HAIKU日本大賞 大賞発表

HAIKU日本2020夏の句大賞

大賞
腹筋百回百回分の夏の空
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)「腹筋百回」は八音です。字余りによる破調の句ですが、一句の中に三つある促音(小さい「つ」)によって、勢いとリズムが生まれています。また、「百回」という単語が繰り返し出てきています。繰り返しはリフレインという技法で、印象を強めたり、俳句のリズムをなめらかにしたりする効果があります。室内で腹筋をしていると、体を起こしたときに窓から夏空が見えたのでしょう。一回一回に気持ちを込めて集中して腹筋をしている様子がうかがえます。充実した達成感が伝わってきます。

特選

特選
社会的距離バスを待つ夏帽子
[ 神奈川県横浜市 竹澤聡 ]

(評)子どもたちのグループがきちんとコロナ対応をしているのを見ると微笑ましい光景ながら、こんな世の中になってしまったという実感をも伴ってきます。まだまだ変わるのか、先は見えない。コロナ禍が変えてしまった常識と世情を淡々と詠んだ一句。季語を「夏帽子」として視覚にも鮮やかです。戸惑ったまま春から夏へ突入していったコロナ禍の今だからこそ詠める味のある俳句です。

特選
赤牛のまつ毛を洗う夕立かな
[ 奈良県奈良市 堀ノ内和夫 ]

(評)赤牛は日本固有の肉牛の品種です。季語「夕立」は激しい雨と共にその後の雨上がりを想像させ、洗い尽くされたかのような眩しく美しい光景が広がります。野山に生気が蘇り、草を食む赤牛のまつ毛は金色やオレンジ色に輝くことでしょう。「赤牛のまつ毛」に焦点を当てた観察眼の優れた一句となっています。

準特選

準特選
踝はわが吃水線海開き
[ 東京都青梅市 渡部洋一 ]

(評)「吃水線」は船が水上に浮かんでいる時の水面と船体との境界線のこと。踝(くるぶし)までしか浸かることができないという作者。水がまだ冷たくて、波に誘われるままに足を浸しているのでしょう。足元だけで海開きという嬉しい季節を感じて満足な景が浮かびます。素直な実感が伝わってきます。

準特選
生きすぎていますと端居高笑い
[ 徳島県板野郡 秋月秀月 ]

(評)縁側でのほっとして心落ち着いたひととき。「端居」という季語の持つ穏やかさと「高笑い」の取り合わせが楽しいですね。「生きすぎています」というそんな心境は、誰もが味わえるものではありません。楽しそうな笑い声が聞こえてきます。夏の夕、来し方と行く末を思いつつ詠んだ秀句。

準特選
背泳ぎの眼には成層圏の青
[ 愛媛県松山市 秋本哲 ]

(評)川や海で夏の空を見上げながら進む背泳ぎ。伸びやかな爽快感が伝わってくる一句。背泳ぎの眼は、「成層圏の青」を捉えています。成層圏にも届きそうな湧き上がるような思いは未来に向かっているのでしょうか。五・三・九の破調が若さと精悍さを呼び込み、その姿が夏空に眩しい。

秀逸句

麦秋の真つ只中の無人駅
[ 栃木県宇都宮市 平野暢月 ]

(評)「麦秋」は麦が実り黄熟する初夏の頃。「無人駅」を囲む黄金色の麦の穂と緑の山々がコントラストを作り出します。「無人駅」は句の着地点としても、「麦秋」の取り合わせとしても存在感を放っています。こんな駅に立ち寄れば爽やかな風の中、昔ながらの素朴な風景画のような世界に陶酔させられることでしょう。

羅で通す漢となりにけり
[ 埼玉県加須市 佐藤貴白草 ]

(評)薄絹や麻などで作った一重の和服が「羅(うすもの)」。盛夏に羽織る軽い装いです。「羅で通す」に背筋のすっと伸びた気骨ある風格が感じられ「男」ではなく「漢」と詠まれています。一本筋の通った一句一章がその意思を伝えており、「なりにけり」と言い切ったところも凛としていて作者の日常が見えてきます。

強かな蟻の足跡八合目
[ 東京都足立区 宮城六郷 ]

(評)高く険しい山の八合目で自分の足元に見つけた蟻。その「蟻」に「強かな」存在感を作者は感じています。作者の素直な感性にとても好感が持てます。聳え立つ山と小さな蟻の対比が鮮やかです。作者がやっと辿り着いた「八合目」の「強かな蟻の足跡」には、何か人生訓のようなものが隠されているかのようにも思えます。

眩しきはかくも灼けたる滑り台
[ 東京都八王子市 村上ヤチ代 ]

(評)「灼けたる」が夏の季語で真夏の直射日光に晒されていることです。最近は恐ろしい勢いで気象変動が起こり、気温は年々上昇しています。公園の「滑り台」の斜面がピカピカに光っていて、昭和からの使い古された鉄製の滑り台を想像します。灼熱の太陽の元で光を放つ滑り台は、作者のこれまでを象徴しているかのようでもあり、言い得て妙な境涯俳句としての魅力もあります。

曲がりつつ育つ胡瓜の自己主張
[ 神奈川県相模原市 藤田ミチ子 ]

(評)「曲がりつつ」と接続助詞がうまく使われています。胡瓜は水分や肥料を適正管理することによって真っ直ぐに育てられ食卓に届きます。最近では、スローライフの自給自足が注目を集め、家庭菜園を楽しんでいる方も多いでしょう。「曲がりつつ」育ち個性を発揮しながら「自己主張」する胡瓜にも、しっかりと愛情を注ぐ作者の日常が詠み込まれています。

「新たな日常」知らずや蛇脱げり
[ 石川県金沢市 玲 ]

(評)「蛇の衣」や「蛇皮を脱ぐ」ではなく「蛇脱げり」と変化させたのが作者の個性。殻を脱ぎ終えた蛇が目の前にいるという面白さがあります。蛇が殻を脱いでみると、感染しないさせないの「新たな日常」が始まっており人々は窮屈さの中で息を潜めていました。コロナ禍の世の中に気づいて驚いている蛇がいるとの発想もユニークです。

水溜り空を跨げば夏始
[ 山梨県南アルプス市 小林克生 ]

(評)季語「夏始」は、新緑が美しく吹く風も清々しい初夏の頃です。太陽のきらめきの中、「水溜り」には雨上がりの青空がくっきりと映り込んでいます。「水溜りを跨ぐ」ではなく「空を跨げば」と詠んだところに躍動感が感じられて、「夏始」の季語ととてもよく響き合っています。この動作が生き生きと伝わってくるリズミカルで心地よい俳句です。

黒揚羽舞う里山は音も無く
[ 長野県南佐久郡 高見沢弘美 ]

(評)“黒衣の天使”とも呼ばれる「黒揚羽」のイメージは気高さと儚さの同居。人影のない里山と空を舞う黒揚羽の静と動を詠んだ一句。「音も無く」がもう人のいない里山に現れた「黒揚羽」をクローズアップさせます。過疎によって日本の原風景が消えていきます。里山を縫うように飛ぶ黒揚羽の優雅な姿が、一層静寂を深くさせています。

来ぬ人を許してしまふ水中花
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)女性の句かと思いきや作者は男性。この句は、空想でも写実でもなく内面の具象です。ガラス瓶を軽く揺らすと水の中を漂う花。いつも受け身の「水中花」と「来ぬ人」を待つ受け身の恋。その心情を「水中花」に預けた一句。真実と嘘を併せ持つかのような「水中花」と「許してしまふ」の措辞とがよく似合っています。

大西日キッチンで肉解凍す
[ 大阪府大阪市 三木節子 ]

(評)「大西日」が実によく効いています。この作業に何か緊張感を漂わせます。「西日中」や「西日射す」などのじんわりとした季語ではこの迫力は出ないでしょう。じりじりと暑い夏の夕刻、「大西日」で肉を急速解凍させつつ、それを調理する作者の手際の良さを表わしています。キッチンを忙しく立ち回る作者の姿が見えてきます。

亡き母に愚痴をこぼして薄暑かな
[ 大阪府堺市 伊藤治美 ]

(評)「薄暑」は夏の始めの一番気候の良い時で、涼風や木陰がほしくなる気持ちの動き始める頃とされます。夏へと移る季節の中「亡き母」を想うひととき。作者の愚痴を仕方ないねとやさしく聞き流してくれることでしょう。人は過ぎ去ってしまったことをあれこれと悩むものですが、亡き母になら些細な事でも甘えることができますね。

慟哭の如そんなに泣くな梅雨の山
[ 大阪府枚方市 妃斗翠 ]

(評)「慟哭」は大声をあげて泣き悲しむこと。今年の梅雨はそんな梅雨であったかと思います。しっとりと降る梅雨のイメージとは様相が一変しています。豪雨で河川は氾濫し、山は耐え切れず土砂崩れを起こす。自然の脅威に為す術もなく息を潜める人間の心の叫びとも取れる一句です。「そんなに泣くな」という呼び掛けが切実です。

検温に始まる日々や七変化
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)「検温に始まる」の措辞が今の世情を語っています。手指消毒や検温が必須となり、そうした日常の変化に人は速やかに順応しつつ生きています。紫陽花は日毎に花の色が変わることから「七変化」と呼ばれます。「七変化」と詠むことで社会性を帯びた一句になったといえます。コロナへの対応で日々言動の変わる政治家らへの皮肉も交じっているのでしょうか。

ハイ!チーズ線香花火消えぬ間に
[ 兵庫県西宮市 幸野蒲公英 ]

(評)「ハイ!チーズ」と誰が言い始めたのでしょう。笑顔を写す定番の言葉になっていますが、これを俳句に仕上げた作者も素晴らしい。夏の夜のひとこまが映像としてくっきりと見えます。「消えぬ間に」が、人の運命にも似てどこか切ないですね。楽しくてほろ苦く、儚さゆえに美しい「線香花火」の一景です。深い余情を感じさせる一句。

短調の五月雨響くマンホール
[ 奈良県奈良市 緑風 ]

(評)「五月雨」は田植の頃の雨で、農家にとってはありがたい雨です。けれど降り続く雨は歓迎されないことも多いでしょう。「短調の五月雨響く」と雨音が寂しく作者の耳に届きます。「短調の」と音を聴かせ、何処からかというと「マンホール」から。「マンホール」の下五によって響いてくる雨音が臨場感を増してきます。

巣籠りの戸棚の隅の梅酒かな
[ 広島県尾道市 広尾健伸 ]

(評)“Go To トラベル”に乗ることなく「巣籠り」を続ける作者。楽しみは日々琥珀色に染まっていく「梅酒」なのでしょう。飲み頃となる日を心待ちにしながら、家に籠る一人の人間像が浮かびます。自分ではどうにもならないという心境を詠んだ作者のペーソスが滲み出た一句。

山雀や母に別れを告ぐがごと
[ 徳島県徳島市 深山風蒲 ]

(評)「山雀(やまがら)」は、愛らしい鳥で高音の鳴き声が特徴です。野鳥の中ではあまり人を恐れない鳥なので、よく母の庭にやってきていたのでしょう。さまざまな鳴き声で仲間に合図を送りますが、その鳴き声を作者は「母に別れを告ぐがごと」と詠んでいるので作者の母への心情と重なっているのかもしれません。

ドキュメント映画の和訳原爆忌
[ 香川県高松市 もりおかちか ]

(評)重厚な一句は、立場の違う国とその背景をも語っているかのような生々しさがあります。描き方は違っても悲惨さには変わりはなく、アメリカも日本もお互いに過去の暗い歴史を経験しています。二度と過ちを繰り返してはなりません。75年目の原爆忌に歴史の真実を収録したシーンが目の前に繰り広げられています。平和を願わずにはいられない作者の願いが届いてきます。

花樗村を出てゆく霊柩車
[ 大分県国東市 吾亦紅 ]

(評)「花樗(はなおうち)」は、淡い紫色の小さな花を房のように咲かせます。遠目には紫の靄がかかったような佇まいです。「霊柩車」との取り合わせによって、この句に独特の雰囲気を醸し出しています。心の内を抑え込んだ詩情豊かな作品。村を出ていく「霊柩車」を見送るかのような「花樗」の姿が情景を一層哀しくさせる一句です。

佳作

青嵐走る南部鉄器の音
北海道小樽市 千歳緑
黒南風に鳥の集会二つ三つ
北海道上川郡 夏埜さゆり女
羽化だけをめざして蝉が地を歩く
北海道千歳市 暁夏
蛍火舞う刹那点滅無余涅槃
青森県八戸市 金田正太郎
黒南風や兵士は海に跪き
岩手県一関市 砂金眠人
月見草未曽有の土地にしんと咲く
岩手県奥州市 千葉薫風
夕焼けてお日さま誰に照れてるの
岩手県盛岡市 蘭延
君の目は僕の憧れオニヤンマ
宮城県仙台市 奥山凜堂
風死して言葉を弾くエノラ・ゲイ
宮城県仙台市 繁泉祐幸
もうすこし隣にいてよ夏の末
宮城県名取市 松本裕子
影渡る揚羽蝶々の散歩道
秋田県秋田市 鈴木健太
陶枕や草の匂いの風ぬけて
山形県山形市 一日一笑
短夜や夢を見ていた長い夢
山形県米沢市 山口昭
朝陽受け一糸乱れぬ植田かな
山形県米沢市 山口雀昭
夕焼けのラスト一周君の声
茨城県日立市 松本一枝
水着脱ぎ太平洋を絞り出す
茨城県常陸太田市 舘健一郎
五月雨やタクトを振るう粒の音よ
茨城県水戸市 一本槍満滋
日盛に桶にちゃぷんと足を浸け
栃木県日光市 可織てん。
日傘さしマスク学童一列に
栃木県芳賀郡 菅原節秋
夏の果て返却迫る哲学書
群馬県高崎市 凡志
「コシヒカリです」と聞こえる青田かな
群馬県高崎市 密柑
虎の尾の案内に詫びし峠越え
群馬県前橋市 藍澤拓紀
梅雨空を映して鯉の欠伸かな
群馬県前橋市 荒井寿子
逝く父の窓に見据える五月晴れ
埼玉県川口市 惹風
いつの間に暮るる軒先釣忍
埼玉県行田市 吉田春代
作業着が汗に貼りつく午後三時
埼玉県越谷市 新井高四郎
大通越すひといきの黒揚羽
埼玉県さいたま市 坂西涼太
かたつむりきっとあしたもあさっても
埼玉県草加市 石川和巳
集いたる笑顔束ねた大夕焼
埼玉県所沢市 凛童
靴底の沈む沢道梅雨じめり
埼玉県戸田市 稲田延子
カブトムシ祖母に手を振る車窓かな
埼玉県東松山市 谷本修
かたむけば日もやすみたる雲の峰
埼玉県ふじみ野市 黒川茂莉
源流の音をまとめて滝一条
千葉県我孫子市 八川信也
雀踊りて緑陰を動かせり
千葉県我孫子市 松井恵勇
梅雨の猫あなたのきょうのご予定は
千葉県松戸市 山田和子
五月雨や仏頂面の男の子
千葉県船橋市 井土絵理子
黄菖蒲や土管積まれし開発地
千葉県船橋市 川崎登美子
オアシスや青田一枚屋上に
千葉県南房総市 沼みくさ
父の日や妻は子の中孫の中
東京都杉並区 新開裕
父の日や包装もまた捨てがたし
東京都杉並区 新開昌子
令和夏の無言の祈り鳴りやまず
東京都杉並区 市川伸一
白南風やコロナ禍に立つ大欅
東京都世田谷区 アレックス
息をのみ川字寝転び待つ花火
東京都豊島区 潮丸
炎天下追い討ちかける布マスク
東京都中野区 摩利歌
蛍火の青き喪服に袖とおす
東京都練馬区 符金徹
蓮池を指しレンコンと鳴門の子
東京都文京区 遠藤玲奈
葉桜と空の青さと迷ひけり
東京都小平市 佐藤そうえき
感嘆符だらけの通り夏の夜
東京都調布市 原田尚季
炎熱の続く夕べのギョウザ焼き
東京都八王子市 美村
山頂に立つ背に迫る雲の峰
東京都東久留米市 鶴田幸男
母の日や畳に残るベッド跡
東京都東村山市 鮫島啓子
対策は暑さを凌ぐ日陰かな
東京都町田市 飯窪航平
夏の月土星木星集いたり
東京都武蔵野市 伊藤由美
病む猫をそっと抱きしめ端居かな
東京都武蔵野市 太田裕紀子
夕凪やウクレレ弾く手丸まる背
東京都武蔵野市 尾魚小僧
渓谷を狭め濃く鳴く時鳥
神奈川県川崎市 田島春光
牡丹の散れば私に予定なし
神奈川県川崎市 前沢直広
生き死にの話夕焼雲に乗せ
神奈川県川崎市 前沢順子
おかえりと夏空染める夕日かな
神奈川県川崎市 夏目夏子
麦の秋夕日を乗せる猫車
神奈川県相模原市 あづま一郎
雲の峰アンネと共に夢の旅
神奈川県相模原市 金本節子
祖父と水遣る向日葵の後ろ姿
神奈川県相模原市 須藤かをる
後戻りできぬ世となり心太
神奈川県相模原市 渡辺一充
緑陰や力車連なる嵐山
神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦
大広間大の字並ぶ大昼寝
神奈川県茅ケ崎市 坂口和代
廃線のレールをなぞる晩夏光
神奈川県横浜市 大舘圭子
僧堂の格天井や夏の蝶
神奈川県横浜市 要へい吉
飛び込んだプールはそらの青ばかり
神奈川県横浜市 小橋風音
万緑の古道の先は大仏殿
神奈川県横浜市 教示
ゴルゴにはなれぬ男のサングラス
神奈川県横浜市 芳賀理音
マスク越し香る夜風で夏を知る
神奈川県横浜市 ホオジロサメ子
明けぬ梅雨小さき命待てず鳴く
神奈川県横浜市 自戒老
コロナ禍の中で騒げず金魚みる
新潟県長岡市 安木沢修風
わらべ去る祠の中の神輿かな
新潟県南魚沼郡 高橋凡夫
生まるるは少し痛くてキャベツ泣く
富山県南砺市 珠凪夕波
廃線の枕木の色夏の露
山梨県韮崎市 三八五
限りなく雲消え失せて原爆忌
山梨県中央市 甲田誠
ひと雨のあとの明るき青田かな
岐阜県岐阜市 辻雅宏
イルカショー飛沫を避ける夏帽子
岐阜県多治見市 緑
草むしる手の先蜥蜴かくれんぼ
岐阜県瑞浪市 稲葉木嬰
長梅雨が明けて人の世再自粛
静岡県伊東市 小林としお
新しき水得てはしゃぐ金魚かな
静岡県湖西市 市川早美
ジグザグの片蔭を行くジグザグと
静岡県静岡市 川上森
パスワード思い出せずに酷暑かな
愛知県岡崎市 山田蝶生
立漕ぎの少女止まりし夏木立
愛知県岡崎市 山田俊之
告白す手にくしゃくしゃの夏帽子
愛知県高浜市 篠田篤
哀惜を込めし湯灌や百合香る
愛知県知多郡 伊藤京子
目瞑れば風の澄みゆく新樹かな
愛知県名古屋市 久喜聖子
初夏や鉄腕アトムの青空だ
愛知県名古屋市 白沢修
安産や梅雨の晴れ間の伊勢参り
愛知県名古屋市 藍太
大夕立轍残して旅芸人
愛知県日進市 嶋良二
毒まむし舌に間合ひを計りけり
三重県志摩市 廣岡梅生
箱根空木突然に今朝華やげる
三重県松阪市 宇留田敬子
中らぬ矢カレーの香る夏の夕
三重県松阪市 谷口雅春
紫陽花の咲く晴れ間干す布団かな
三重県松阪市 春来燕
幼き日ご挨拶した青蛙
三重県三重郡 水越晴子
シエスタや花椎の香に窓を閉ぢ
滋賀県大津市 蛍川成
艪の音のぎいで始まる鵜飼かな
滋賀県彦根市 馬場雄一郎
夏の蝶風から流れ来たりけり
滋賀県栗東市 葛城巖
思い出となるべく今朝の河鹿笛
京都府京都市 木下いろは
首振って明日はどうする扇風機
京都府京都市 さいとう実
夏空へ輝く眉目サヨナラ打
京都府京都市 日毎新
父逝きて籐椅子の上に竹とんぼ
京都府京都市 水色
インスタ映えなる流行や葛饅頭
京都府京都市 林修一
百合の香や目瞑るままの歯科の椅子
大阪府和泉市 清岡千恵子
緑蔭へ子等の歓声カバ舎より
大阪府大阪市 金尾美昭
雨乞ひや夜まで待てぬ半沢直樹
大阪府大阪市 清島久門
小糠雨止み立葵咲き昇る
大阪府大阪市 星野正樹
亡き弟の声高々と夏山路
大阪府堺市 伊藤治美
陰性のうちに済まさう水喧嘩
大阪府堺市 椋本望生
華やかな社交界は蝉の声
大阪府堺市 森宗紀子
妙齢の浴衣の胸に秘めし熾
大阪府泉南郡 藏野芳男
カクテルに涼風という名を付けて
大阪府高石市 岡野美雪
夜釣りの子惰力で回るペダルかな
大阪府豊中市 寿一二三
お供えの麦落雁の花や川
大阪府豊中市 橋迫富枝
白シャツの背中押さるる歩き神
大阪府豊中市 増田勝子
風鈴の音誘われぬ宵の星
大阪府豊中市 増田裕彦
横顔の弥勒菩薩や夏の月
大阪府寝屋川市 伊庭直子
病床へ音届きたり揚花火
大阪府阪南市 岡崎久代
愛猫の鼻先とんでアゲハチョウ
大阪府東大阪市 明霞
豹の眼は岡本太郎だアロハシャツ
大阪府藤井寺市 風太郎
薄荷飴ころんと一つ夏の果
大阪府八尾市 レディ金魚
カリウムとリコピン補給する端居
兵庫県尼崎市 大沼遊山
焼き上がるクロワツサンや麦の秋
兵庫県尼崎市 大沼遊山
原爆忌漢字苦手な帰国子女
兵庫県加古川市 山分大史
風渡る鳴き終わりかや朝の蝉
兵庫県神戸市 鞍馬睦子
青空へ影送りするヒロシマ忌
兵庫県神戸市 萩原善恵
遠い日の青春だった夏の海
兵庫県神戸市 日の峰桜
絵日傘や波打際のけんけんぱ
兵庫県神戸市 藤井眞おん
晩学の眉強く描く夏化粧
兵庫県三田市 立脇みさを
物干しは満席なりし半夏生
兵庫県宝塚市 あさいふみよ
心太五十路の苦労子は知らず
兵庫県西宮市 森田久美子
片蔭の毟られてゆくビル解体
岡山県岡山市 ギル
編集の音楽テープ聞く晩夏
岡山県岡山市 森哲州
向日葵やムーニエの定理オンライン
広島県安芸郡 ありちゃんが
放置死の女児は無戸籍捕虫網
広島県東広島市 水野友晴
Tシャツの色くたびれし晩夏かな
広島県福山市 石崎勝子
待ち侘びる自粛解除や生ビール
広島県福山市 林優
コロナ禍の戦場に立つ茅の輪かな
広島県山県郡 烏尾朋江
炎天のラーメン屋すぐそこにあり
山口県山口市 鳥野あさぎ
亡き夫にセールの知らせ届く夏
徳島県徳島市 藍原美子
夏満て古びた家に若き人
徳島県徳島市 有持貴右
汗くさきままで箸持つ仕事飯
徳島県徳島市 有持貴右
漁火の明かりを窓に避暑の宿
徳島県徳島市 漆原初子
夏風邪の不思議な声の出たる朝
徳島県徳島市 笠松怜玉
水を得て肌輝けるなすびかな
徳島県徳島市 京
サングラスかけたとたんに背筋伸び
徳島県徳島市 島村紅彩
蝉時雨陽射さけ行く散歩かな
徳島県徳島市 高松昌子
磔刑のごとく干さるる水着かな
徳島県徳島市 山之口卜一
夏痩や番茶の樽に家訓あり
徳島県阿南市 中富はるか
百円の傘にイニシャル梅雨に入る
徳島県阿南市 白井百合子
ロゼワイン揺らし一人の夏の月
徳島県阿波市 井内胡桃
浜にきて重ねぬりする日焼止め
徳島県板野郡 石川恭子
日焼け児の焼き残したる足の裏
徳島県板野郡 伊藤たつお
万緑の中に豚舎の赤い屋根
徳島県板野郡 佐藤一子
陣取りのカラスは鳬に空譲る
徳島県板野郡 寺沢カズ子
酷暑にて絵文字の顔の苦笑い
徳島県美馬郡 田辺美葉
大の字の寝ている姿夏休み
徳島県三好市 土井清子
岩の間を滴る昼や涼もらい
徳島県三好市 平岡惠美子
汗拭う右袖続いて左袖
香川県高松市 森研太
田植え後水面に映るやま願う
香川県丸亀市 宮井直樹
曾祖父に平和を告げる蝉の声
香川県三豊市 さち
向日葵や留守の家から顔を出す
愛媛県松山市 宇都宮千瑞子
向日葵は子どもの背丈見守りて
高知県安芸郡 西本明浩
発明の塩コーヒーで夏凌ぐ
福岡県北九州市 赤松桔梗
あと少し机に向かう虹かかる
福岡県朝倉市 史
田の海や早苗ゆらして列車過ぐ
福岡県福岡市 青木草平
「…やっちゃった」頭突っ込む冷蔵庫
福岡県福岡市 吉野ナギ
陸上部サングラス外して涙
長崎県長崎市 堀夕子
児の瞳桜桃の実の太さかな
佐賀県唐津市 浦田穂積
白日夢ブルガリの香と混じる汗
大分県豊後大野市 後藤洋子
石ひとつ置ひて蛍の墓つくる
宮崎県日南市 近藤國法
赤瓦南の風情夏の彩
鹿児島県鹿児島市 有村孝人
鳴く蝉の思ひ変わりて泣く背見え
沖縄県宮古島市 夏色一茶