HAIKU日本大賞 大賞発表

HAIKU日本2022秋の句大賞

大賞
こほろぎや診察長き妻を待つ
[ 三重県松阪市 谷口雅春 ]

(評)秋に鳴く虫のなかで最も身近なものの一つが蟋蟀でしょう。初秋から鳴きはじめて、秋遅くまで鳴いていることがあります。掲句を読んで私のなかに広がったイメージとしては、体調のわるくなった夫人に付き添って夜間診療に訪れている場面です。日中の正面入り口とは違い、夜間診療の専用入口は病院の脇や裏手に設置されていることがあります。夫人が診察を受けているのを廊下の長いすで待ちながら、容体を案じ、難しい病状でないことを祈っています。静まり返った夜の病院に、窓の外から蟋蟀の鳴き声がしきりに聞こえてきたのでしょう。夫人を思いやり、不安になる作者の心情を思うと、蟋蟀の鳴き声がいっそう哀切に聞こえてきました。

特選

特選
倒木をのぞきし風や秋遍路
[ 千葉県千葉市 千葉信子 ]

(評)倒木を覗き込んでいるのは「風」だという。風雨になぎ倒された木が「秋遍路」の行く手を邪魔しているのか。四国の札所巡りをするお遍路さんの全行程は約1400キロ。平坦な道もあれば、山岳には“遍路転がし”と呼ばれる難所も多く険しい道のりです。お遍路を人生と重ねて詠んだ句と思われます。味わい深い叙景句となっており、「秋遍路」の一歩一歩の歩みに刻まれる重みが伝わってきます。

特選
銃持たぬこの手で絞るレモンかな
[ 神奈川県相模原市 渡辺一充 ]

(評)いきなり、ドキッとする五音から始まるこの句は、読み手の心に響き印象に残ります。現在も続いている戦争。銃を手にした姿が日々放映されています。握っているものが、「レモン」であることの安堵感が伝わってきます。もし「レモン」でなかったらという恐怖が読者にも湧いてきます。銃とレモンの取り合わせが鮮烈で、一読して忘れがたい今を詠んだ俳句となります。

準特選

準特選
紙なぞる指に脂のなき秋思
[ 東京都中央区 梨木悠介 ]

(評)「なぞる」のは、紙に書かれた大切な箇所。秋の夜長に、何を思い巡らせているのでしょうか。作者の微妙な影を感じさせ、季語「秋思」にその乾いた心情が託されています。「秋思」は秋の“ものおもい”です。指の乾きに失われていく若さを、敏感に感じ取る作者。一種の哀しみを持つ境涯俳句としてしみじみと心に響いてきます。

準特選
墓終ひのことにはふれぬ墓参かな
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)近年は少子化という大きな時代の変化の中にあります。「墓終ひ」は、今や世情の大きな問題になりつつあります。我がことのように鑑賞する人も多いだろう一句。いつかは現実のものとなる「墓終ひ」。「ふれぬ」には、作者の様々な心情が読み取れます。日常の中の作者の感覚が、社会詠とも言える鋭い作品となっています。

準特選
吊し柿五棹なす父懐かしき
[ 徳島県徳島市 山本明美 ]

(評)秋の風物詩の一つ「吊し柿」。かつては多くの家で見られました。「五棹なす父」の中七が、思い出の中の父親像を具体的に想起させます。山里の暮らしぶりの中に「父」の姿があって、黙々と手早く仕上げていく姿に尊敬の念を抱いていたことでしょう。下五の形容詞の連体止めも一句に相応しく、父の姿を強く印象付けます。昔の父親像が共感を呼び、読者を懐かしい日々へといざないます。

秀逸句

花野行く物くさ太郎ひとり行く
[ 宮城県仙台市 渡辺徹 ]

(評)室町時代の御伽草子の一つ「物くさ太郎」。怠け者が都に上り、歌才を認められた上での出世物語です。作者は自らを自嘲して「物くさ太郎」と詠んだのでしょうか。「行く」のリフレインが効果的です。淡々と人生を詠んだ俳句として、ユーモアの中にも感慨深いものが内包されています。

胸の棘ぬいてくれよと秋の薔薇
[ 茨城県日立市 松本一枝 ]

(評)「秋の薔薇」は、夏の薔薇と違って花は小ぶりですが、秋気に気品のある芳しい香りを漂わせます。掲句は、作者の胸の内が、やや抑えられたリアリティーをもって表出されています。「胸の棘」と「秋の薔薇」との取り合わせで、作者の心中にある切なさや愁いが伝わってきます。秋の深まりの中、深い郷愁に誘われていきます。

今日生きて明日ある命りんご食ふ
[ 茨城県常陸太田市 舘健一郎 ]

(評)収穫の秋と言われるように、秋は一年で最も食卓を豊かにしてくれる季節。人々は実りの秋の喜びを分かち合います。果物の王様と言われる「りんご」の真っ赤な色は、生命力そのもののようです。その「りんご」を食して、命を繋ぐと感じる老いの心境を思わせます。切なさの中にも、明るい明日を感じさせてくれます。

墓参介護の日々もなつかしく
[ 栃木県宇都宮市 光光星 ]

(評)歳時記でいう「墓参」は、お盆の頃を言い秋の季語です。普段以上に入念にお墓を磨き、掃除をして先祖と対面します。作者は「介護の日々」まで愛しく、また、懐かしく思い出しているのでしょう。素直に優しい言葉で詠み上げた秀でた作品となっています。

久方の川の字となり天の川
[ 千葉県佐倉市 佐々木宏 ]

(評)「ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ」は、百人一首33番。「久方」は、光・天・空・月などの枕詞で「日の射す方」の意味があります。心許した仲間たちとの泊りの夜でしょうか。家族との「川の字」でしょうか。星に限りなく近い場所で眺める「天の川」は、壮大かつ美しく言葉では言い尽くせないものだったに違いありません。

ほおずきや玄関先の小宇宙
[ 東京都江東区 ねこさん ]

(評)六角のがくと共に朱に色づいた実は、人形の頭にしたり口に含んで鳴らしたりする子供の玩具でした。夏の「青ほおずき」から、やがて袋の中の実も熟し袋と共に朱く色づいて秋の色に変わります。枝からぶら下がるその「ほおずき」の様を、「小宇宙」と感じた作者の感性が冴えています。朱い温もりで家人を迎えてくれていることでしょう。

遠距離恋愛秋蝶止まる駅
[ 東京都大田区 黒田勇気 ]

(評)八音と九音の破調句に、思いの丈を詠みこんだ一句。「秋蝶」は、涼しさの訪れた木立の中を舞います。軽やかに飛ぶ春の蝶や華麗な姿の夏の蝶とは違い、秋の蝶はどこか弱々しく見えます。駅で見送る淋しさを「秋蝶」に語らせたかのような趣のある一句。「遠距離恋愛」の持つ一面が上手く表現されています。

乗り馴れし秩父鉄道天高し
[ 東京都渋谷区 駿河兼吉 ]

(評)埼玉県羽生市と秩父市を結ぶ「秩父鉄道」。都心から最も近くSLが見られるので、鉄道ファンなら誰でも知っています。この固有名詞が実に効果的で、読み手の想像力をかき立てます。生活感のある素直な叙述が技巧を凝らすよりも新鮮です。「し」の脚韻も非常に流れが良く、一句に爽快感を与えて妙味があります。

生ごみを提げて八月十五日
[ 東京都青梅市 渡部洋一 ]

(評)原子爆弾投下後の八月十五日。天皇陛下によって終戦が国民に伝えられた日。詠み手の今は、ゴミ出しが一つの仕事になっているようです。あれから七十七年、多くの局面を乗り越え、今の日本は幸せな国になっているのでしょうか。平凡な日常こそがきっと幸せなことなのでしょう。

暗がりと温もりの間に煮る南瓜
[ 東京都日野市 高山夕灯 ]

(評)「暗がりと温もりの間に」の措辞が、流れるような調べとなって響きます。この抽象的な十二音から、一気に「煮る南瓜」と現実的かつ具体的な下五へと結句させたのは見事です。秋の落日は早く、まだ日がある内に取り掛かった夕食の支度も、瞬く間に日は落ちて家族が帰宅します。「南瓜」のことこと煮える音や、ほくほくした情景が目に浮かびます。

遠き日へ返る紅葉の栞かな
[ 神奈川県相模原市 あづま一郎 ]

(評)秋の夜長を楽しむために、ふと本棚から取り出した一冊の本。その本に差し込まれていた「紅葉の栞」。若かった頃のことを思い出し、感慨にふける作者の心情が浮かびます。きれいだった紅葉を拾ってそっと挟んだまま月日が経ったのでしょう。当時を懐かしむ心境が「かな」の詠嘆によって深みを増しています。

還暦の立ちこぎに吹く律の風
[ 神奈川県茅ケ崎市 坂口和代 ]

(評)秋の季語「律の調べ」の子季語が「律の風」。「律」は陰を表し、その反対を「呂」と言います。秋冬を陰とすることから、「律の風」は秋らしい感じの風を表わし「還暦」とことのほかマッチしています。懸命に漕ぐ理由も風景もすべてを省略し、「立ち漕ぎ」だけで示した詠みは鮮やか。秋風が身に沁みる景も思い浮かびます。

秋天や百足競争子供の部
[ 神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦 ]

(評)コロナ禍にあって三年目のこの頃、やっと「運動会」も復活されることが増えました。空は真っ青な秋の天。さぞ、親子共々楽しんだことでしょう。名詞と助詞だけで詠んだ句は歯切れが良く、運動会のあれやこれやの場面が読者には浮かびます。たくさんの人々の賑わいと郷愁をも感じさせる一句。

あさはかな嘘はバレます吾亦紅
[ 神奈川県横浜市 要へい吉 ]

(評)口語俳句の良さを充分に生かし切り、日常会話がそのまま句となったような俳句です。「吾亦紅」は丈が高く、分かれた枝先に赤紫色の花を無数に付けます。その揺れる姿は、秋の野にあって寂しく物憂げです。その光景は、人との距離と疎外感を思わせます。

傷あると知りつつも買う秋の薔薇
[ 富山県滑川市 祐宇 ]

(評)薔薇は一季咲きのものもありますが主流は四季咲き。剪定の時期や気温などの条件が揃うと、夏でも秋でも同じように咲かせることができます。とはいえ、冬に向かっていく頃の薔薇は、最盛期の夏の薔薇とは趣が異なります。花を求める作者の心情を季語に語らせた一句です。一句一章で詠むことで、想いはストレートに届けられます。

秋の日を渾身にみる逆上がり
[ 大阪府池田市 宮地三千男 ]

(評)何度も練習を重ね、やっと回れるようになった時の感動は忘れ難く、ほとんどの人がそのときの感覚をいつまでも覚えていると思います。懸命に練習に励む子を見たのか、その姿に幼い頃の自分を重ねて「秋の日」が鮮やかに蘇ってきたことでしょう。「渾身に見る」の措辞が独特で巧みな一句。

わが秋思空まぶしめば深みけり
[ 大阪府和泉市 小野田裕 ]

(評)「秋思」は秋の頃の寂しい“ものおもい”を言います。どこまでも澄み渡る秋空から注ぐ光には、かえって心に微妙な陰影を深めさせられます。「わが秋思」と上五に置くことで、心の内に広がる寂しさがより一層伝わってきます。その想いを詠嘆の助動詞「けり」で締めた味わい深い作品となっています。

テムズの河に弔ひ終る鰯雲
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)テムズ川はイングランド南部のロンドン市を通過し、北海へと注ぐ全長約340キロの河。九月十九日、ウエストミンスター寺院でエリザベス女王の国葬が執り行われました。在位七十年、長く国民に慕われた君主との別れを世界中が受け止め、女王の死を悼みました。季語は作者の見つめる雲が、遙かロンドンの空にまで繋がっていることを思わせ、世界中に広がる哀しみを内包した秀句。

ハロウイーンの百鬼夜行の中に居る
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)思い思いの格好で街中を歩き廻るのが、すっかり定着した「ハロウィーン」。コスプレは年々派手さを増しています。そんな「百鬼夜行」の若者たちの騒ぎの中にいるのが作者。誰がどんな意図で作ったブームなのか。人混みの臨場感を伝えながら、ブームに踊らされている群衆を、どこか冷めた目で見つめている作者を感じます。

変わり映えない日々しかし欠けた月
[ 奈良県生駒郡 葉月十八 ]

(評)「しかし」の接続助詞がとても効果的に配されています。毎日の生活が安定しているのかと思えば、「欠けた月」がむしろ不安を感じさせます。人にはそれぞれ転機があり、また運気も何年かごとの周期を持っているとのこと。「変わり映えない日々」に、鬱々とした感情を抱いている心情を「欠けた月」が見事に表わしています。内観する姿を破調で鋭く捉えた秀句です。

新蕎麦や壁の短冊色褪せて
[ 奈良県奈良市 堀ノ内和夫 ]

(評)陽光とは鋭いもので紙類は日々色褪せていきます。そんな短冊はかえって興趣が湧くもので、年月の重みを加味してくれます。店の佇まいが、一年のほんの一時期しか味わえない「新蕎麦」との出会いを効果的に演出しています。お店の歴史と作者の愛着を感じます。

病棟の夕暮群れる秋茜
[ 徳島県徳島市 濱井アキヨ ]

(評)作者のいる病棟からは「秋茜」の群れが見えるという情景が、胸に刺さる一句です。寂しい夕暮の秋の空に見た赤い一群れの「秋茜」は、作者には希望の灯りに見えたのでしょう。写生句としてすっきりと仕上げた句は、余情も深みもある秀でた作品となっています。最近数が減っているとされる秋茜の小さな命は、生命力の象徴として明るさを感じさせてくれます。

良きことの重なる不安敬老日
[ 徳島県板野郡 伊藤たつお ]

(評)「良きこと」が続くと、次は何か嫌なことが起こるかもしれないと気を回してしまうもの。繊細で傷付きやすい人間の心を描いて妙味ある作品となっています。幸せな一日の「敬老日」。その裏にある、人間の心理を巧みに表現しています。

日を浴びて威風堂々祈り虫
[ 長崎県諫早市 伊達史子 ]

(評)鎌切のことを「螳螂(とうろう)」と言ったり、「祈り虫」と言ったり、面白いのには「拝み太郎」という傍題もあります。胸の前で鎌を揃える様が、まるで祈っている姿のように見えるから「祈り虫」です。「祈り虫」にとっては戦闘の姿なのかもしれませんが、秋日を浴びた姿は大きな斧がさぞ立派に見えたのでしょう。その姿を「威風堂々」と詠んだ作者の着眼が光っています。

我の名はつくつくほうしといふてをり
[ 大分県豊後大野市 後藤洋子 ]

(評)「つくつくほうし」が「我の名」を名乗るという何とも可笑しくて興趣ある作品。上五以外はすべて平仮名で、ラ変活用動詞の「をり」も上手くこの句を昇華させています。立秋を過ぎても悠々と鳴き続ける「つくつくほうし」。セミになった気分で詠んだ視点が、コミカルさを生んだ一句です。

錫杖の音の分け入る花野かな
[ 大分県国東市 吾亦紅 ]

(評)錫杖は修行僧が持ち歩く錫の付いた杖のこと。巡行の時の杖として、また猛禽や毒蛇から身を守るために音を立てながら歩きます。現在は巡礼などの人たちも用います。シャンシャンと響く清らかな音を「音の分け入る」と詠んだ中七は、秋の興趣と共に強く印象に残り侘しさを漂わせます。

桐一葉たびたび折れるシャープの芯
[ 宮崎県都城市 キャンパー3 ]

(評)大きな桐の葉がかすかな風に誘われて舞い落ちる様は、秋の情趣として詠まれてきました。それをシャープペンと配合させた作者のセンスが、類想を越えた新鮮な切り口の俳句を生みました。桐の葉は、じっと目で追うことのできるスピードでゆったりと落ちます。たびたび折れる芯にいらつく心情を、桐の葉がゆったりと癒やしてくれたのかもしれません。

佳作

子の靴を束子で洗ふ良夜かな
岩手県一関市 砂金眠人
くありんの実輝き落つる獣道
岩手県北上市 川村庸子
竜胆や月光煮詰め十か月
宮城県仙台市 奥山凜堂
いつの世も正解はなし曼珠沙華
宮城県仙台市 繁泉祐幸
独り居の耳底に潜む虫の闇
宮城県仙台市 朝夕
アンコールには“夢のあとに”晩秋
宮城県仙台市 響
秋茜羅漢の目鼻探しをり
山形県山形市 栗原ただし
二階みな子等の空き部屋秋の蝶
山形県米沢市 山口雀昭
どんぐりや帰らぬ日々の砂時計
茨城県松戸市 一本槍満滋
穂芒を靡かせ風の光り出す
栃木県宇都宮市 光光星
モンブランモンブラン秋の日の中で
群馬県伊勢崎市 白石大介
どこ行くの猫に問いかけ秋の雲
群馬県前橋市 荒井寿子
紅葉且つ散る学び舎は授業中
埼玉県入間市 さこさくら
こんげつはうまくいかない猫じゃらし
埼玉県北本市 深谷健
錦秋の日光いろは澄み渡る
埼玉県行田市 吉田春代
落ちそうで落ちぬふくらみ露の玉
埼玉県行田市 吉田春代
こぼれ萩女の涙の様に咲き
埼玉県比企郡 みかん成人
晩秋や我の猫背を撫でる風
埼玉県ふじみ野市 小檜山耕平
菅笠に木の実の落ちる遍路道
埼玉県和光市 此順
柿連れて子規庵尋ぬラブホ街
千葉県柏市 旅舟
新米に頷き合ふや老二人
千葉県佐倉市 佐々木宏
配列はその日の気分鰯雲
千葉県佐倉市 佐々木宏
糸瓜忌や千秋楽は巴戦
千葉県佐倉市 山口鵙
秋晴れや柿の隙間の空を狩る
千葉県千葉市 笠井淑子
ビストロの赤葡萄酒や秋の色
千葉県成田市 樹魔瑠
人間のしがらみ酔芙蓉ゆるる
千葉県船橋市 井土絵理子
隠れてて今日こそ見つける金木犀
千葉県松戸市 大友さおり
こころざし高くありたし南洲忌
東京都足立区 大野哲太郎
爽やかな深空へ続く深山かな
東京都足立区 田中正博
九十九折り果ての湯宿や夕紅葉
東京都江戸川区 羽住博之
秋深し机の奥のラブレター
東京都葛飾区 泉田夕輝
ハイボール檸檬半分沈みけり
東京都品川区 雨宮幸弘
推敲のためにかじった初レモン
東京都品川区 高橋遊
歩くほど川風やさし露の道
東京都渋谷区 駿河兼吉
老木の大枝たわむ柘榴の実
東京都渋谷区 駿河兼吉
唇の火の鎮もるやうに菊なます
東京都杉並区 田中有楽
鈍行の鉄の塊大花野
東京都杉並区 田中有楽
ドアを閉め一人寝酒や秋の暮れ
東京都豊島区 潮丸
外に出て歳時記に無い秋さがす
東京都千代田区 大橋禅太郎
鱗雲背伸びして撮る三歳児
東京都中野区 吉沢雪
秋の山もさもさ友と登りおり
東京都港区 大野栄一
庭仕事楓の下で小休止
東京都港区 尾崎理恵
屋根裏に匂ひし布団冬支度
東京都目黒区 和田十目
金秋や風の混み合う滑走路
東京都練馬区 喜祝音
ゆく秋や胸に思いの一句二句
東京都練馬区 符金徹
規格外並べて愉し薩摩芋
東京都文京区 遠藤玲奈
聴覚嗅覚味覚や涼新た
東京都小平市 佐藤そうえき
色ちがい兄弟ですかもみじさん
東京都国分寺市 ゆうたろう
秋涼し体育教師の字がきれい
東京都小平市 紫檀
秋夕焼け昭和の空が暮れていく
東京都狛江市 兎威
運動会心臓止めて位置について
東京都調布市 干し柿ライト
虫時雨われもカフカの虫と化す
東京都西東京市 はぐれ雲
ギプスしてピストル役の運動会
東京都町田市 葵
できぬことまたひとつ増え九月尽
東京都武蔵野市 伊藤由美
風よりも大きく揺るる秋桜
神奈川県厚木市 北村純一
蕎麦の花踏み入ることを許さざる
神奈川県川崎市 下村修
天高しピストルの音子らの声
神奈川県川崎市 仙茶
既読つき生存確認秋の暮
神奈川県相模原市 金本節子
とうきびを抱き満面母屋の子
神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦
紅葉床寝ころぶ孫ももみじの手
神奈川県横浜市 教示
刈り入れて土に帰るや稲穂の黄
神奈川県横浜市 久保田巻毛
街路樹の木漏れ陽揺れて紅葉増す
神奈川県横浜市 高田柗風
絹雲や天女舞ふ衣擦れの詩
神奈川県横浜市 鷹乃鈴
看護師の声も動きも爽やかに
神奈川県横浜市 竹澤聡
夕陽差す光の帯に照紅葉
神奈川県横浜市 前田利昭
天の川対岸で見る君と僕
神奈川県横浜市 森拡之
残る菊「キク」と言ふ名の母いとし
新潟県長岡市 安木沢修風
野分去りコーヒーの香に目覚む朝
新潟県新潟市 小野茶々
赤とんぼ人差し指にとまりけり
新潟県南魚沼郡 高橋凡夫
オレンジの夕陽の中の秋茜
石川県加賀市 敬俊
亡き君が四高の窓に鏡花の忌
石川県金沢市 玲
鎌置きて肩並べ見る揺れるはぞ
石川県七尾市 古田和歌子
はぜ掛けの橋に鎮座の月見酒
長野県中野市 大槻燦陽
秋風や庭に忘れし白タオル
長野県南佐久郡 高見沢弘美
コスモスの野に山姥の遊びをり
岐阜県可児市 聞羊
黄葉払い樹格見事な銀杏かな
岐阜県多治見市 緑
ハードロック流れ案山子の拡声器
岐阜県土岐市 近藤周三
藁焼きの焦げた香りや秋鰹
岐阜県本巣郡 伴田聡
火袋を覗けば円き秋の暮
静岡県静岡市 花波杏咲
文月や「文」の文字ある名前なり
愛知県大府市 小河旬文
冗談の通じぬ輩曼殊沙華
愛知県大府市 小河旬文
柿紅葉隣家無人となりにけり
愛知県蒲郡市 海神瑠珂
「クシコスの郵便馬車」で運動会
愛知県高浜市 篠田篤
盛り場に焼栗を売る小さき灯
愛知県知多郡 伊藤京子
秋日和三キロ歩く特売日
愛知県東海市 桃始笑
愛もまた淡く光りて二日月
愛知県豊川市 宮田恵里
戸を開けて名月招く妣の部屋
愛知県名古屋市 久喜聖子
秋暁や弧を描く宇宙ステーション
愛知県名古屋市 栗林奈緒
銀杏散る引退の日のナビの道
三重県伊賀市 西口まゆみ
出し抜けに朝霧の中始業ベル
三重県松阪市 谷口雅春
知れどなおライン待つ秋千切れ雲
京都府木津川市 米倉八作
ひつぢ田にてれこてれこの鳥の群れ
京都府京都市 西崎薫
駅ピアノ連弾高し秋澄めり
大阪府池田市 宮地三千男
歯磨き粉匂ひし息や冬隣
大阪府和泉市 清岡千恵子
二人良し独りなほ良し秋の嶺
大阪府大阪市 岡田諭志
印鑑を洗ひし勤労感謝の日
大阪府大阪市 清島久門
たまごサンドをひとくち大に敬老日
大阪府大阪市 清島久門
長き夜やコインテレビと点滴台
大阪府大阪市 清島久門
秋澄みて地歌舞伎の見得響きけり
大阪府大阪市 無名
名月が照らす二人の夕餉かな
大阪府大阪市 安子
制服にボンドの跡や文化祭
大阪府堺市 伊藤治美
黄葉ひらり処方箋を取りに行く
大阪府堺市 伊藤治美
高鋏よろけて掴む柿の空
大阪府堺市 椋本望生
日の丸に黒布重ぬる秋日かな
大阪府堺市 森野哲州
初生りの檸檬ひとつのありがたさ
大阪府泉南郡 藏野芳男
干し柿や今年最後の旅の駅
大阪府高石市 岡野美雪
首輪埋め積む石の上萩の花
大阪府豊中市 黄鶺鴒
梨食へば悲しみ青く透きとほる
大阪府寝屋川市 伊庭直子
曼珠沙華露は兵士の御魂かな
大阪府寝屋川市 伊庭直子
地球てふ産土に立つ星月夜
大阪府枚方市 藤田康子
新米の固き結び目解きけり
兵庫県尼崎市 大沼遊山
県境の暗き淀川冬隣
兵庫県尼崎市 大沼遊山
ヴィオロンの深きため息夜長かな
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
秋富士やさえぎる雲の一つなし
兵庫県西宮市 仲村茂美
近頃は赤が気になる冬支度
兵庫県西宮市 森田久美子
前撮りや島田に紅の秋日傘
兵庫県姫路市 和田清波
湯上がりの子の髪を梳く良夜かな
兵庫県三田市 立脇みさを
螳螂や最期は雨に負けていた
兵庫県三木市 横山達也
三輪山に名月仰ぎ野点かな
奈良県桜井市 喜多隆文
校訓の文武両道天高し
岡山県赤磐市 小林美鈴
辺津宮の色なき風に吹かれけり
鳥取県米子市 福本敬子
コスモスの表裏の顔を見せにけり
島根県出雲市 木佐優士
天気予報気になりコスモス空見上げ
広島県呉市 雪風八四二
秋鮭や亡きし猫の名呼んでみる
広島県広島市 朋栄
山粧う文の終わりを読点で
広島県福山市 永見昂大
朝霧の晴れて小菊の朝じめり
広島県福山市 林優
戻せども螳螂水へ水へ水へ
山口県山口市 鳥野あさぎ
ちちろ鳴く消化器の裏にはおらず
山口県山口市 鳥野あさぎ
水澄みて潮入川の底白し
徳島県徳島市 藍原美子
阿波弁のサーファーの人秋の海
徳島県徳島市 黒田達哉
新涼や洗たく物のよきかわき
徳島県徳島市 島村紅彩
ボーリング明日への糧に秋夕焼
徳島県徳島市 高松昌子
新涼や朝の配達道広し
徳島県徳島市 京
歎異抄を愛した父よ秋深し
徳島県徳島市 矢野秀子
行きずりといふ関係ね秋の蝶
徳島県徳島市 山之口卜一
黄落とはいつか一人で見る景色
徳島県徳島市 玲玉
放牧の牛の寝そべる星月夜
徳島県阿南市 中富はるか
満月を待つ浮島の夕べかな
徳島県阿南市 白井百合子
段畑や小さき影つれ藁ぼっち
徳島県阿波市 井内胡桃
君と待つバス停五分山粧ふ
徳島県小松島市 長楽健司
燕去に在所はしばし空つぽに
徳島県板野郡 秋月秀月
茸狩り迷へば登れと教へらる
徳島県板野郡 佐藤一子
錦秋や裏参道に舞ひ降れり
香川県仲多度郡 佐藤浩章
コスモスや恩師の歌ふ「ケ・セラ・セラ」
愛媛県今治市 藤原洋美
かりそめを終の栖に路地の秋
福岡県飯塚市 日思子
文化の日ない夕刊を探したよ
福岡県北九州市 赤松桔梗
暮れの秋儚い日々や松の上
福岡県久留米市 銀漢
虫の音に誘われ部屋の灯り消す
佐賀県唐津市 浦田穂積
流れ星願いはひとつ友の幸
大分県大分市 牧吏恵
墓守りの秋蛙猶義理堅し
大分県大分市 古庄青玉
稲妻やひらめきありとペン取るも
大分県豊後大野市 後藤洋子
クーポンも割引きもなし紅葉狩り
宮崎県宮崎市 荒尾洋一
初孫の「じいじー」とハモるキリギリス
宮崎県宮崎市 長田耕二
初産に歓喜溢れる秋の星
鹿児島県鹿児島市 有村孝人
秋の空あまねくあをく明けにけり
沖縄県那覇市 渡嘉敷五福
生きものは皆声持つや蚯蚓鳴く
アメリカオレゴン州 ロイ美奈