HAIKU日本大賞2022夏の写真俳句 発表
2022夏の写真俳句大賞
写真をクリックすると新しいウィンドウで大きく表示されます。ぜひ皆様の力作を拡大画面でご覧ください。(オリジナルの写真サイズが小さい場合は拡大されません。)
(評)様々な色のジーンズが干してある様子がとてもユーモラスに表されています。空の青とジーンズの青、「青」という色にも関わらず、それぞれ違った色合いなのが面白いです。実際に、青を遊んでいるようですね。写真は少し工夫があっても良かったのかな、と思うところもありますが、着眼点の面白い写真俳句です。とても心惹かれる写真俳句です。
次点
(評)写真に添えられた俳句一つでミステリーを感じさせてくれる作品はなかなか難しいものです。写真だけ見ると、明るい俳句にもできたと思いますが、この神秘的な雰囲気に暗い秘密を持たせて、恐ろしくも感じさせてしまう熟練さに感心しました。
(評)高級店が並ぶ街並みを見るところ、大人の恋でしょうか。初デートを夏のイメージに上手くマッチさせています。写真と俳句が響き合ってストーリーを感じさせる良作品です。
<秀逸賞>
南国に問答無用夏の雲
宮城県仙台市 泉陽太郎
(評)「問答無用」と言うにふさわしく、夏の強い太陽が雲を真っ白に輝かせています。燦然と輝く「夏の雲」は、やがて太陽が高く昇ると、焼けつくような夏の一日の訪れることを告げています。南国のリゾート地を思わせる樹木のシルエットの黒と、白い雲の対比のシャープさが印象的な写真俳句です。
蝉生まる森の光の言祝に
宮城県仙台市 遠藤一治
(評)樹に産み付けられた卵から孵った幼虫は、地中に潜り一生の大半を過ごします。数年後再び地上に出て樹に登り、空蝉を残し全身が抜けます。二〜三週間とされる蝉の短い命の出現です。薄緑色の姿が、初夏の森の優しい緑に溶け込んでいるかのような神秘的な写真俳句です。
蟷螂の生まれて選挙終わりけり
宮城県仙台市 繁泉祐幸
(評)淡々とした詠みが一句に社会性を帯びさせ、選挙との取り合わせが妙に意味あるものに思えます。「蟷螂」は弱々しく心もとないものの、作者の気配に気付いたのかカメラを見つめているように見え、敏感な反応が望遠レンズで上手く捉えられています。蟷螂のユーモラスな姿に心が和みます。
夕焼けや東京の子に初LINE
茨城県日立市 松本一枝
(評)東京へ行った子どもや孫たちと、LINEで通じている高齢者は意外と多いもの。夕焼けの空を見上げながら、子どものことを想っていたのでしょうか。作者の親心がとてもよく感じられます。寂しさはあってもLINEで繋がっていれば、いつも身近に感じられるもの。「初LINE」が効果的な写真俳句です。
揺れやみて蜘蛛の足先雲つかむ
千葉県船橋市 井土絵理子
(評)真っ白い雲が湧き上がる夏空に、黒い肢体を晒すのは蜘蛛。透明な蜘蛛の囲は見えず、蜘蛛が青空を掴み浮かんでいるかのような写真です。その姿は、精一杯生きる生き物の哀愁を感じさせます。「蜘蛛」と「雲」の関係にストーリー性を持たせ、「くも」のリフレインが小気味の良いリズムを生み出しています。
世の憂さを消し去れ夏の青き富士
東京都豊島区 カラフル
(評)「夏の青き富士」が新鮮な写真俳句です。心象的な言葉を上に置き、具体的な名詞で結句したところは中々の腕前の持ち主。日本一の山は永遠に尊いものです。日本人の心の拠り所でもある富士山に託す思いには強いものがあります。
片陰に順番待ちのラーメン屋
東京都清瀬市 ベース
(評)人気店なのでしょう。「片陰」は、真夏の炎天下でも太陽が少し西にずれると、家並みや塀などにできる片側の陰。直射日光を避け、ビルに沿って丸く伸びる列は都会の昼時の現実です。好きな味を求め人は並びます。電線も建物も曲線を描く魚眼レンズの迫力で捉えています。
つかみどころ無き水なれどアメンボウ
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)写真は田植えの終わった景。句は「アメンボウ」に焦点を置いた一句一章句。山裾に見える家並みまで、かつては水田が広がっていたのでしょう。水の上をスイスイ滑走する「アメンボウ」の気楽さを羨ましく思いながら、街へと様相を変えつつある里山の風景に作品の奥行きを感じます。
強者も死すれば蟻の餌食なり
神奈川県平塚市 八十日目
(評)元気に飛び回っていた時は、恐れられていただろう「強者」が蟻に食われています。死骸となっては、小さな蟻にきれいに片付けられてしまうという、自然界の現実をまざまざと見せ付けられます。
木漏れ日の葦の葉が好き川とんぼ
石川県金沢市 百遍写一句
(評)目を引く鮮やかな橙色の翅は、二ホンカワトンボの雄。メスの翅は透明です。蜻蛉は秋の季語ですが、「川とんぼ」は夏の季語です。「葦の葉」に止まる「川とんぼ」は贅沢な時間を過ごしているかのようにも見えます。一瞬の景を捉えた写真と、作者の優しい眼差しの自然体の一句がとても好ましく思えます。
向日葵や普通の人生って何
岐阜県岐阜市 大村翔
(評)照りつける太陽を物ともせず咲き続ける「向日葵」。旺盛な夏を切り取った写真と、シリアスな句との温度差のある取り合わせが印象深い作品となっています。向日葵は人に勇気と希望を与えてくれます。だからこそ、向日葵に「普通の人生」の問い掛けをしてしまう作者の心情が読み取れます。
幻想の宇宙の一線夏に入る
静岡県熱海市 歩人
(評)「幻想」とは、現実にないものを有るように感じる概念のとりとめの無さを言います。写真の横一線に並ぶ雲と太陽の光の空間は、現実のものでありながら幻想のように思えます。山や海が同じ黒のグラデーションをなして写る様は、大自然のパワーを感じさせます。
肉を焼きビール呑みほす天下人
大阪府大阪市 潮皐月
(評)夕暮れの大阪城を見事に切り取った写真俳句です。背景にある大阪のビル群も、城との美しい調和を見せてくれています。まるで箱庭のようなシーンに涼味もある作品となっています。太閤さんも作者の想像力にさぞ満足して喜んでくれていることでしょう。
ノートルダムめいて打ち枝の夏銀杏
徳島県徳島市 今比古
(評)フランスのノートルダム大聖堂は十二世紀のゴシック建築の代表です。この大聖堂が2019年4月の火災で大きな損傷を受けました。世界から寄付が寄せられ、懸命の修復が続けられています。発想の豊かな作者には枝打ちされた樹も、全世界に名を馳せる大聖堂に見えるらしい。身近な場所から世界観を広げて見せた感覚の妙があります。
かたつむりEV仕様といふ噂
徳島県徳島市 山之口卜一
(評)現代ならではの、作者ならではの一句。作者は想像の世界へと導きます。掲句の描写は、静かに今を生きるかたつむりに、「EV仕様」という今の最先端の言葉を与えます。雨に濡れた葉の上を進んでいく姿は、先祖代々の滑らかな歩みなのです。
裏山に何事かある蝉時雨
高知県南国市 サンパー
(評)青空に真っ白な入道雲と、万緑の山とのコントラストが活きています。「蝉時雨」を詠んだ一句は、中七の「何事かある」が独創的で印象に残ります。一斉に鳴き出す蝉たち。時に、何も聞こえないほどになります。すっきりと裏山を切り取った一枚から、大音量の蝉時雨が届いてきます。
<秀作>
キビタキやイヤホン落とす散歩道
千葉県八街市 築山和久
(評)喉から腹にかけて鮮やかな橙黄色が目を引く「キビタキ」。丁度、鳴き声を上げている瞬間でしょうか。驚いてイヤホンを落としたのか、咄嗟にイヤホンを外し、声の主を探そうとしたのか。運良く捉えた写真からは、高らかに歌い上げる美しい囀りと共に、森の清涼な空気感さえ感じ取れます。
竹生島暑さ飛ばして白き波
東京都町田市 渡辺理情
(評)琵琶湖の北部に浮かぶ竹生島。樹木の中にある神社は国宝の竹生島神社。琵琶湖の湖水を支配する神様です。船の立てる波の軌跡が白く美しく、いかにも夏らしい景観となっています。白波は、神前に供える白い絹の奉献物のようにも見え、古くから“神の島”と崇められた島の神聖さを高めています。
投網する鮎の香りの愚行かな
神奈川県横浜市 高濱孝太郎
(評)投網を打っているのは作者自身とのこと。ベテランの川漁師のような堂に入った姿が捉えられています。手前の葦が、鮎の棲む清流の雰囲気を醸し出しています。下五の「愚行かな」は、愛しい鮎を殺生することへの後ろめたさを感じているのでしょう。
道端の誰のものでもない野百合
富山県射水市 中村理起子
(評)田舎道だけでなく、都会の街角にも「野百合」を見つけることがあります。清楚で可憐な野百合は、作者の言うように誰に構ってもらうこともなく、誰のものでもありません。すらりと背を伸ばし凛と咲いた様に、孤高の美しさを感じているのでしょう。
<佳作>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。