HAIKU日本大賞2022春の写真俳句 発表
2022春の写真俳句大賞
写真をクリックすると新しいウィンドウで大きく表示されます。ぜひ皆様の力作を拡大画面でご覧ください。(オリジナルの写真サイズが小さい場合は拡大されません。)
(評)今の世の有為は何色なのでしょうか。この桜のように、この空のように、この雲のように、鮮やかであって良いのでしょうか。世界から聞こえてくる様々なニュースには心傷むものが多く、その全てがいつか、この鮮やかさへと移り変わっていくことを祈ってやみません。
次点
(評)雛飾りのある家庭は何世代で暮らしているのでしょう。百寿の年になっても、雛人形を飾るときのウキウキした気持ち、楽しい気持ちが微笑ましく表現されています。行事を大事にされているご家族が目に浮かびます。
(評)暗闇から出(いず)るように咲く水仙の黄色にはっとしました。溶かすほどの生きざまの澱とは何でしょう。誰もが持っているものでしょうか。この世を生き抜くには、澱を溜め込んでいかずにはいかないのかもしれません。命の表と裏を考えさせられる秀句です。
<秀逸賞>
雪解けや白樺の白白を増し
北海道札幌市 鎌田誠
(評)雪解けの頃の白樺は、春の光の中にあってより一層白が際だって見えるものなのでしょう。青空の下こんな小径を通っている作者の気持ち良さが伝わってきます。春の歓びが、詩情たっぷりに詠み込まれた写真俳句です。その地に住む人の言葉には力があります。日差しに輝く白が眩しい作品です。
行く末は春のつぼみの胸の内
宮城県仙台市 泉陽太郎
(評)春は、一年の内で最も環境の変化の多い時期。どんよりとした曇り空で、春先の肌寒さが伝わってきます。「胸の内」と擬人化した句は、作者の気持ちの複雑な行く末を想起させます。身に迫りくる不安を表現しているかのようです。つぼみが開くと情景は一気に鮮やかになり、作者もきっと晴れ晴れとした心を取り戻すことでしょう。
鶯のこゑ蒼穹に海原に
宮城県仙台市 遠藤一治
(評)「蒼穹」は青空のこと。春の空が溶け込んだように真っ青で穏やかな海。岬へ下る絶景スポットからの一枚で、大自然の息吹が感じられます。鶯の声や潮の香りまでも届いてきそうな、何とものどかで気持ちの良い光景です。春を満喫する作者の感動が伝わってきます。
草餅を買いていっぷく廃線路
茨城県水戸市 打越榮
(評)余情たっぷりの風景が映画のワンシーンのようです。 廃線となっている線路道と自転車の人影が印象的で、アングルがかつての車窓からの眺めを蘇らせています。そこには、通勤通学の朝の心を和ませてくれる風景があったに違いありません。写真の向こうには、草餅で談笑する温かい光景が見えてきます。
芸をする君の瞳のおらが春
東京都足立区 田倉悳子
(評)懸命に何かを見つめる姿が愛らしい一枚。何を考えているのでしょう。達観しているかのようにも見える表情に、芸がその場を大いに沸かせたことが窺えます。小林一茶が「目出度さもちう位也おらが春」と詠んだ「おらが春」を下五に置いた一句は、作者の感性でなければ辿り着かなかったことでしょう。どこか哀感を漂わせる秀作です。
極楽てふ行き先もあり花筏
東京都渋谷区 相合傘
(評)「花筏」という春の風趣を切り取り、画面全体で春の穏やかさを感じさせてくれる写真俳句です。きれいだった桜の最後の姿の花筏に想いを寄せて、この行先に「極楽」という場所もあると詠みました。ペーソスを感じさせる作者の豊かな感性が出ています。桜の行き先が極楽なのか、人の行き着く先を言っているのか、しみじみと詠んだ一句が想像を膨らませてくれます。
介護カー速度緩める花見かな
東京都清瀬市 ベース
(評)桜が満開を迎え、道行く人の目を楽しませています。「介護カー」が、枝垂桜の桜道をゆっくりと通過しているのでしょう。スピードを少し緩めて通るのは、勿論桜を楽しんでもらいたいがための運転手さんの心遣い。車中でのお年寄りたちの弾んだ会話が聞こえてきそうです。作者の視点に、優しさが滲み出ています。
たおやかな枝に委ねる藤の花
東京都町田市 織辺進一
(評)「たおやかな枝」の措辞で、ふっくらと詠みあげた印象深い一句です。ゆったりと心地よい風に揺れる「藤の花」の姿を読者に届けてくれます。樹齢千年を越える木もあるという藤。一本の木から四方へと枝を張り、大きな藤棚を形成します。下からのアングルが優しくも力強い藤の魅力を大きく引き出し、葉の緑が柔らかな春の日差しを感じさせます。
水溜まり今年の春を仕舞いけり
東京都武蔵野市 伊藤由美
(評)桜の花びらが「水溜り」のふちに寄り添うように浮かんでいて、水紋のできた中央部は、まるで水鏡のように美しく反射しています。そよ風が水の周りを廻るように吹いているのかもしれません。「これで春も終わりだなぁ」という作者の呟きが聞こえてきそうです。あまりにも華やかだったからこそ覚える虚しさです。写真と句が情趣ある雰囲気を醸し出しています。
語らへば鳥語の応へ花の昼
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)見事な大木は樹齢何百年でしょうか。花の重みが直に伝わってくるかのようです。多くの鳥たちも花の蜜を求めてやってきます。小鳥たちのさえずりを「鳥語」と詠みオリジナリティを高め、平安朝の雅な響きを持つ一句が春の昼の長閑さを伝えています。華やいだ春の一日を優雅に詠んだ珠玉の写真俳句。
集まりて何を企む春の花
神奈川県平塚市 八十日目
(評)桜花を中心に一斉に咲いた春の花の真っ盛り。まるで桃源郷の趣きを持つ世界に感動を覚えます。春の喜びが溢れる一枚に添えられたのは、ユーモアたっぷりの一句。色々な種類の木々が咲き揃った写真を眺めていると、次にここを訪れる人をどんな風に驚かせようかと企てている、陽気な花たちの会話が聞こえてきそうです。
懸命に生きるのは何故初桜
神奈川県藤沢市 吉村三代
(評)日本人に愛されてきた桜。古人も愛した花を作者は画面一杯に写し出しています。「生きるのは何故」と、「初桜」に呼び掛けているようでもあり、自分自身に問い掛けるようでもあり、桜に人生の楽しさと寂しさを感じ取り生命の儚さを覚えたのでしょう。上を向く花びらの描写が、明日からの力強い一歩に繋がったことを感じさせてくれます。
さくらさくらあの約束は絵空事
岐阜県岐阜市 木華
(評)大きな雲は、まるで夢の中の世界のようで、作者の複雑な心境を表していることが、下五の「絵空事」から伺えます。「あの約束」とは何なのかを、重く垂れる厚い雲がきっと語っているのでしょう。雲の様子は、句にある心の曇りとも合致します。「絵空事」を「さくら」のリフレインと取り合わせ、春の愁いを漂わせる写真俳句です。
春光や希望の力昇りをり
静岡県熱海市 歩人
(評)黒っぽく写り込んだ海岸とのコントラストで、美しさの際立つ朝焼けが希望を感じさせます。殺伐とした今の時代に、人知の他の大景をダイナミックに捉えた写真俳句。小さな船影に、この地における人々の営みの一端も見て取れます。地球上のすべてのものを照らすべく昇ってくる太陽を詠んだ一句には、崇高な「春光」への畏敬の念が見えてきます。
命日にほつと開きて梅便り
愛知県名古屋市 久喜聖子
(評)誰の命日かは言わずに、「ほつと開きて」の中七へと続きます。「ほつ」は「ほつほつ」と言うところを、省略して上手く使っています。梅の香りと共に、作者の穏やかな気持ちが伝わってきます。咲く日を心待ちにしていたのでしょう。一輪を大きく写し出すことで、亡き人に語り掛けているようです。「命日」に捧げるかのように咲く一輪と、心を込めた一句が優しく響き合っています。
星屑の降りて真昼にミモザなる
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
(評)「ミモザ」は星が降ってきて、真昼に咲いているという何ともロマンチックな作品。「星屑の降りて」の措辞は絶品です。言葉の響きも愛らしいミモザを、大好きな気持ちが伝わってきます。鮮やかな黄色い花が咲くと、街並みは一気に春の色に変わり、ふわふわとした形が暖かさを届けてくれます。ミモザに星屑を重ねる作者の詩の世界は個性で輝いています。
<秀作>
流さるる数多の涙鳥雲に
福島県福島市 山田由紀子
(評)「鳥雲に」は、春になって北へ帰る雁や鶴などの渡り鳥が雲間に消えていく様を言い、桜の花を見ずに帰る鳥への惜別の情がにじむ季語です。写真も涙目で撮ったかのようにボカシを入れてあり、今にも滴り落ちそうな雨の雫が効果的です。東日本大震災から十一年になる今年の桜を写し取った一枚が、作者の哀しみを表出しているかのようです。
涅槃より届きし落花手水鉢
東京都豊島区 カラフル
(評)「涅槃」とは、煩悩を断ちきり絶対的な心の静寂に達した状態、つまり仏教における理想の境地を言います。落花が「手水鉢」に漂う姿を切り取った写真と、素直に書き留めた一句が心に残ります。「届きし」と過去形にして、すでに落ちている花びらと、青竹にかかるかのように見える落ち水の二筋が美しい作品となっています。
<佳作>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。