HAIKU日本大賞 大賞発表

HAIKU日本2021冬の句大賞

大賞
掌ほどの陽を得て冬すみれ
[ 徳島県板野郡 佐藤幸子 ]

(評)慈愛に満ちた一句です。「掌ほどの陽を得て」という措辞は、可憐に咲く冬すみれにたいして、まるで天上からやさしくスポットライトが当てられているような光景です。「掌」は「たなごころ」と言い、手のひらのことを表わします。小さな冬の日向の比喩として、掲句では用いられています。また、この「掌」は誰のものだろうかと想像がふくらみます。神仏の掌と考える方もあるでしょう。造化をつかさどる大きな存在を思い描いてもいいでしょう。宇宙と比して極小の冬すみれのいのちのかがやきを、うつくしく言いとめた作品です。この光景に出くわした作者のこころにも、あたたかい一条の光が差し込んだことでしょう。

特選

特選
ダイアナ妃のごと白鳥の着水す
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)チャールズ皇太子とダイアナ妃のロイヤルウェディングは三十年前のこと。白いドレスのダイアナ妃の姿は世界中から注目を浴びました。その記憶は今も色褪せることはありません。空から舞い降りてきた白鳥にダイアナ妃のあの優雅な姿を重ねる作者。「ごとし」の語幹の「ごと」が効いています。作者の紡いだ「ダイアナ妃」と「白鳥」の言葉によってイメージが膨らみ美しい一句となっています。

特選
灰猫や君が既読を付けぬ夜
[ 徳島県小松島市 長楽健司 ]

(評)昔は家にかまどがあって、寒さの苦手な猫が火を落とした灰の中に潜り込むことがありました。「灰猫」と呼びます。寒さの厳しい夜だったのでしょう。「君が既読を付けぬ夜」はさらに寒さが身に染みたのかもしれません。情報社会を生きる現代人とのんびり暖を取る「灰猫」の対比が切れ字の「や」によって強調され取り合わせの妙があります。

準特選

準特選
冴ゆる夜の月へ梯子をかける夢
[ 東京都渋谷区 駿河兼吉 ]

(評)「冴ゆる夜」は寒さが極まり凛として透き通ったような夜のこと。冷え切った夜は透明度が増し、月も星も闇さえもくっきりと感じられます。青白く冷たい月光は、冬ならではの美しさで作者を魅了します。月への憧れから、夢の中で月へ梯子をかけたのでしょうか。作者の感性が輝きを放つ巧みな作品となっています。

準特選
冬薔薇Ariaうたひてかれにけり
[ 大阪府寝屋川市 伊庭直子 ]

(評)「Aria」はイタリア語で、オペラやカンタータなどで歌われる独唱歌曲のこと。薔薇の盛りは夏ですが、「冬薔薇」は寒さに耐えて精一杯の花を咲かせます。冬枯れの景色の一処を彩る「冬薔薇」。蕾のまま終えてしまう花もある中、「Aria」を歌い演じきった一本の薔薇を擬人化して詠むことで一層哀れを誘います。「Aria」の表記によって華やかだった時の美しさを鮮明にします。

準特選
狼の遺伝子牙に犬眠る
[ 愛媛県南宇和郡 川村栄 ]

(評)オオカミ(大神)とも呼ばれ、狼は古代より神として崇められてきました。獰猛な遺伝子を脈々と受け継いできた狼は、田畑を荒らす害獣を捕食してくれる存在でした。日本から姿を消したのは明治時代です。絶滅した狼と飼われてきた犬。「牙」に狼の遺伝子を感じて、眠る愛犬のルーツに想いを馳せた一句が、読み手に勇ましい狼の姿を思い起させます。

秀逸句

突貫の除雪車夜を照らし出す
[ 岩手県北上市 川村庸子 ]

(評)「突貫の」と打ち出した上五で状況がよく分かり、一句一章句の見本のような作品。雪の中での立往生を防ごうと、一分でも一秒でも早く道を通したいという作業員たちの思いが込められています。除雪車が照明の先の覆いかぶさる雪を一気に切り拓いていく豪雪地帯特有の光景です。夜通し続く作業を「夜を照らし出す」と詠み、現場の懸命の様子が如実に語られています。

語り部の締には里の手毬唄
[ 栃木県宇都宮市 平野暢月 ]

(評)「手毬唄」は、もともとは正月に女の子が毬を弾ませて遊ぶのに合わせて唄うもの。今は、手毬に興ずる姿は見かけなくなりましたが、各地に童謡として残り唄い継がれています。掲句は、語り部がその締めに唄うのが「手毬唄」と詠み、俳句ならではの用法である「締」の名詞化が一層この句を凛とさせています。古きものへの郷愁も同居している語りと唄は、きっと美しいに違いないと思わせてくれます。

一陽来復リュウグウからの玉手箱
[ 千葉県船橋市 井土絵理子 ]

(評)「一陽来復」は冬至の子季語です。この日を境に日脚は伸びていきます。誰もが喝采を送った日本の探査機“はやぶさ2”の帰還。オーストラリア南部の砂漠地帯に投下した「リュウグウ」のかけらの入ったカプセルはまさに「玉手箱」です。春の気が復し、物事が良い方へ向かうという意味もある「一陽来復」との取り合わせが見事です。

巫女の舞ふ鈴がことほぐ七五三
[ 東京都江戸川区 羽住博之 ]

(評)「ことほぐ」は言葉で祝うこと。作者には「巫女の舞う鈴」がそのように聞こえたということでしょう。昔は、抵抗力のない子は亡くなることも多く、七五三の年齢になるまでの成長を見守ってくれた神様に感謝するのが「七五三」。主役である着飾った我が子に巫女の舞いが華やかさを添え、家族の幸せが晴れやかに詠われています。

まっすぐな轍ありけり雪月夜
[ 東京都練馬区 喜祝音 ]

(評)だれ一人歩いた跡のない雪道にくっきりと入った「轍」。「轍ありけり」と詠嘆で締めた一句は、その情景を鮮やかに蘇らせます。降り注ぐ月の光の中、来し方を見つめる姿も浮かんできて詩情豊かな作品となっています。雪に残した轍を辿っていくことは、今日までの道のり、辿ってきた人生をも見つめることでもあるのでしょう。

主亡き庭に蜜柑のしなる枝
[ 神奈川県横浜市 鷹乃鈴 ]

(評)「主亡き」で無常観が漂います。そんな中、たわわに実った「蜜柑」の枝を詠んだ作者。冬の果物の主役であり、親しみのある蜜柑だからでしょうか。他のものには替え難い郷愁が流れています。この蜜柑の木は作者の今年の冬を象徴するもののひとつとして、深く胸に刻み込まれたことでしょう。

二人居の思いそれぞれ年の暮
[ 石川県輪島市 かくち正夫 ]

(評)慌ただしい中にも活気が溢れる一年の終わり。新年の準備に追われます。会話はなくとも、それぞれの思いが手に取るように分かるのか。それとも、それぞれ思うことが違うのか、長年連れ添った夫婦の形はそれぞれ。「年の暮」の夫婦の時間が共感を呼び、上五と中七の措辞が誰の心にも素直に届いてきます。

コンサートはねて傘借る小夜時雨
[ 山梨県中央市 甲田誠 ]

(評)「小夜時雨」は夜に降る時雨。一般的に「はねる」はその日の興行を終えることを指す場合が多く、作者はこのコンサートの出演者か関係者なのでしょうか。「傘借る」によって、お互いの体を気遣う場の雰囲気がよく伝わります。コンサートの後の「小夜時雨」が何か浮き立つような気分にさせてくれます。

言ひ返す言葉螺旋に冬の蜂
[ 静岡県浜松市 麦星 ]

(評)「冬の蜂」はどこか哀れを誘うものです。「言ひ返す」ことなど余りしない作者なのでしょう。言えば言うほど深みに陥っていくことがあります。思わぬ展開となって抜け出せない場面に遭遇してしまい、その後悔が一句となったのでしょうか。力なく動く「冬の蜂」の弱々しい姿と重なっています。

地下鉄の風に押されて初仕事
[ 愛知県名古屋市 藍太 ]

(評)地下を電車が走ると空気が逃げ場を求め突風となります。地下鉄独特の風に押され、人の波と共に職場に向かう時のホームに降り立った臨場感があります。初仕事のこの日、まだのんびりとした気分の抜けない身体に日頃の感覚が戻ります。誰にでもある休暇明けの心理状態を詠んで読み手の共感を呼びます。

うたた寝の妻の初髪昼の縁
[ 三重県松阪市 谷口雅春 ]

(評)「初髪」は新年になり初めて結い上げた髪のこと。「初髪」での外出を済ませたのでしょう。正月疲れもあるのか、夕刻までの一時の安らぎを得る妻。縁側でうたた寝している妻を優しい眼差しで見ている作者に、仲の良い夫婦が想像され誰もが羨むような心温まる一句。

重さうな空を背負ひて大根引く
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)「重さうな空」に雪雲に覆われた寒々とした空が想起されます。「大根引く」で秋の種蒔きから始まった一連の作業が終わります。大きくなればなるほどなかなか抜けません。年齢を重ねると辛い作業ですね。身近な野菜を育てる中にも厳しい生活の匂いの伝わってくる一句。俳句は日々の暮らしの中から生まれます。

赤んぼのくさめに笑ふ赤ん坊
[ 大阪府豊中市 長谷川陶子 ]

(評)「くさめ」は「くしゃみ」のことで冬の季語です。「赤んぼのくさめ」でその場が和み皆で笑ったのでしょう。何とも微笑ましい光景です。「くしゃみ」ではなく漢字でもなく、「くさめ」とひらがなで詠んだことで表記も音も柔らかくなりました。その一瞬の、穏やかな充実の時を書き留めた一句に詠み手の心も綻びます。

寒晴を穿つトライの笛の音
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)凛と冴え渡った冬の空を突き抜けるような「笛の音」に臨場感があります。観客も寒風をものともせず、熱い闘いを見入っていることでしょう。相手の隙間を縫うようにしてトライする景が浮かび、季語「寒晴」がよく効いています。ラグビーワールドカップで日本代表が初のベスト8入りを果たし、一大ブームとなったのは二年前のこと。あの誇らしい光景を思い出させます。

白息の鏡の中の歳月よ
[ 兵庫県三田市 立脇みさを ]

(評)冬には家の中でさえ息が白くなることがあります。まだ誰も起きていない朝、作者の一日は始まるのでしょう。鏡に映る自身の白い息に作者は何を思うのでしょうか。終助詞の「よ」が優しい囁きのように響いてきます。名詞と助詞だけの多くを語らない句が読者に多くのことを感じさせます。

初雪や何の足跡丸木橋
[ 奈良県奈良市 堀ノ内和夫 ]

(評)目覚めた時の小さな驚きが「初雪や」、「何の足跡」から伝わってきます。「丸木橋」に何やらくっきりと足跡が残っており何の足跡なのか、野兎でしょうか栗鼠でしょうか。それを読者にも想像させる楽しさがあります。朝の静寂を切り取った真っ白なひとつの光景に明るい詩心が漂います。

ダギングのシャッター街や月の冴え
[ 岡山県岡山市 森哲州 ]

(評)「ダギング」はスプレーペンキで描かれた落書きの一種。商店のシャッターや建物の壁、ガード下などで見かけます。突然やってきて落書きに及ぶ迷惑行為は堪ったものではありません。この夜の穏やかならぬ心中を、鋭く冷たい月の光の射す「月の冴え」で締めくくっています。

海老の皮むきて穏やかお元日
[ 徳島県徳島市 藍原美子 ]

(評)「お元日」の一景を詠んだ何とも言えない味わいのある一句。
「穏やか」の形容動詞が一句に上手く馴染んでいて、自然体の俳句が読者の心にスッと入ってきます。海老ひとつで食卓はぐっと華やかになるもの。「海老の皮むきて」という具体的な動作に、自粛ムードの中にも穏やかな時が流れています。

一枚の賀状が舫う六十年
[ 徳島県板野郡 秋月秀月 ]

(評)「舫う」とは、舟を岸に繋ぎ留めたり舟と舟を繋いだりすること。舫い結びは、しっかりとしてしかも解きやすい漁師特有のロープの結び方を言います。掲句は「六十年」がピタリとはまった素直な叙述句。「一枚の賀状」が培ってくれた縁を大切に思い感謝する作者の姿が見え、それぞれの道を歩んできた時の重みをじっくりと考えさせられます。

雪だとも言わず立ち去る配達員
[ 福岡県福岡市 山崎あゆみ ]

(評)不機嫌とか愛想が悪いというのではなく、無用な事はしないという淡々とした配達員の姿でしょうか。実直でまじめな仕事ぶりとの矛盾が一句となって成功しています。言葉のやり取りはなくても、どこか通じ合っているような心理がうかがえます。読み手によって様々な場面が想定されるのがこの句の魅力です。

浮寝鳥水一枚の波枕
[ 大分県国東市 吾亦紅 ]

(評)「浮寝鳥」は鴨や雁などが水に浮いたまま眠っていることを言います。「波枕」という風情ある言葉を得て、ゆったりと過ごす水鳥の姿を思い浮かべ、北から渡ってきて春には帰っていく宿命を持った鳥の安らぎの時を想像させてくれます。風は穏やかで川や池の水面は静かです。まさに浮き寝をしながら「波枕」にたゆたっているのでしょう。

凍星やグラスを弾く泡の音
[ 大分県豊後大野市 後藤洋子 ]

(評)ハイボールやチューハイ、シャンパンの弾ける泡の音が聞こえてきます。冬空に輝く「凍星」の冴えた光から手元の「泡の音」へと大から小への変化。切れ字を使った二句一章が見事に決まり、季語の斡旋も絶妙な一句。冴え冴えとした星影とグラスの中の泡の煌めきが、冬の一夜の物語を美しく彩っています。

古里の駅はもうすぐ神楽笛
[ 宮崎県日南市 近藤國法 ]

(評)里に伝わる「神楽」の多くは笛や太鼓などで囃し演じられます。古里が近づくにつれ、焦がれる気持ちが深まります。「神楽笛」の音色を聴き、懐かしさと楽しさが蘇ったことでしょう。里神楽は地域それぞれに特色があります。その光景や人々の賑わいも想像できて情趣ある一句となっています。

佳作

初場所や君が代は心の中で
北海道上川郡 夏埜さゆり女
ロマンスを仕掛ける言葉雪しまく
北海道札幌市 天門じゅん
深々と想いがとどく雪あかり
北海道札幌市 鎌田誠
鼻歌も凍れて落ちる通勤路
北海道札幌市 小林絵里子
音を曳き離陸の一機冬空へ
北海道札幌市 土橋ゆりな
老いてゆく我が守りし冬の子よ
北海道千歳市 秋田聡子
ドア開かず助け求める雪の朝
北海道苫小牧市 渡辺千惠子
クリスマス小皿にケーキ仏にも
岩手県一関市 砂金眠人
コロナ禍も自然は強し初日の出
岩手県盛岡市 美山
五線紙に氷柱の雫はやりうた
岩手県盛岡市 蘭延
亡き父母の遺影とともに冬籠
宮城県仙台市 鹿目勘六
ため息は生きる証しと寒椿
宮城県仙台市 繁泉祐幸
新年を生きぬく覚悟の老いのみち
山形県山形市 遠藤津慶
降る雪にシャンソン聞きし夕べかな
山形県米沢市 山口雀昭
木枯や九時閉店の赤提灯
福島県いわき市 白楊
大枯野渡船ゆきしや水尾三筋
茨城県常総市 石塚明夫
句をひねり咳だけ響く四畳半
茨城県日立市 松本一枝
かまど猫来世は星の夢をみる
茨城県常陸太田市 舘健一郎
霜降れば畑一杯甘きかな
茨城県水戸市 一本槍満滋
冬枯やひとつの道を振り返る
群馬県安中市 福田誠
カルタ取り赤チンの膝突き合わせ
群馬県前橋市 藍澤拓紀
鍵穴に鍵の入らぬ寒夜かな
群馬県前橋市 荒井寿子
鐘も止みいましばらくの初日かげ
埼玉県上尾市 アヴィス
しなやかに裾をひろげし初浅間
埼玉県行田市 吉田春代
節分の鬼をかさねて老いにけり
埼玉県越谷市 新井高四郎
どこにどう置こう正月祝い鯛
埼玉県さいたま市 関とし江
雪の富士大きく見えし誕生日
埼玉県所沢市 紀の国
雪原に陽光ほつと座りをり
埼玉県ふじみ野市 黒川茂莉
寒潮や海より岬先に昏れ
千葉県柏市 東洋司
コロナ禍を知る由もなし初日の出
千葉県浦安市 遊山
恋しさを日々形成す毛糸編み
千葉県君津市 叶矢龍一郎
放棄地の憂ひ語るや枯木立
千葉県佐倉市 宏楽
丸餅や故郷遠く父の顔
千葉県千葉市 笠井淑子
凍蝶や南の島にレアメタル
千葉県千葉市 加世堂魯幸
セコイヤの森鳴きかわす寒鴉
千葉県船橋市 川崎登美子
相棒は左利きなりレノンの忌
東京都足立区 いっぽう
しぐるるや仔犬身を寄すダンボール
東京都足立区 大野哲太郎
この道は知つてゐるなり枯芙蓉
東京都板橋区 山月恍
ため息の目線の先に冬の月
東京都杉並区 市川伸一
冬の空木々の間にある景色
東京都杉並区 映月
冬至にてマフィンをひとつ頼みけり
東京都杉並区 千田チタン
新年にコロナ退散まず祈り
東京都世田谷区 久保紀子
冬麗やすずろな道に啼く鳥か
東京都千代田区 伊々波
息白みあと一ヶ月塾迎え
東京都豊島区 潮丸
砂利を踏む巫女の足音冬の梅
東京都練馬区 符金徹
真空に近し冬凪の内海
東京都文京区 遠藤玲奈
十二月八日と思い雨戸閉づ
東京都青梅市 渡部洋一
コロナ禍の換気も大事隙間風
東京都小平市 佐藤そうえき
雪深し針一本の落ちる音
東京都調布市 宗田利一
水涸るる角の取れたる石あまた
東京都八王子市 村上ヤチ代
映画館出れば雪の夜の銀座
東京都東村山市 鮫島啓子
新年に地図の神社を参拝す
東京都町田市 へったくれ
冬晴れや孫と一局オンライン
東京都武蔵野市 伊藤由美
善人が枝に結ぶや初御籤
神奈川県川崎市 下村修
歌かるた送られうれし天つ風
神奈川県川崎市 長橋すま子
コンビナートの夜景に力冬の海
神奈川県相模原市 あづま一郎
リハビリす夫の一歩に春隣
神奈川県相模原市 金本節子
深雪晴落人村の朝を発つ
神奈川県相模原市 藤田ミチ子
追羽子やゆつくり延びる生命線
神奈川県相模原市 盛みさを
枯芝に大の字で見る空の青
神奈川県茅ケ崎市 坂口和代
焚火して乗れない話乗る話
神奈川県茅ケ崎市 田中かつみ
ガス灯り湯屋街照るも冬の川
神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦
寒の月雲がふわりと包みをり
神奈川県大和市 こずむす
寒行の尼僧の頬に紅のさし
神奈川県横浜市 要へい吉
初孫やお披露目出来ぬ正月か
神奈川県横浜市 教示
終電の警笛鋭し大晦日
神奈川県横浜市 小橋風音
服替へてマスクの色をかへにけり
神奈川県横浜市 竹澤聡
アプリ見て名を知らぬ花冬温し
神奈川県横浜市 前田利昭
一頻あの場所を想ひ出す冬
新潟県長岡市 安木沢修風
雪道は慣れたものぞと母笑ふ
新潟県新潟市 茶々
ゲレンデをトニーの調べ流す夜
新潟県南魚沼郡 高橋凡夫
夫はまだ目の前にをり除夜の鐘
富山県南砺市 珠凪夕波
君の背に寒紅残す夜明けかな
石川県金沢市 玲
青空に霧氷の続く別世界
福井県福井市 佐藤雅子
赤き手の先の氷柱や背伸びする
長野県南佐久郡 高見沢弘美
直木賞買うて書斎に冬ごもる
岐阜県岐阜市 辻雅宏
枯葉落つ揺れる水面に逆さ富士
岐阜県岐阜市 山崎眞也
まだ蕾無き待春の樹に触るる
岐阜県郡上市 瑠珂
外ツ国で妻の声聞く初電話
岐阜県多治見市 緑
老脳に鞭打つ日記買ひにけり
岐阜県土岐市 近藤周三
雪の富士背に発つ夢の初飛行
静岡県菊川市 季野みく
稜線はバイオリズムか山眠る
静岡県湖西市 市川早美
深呼吸冬の朝日に朱き富士
静岡県三島市 三島湧水
鉢植えに如雨露傾け小春かな
愛知県稲沢市 山茂
あの青き星は兄なり冬銀河
愛知県岡崎市 西村愛美
初雪や窓も心も真白に
愛知県春日井市 石川公子
リモートの姉と深夜の節料理
愛知県新城市 すずさん
凍星に立ち竦みたる小さき者
愛知県知多郡 伊藤京子
雪化粧美しき肌輝きぬ
愛知県豊川市 御知恵
寒卵母の皿にはもう一個
愛知県豊田市 アバズレーナ
お帰りを待つ人のゐて冬温し
愛知県名古屋市 久喜聖子
狐火や「母さんですか」と聞いてみる
愛知県日進市 嶋良二
冬耕のひとりに余る日差しかな
三重県松阪市 宇留田敬子
初風呂やアルキメデスの湯が溢れ
滋賀県彦根市 馬場雄一郎
冬の風スギの想いと花粉を運ぶ
京都府宇治市 しいな育香
問えば真顔に柊を挿したこと
京都府京都市 太田正己
愛猫の骨壺ことり月冴ゆる
京都府京都市 水色
初雪や朝日輝くタイヤ跡
京都府京丹後市 川戸暉子
されど人はやはり良きもの冬ごもり
大阪府和泉市 小野田裕
閉店のきはの常連雪女
大阪府和泉市 清岡千恵子
「雪女」八雲作には子が十人
大阪府泉佐野市 小川暁美
おでん種加わる分だけ会話増し
大阪府大阪市 石田隆至
七週目宿して小春日和かな
大阪府大阪市 清島久門
父祖の墓見てゐる鷹と思ひけり
大阪府大阪市 清島久門
迷信を包む蒲団の裏表
大阪府大阪市 清島久門
両手上げ走り来る児や初御空
大阪府大阪市 小路幸子
けが直りそろりと歩む冬日和
大阪府河内長野市 新田嘉子
山茶花の垣しなやかに猫行き来
大阪府岸和田市 夜明久美子
老猫と縁側わかち日向ぼこ
大阪府岸和田市 夜明久美子
少年の遠回りして冬銀河
大阪府堺市 伊藤治美
読みかへす子の寄せ書きや冬林檎
大阪府堺市 伊藤治美
ロングリードのちわわ待春を嗅ぐ
大阪府堺市 椋本望生
ゆかりの地慈尊院に舞う雪ほたる
大阪府堺市 山口厚子
道頓堀のネオンも寒し新コロナ
大阪府泉南郡 藏野芳男
コロナ禍や寒風通す電車窓
大阪府高石市 岡野美雪
日暦のまだよそよそし松の内
大阪府豊中市 宮田一代
ミニスカの嫁のお酌の小正月
大阪府枚方市 玉水敬藏
ストリップ劇場跡の枯木かな
兵庫県尼崎市 大沼遊山
鷹匠の鷹を吸収したる影
兵庫県尼崎市 大沼遊山
逆打ちの納経堂の木の葉かな
兵庫県尼崎市 大沼遊山
株価読むニュースの声やおでん食ふ
兵庫県神戸市 季凛
北風やママチャリは行く陽を背負い
兵庫県神戸市 鞍馬睦子
一体の埴輪となるや日向ぼこ
兵庫県神戸市 平尾美智男
世界中マスクせし夜のオリオン座
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
あちこちに絶叫あがる闇夜汁
兵庫県西宮市 森田久美子
鳥来たる松枝の先の切りミカン
兵庫県姫路市 和田清波
初夢を青天井に忘れけり
奈良県奈良市 野瀬真由美
初詣いつもと違ふ願ひごと
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
黄金雲暮れ行く年の凛々と
奈良県奈良市 緑風
国境も天国もなきレノンの忌
和歌山県紀の川市 走吟
勝独楽も時に敗れり喧嘩独楽
和歌山県御坊市 水村凛
これも良し浮かれ騒がぬ新年会
島根県出雲市 草豆
靴紐のうまく結べぬ冬となる
広島県安芸郡 ありちゃんが
寒雷や安宿の窓震へたり
広島県尾道市 広尾健伸
病も母も仲良く無事に年を越し
広島県呉市 齋藤りか
御降りや父に予期され皆笑ふ
広島県福山市 永見昂大
水仙の一輪挿しに身を癒し
広島県福山市 林優
カップ麺ひとり牡丹鍋もひとり
山口県山口市 鳥野あさぎ
工事中の看板ひとり冬の雨
山口県山口市 渡邉貴之
お不動の冬至の風に身を任す
徳島県徳島市 青空和子
幸分けの花嫁菓子や冬ぬくし
徳島県徳島市 有持貴右
待春や大き庭石金閣寺
徳島県徳島市 笠松怜玉
余りにもほっこりとして冬の月
徳島県徳島市 笠松怜玉
宵戎福を求めて足早に
徳島県徳島市 京
徒歩五分実は十分師走かな
徳島県徳島市 山之口卜一
堂縁に暫し見渡す冬もみじ
徳島県徳島市 山本明美
平らかに浸す二合や寒の水
徳島県阿波市 井内胡桃
古漬けの重石下ろすや初時雨
徳島県阿南市 白井百合子
雲一すじ昼月浮ぶ冬の空
徳島県板野郡 一宮チエ子
麦蒔の腰なだめつつ進みけり
徳島県板野郡 伊藤たつお
老いてなほ何より樂し初句会
徳島県板野郡 奥村文子
転寝という極楽や堀炬燵
徳島県板野郡 小西博之
初句会末座で胸をときめかし
徳島県板野郡 佐藤一子
耕耘機の影の重たき冬田かな
徳島県美馬郡 美葉
福袋今年はネットでお買い物
香川県高松市 宮下しのぶ
蓮根を縦半分に切りおでん
愛媛県松山市 秋本哲
夫婦して語る冬の夜孫自慢
愛媛県松山市 宇都宮千瑞子
北風の声やかそけしナット・キング・コールを聴く
福岡県飯塚市 日思子
クリスマス手術結果を待つロビー
福岡県北九州市 たつや
小寒のゆぶねにゆるむ思考力
福岡県北九州市 木蓮
眼鏡拭く風花ひとつ無人駅
佐賀県唐津市 浦田穂積
餅三つ食って鐘をつくこの子かな
熊本県阿蘇郡 興呂木和朗
私には会わない仕組で新年
大分県大分市 安部あけ美
冬菫無縁仏に石ひとつ
大分県国東市 吾亦紅
冬寒に灯りぽつぽつ街の夜
鹿児島県鹿児島市 有村孝人
祝箸想起し岐阜のプロポーズ
沖縄県豊見城市 あまがみこ
雲裏に黄金満ちきて初日の出
沖縄県中頭郡 畑人
蘊蓄は妻にまかせて薬喰
沖縄県那覇市 稲福達也
梯子乗り江戸保存会粋な技
沖縄県那覇市 享珠
虎落笛またたく星を見てをりぬ
アメリカオレゴン州 ロイ美奈
ハリス氏初副大統領女正月
アメリカカリフォルニア州 鈴木良子