HAIKU日本大賞2021夏の写真俳句 発表
2021夏の写真俳句大賞
写真をクリックすると新しいウィンドウで大きく表示されます。ぜひ皆様の力作を拡大画面でご覧ください。(オリジナルの写真サイズが小さい場合は拡大されません。)
(評)新型コロナウイルス感染症はこれまでの私達の価値観を大きく変えてしまいました。行動を制限されているので、帰省することもままなりません。写真俳句における写真は俳句と対等の要素です。俳句で説明してしまいがちな写真を上手く合わせた良作品です。
次点
(評)白南風は梅雨が開ける6月頃に吹く南風。海は穏やかで、空は晴れ渡っていますが、己の心のなかに過ごしてきた10年間はどのような風を感じてきたのでしょう。穏やかな海と晴れた青空の奥に感じる何かを教えてくれる写真俳句です。
(評)紫陽花は様々な花言葉を持つ、とても表情豊かな花です。様々な思いを持って我が子の成長を見つめてきた親の気持ちなのでしょうか? そうとすれば、安堵する気持ちを表しながら、まだまだ変化していくであろう子への思いを写真俳句に託した良句です。
<秀逸賞>
虹の輪に二人の影が夏の霧
北海道札幌市 鎌田誠
(評)「虹」も夏の季語ですが、この句の場合「夏の霧」が大きな主題の季語となります。幻想的に見えるのはブロッケン現象と呼ばれます。太陽の光が背後から差し込んで雲や霧に投影された影に光還が見られる現象で、“御来光”とも言います。滅多に見られない現象です。光に包まれた二人の影がとても幸せそうに寄り添っていて、二人の表情はきっと喜びに満ち溢れていることでしょう。「夏の霧」が見せてくれた神秘の世界に引き込まれます。
天空に向かって吼える暑いぞと
宮城県仙台市 泉陽太郎
(評)梅雨が明けてからの夏本番。太陽がかっと照り付け真夏の直射熱に灼かれると、誰だって吼えたくもなります。口語俳句の良さが充分に発揮された作品。豪快な夏を表現する素直な叙述が共感を呼びます。勢いよく空高く伸びる入道雲の写真と相まって、迫力と楽しさのある写真俳句となっています。
大地をも揺るがす怒涛土用波
茨城県水戸市 打越榮
(評)激しく巻かれたことを物語る白い波の泡と、沖で砕ける大きな波本体。夏の土用の頃、南方海上で発生した台風によるうねりが伝播して、沿岸に打ち寄せてくる高波を「土用波」と呼びます。陽の落ちた後の青と緑の深みのある印象的な写真と、「大地をも揺るがす」と断定した強い口調の俳句。遥か彼方の沖合から次々と押し寄せてくる大波の威力と恐ろしさを、余すところなく伝えてくれています。
柘榴花実の成るまでの苦節かな
埼玉県入間市 荘然
(評)鮮やかな緑の葉と朱色の花が梅雨時の空にとても良く映えます。実ばかりがクローズアップされるのは実のなる花の宿命でしょう。数年の時を経てやっと初めての実をつけるとされる「柘榴花」に作者は、「苦節かな」と人生を重ね慈しむかのように詠みました。妙味のある写真俳句となっていて、擬人化された句からはこの木を見守ってきた作者の心情が滲み出ています。
閑さや夜の帳の遠き蝉
埼玉県所沢市 秋岡邦夫
(評)逆光でシルエットとなった椰子の並木が美しい「夜の帳」のワンショットは幻想的な景となっています。夕闇の中に聞こえてくるのは蝉の声。閑かさの中を遠くから聞こえてくる蝉の声は、真夏の太陽が照り付ける中の賑やかな蝉時雨とは一線を画します。陽の陰り具合と相まって、儚く短い命を生きる蝉の切ない調べのように感じられたことでしょう。
断面を並べるほどに茄子美しき
千葉県船橋市 井土絵理子
(評)晩夏ともなると茄子は美味しさを増します。薄く切られた茄子が丁寧に並べられ、トマトソースが覗いています。さぞ美味しい夏仕様のピザなのでしょう。「茄子」の断面は食べる手を止めて、ずっと眺めていたいほど「美しき」装いです。オレンジ色で統一され、面白い構図を切り取った作品。生活の中で生まれた身近な題材を詠んだ句と写真が、魅力的な写真俳句となっています。
夢でしか会えなくなって朝の虹
千葉県市川市 森中ことり
(評)二重の虹を見ると、幸運が訪れるという言い伝えがあります。二つの虹は同じようでも、色が逆で鏡合わせのように架かっています。この先、作者にはたくさんの幸せが用意されているかのようです。措辞の切なさと「朝の虹」がよく響き合い、作者のどこか割り切ったような思いを感じ取ることができる一句です。
硝子戸の張り付く守宮指丸し
東京都荒川区 涌井哲夫
(評)ガラスのグレーの背景によって、「守宮」の白々とした胴体が浮き上がって見えます。その姿はリアルでポーズも決まっています。「指丸し」の表現によって「守宮」の指に注目させられ、生体の観察をさせられます。「守宮」は精一杯生きているのでしょう。下五の具体的表現によって、写真の面白みが増した写真俳句となっています。
緑陰といえども十色の緑かな
東京都狛江市 小川かをり
(評)夏の容赦ない日差しを物ともせず、大きく枝を張る木の力強さが伝わってきます。光と影の対比が上手く写し出されていて、一葉一葉の繊細な色の輝きまでも感じさせてくれます。絵筆で色を載せたい衝動に駆られる程、画面いっぱいの樹は魅力的です。「緑陰」が「十色の緑」と何とも美しく表現され、感受性豊かに詠まれています。
夕焼けを超え燃え滾る瀬戸の海
東京都町田市 横井澄
(評)想像をはるかに超えたオレンジ色の燃え滾るような海に自然の雄大さを思い知らされます。夕焼けの海にできた船の引き波の軌跡。「燃え滾る」かのような「瀬戸の海」にくっきりと広がっています。旅吟の一句でしょうか。畳み込むような中七が、目の前の景を印象的に切り取っています。空と海が激しい光のページェントの中で溶け合い、写真と句の力強さが相まって読者を魅了します。
君は誰?君が僕なら僕は誰?
神奈川県平塚市 八十日目
(評)「蟷螂」は秋の季語ですが、「子鎌切」や「蟷螂生る」は夏の季語です。生まれたばかりの鎌切は成虫とそっくりのフォルムで同じような仕草をします。下に映るものをじっと見つめる子鎌切の不思議を詠んだ一句。「君は誰?」「僕は誰?」の問い掛けが、作者自身への問い掛けともなって被写体が演じてくれているような錯覚を覚えます。リズミカルな問答形式が新鮮で、作者の遊び心が光る作品。
夏ひとりグリーンベレーの石灯篭
神奈川県横浜市 教示
(評)「グリーンベレー」は、ゲリラ戦に秀でたアメリカ陸軍の精鋭部隊を言いますが、作者が捉えたのは苔生した「石灯篭」がぽつんと立っている光景です。緑色に変身した姿で、真夏のジャングルに取り残されたかのように見えたのでしょうか。苔生した石灯篭の景が一気に戦士の顔となる独創的で不思議な写真俳句です。「夏ひとり」と詠むことで孤独感が滲みます。
月下美人咲けば夜更かし老い二人
石川県金沢市 百遍写一句
(評)花の細部まで鮮明に写し出した一枚。「月下美人」と名の付くように、夏の夜ほんの数時間だけ、純白の大輪の花を咲かせ芳香を漂わせます。背後からの灯りによって、花の白さが一層鮮やかになりました。作者は奥様と一緒に写真撮影に追われながら、夜が更けていったことが分かります。朝方には萎むらしく、句にはこの花を見守っている仲睦まじい夫婦の二人の時間が詠み込まれています。
島の子ら語るを聴くや仏桑花
岐阜県郡上市 海神瑠珂
(評)「仏桑花」は沖縄などで多く見られるハイビスカスのこと。南国の空によく似合います。「島の子ら」が聴いているのは戦争の話でしょうか。太平洋戦争末期の沖縄戦では、多くの兵士と共に一般の住民が戦闘に巻き込まれ尊い命を落しました。葉の緑と花の赤のコントラストが鮮やかな写真は、過去の記憶を鮮明にさせるかのようです。季語「仏桑花」が作品の世界観を広げています。
世を憂う仏の化身梅雨深し
静岡県熱海市 歩人
(評)“やご”として水中に棲み、最後の脱皮をして蜻蛉として生まれてきます。蜻蛉が止まっているのは蓮の花。泥田の中にあってもこれに染まらず、清廉さを保ち続け極楽に咲く花とされています。背景をぼかしたことで、蜻蛉が何とも言えず幻想的な姿に感じられます。作者は「仏の化身」と詠みました。世を憂い浄土から再び地上に降り立ってきたのではないかと。写真と句が寄り添うことで作品の持つ世界が広がりました。
陽の光とぢこめてゐる清水かな
大阪府茨木市 吉野碧
(評)水の輝きが眩しく美しい一枚。中七をすべて平仮名にしたことによって、「陽の光」と「清水」の取り合わせが明確になっています。柄杓で「陽の光」を掬ってみたくなりますね。手水舎は絶えず清冽な水を湛え、水面に浮かぶ緑の葉が透明感と清涼感を漂わせます。この一角にある涼が、真夏の参拝者にひと時の安らぎを与えることでしょう。
生き残る術は共存ソーダ水
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
(評)色鮮やかなグリーンに清涼感が漂う一枚。クリームソーダはアイスクリームとの共存で、時代を経てもずっと存在してきました。措辞には何かの答えに行き着いたかのような潔さがあり、季語「ソーダ水」とよく合っています。二句一章句として、コロナとの共存こそが生き残る術と悟っているかのようです。写真の構図も効いていて、読む人の心を爽快にさせてくれます。
遠き日のご赦免花の物語
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
(評)蘇鉄は沖縄や九州南部の海岸に自生しています。かつて流人の島であった八丈島に二株の大きな蘇鉄があり、花が咲くと赦免の沙汰があると言い伝えられていたことから、「ご赦免花」と呼ばれるようになったそうです。恐竜時代からの生き残りの植物です。数年に一度しか咲かない黄色い花が直立しています。遥か昔のことまでこの木は知っているかのように存在し、並々ならぬパワーを感じさせてくれます。
昔日の小樽運河や薄暑旅
和歌山県橋本市 徳永康人
(評)大正末期に沖合を埋め立ててできた運河は、戦後に役目を終え現在の情緒ある姿へと変わりました。ペンキで描かれた倉庫群の白い文字がアクセントとなり、古き良き時代の街の繁栄を彷彿とさせます。赤煉瓦には、昔日のそこはかとないペーソスが漂っています。「薄暑旅」は、いつまでも忘れられない思い出の旅となったことでしょう。
枝中に密密と咲く夏の恋
徳島県徳島市 今比古
(評)豪華なハート型の夏花が情熱を感じさせます。ズームアウトすれば樹のあちこちに咲いているのでしょうが、特別にアレンジされた花のように切り取られています。空を焦がす夕焼けのようなオレンジ色は、恋する人の胸を焦がす色であるかのようです。「密密と咲く」の中七の措辞がこの花の持つ独特の雰囲気を醸し出し、燃えるような「夏の恋」を詠い上げています。
<佳作>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。