HAIKU日本大賞 大賞発表

HAIKU日本2021春の句大賞

大賞
金剛の杖音亘り水温む
[ 大阪府池田市 宮地三千男 ]

(評)「水温む」とは、立春後の寒さがゆるんできて、池や沼、川などの水から、冬の冷たい感じが消えてあたたまってきたことを言います。明るくなった日ざしに水面がきらきらとかがやき、水辺の植物が芽を伸ばしはじめ、水底の魚も動き出す。春の息吹が触覚、視覚を通じて感じられるようになります。「金剛の杖」という措辞からは、「同行二人」と書かれた笠をかぶった遍路の姿が思い浮かびます。掲句では、金剛杖と「水温む」の取り合わせとして、一句全体で遍路を詠ったところが巧みです。「同行二人」の弘法大師のお守りを受ける遍路の歩みを、自然の造化のなかで見事に捉えています。

特選

特選
己が影目掛けて落つる椿かな
[ 神奈川県川崎市 下村修 ]

(評)椿の散る時は花びらが散るのではなく、花全体が音を立てるかのように落ちます。その椿が地上へ落ちてゆく様を切り取った一句。落花点は「己が影」。「目掛けて」と擬人化して詠むことで、椿に強い意志を持たせ、この花の気高さを表出しています。一語一語が心に沁みて印象的です。格調高い写生俳句となっています。

特選
入学の日の下宿屋の匂ひかな
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)試験に無事合格し、新生活への期待を胸にいよいよ入学の日。下宿先に郷里からの荷物が置かれ、期待がある反面、緊張と不安の中での第一歩を踏み出した日に感じた「下宿屋の匂ひ」。昨日までとはまるっきり違う生活が始まるという思いに、格別のものがあります。入学シーズン真っ只中の春、過ぎし日の甘酸っぱい思い出や感慨を込めた回想句でしょうか。あの日の自分を重ねたのかもしれません。

準特選

準特選
ワクチンを打つて続きの畦を塗る
[ 大阪府堺市 椋本望生 ]

(評)田植えを前にしてしっかりと畦を塗り固めていく作業が続きます。コロナのワクチンを打ち終えた安心感もあるのでしょう。「続きの畦を塗る」と淡々と農作業に精を出す姿が、田に生きる人の強さを表わしています。「ワクチン」と「畦を塗る」という今の日常をありのままに詠んだことが殊更斬新に見えます。まさに時勢を詠んだ時事俳句として味わい深い一句。

準特選
鬼ごっこ沈丁の香を突き抜けて
[ 千葉県船橋市 井土絵理子 ]

(評)飛び回っている子ども達の様子が伝わってきます。沈丁花の香りは遠くまで届き、春の訪れを教えてくれます。沈丁花は春を、金木犀は秋を代表する香りの木です。そんな香りの中での「鬼ごっこ」を見守る作者。「香を突き抜けて」の措辞が勢いと楽しさを読者に届け、子ども達の躍動する春を生き生きと描き出しています。

準特選
松葉杖慣れ病室のおぼろづき
[ 岡山県岡山市 松浦奉希 ]

(評)何があったのか、松葉杖のお世話になっている作者は17歳。結果は良好で、月を眺める心の余裕も持てるようになったようです。春の大気で物影がぼんやり見える現象を昼は霞、夜は朧と呼び古人もこの風情ある景を味わい歌に残しました。春の夜空にうすぼんやりとかかる「おぼろづき」。「おぼろづき」を眺めながら静かな病室にいる作者の退屈や気怠さが伺えます。

秀逸句

凧高し青空ぎゆつと引き寄せる
[ 山形県山形市 栗原ただし ]

(評)風に乗って高々と揚がる凧は、逞しく清々しく感じられます。「青空ぎゆつと」に、澄んだ青空に舞う凧の姿が鮮やかに表現されています。「凧」は競技としても行われ、各地に糸を切り合う凧合戦が伝わります。「凧高し」と一点に絞った詠みによって、春風を受けぐんぐん泳ぐ凧の迫力と臨場感を増し、読み手の心を瞬時に捉える爽快な一句。

土は過去草は未来へ野焼かな
[ 茨城県常陸太田市 舘健一郎 ]

(評)山や草原などに火を放って枯草を焼き払う「野焼」は、病害虫を駆除してくれ残った灰は肥料となります。奈良・若草山や山口・秋吉台、阿蘇・草千里などの「野焼」は春を告げる風物詩です。草原はそのまま放置しておくと森林へと変化していき、そうならない為にも欠かせない大切な作業です。「土は過去草は未来へ」の措辞に、青草の生き生きとした生長と未来への想いが息づいています。

春星も産声を待つ牛舎かな
[ 群馬県伊勢崎市 白石大介 ]

(評)「春星」はかすかに潤んだように見え淡い光で瞬きます。春の星空の下、牛の出産の時を待つ心情が伝わってきます。緊張の時間が続き、無事出産を終えた時の喜びはひとしおでしょう。神秘な生命の誕生は何事にも代えられないかけがえのないものです。一夜の情景を「春星」の輝きが優しく包み込んでいます。

風光る風の集まる無人駅
[ 埼玉県行田市 吉田春代 ]

(評)日差しもだんだんと強くなってきた春、その光を捉えきらめいて見える風を「風光る」と言います。「風光る風の集まる」と畳み掛けるように詠んで仕上げた一句。新生活がスタートし、この無人駅にも新しい通勤や通学の利用者が集まってくるのでしょう。「風の集まる」にはそうした意味合いも含まれているように感じられ、「風光る」によって人々の生き生きとした姿が浮かびます。

蝮草あゆみそろりとなりにけり
[ 埼玉県さいたま市 アヴィス ]

(評)「蝮草」は上部にある葉の先端が尖って突き出しています。ちょうど蝮が敵を襲う時に頭をもたげた姿によく似ており、茎の色も褐色のまだら模様で蝮を連想させます。山や川原の草むらで見かけて、さぞ不気味だったのでしょう。上五の季語を漢字に、中七下五の措辞を平仮名表記にし、くっきりと区別することで一瞬ひるむ状況を字面からも伝えています。

切りすぎた前髪払う春疾風
[ 埼玉県深谷市 深谷健 ]

(評)「春疾風」は、日本海を通過する低気圧に吹き込む強い南風。春先の関東地方で多く発生します。強風になびいた切り過ぎた前髪。意に沿わないという後悔よりも爽快さを感じさせてくれる一句。爽やかな一句と捉えるのは季語「春疾風」の響きでしょう。作者の行く手を阻む「春疾風」と「前髪」の取り合わせが絶妙の一句です。

道端に幸せあるか花菫
[ 千葉県千葉市 笠井淑子 ]

(評)道端の菫にも幸せを感じることも、きっとあるだろうという作者の心が伝わってきます。道の端っこにしおらしく咲いた「花菫」に「幸せあるか」と呼び掛けた一句。万物に霊魂が宿ると考えるアニミズムは、感情や知性があるのは人間だけではないという考えです。作者に呼び掛けられた花菫もきっと幸せを感じた事でしょう。

鶴引くや地に疫病の満ちゆくも
[ 東京都渋谷区 駿河兼吉 ]

(評)天空を戻る鶴に、お前は行ってしまうのかと呼び掛けたような一句。秋に渡来した鶴が越冬し、春になって北方へ帰っていくことを「鶴引く」と言います。ルートとなる地点の上空には、数百、数千もの鶴が整然と列をなして帰っていく“鶴の北帰行”が見られます。その感動を切れ字「や」で詠嘆した一句。地上に取り残されたかのように感じる人々の悲哀を更に深めています。

白杖の音を見送る梅の花
[ 東京都杉並区 市川伸一 ]

(評)「白杖」は視覚障害のある人が道路を通行するときに使用する白い杖。杖を突く音は周囲に存在を知らせる役目もあります。「梅の花」の清楚な匂いが、目の不自由な方の背に届いているかのようです。梅の花が「見送る」と詠み「梅の花」も作者と同じように、無事目的地に着くことを願っているかのように優しく気品のある一句に仕上げています。

野菜屑土にもどして彼岸かな
[ 東京都青梅市 渡部洋一 ]

(評)食べ物は自分で作らねば手に入らない時代が来るとも囁かれています。「野菜屑」を埋めることで土づくりにいそしむ作者。下五に「彼岸かな」と置くことによって、ご先祖様への感謝の気持ちと悟りの境地への想いが感じられるような一句。世の中は循環によって成立していて「野菜屑」も人間も土に戻るのです。色々な気付きを今一度考えさせてくれる秀句。

螺髪掃き傘反りかやす春嵐
[ 神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦 ]

(評)仏様の丸まった髪の毛を「螺髪」と呼びます。髪の毛一本一本がカールしているこの髪形は、悟りを開いた仏様の特徴のひとつです。いたずら好きな「春嵐」は、仏様の頭の螺髪を掃き、人の傘などは反り返してしまいます。「春嵐」は塵や埃を巻き上げながら時には災害をも起しかねない強風です。難儀する参拝者の姿を冷静に描写した一句。

夕暮れもさみしからずや百千鳥
[ 神奈川県横浜市 要へい吉 ]

(評)鳥たちが次々に現れて鳴く様を表わすのが「百千鳥」。春の山野を明るくしてくれます。日も暮れてきたというのにお前たちは寂しくないのかと、まだ頻りに鳴き交わしている鳥たちに呼びかけています。「百千鳥」の季語の持つ本意本情を「さみしからずや」の措辞に込めて詠んだ一句。

補聴器は音符のかたち桜草
[ 富山県南砺市 珠凪夕波 ]

(評)「かたち」と平仮名表記したことで優しさが伝わってきます。背丈20センチほどの「桜草」。花の形は桜の花に似て愛らしく、色の鮮やかさがその場をパッと明るくしてくれます。暖かい春の一日、机の上に置かれた補聴器。確かに音符の形に似ています。一句の底辺には穏やかさが流れ、日常の何気ない景を詠んだ落ち着きのある一句となっています。

行く春や赴任先への夜行バス
[ 石川県加賀市 敬俊 ]

(評)季語「行く春」は去り行く春を季節の移ろいとして客観的に捉えた季語です。コロナ禍で今はバスターミナルの様相も変わってしまっているのでしょう。「夜行バス」に不安と哀切を感じます。巡る季節の中であらゆるものが淡々と流れていきます。家族への想いを胸に、赴任先へと旅立つ作者の姿が描かれています。

花盛り君説く梶井基次郎
[ 石川県金沢市 玲 ]

(評)梶井基次郎は大正から昭和初期にかけて活躍した小説家で、作品に「檸檬」や「桜の樹の下には」などがあります。いかに桜が美しいかということを「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!」と強烈な書き出しで綴ったのが「桜の樹の下には」。桜を見るとあのフレーズが思い出されるという人は少なくないでしょう。満開の桜の下で梶井の世界観が語られ、作者の心の中にも広がります。

合格を確かめ小さく拳振る
[ 愛知県高浜市 篠田篤 ]

(評)春には人生の節目となるさまざまな場面があります。入試や受験と共に「合格」は春の季語です。掲句から伝わってくるのは読者の心をもウキウキさせる充足感。合格の喜びの一方で、不合格の人もいる悲喜こもごもの合格発表。「小さく拳振る」の控えめに噛み締める喜びに、明暗分かれる日の微妙なニュアンスの光景が映し出されています。

薄氷の蒼き時間を割りにけり
[ 大阪府和泉市 小野田裕 ]

(評)「薄氷(うすらい)」は、春の到来を感じさせる季語です。キラキラとした輝きは儚さを連想させます。春の明け方を「蒼き時間」と表し、掲句は作者の心象が滲む一句となっています。中七と下五の措辞が印象深く、助動詞「けり」がよく効いています。作者の心模様と「薄氷」との取り合わせが深い余韻を残しています。

麦を踏み地球の角に躓いた
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)躓いた小石を「地球の角」と表現したのでしょうか。大きく飛躍して詠んだその非凡さに脱帽します。早春の冷たい風が吹く中で青く伸びた麦を踏む姿は、一歩ずつ丁寧に地球を踏みしめていく地道な作業です。小さな人間の営みを普遍的な姿に置き換えた一句。地球という宇宙のひとつの星で行われる「麦踏み」という動作が、何か大きな意味を持つかのように感じられます。

花の朝制服のまゝ病窓下
[ 大阪府堺市 伊藤治美 ]

(評)コロナ禍にあっては病室に見舞うこともできません。登校前に制服のまま、入院している部屋の下にまで来てくれたのでしょうか。桜の咲いている「花の朝」の光景。思わず「優しいね」と声を掛けたくなるような作品となりました。窓の下から入院している人を想う気持ちが読み手にも伝わってきます。

拈華微笑薄氷を踏む音かすか
[ 大阪府寝屋川市 伊庭直子 ]

(評)「拈華微笑(ねんげみしょう)」は禅宗で以心伝心のこと。霊鷲山で説法した釈迦が華を拈(つま)んで大衆に示したとき、弟子の迦葉(かしょう)だけがその意を悟って微笑し、それによって正しい法が伝えられたという仏語集によるもの。この場面を「薄氷」を踏む音に喩えたところに、作者の感性が生きて魅力的な一句となっています。

道真の梅散りてゆく手水哉
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)政敵の讒言により太宰府に流された道真公。太宰府天満宮は菅原道真を御祭神として祀る神社です。「東風吹かば」の有名な歌でも分かるように、梅の花を深く愛した「道真」。「散りてゆく」からは、都に咲いた梅が一夜にして太宰府の「道真」の元まで飛んで行き、咲き匂ったという“飛梅”を想像させます。「道真」の人物像を浮かび上がらせる風雅な詠みが、読者を平安の世へと誘うかのようです。

その恋の起承転結花万朶
[ 兵庫県三田市 立脇みさを ]

(評)花万朶(はなばんだ)は満開の桜のこと。垂れ下がったたくさんの枝に咲き競うように咲く花を指します。「その恋」は現実に進行形の恋なのか、映画やドラマの中の恋なのか。少しだけ離して詠んだ「その恋」という表現が、奥ゆかしさや淡い想いを醸し出しています。「花万朶」の下五が絶妙で、いずれにしても幸せな結末を想像させてくれます。

花夜道耐えてみますかもう一年
[ 島根県出雲市 後藤英興 ]

(評)「花夜道」に満開の桜の華やかな美しさと共に、何処か移ろいの儚さも感じさせます。俳諧や和歌の中で、花は人生の無常に重ねて詠まれてきました。「花夜道」という優艶な上五の措辞に、中七の気楽さが際立っています。厳しいコロナ禍にあってじっと耐えながらも、何処か読者をホッとさせてくれます。さらにもう一年我慢を強いられる虚しい気持ちを代弁してくれているような一句です。

ハーネスを外す余生や春の家
[ 岡山県岡山市 森哲州 ]

(評)掲句のハーネスは、盲導犬が体に付ける胴輪でしょうか。訓練を終え合格した犬のみが、盲導犬としての役目を担うことになります。大役を終えリタイアした時にハーネスを外します。お疲れさまの感謝と愛情を込めた作者の想いと、盲導犬の安堵感が伝わってきます。余生となる家族との暮らしが待っている「春の家」の下五が、温かい響きとなって聞こえてきます。

機嫌よき朝の包丁春キャベツ
[ 徳島県阿波市 井内胡桃 ]

(評)朝のメニューの「春キャベツ」。今が旬のフレッシュさを感じて、それだけで気分が良くなるものです。そんな感情を素直に俳句にしています。柔らかくて、割ってみると芯まで黄緑色。店頭に並ぶのは春の一時だけです。パリパリと剥き、シャキシャキと包丁で切る朝の台所の表情が伝わってきます。上五の「機嫌よき」の措辞が、朝食の用意をする楽しい音を生き生きと響かせます。

つばくろよ帰って来たか倉の破風
[ 徳島県板野郡 一宮チエ子 ]

(評)切妻など三角屋根の倉の内側で、燕の巣作りが始まっているのでしょう。「破風」は屋根の妻側にある装飾板で、風や雨が吹き込むのを防ぐ役目があります。この場所に毎年帰ってくる燕を愛おしく思っての作。「つばくろよ」と呼び掛ける声が読者の心にも優しく届き、「帰って来たか」の措辞に作者の深い感慨が伝わってきます。平和な日常が目に浮かぶようです。

恋猫のネオンの街に隠れ棲む
[ 大分県国東市 吾亦紅 ]

(評)「恋猫」は夜の闇の中、ペアになる相手を求めて放浪します。春は猫の発情期であり「恋猫」は春の季語です。「恋猫」と「ネオンの街」の取り合わせがおもしろい一句。春の夢物語は秘密めく方が面白く、「隠れ棲む」と詠むことで、猫特有のしなやかで強かな特性を描き出しています。いかにも「恋猫」の夜の恋物語が想像できる一句です。

結願の遍路はやさし案内受く
[ アメリカカリフォルニア州 鈴木ロジー ]

(評)徳島県の霊山寺を振り出しに、全長約1,400キロの四国八十八か所霊場を巡礼する「遍路」。「結願」はそのすべてを巡り終えることで、最後の八十八番は香川県の大窪寺です。この日、寺に居合わせた結願を成し遂げたお遍路さんの優しさに感銘を受けた作者。その場の鳥のさえずりや柔らかい風、芽吹き始めた明るい山々の景色までも伝わってきます。

佳作

朧月ものいふ自動販売機
北海道旭川市 三泊みなと
梅よりも先に桜の北の春
北海道札幌市 鎌田誠
おとりよせたらいうどんで春笑顔
北海道千歳市 暁夏
奥山に雪解の歌流れをり
岩手県一関市 砂金眠人
笑い声振り向く瞳つくしんぼ
岩手県盛岡市 蘭延
たらの芽や小さき棘の愛おしき
宮城県仙台市 奥山凜堂
一日の老いを蓄え春立ちぬ
宮城県仙台市 繁泉祐幸
春祭り八十母の薄化粧
山形県酒田市 石川幸子
朧月一山越えてみたくなり
山形県米沢市 山口雀昭
春愁い手紙何度も詠みました
福島県白河市 本田鶺鴒
定年を声無く送る雪柳
茨城県牛久市 小坂四十五
花冷えに一輪挿しの孤独かな
茨城県筑西市 田宮秀敏
夜桜や堀の向こうは別世界
茨城県日立市 松本一枝
花曇りブルーノートを聴きながら
茨城県水戸市 一本槍満滋
蝌蚪の紐解けて命のちりぢりに
栃木県宇都宮市 平野暢月
美容室鏡に鉢の梅が咲き
埼玉県行田市 吉田春代
夏近き試着室出る妻の顔
埼玉県越谷市 新井高四郎
三才の歩みほのぼの春さかり
埼玉県さいたま市 アヴィス
鳥帰る夕日に染まる高層階
埼玉県和光市 此順
春惜しむ大和の旅の余情かな
千葉県我孫子市 八川信也
叩かずに春の蚊を吹く漢かな
千葉県浦安市 うだがわくん
テレワーク囀り聴きて始業かな
千葉県佐倉市 佐々木宏
水底の個展アートや蜷の道
千葉県佐倉市 佐々木宏
背くらべ肩ごしの笑み春きたり
千葉県千葉市 阿部真理子
獣らの足跡深き春の土
千葉県千葉市 加世堂魯幸
花盛り眼福なれど肩は凝り
千葉県千葉市 清水醸
子ら帰るぶらんこの揺れ残しつつ
千葉県船橋市 井土絵理子
春風や山を下りゆく木のおもちゃ
千葉県船橋市 川崎登美子
春の雲門出喜ぶ吾子の顔
東京都足立区 まっちゃん
星朧そもそも光とは何や
東京都板橋区 山月恍
春めくや塗り絵のやうに色を足し
東京都江戸川区 羽住博之
ジェラートにたつぷり春の苺かな
東京都葛飾区 目黒琴音
潮騒の安房の菜の花畑かな
東京都渋谷区 駿河兼吉
初蝶の傘寿の日々を舞ひにけり
東京都渋谷区 駿河兼吉
春暁は清少納言思ほゆる
東京都杉並区 市川伸一
春北斗ボタン一つを掛け違う
東京都杉並区 田中有楽
列島巡り桜前線ノサップへ
東京都世田谷区 洋一
制服に着られる子撮る春の朝
東京都豊島区 潮丸
初蝶や駅前広場の花時計
東京都中野区 秋山專一
仄白き夜を滑りおり花筏
東京都練馬区 喜祝音
解体のショベル逃がれたエビネ咲く
東京都練馬区 裕久
風荒び命短き散るさくら
東京都練馬区 符金徹
竹輪食む千畳敷に風光る
東京都文京区 遠藤玲奈
公園の会話見守るいぬふぐり
東京都目黒区 ワーグナー翔
風葬の記憶絶やさず涅槃吹
東京都小平市 佐藤そうえき
湖の春や磴も春なり竹生島
東京都八王子市 石塚明夫
佐藤家を跨ぎ原家へ猫の恋
東京都八王子市 村上ヤチ代
おーおーとユンボを止めて春夕焼
東京都東村山市 鮫島啓子
上京や駅ピアノ聴く春の宵
東京都武蔵野市 伊藤由美
菜の花の眩しきなかに乳母車
神奈川県相模原市 あづま一郎
ふらここや漕ぐほどに空遠くなる
神奈川県相模原市 金本節子
旅の途に椿寿を祝ふ春の風
神奈川県相模原市 渡辺一充
行く春や書架に残れる参考書
神奈川県茅ケ崎市 坂口和代
子を乗せて風の先行くしゃぼん玉
神奈川県茅ケ崎市 田中かつみ
川ぞいや行き交う影もあたたかし
神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦
ほろ苦き春を壜詰めママレード
神奈川県藤沢市 小堀公美子
山抜けて振り返り見れば山桜
神奈川県横須賀市 久保航太
男装の応援団長桜東風
神奈川県横浜市 古関聰
大陸の黄砂はるばる我が愛車
神奈川県横浜市 教示
抱卵の友と曲輪の桜風
神奈川県横浜市 鷹乃鈴
猫カフェの猫と遊んで春愁う
神奈川県横浜市 竹澤聡
逆さ富士春の小鳥に裾乱れ
神奈川県横浜市 前田利昭
旅立ちや母の背と手に別れ霜
新潟県新潟市 小野茶々
終演の一人舞台や八重桜
新潟県南魚沼郡 高橋凡夫
空あれば空へ溢るる桜かな
山梨県中央市 甲田誠
コロナ禍をたんぽぽのわたふはふはと
長野県南佐久郡 高見沢弘美
桜蘂降る陵までの石畳
岐阜県岐阜市 辻雅宏
魚島や遠慮忖度なく密に
岐阜県郡上市 海神瑠珂
枯松の木形に匂う藤の花
岐阜県多治見市 緑
バック転決めて破顔や合格子
岐阜県土岐市 近藤周三
止まり木の白バトに似て白木蓮
静岡県菊川市 供野幸子
有終の美への矜恃か花筏
静岡県湖西市 市川早美
仕送りの荷物膨らむ四月かな
静岡県富士市 城内幸江
春の朝祖母の背中で笑う吾子
静岡県三島市 岡田湧水
羽衣を広ぐ少女の半仙戯
愛知県知多郡 伊藤京子
花の雨この憂鬱も共に散れ
愛知県豊田市 アバズレーナ
背伸びして枝垂桜に触れる吾子
愛知県名古屋市 愛山
春暁や目覚めぬ吾子の乳歯生ゆ
愛知県名古屋市 藍太
独り居の暮らしにドラマ蕗の薹
愛知県名古屋市 久喜聖子
歩道橋渡る子供ら風光る
愛知県名古屋市 志村紀昭
春風や手の折鶴を飛ばしけり
愛知県日進市 嶋良二
勝手口誰がくれたか土筆束
三重県松阪市 宇留田敬子
春の風邪季節外れのシャツを干し
三重県松阪市 谷口雅春
草刈りに手を止め残す土筆かな
三重県松阪市 中川徳之
二月尽き口の小さき鎧捨つ
滋賀県大津市 西堀米子
春の花入村家族の三輪車
京都府京丹後市 川戸暉子
監督の仏心や鷹鳩に
京都府京都市 太田正己
閉ざされし観音堂や春惜しむ
京都府京都市 水色
雛市や気づけばデザート地下一階
京都府福知山市 櫃割仁平
作務終えてすましに浮かぶ三葉芹
大阪府大阪市 石田正流
春夕焼に天の墜ち往く隠岐の島
大阪府大阪市 清島久門
女子生徒の手話清々し春の星
大阪府大阪市 清島久門
春風やどこまで行けるどこまでも
大阪府大阪市 吉田誠
春祝い「おこげ」と母はおにぎりを
大阪府池田市 宮地三千男
若駒駆く風にかたちのある如し
大阪府和泉市 小野田裕
さらさらと晒す藍布花菜風
大阪府茨木市 吉野春夏
動画撮るチャンス窺う花吹雪
大阪府河内長野市 新田嘉子
父の手を繋ぎ直して紫雲英畑
大阪府堺市 伊藤治美
友亡くし虚な洞に春一番
大阪府摂津市 京ばあ夢
目刺焼く野球中継無観客
大阪府泉南郡 藏野芳男
巣ごもりや薔薇芽かきして日が暮れる
大阪府高石市 岡野美雪
つれづれを爪にはりけり桜貝
大阪府寝屋川市 伊庭直子
虎杖を折つても昨日は見えない
大阪府枚方市 藤田康子
常滑の路地また路地を散る椿
大阪府八尾市 乾祐子
一箱に納まる雛となりにけり
兵庫県尼崎市 大沼遊山
おかもちのバイク長閑に停まりけり
兵庫県尼崎市 大沼遊山
道惑い辻に木蓮そらを指す
兵庫県小野市 五百木菜月
うすごおり思いはめぐる半世紀
兵庫県神戸市 日の峰さくら
春の雨跳ねてスマホにスパンコール
兵庫県神戸市 鞍馬睦子
春の旅天気予報にない小雨
兵庫県神戸市 平尾美智男
初桜トクンと鳴りし胸の音
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
たんぽぽのわた毛飛び交ふ舗装道
兵庫県西宮市 森田久美子
春惜しみ舞うや手妻の紙の蝶
兵庫県姫路市 和田清波
コロナさえ吹き飛ばすほど桜散る
奈良県生駒市 しばたあぎさ
とび翔けて揺れる裳裾や百千鳥
奈良県奈良市 野瀬真由美
白布に二つ包みぬ紅椿
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
春は宵朧月夜を口ずさむ
奈良県奈良市 緑風
ランドセル弾む登校チューリップ
和歌山県田辺市 谷中明子
菜の花や掻き分け出づる川の猫
和歌山県西牟婁郡 尾崎惠子
朧夜を提げてほろ酔いご帰還し
岡山県浅口市 渋谷達磨
薄衣に桜吹雪が肌を刺す
岡山県岡山市 かるさわ
ウグイスの鳴き声いまだ不整脈
岡山県岡山市 柳瀬和之
雉子鳴くやアラーム止める日の出前
広島県尾道市 広尾健伸
すかんぽをかじりし子等は今いずこ
広島県福山市 石崎勝子
ひな祭り練習済みのハイピース
広島県福山市 永見昂大
高齢者のワクチン接種春遅し
広島県福山市 林優
永遠の庶務のわたしに桜かな
山口県山口市 鳥野あさぎ
ねじれてるくらいがちょうどよい虚子忌
山口県山口市 不毛
怠りしかかと上げ下げ弥生尽
徳島県徳島市 藍原美子
引き潮に片割れのなき桜貝
徳島県徳島市 有持貴右
春の朝段踏みはずし膝打ちて
徳島県徳島市 高松昌子
年を経て気品漂ふ内裏雛
徳島県徳島市 京
たんぽぽ団集合、用意、風に乗れ
徳島県徳島市 山之口卜一
磯のもの刻みて酢和え余寒かな
徳島県徳島市 山本明美
春潮や揺らぎどほしの釣筏
徳島県阿南市 白井百合子
山裾の白いマンション山笑う
徳島県阿南市 高田俊孝
五日目の赤子の声や辛夷さく
徳島県阿波市 井内胡桃
燕飛ぶ在所は今も農盛
徳島県板野郡 秀月
水離る尻の重さや鴨帰る
徳島県板野郡 伊藤たつお
おしやべりの花咲く集い老いの春
徳島県板野郡 奥村文子
春寒し聖火リレーの始まりぬ
徳島県板野郡 小西博之
オカリナの音色優しき芽木の風
徳島県板野郡 佐藤一子
母よりと分る大きさ草の餅
徳島県板野郡 佐藤幸子
自転車のギアを落として桜東風
徳島県小松島市 長楽健司
菜の花や大きい順にランドセル
徳島県吉野川市 村山春子
紅梅や主亡き屋で咲き誇る
香川県高松市 宮下しのぶ
モアイめくメガソーラーや春光に
香川県仲多度郡 佐藤浩章
頭脳線長し木の芽時を笑ふ
愛媛県松山市 秋本哲
はらからで無き仔抱く猫寺の春
愛媛県松山市 七湖
ひこばゆる花それぞれの浮世かな
福岡県飯塚市 日思子
黄砂降る十年振りという量で
福岡県北九州市 赤松桔梗
靴裏に名残惜し気に桜花
福岡県宗像市 月香
味噌汁のほんの上澄み春愁ひ
長崎県北松浦郡 田中龍太
吾の手をふりほどく百歳春や春
長崎県長崎市 宮崎栄子
列車過ぎさくらひとひら無人駅
佐賀県唐津市 浦田穂積
青によし会わない仕組春が来る
大分県大分市 安部あけ美
竹の秋風は素通りしてしまふ
大分県国東市 吾亦紅
青い空てふてふ遊ぶ飛ぶ笑ふ
大分県豊後大野市 後藤洋子
雨に舞う桜の気持浮き沈み
鹿児島県鹿児島市 有村孝人
陣痛に父となる覚悟増す春暁
沖縄県豊見城市 あまがみこ
見降ろせる電車通りの春コート
アメリカオレゴン州 ロイ美奈