HAIKU日本大賞2021冬の写真俳句 発表
2021冬の写真俳句大賞
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(評)びっしりと張り巡らされたかづらが複雑にいろんな悩みを抱えているようにも思えます。それとも誰も弾いたことがない楽譜でしょうか。長い思惟の時を抜けて、どんな響きを醸すのか、それはきっとため息にも命の賛歌にも聞こえるのでしょう。チェンバロが写っていないにも関わらず、情景だけでなく音まで想像させる、これぞ写真俳句という一作です。
次点
(評)不思議なことに、新年を迎えると、そのつもりがなくても新たな気持ちになります。正装をし、その年の最高の自分になって、笑顔を見せる。それは人間だけではないのかもしれません。雑草も一つの命であるかぎり、年の節目は美しくありたいのでしょうか。霜が降りた様子がまるで着飾って新年をお祝いしているようです。
(評)空を昇っていくのは飛行機雲でしょうか。確かに昇り竜のような力強さを感じます。非常にシンプルな写真ではありますが、この形を竜に見立て、そこに「打ち勝つ力」と入れたことで雲の力強さが際立ちました。これからどこにいくのか、そのストーリーを追いたくなります。
<秀逸賞>
こぼるるも咲くも明るし山茶花よ
埼玉県入間市 荘然
(評)華やかさの乏しい冬に「山茶花」は、咲いては散り、散っては咲きます。散りこぼれても次々に咲き、ひと冬中咲き通します。掲句は山茶花の姿を印象的に捉えており、慈しむ心が表れています。冬の寂しい風景の中に赤の明るい花が目に鮮やかで、山茶花の魅力をたっぷりと引き出した一句と写真とが心を和ませてくれます。
雪化粧利根に見せるや遠浅間
埼玉県行田市 吉田春代
(評)「利根」の堤防と「遠浅間」という遠近を上手く生かした写真俳句。荒涼とした堤防とは対照的に、浅間山の山頂はしっかりと「雪化粧」しています。「見せる」の擬人法もさり気なく使われ、土地の固有名詞を伴って味わい深く冬の景が詠まれています。遥かに望み見る山容の美しさが際立っています。
富士だけを残して冬至の陽が沈む
埼玉県和光市 此順
(評)二十四節気のひとつ「冬至」は一年で最も昼の時間の短い日。日脚はこれから伸びていきますが、寒さはこの頃から本番となります。夕陽に染まる富士山とオレンジ色の空のグラデーションの美しさが魅力的な一枚。富士山の象徴性も借りて「冬至の陽」を記録した貴重な写真俳句です。大きくて明るい景に魅かれます。
幕明きの心に灯る初旭
千葉県香取市 菜木
(評)清々しい元日の朝。初めて昇る太陽に改まった気分にさせられます。たくさんの人が「初旭」を待ちかね、その瞬間に手を合わせます。厳かな光に包まれた海岸に様々な人影が映ります。飛躍を願う人、健康や家内安全を願う人、現状維持で良しとする人。願い事は様々ですが、特別な想いが「幕明きの心」に託されています。
冬枯や水の中より輝きて
千葉県船橋市 井土絵理子
(評)冬が深まって野山は枯れ荒涼とした感のある「冬枯」。そんな冬の景が川面の輝きによって眩しく蘇った写真俳句です。スパンコールを繋ぎ合わせたかのような水面の輝きは光の反射でキラキラとして幻想的です。「冬枯」が「輝く」という真逆の発想で作品のオリジナリティーを高めています。
冬霞墨絵写すや隅田川
東京都荒川区 涌井哲夫
(評)冬の暖かい日中などに発生する薄い霧が「冬霞」。中央のスカイツリーが霞んで川面に映え、絵のように美しい光景です。「隅田川」は「墨絵」を写し込んだかのような幽玄の世界へと様変わりしています。隅田川の固有名詞が入ることで一段と風情を増し、シンプルな被写体が心を静めてくれます。
スポーツ紙丸めて冬の梅二輪
東京都杉並区 花霞
(評)くるっと「スポーツ紙」をいたずらに丸めて「冬の梅」を望遠鏡のように覗き込んだのでしょう。目を凝らすと「二輪」の可憐な梅。筒の中の世界で捉えた時の小さな喜びによって生まれた一句。「スポーツ紙」と「冬の梅」という意外な取り合わせが、俳味のある秀作へと導いています。
年の果残照天を突き抜けて
東京都町田市 渡辺理情
(評)師走も押し詰まり、人々の生活は慌ただしく活気に溢れながら過ぎる「年の果」。「残照」が空へ放つパワーは途轍もなく大きく、一方で空とは対照的に鎮もる山並みとの対比が見事に捉えられています。それぞれの色に秘められたエネルギーをも写し取った一枚と、力強い詠みに引き込まれます。
越年の焔に見入るなにとなく
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)枯れ草などを燃やして、新年を迎えるための畑の手入れ。さり気ない光景の中にもしっかりとした人の営みが感じられます。振り返ってみれば様々な事があった一年。火の番をする後ろ姿の女性にも、様々な事が起きたことでしょう。焚火をする冬の景がどこか暖かさを届けてくれる写真俳句です。
街路樹の末しょう神経凍る朝
神奈川県大和市 こずむす
(評)氷結した「街路樹」の枝先を「末しょう神経」と比喩した一句。「末しょう神経凍る朝」のリズムある音が句に弾みをつけ、凍る朝も軽快に歩む作者の姿を想像させます。もっと雪が降っていれば、張り出した枝は雪に覆われこの景色には出会えなかったことでしょう。冬の「凍る朝」の美しさが印象的です。
神渡し伊勢の朝日が良く似合う
神奈川県横浜市 教示
(評)「神渡し」は陰暦十月に吹く西風のことです。神無月に神々は出雲の国に集まるので、出雲にお発ちになる時にその神々をお送りして吹く風という意味合いのある季語です。その神渡しに「伊勢の朝日が良く似合う」と表した一句。伊勢の大自然の中に輝く朝日と作者の気持ちがピタリと符合しています。
熱燗や苦しきことを皆忘れ
神奈川県横浜市 佐藤自土宇
(評)頭から雪に覆われてしまった仏像。福耳と太い眉、優しい微笑みで泰然としておられます。写真と句を離して取り合わせることで作品に広がりが出ました。こんな雪の日の「熱燗」は、きっと体に染み入るに違いありません。体が温まるにつれ上々の気分となり「苦しきことを皆忘れ」の措辞に共感を覚えます。
産み月の珊瑚の如き枇杷の花
新潟県南魚沼郡 高橋凡夫
(評)枇杷の実は夏に熟しますが、花が咲くのは冬です。白い五弁の「枇杷の花」は慎ましくひっそりとしています。作者はこの静かな景に、華やかな「産み月の珊瑚」を取り合わせました。意外な組み合わせですが、読者にその形を連想させて納得させてしまいます。直喩を用いた見事な発想が秀句へと導きました。
豊熟の五穀の精や六花
岐阜県岐阜市 鈴木白湯
(評)「六花(むつのはな)」は雪の結晶が六方形をしていることから呼ばれます。雪が多い年には雪解け水が豊富なため豊作が期待されると言われます。「六花」の優しい響きが、日本の原風景とも言われる合掌造りの美しい白川郷の景観と良く似合います。守り続けてきた世界遺産のこの風景は日本人の誇りですね。
一日二十二回列車見送る冬木立
岐阜県郡上市 瑠珂
(評)「一日二十二回」と独特の語りで上五を詠んだ作者。大きな字余りを口語調の軽快さがリズミカルにカバーしています。「二十二回」の数詞が実に効果的に生きています。時の流れの中で「冬木立」がただ列車を見送り、やさしく人を迎え入れているのでしょう。
夕闇を焦がし尽くして冬旱
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
(評)「冬旱」は晴天が続き雨の降らないこと。街路樹も建物も影絵のように見える作品です。空は幾層にも色を変えて壮大で、何とも厳かな気持ちにさせてくれます。夕闇が陰影をくっきりと浮かび上がらせた光景の中に、詠み手の切なさや焦がれる気持ちが垣間見られます。
教室へ水仙の香を身に纏ひ
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
(評)「水仙」は可憐で清楚で香り高いですね。水仙の花が通学路に咲いていて、作者はその香りを身に纏ったのでしょうか。それとも、水仙の花を教室へ届けたのでしょうか。何とも穏やかな気持ちを運んでくれる一句です。花は不思議なほど人を優しく包んでくれます。清々しさが漂います。
冬木立紋様映えて空の妙
和歌山県橋本市 徳永康人
(評)この時期にしか見られない木々の紋様を楽しめる一枚。空を這うように広がる枝の先々にまで春を待つ生命力が宿っています。雲で厚く覆われた空は灰色や薄紫色の不思議な色合いを見せています。木々の繊細な美しさの浮き出た空を「空の妙」と膨らみのある言葉としたセンスの良さが光ります。
<佳作>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。