)噴水に多くの人々が集まり、水遊びの絶好の場所となっているのでしょう。子どもたちはそれぞれの表情を見せています。一人一人の可愛い表情が切り取られています。「子」を並列させることで、一定のリズムを生み出し、リフレインの軽快さが一句に流れています。観察眼のよく効いた、写実の的確さに秀でた作品となっています。

江ノ電の車窓広ぐる夏の海
[ 千葉県佐倉市 佐々木宏 ]

(評)「広ぐる」はガ行下二段活用の他動詞です。作者は“車窓に広がる”ではなく“車窓を広げる”と詠んでいます。「江ノ電」に乗った人ならその情景が思い出され、まるで、車窓を広げたかのように感じた作者に、共鳴する読者も多いことでしょう。軒先を掠めるように走り抜けたかと思うと、突然展ける湘南の海。その開放感は、驚きと喜びが一緒に押し寄せてくる感動を与えてくれます。

炎昼の錆の記憶や逆上がり
[ 東京都杉並区 田中有楽 ]

(評)真夏のギラギラとした太陽の下、目にした錆に蘇った遠い日の記憶。幼い頃、一生懸命に「逆上がり」の練習をした日々は、誰もが経験したことでしょう。逆上がりが初めて出来た時の誇らしげな気持ちが、錆の感覚や匂いによって蘇るという深い味わいがあります。過去へと誘うノスタルジア感に富む作品です。

朝曇背負い向かうは富士の山
[ 東京都豊島区 潮丸 ]

(評)季語「朝曇」は、夏の朝特有の靄がかかったような空模様を言います。“旱の朝曇り”の言葉があるように、特に炎暑の日が続くと一層どんよりとします。五感を研ぎ澄ましながら、大自然の大らかな活力の中に踏み出す朝。真夏の地上を逃れて、富士へと向かう心地よさと喜びが伝わってきます。

外したるピアスの微熱夏の果
[ 東京都練馬区 喜祝音 ]

(評)ピアスに微熱を感じるという、女性ならではの「夏の果」を表わした一句。ピアスに象徴性を持たせて成功しています。夏もいよいよ終わりに近づいたある日の出来事。この日は、ピアスが特別の意味を持ったらしい。恋の火照りの微熱でしょうか。ときめきが冷めていくような「夏の果」。情熱的だった夏の終わりの作者の心情が垣間見えるようです。

蝉時雨太い柱となりにけり
[ 東京都西東京市 はぐれ雲 ]

(評)「蝉時雨」も心地よい程度のものなら良いものの、けたたましく鳴く時の蝉たちは一体全体何事かと思うことがあります。誰にも経験のあることですが、それを作者は「太い柱」と表現し、言い得て妙。最初は小さな集団の蝉時雨が、大音量となっていくのを見事に具象化した会心の作と言えるでしょう。

ささやかに風湿らせて合歓の花
[ 神奈川県川崎市 五十嵐茂雄 ]

(評)「合歓の花」は、枝先に長い雄しべを持つ花が集まって咲きます。その姿は繊細で、ふんわりとした薄紅色です。夜になるとゆっくりと葉を閉じ、眠りにつくように思えることから、その名が付きました。何ともゆかしい作品です。川辺に立つ合歓の花が、読者の心を癒やしてくれる夏らしい一句。

ケージなき月命日の西日かな
[ 神奈川県川崎市 てまり ]

(評)季語となっている「西日」は、夏の暑さがいつまでも衰えない夕方に射す光のこと。可愛がっていたペットのことを忘れられずに、物悲しさを感じている様子が想像できます。ペットの死に対する作者の優しさが、身に染みるような一句です。人と動物との深い関わり合いの中で、切ない人生の一コマが切り取られています。

夏めくやボトルシップの帆にも風
[ 神奈川県茅ケ崎市 坂口和代 ]

(評)ワインやウイスキーの瓶の中に、帆船などの模型を飾った「ボトルシップ」。船員が長い航海の合間に作ったのが始まりだそうです。季語「夏めく」が措辞の気分とよく似合っていて、ボトルシップの帆船にも風が通っているように感じさせます。初夏の爽やかな気分を感じさせてくれる俳句で、視点と感性の良さが光ります。

夏雲の告ぐ未来への展開図
[ 富山県滑川市 祐宇 ]

(評)「夏雲」は多種多様です。作者の見た雲はどのようなものだったのでしょう。「夏雲の告ぐ」と中七の途中に大きく切れを入れて、名詞止めの「展開図」が想像を膨らませます。夏雲が教示するのは洋々たる未来なのでしょう。「未来への展開図」の詠みには、幸せな展開になる希望が込められているかのようです。

君のためペディキュア赤し半夏生
[ 石川県金沢市 玲 ]

(評)「半夏生」は、二十四節気以外の気候の変わり目を示す日本独自の暦です。夏至から十一日目に当たり、休むことなく働いてきた身体を癒す時期とされています。その癒しの時間に「ペディキュア」とは、妙になまめかしい感覚を覚えます。恋心を想像させしっとりとした雰囲気が一句に流れます。俳句にとって恋の描写はなかなか難題ですが、妙味ある恋の俳句となっています。

休職の同僚へ出す夏見舞
[ 愛知県東海市 桃始笑 ]

(評)ふと、口からこぼれ出たような一句。さらりとした自然な詠みが魅力です。梅雨が明け暑さの厳しい中、親しい人たちに安否を尋ねて出す「夏見舞」。古くからのやさしい風習です。職場を離れて過ごす日々に届くハガキに、手にした同僚の嬉しそうな笑顔が見えてくる作品です。

我を通すことも無くなり冷奴
[ 愛知県名古屋市 久喜聖子 ]

(評)若い時には何事にも心を砕いたものですが、もう若くない齢ともなると、腹立たしいことにも慣れたり自己完結ができるようになったりします。人生百年の時代に、早くこの心境に至ることは幸せなことかもしれません。穏やかな日常を送る作者の諦めにも似た心情が読み取れます。「冷奴」が夏の涼感と心の冷ややかさを出し、季語を充分に活かし切った一句です。

八十路しか出来ぬことあり更衣
[ 三重県松阪市 谷口雅春 ]

(評)気分新たに八十歳をスタートさせた作者の姿が見えてきます。日野草城は「表現は平明に、内容は深く」と述べましたが、この句には、定形を煮詰めた平明な俳句の姿があります。中七の強い断定は、説得力があり八十路の自信が窺えます。これからという作者の気構えが伝わってきそうです。

真っ白に色定まりし夏の雲
[ 大阪府池田市 宮地三千男 ]

(評)「夏の雲」で代表されるのが積雲。大きな塊状の綿雲で、それがむくむくと垂直に発達したのが入道雲と呼ばれる積乱雲。「真っ白に」と詠むことで、促音「っ」が雲の勢いよく湧く姿を促し、青空とのすっきりとした対比が鮮やかさを増します。海に山にスポーツにと、思い思いの夏を謳歌する人々の姿が見えてきます。

がくがくと夕顔開き初めにけり
[ 大阪府和泉市 清岡千恵子 ]

(評)「夕顔」は昼に閉じていて、夕暮れ時に五つに裂けた白い花を咲かせます。ウリ科のつる性一年草。「がくがくと」のオノマトペは固く閉じた蕾が、襞の深いギザギザの花を開かせる様を何とも的確に表しています。開花の美しい瞬間を濁音で表わすことは珍しく、この花と真摯に向き合う作者だからこそ辿り着いた言葉でしょう。

ランドセルを土俵にかぶとむし二匹
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)取り囲む子どもたちの歓声が聞こえてきます。子どもたちの楽しみの中に、「かぶとむし」の真剣勝負の世界があります。二匹を闘わせているのでしょう。どちらかがランドセルから落ちてしまうまで闘い続けます。勝負の行方を見守る子どもたち。好奇心と闘争心に目を輝かせる子どもの表情が眩しい一句。

光陰の滝もろともに落ちにけり
[ 大阪府堺市 森野哲州 ]

(評)「光陰」は歳月や時の流れを言います。そんな時間も、すべてをも滝はもろともに落ちていくと感じた作者。「もろともに」の副詞が滝の激しさを引き立てています。後藤夜半の名句に「滝の上に水現れて落ちにけり」がありますが、掲句は逆に叙景を省略化し心象へと導いています。ダイナミックな瀑布の飛沫を浴びながら、自己の存在を見つめる作者の姿が目に浮かびます。

味噌汁やざくりと刻む茗荷の子
[ 大阪府豊中市 黄鶺鴒 ]

(評)「茗荷の子」は、山野の思わぬ所で自生しているのを見つけることがあります。地上に現れて薄紅色の花穂を咲かせます。「ざくり」が何とも心地よく響き、あの音、香り、手の感触が瞬時に思い出されます。薬味という脇役だけに留まらず、夏の主役としても大いに活躍する茗荷の子。味噌汁と茗荷という身近な素材の句が、かえって印象深い秀句となりました。

沈む 水深五メートルの緑蔭
[ 大阪府寝屋川市 伊庭直子 ]

(評)金子兜太を想起させるメタファーの効いた珠玉の一句。短歌でよく使う一字あけの技法を使って「沈む」が強調されています。作者が見つめるのは水底に揺らめく深い森。「五メートル」に込められた心象風景は、読者の自由な鑑賞の翼に任せられているのでしょう。作者の手から離れた句は、読み手の数だけ詩の世界を広げます。

大山車を操る白き扇かな
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)京の大路を威風堂々と進む「大山車」は、見事としか言いようのない歴史的財産です。一連の流れを、ひとつの「白き扇」が操っていると気付いた作者の旅吟の一句。扇子を片手に曳き手たちに合図を送る音頭取り。「操る」がその迫力を言い当て、その場の熱気が伝わってくるようです。終助詞「かな」が、千年の都を語る詠嘆に相応しい切れ字となって響きます。

セミぽとりがん告げぬ間に蟻の山
[ 兵庫県西宮市 森田久美子 ]

(評)「セミ」「がんを患う人」「蟻の山」と、三つの命あるものの姿が描かれた一句。暗喩句ともいえる一句で、セミの描写が何とも悲しく詠み手の心情は複雑と言えるでしょう。「蟻」が主季語で、足元に落ちてきた「セミ」。微かにあった命も、僅かな時間で消えてしまうという現実。切ない作者の心中が深く感じられます。

夏蝶来瓜切るに手の震えたる
[ 徳島県徳島市 笠松怜玉 ]

(評)「夏蝶」の代表は揚羽蝶で、日差しの厳しい白昼によく飛んでいます。「手の震え」との明暗をうまく取り合わせた一句。日常のありふれた場面に緊張感を与え、その瞬間の感覚を読者に鮮明に伝えます。「瓜」を切る時は滑りやすく、微妙な切り方にも気を遣いますが、齢を重ねると尚更のこと。「瓜」も夏の季語ですが主たる季語は「夏蝶来」。瓜は芭蕉俳諧でいうところの道具立てです。

携帯のマップで辿る夏白書
[ 大分県国東市 木村弘治 ]

(評)白書は、もともとイギリス政府が報告書の表紙に白い紙を用いたのが始まり。携帯マップで辿る「夏白書」とは、どんなものか興味津々です。マップが教えてくれる道順に沿って、汗をかきつつ真夏の空を見上げながら様々な場面を辿る様子を想像させます。「白書」の言葉が新鮮に響きます。

佳作

一斉に揺るる団扇の國技館
岩手県一関市 砂金眠人
夏草や帰れぬ町の三輪車
岩手県北上市 川村庸子
進みては触るるばかりの蓮見舟
宮城県仙台市 遠藤一治
一口で五臓を浸す茗荷汁
宮城県仙台市 繁泉祐幸
おはじきの弾かれて泣く晩夏かな
宮城県仙台市 渡辺徹
床の間にでんと置かれし水中花
山形県米沢市 山口雀昭
長電話迷子ホタルにせかされて
茨城県日立市 松本一枝
老犬も吾も童心の夏野かな
群馬県伊勢崎市 白石大介
きやらぶきの懐かし匂ひ妣の匂ひ
埼玉県行田市 吉田春代
血を吸いて立ちける向日葵ぞ大き
埼玉県さいたま市 アヴィス
この風はひまわり畑この空も
埼玉県和光市 此順
向日葵のもてなす丘のパラドール
千葉県佐倉市 佐々木宏
風鈴や諭すごときに語りをり
千葉県佐倉市 佐々木宏
ゆらゆらり恋になずむや水中花
千葉県成田市 魔瑠樹
ビルの街蝉には蝉の空があり
千葉県船橋市 井土絵理子
こんなにもディズニーシーの子どもの日
千葉県南房総市 沼みくさ
湖風を存分に入れ夏座敷
東京都江戸川区 羽住博之
浴衣着てセロファンみたいにはしゃぐ子ら
東京都江東区 ねこさん
初夏や父のリュックに正露丸
東京都杉並区 田中有楽
逃げ回る坊主頭や天瓜粉
東京都杉並区 田中有楽
病める手で鶴折る女原爆忌
東京都練馬区 符金徹
朝涼の間に亀洗ふ水を換ふ
東京都文京区 遠藤玲奈
新緑の輝くような新高一
東京都目黒区 ワーグナー翔
雷雨去り色鮮やかな紫陽花に
東京都昭島市 夏藍
紙魚の痕とどめ昭和を証言す
東京都青梅市 渡部洋一
ドア開く日傘開いて無人駅
東京都小平市 佐藤そうえき
草笛や童謡を吹く爺の口
東京都三鷹市 そよ風まゆみん
古き良き銀座のビルや床涼し
東京都武蔵野市 伊藤由美
黙祷を拒むがごとく蝉時雨
神奈川県川崎市 下村修
白昼の凶弾大和の風死せり
神奈川県川崎市 茶和
夏の雨すべて飲みほすアスファルト
神奈川県川崎市 三上美紀
水も詩も湧きてくるもの夕薄暑
神奈川県相模原市 あづま一郎
止められぬ老いと不安と蝉時雨
神奈川県相模原市 金本節子
蓮の露朝日も踊る初吟行
神奈川県相模原市 祓川寿美礼
万緑てふ傘やこの世をもてなしぬ
神奈川県相模原市 渡辺一充
空寺や柄杓の上の蝉の殻
神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦
濃あじさい停車場の席二つ占め
神奈川県茅ヶ崎市 つぼ瓦
烏賊刺しをあてに海風酌みやすし
神奈川県横浜市 要へい吉
山間のバス停囲む蝉しぐれ
神奈川県横浜市 教示
紫陽花や孫の生誕日彩れり
神奈川県横浜市 高田柗風
夏満月甘い蕃茄越しに見ゆ
神奈川県横浜市 鷹乃鈴
色褪せた紫陽花の花慈雨を待つ
神奈川県横浜市 前田利昭
夜の中踊る灯りは夏祭り
神奈川県横浜市 穂嶋莉枝
風死して「コロナ禍」消えず夢消えず
新潟県長岡市 安木沢修風
冷房と切っても切れぬ仲となり
新潟県新潟市 小野茶々
かつて村なりし巨きな草いきれ
新潟県新潟市 田代草猫
朝日吸い睡蓮一花ほころびぬ
新潟県南魚沼郡 高橋凡夫
麻痺残る片手でピアノ広島忌
石川県加賀市 敬俊
神宿る滝ある村の十戸かな
山梨県中央市 甲田誠
梅雨空の足元に咲く小宇宙
山梨県北杜市 波音れもろ
茗荷の子つゆに泳ぐや昼下がり
長野県南佐久郡 高見沢弘美
鬼百合や波紋広がる井戸の底
岐阜県可児市 聞羊
夜濯の自己を励ます洗濯機
岐阜県多治見市 緑
まづ蛇を追ひ遣り史跡案内人
岐阜県土岐市 近藤周三
川音に声かき消され夏料理
静岡県湖西市 市川早美
水平に鳩が切り取る夏の空
静岡県静岡市 花波杏咲
大夕焼吾子は天にて無言なり
静岡県袋井市 木村真弓
白昼の雨脚太き男梅雨
愛知県大府市 小河旬文
提灯を献じ祭の闇に入る
愛知県知多郡 伊藤京子
愛らしき文字読み返す夏見舞
愛知県東海市 桃始笑
羅を纏い肩から風が抜けていく
三重県松阪市 宇留田敬子
黒キャンバス白昼とする夜空花
滋賀県高島市 蛸鈴
ダリア往き黒板は微分積分
京都府木津川市 米倉八作
海鳥や田植機を追う羽白き
京都府京丹後市 川戸暉子
法要を終えて減りたる蓮の花
京都府京都市 水色
帰省するジョッキに歪む母の顔
大阪府池田市 宮地三千男
群青の海に憩いし夏の雲
大阪府池田市 宮地三千男
向日葵をさびしき高さと思ひけり
大阪府大阪市 清島久門
立葵匿うあいりん地区教会
大阪府大阪市 清島久門
夕されば湯宿に色を置くあやめ
大阪府大阪市 清島久門
夕立に若犬遊ぶ跳ね音や
大阪府大阪市 無名
空蝉は物語りほど色気なし
大阪府大阪市 安子
トーストの二の丸辺り喜雨亭忌
大阪府堺市 椋本望生
キャッチャーの利き足朱夏の声させて
大阪府堺市 椋本望生
この夏にようやく会えた眠る父
大阪府吹田市 乃葡
冷房の水や隣家へ漏れて昼
大阪府堺市 伊藤治美
退院の友と語らふ花氷
大阪府堺市 伊藤治美
さくらんぼのやうな言葉を交はしをり
大阪府寝屋川市 伊庭直子
御朱印の列に割り入る西日かな
大阪府簑面市 攝洲
一枚のバタートースト麦の秋
兵庫県尼崎市 大沼遊山
夕蝉の戸のひらく音しまる音
兵庫県尼崎市 大沼遊山
新緑の影新人の車夫の影
兵庫県尼崎市 大沼遊山
生涯の四半が酷暑にありけり
兵庫県加古川市 山分大史
老いてなほ百日紅のごとくあれ
兵庫県神戸市 花袋
明易や看護師の手の走り書き
兵庫県神戸市 平尾美智男
大欅己が茂りに堪へてをる
兵庫県三田市 立脇みさを
泡沫の波間に踊る夜光虫
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
焦々と暑さ助長す蝉時雨
奈良県生駒郡 葉月十八
肩車御輿は闇を帰りゆく
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
三伏や七変化する伯耆富士
鳥取県米子市 福本敬子
耐えに耐え猛き暑さに耐えに耐え
島根県出雲市 後藤英興
水中花保育器の子のまなこ開く
島根県国富町 木佐優士
夏山の達成感と頬のシミ
広島県広島市 朋栄
蚊の羽音枕草子の段にあり
広島県福山市 林優
蚊に食われかゆみ止め塗る痩せた父
山口県山口市 大橋光広
日傘差し男泳ぐおよぐ渋谷
山口県山口市 鳥野あさぎ
先達にすべて委ねし田水張り
徳島県徳島市 粟飯原雪稜
若葉風橋のたもとの小さきカフェ
徳島県徳島市 藍原美子
刺をもつ薔薇一本の気品かな
徳島県徳島市 島村紅彩
うさぎやら木星描く揚花火
徳島県徳島市 京
旅鞄あけて取り出す入道雲
徳島県徳島市 山之口卜一
花菖蒲母の手入れをまなうらに
徳島県徳島市 山本明美
結実のパイナップルに笑みこぼれ
徳島県阿南市 白井百合子
夏休み前分校挙げて川遊び
徳島県板野郡 秋月秀月
接待は冷えしラムネの札所かな
徳島県板野郡 伊藤たつお
剥落の土塀を射抜く大西日
徳島県板野郡 佐藤一子
絽を羽織りお出かけ止めた暑さ負け
香川県高松市 宮下しのぶ
炎天やペットボトルを点滴に
香川県仲多度郡 佐藤浩章
空蝉よ脆いのはわたしのこころ
愛媛県今治市 藤原洋美
半ズボン孫の句題に提供す
福岡県北九州市 赤松桔梗
向日葵やソフィアの愁ひ大地燃ゆ
福岡県飯塚市 日思子
過疎の町古屋の庭に鯉幟
佐賀県唐津市 浦田穗積
泳がずも寄り添いたるや鯉のぼり
長崎県諫早市 伊達史子
夏雲や世界を巡るインターネット
熊本県山鹿市 茶茶
小暑の献花の列に涙雨
大分県大分市 牧吏恵
蟻の列仏足石に生かされて
大分県国東市 吾亦紅
旱星カンパネルラの濡れた髪
大分県豊後大野市 後藤洋子
茅葺に明るき雨の立夏かな
大分県豊後大野市 後藤洋子
山開き天空の嶺季節彩
鹿児島県鹿児島市 有村孝人
すれ違ふ友見過ごしてサングラス
アメリカオレゴン州 ロイ美奈