HAIKU日本大賞2020冬の写真俳句 発表
2020冬の写真俳句大賞
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(評)落ち散り紅葉が見事です。奥にあるのはお寺でしょうか、神社でしょうか。まるで神の道を染めているようです。見事に色づいた葉を散らす風は残念なものと思われがちですが、散ってもなお美しさがあることを気づかせてくれる良句です。
次点
(評)実景なのでしょうか。都会の景色もかすんでしまう雲の合間の二つの光が、神の瞳のようにも見えて印象的です。また、少しずつ明るくなっていく地上を斜めに照らす光を逆さの扇にたとえて表したところに、この写真俳句の妙があります。
(評)見事な瞬間をとらえた一枚です。嘆きは作者の嘆きなのでしょうか。それともこの景色を見た人は皆、少しばかりの寂しさを感じるのでしょうか。それでもその嘆きに寄り添うような、暖かみを感じる光が、誰もが感じたことがある嘆きから立ち上がれるような気持ちになります。
<秀逸賞>
綻びて気息吐き出す福寿草
宮城県仙台市 繁泉祐幸
(評)花を開こうとする福寿草の息づかいまで聞こえてきそうな写真俳句です。心を弾ませながら待っている作者の息づかいも感じられます。「気息吐き出す」の措辞がぴたりとはまり、福寿草の黄金の花色が新しい年の始まりを祝ってくれているかのような晴れやかさです。
春隣あまたの枝の空を抱く
千葉県市川市 藤田真純
(評)冬木と冬空が独特の世界を創り出しています。枝先までしっかりと捉えた冬枯れの木の枝が空に大きく手を広げて春を迎え入れようとしているかのようです。「あまたの枝の空を抱く」の擬人法の措辞によって、冬木の力強い生命力を感じ取ることができます。
駆け寄りてホームの端の冬夕焼
千葉県船橋市 井土絵理子
(評)「冬夕焼」は夏の夕焼に比べて儚く淡い。遠ざかる夕焼と近付く電車のヘッドライト。間に合った安堵感なのかそれとも、愛しい人を見送る切なさの中で見えた「冬夕焼」なのか。自然と人工物の融合した落日の写真と情緒的な句によって独特の気分が醸し出され読者に伝わります。
狛犬の顔が和らぐ雪帽子
東京都荒川区 涌井哲夫
(評)中々の愛敬ものの狛犬の上に少し残った雪を帽子と見立てての一句。夜のうちに降ったのだろう雪景色の境内。「雪帽子」のせいか、いつになく親しみを感じさせてくれる狛犬。作者の感じたそのままの素直さが良いですね。
許されてまだこの世に棲む寝正月
東京都狛江市 小川かをり
(評)日の出を真正面に捉えた一枚。幾度となく見た光景であっても、お正月ともなると改まった気分になるものです。だんだんと光り輝いてくる日の出が作者を厳かな感慨に導いたようです。大きな力によって「許されて」、私たちは今を生きているのでしょう。日の出の神々しさと「寝正月」の対比が面白い一句。
初富士や太宰も通いし跨線橋
東京都武蔵野市 伊藤由美
(評)東京都三鷹市に太宰治の愛した跨線橋があります。昭和4年に竣工し、今もその姿を留めています。次第に茜色を帯びてくる美しいグラデーションの空に「初富士」がくっきりと捉えられています。「太宰も見たのかなあ」と想像すると、小さいながらも存在感のある「初富士」です。鉄柵と曙光の剛と柔を併存させ、オリジナリティが発揮された一枚です。
石橋やナルキッソスの水冴ゆる
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)「ナルキッソス」はギリシャ神話に登場する美少年。ある日、ナルキッソスは神によって自分だけを愛するように運命付けられます。泉に映る自分の姿に恋い焦がれ、その場から離れられなくなりやがては悶死。「水冴ゆる」の水の冷たさと、石橋を境とした光と影が彼の運命の明暗を見せているかのようです。
縦と横美脚と味を競う寒
神奈川県平塚市 八十日目
(評)冬の景観のひとつに大根干し。寒風に晒され昼夜の寒暖によって旨味がどんどん凝縮されていきます。「美脚と味を競う」というユーモアのある句が写真の良さを盛り上げています。作者が捉えたのは、昔ながらの味わいのある田舎の風物詩で微笑ましい写真俳句となっています。
雪晴れや何することもなき一日
石川県金沢市 百遍写一句
(評)小さな雪だるまに地蔵様のような存在感が宿っており、何とも長閑な写真俳句です。降り積もった雪に太陽の光が眩しく反射して美しい「雪晴れ」の一日。背景のぼかしも有効で、雪だるまと一緒に時が止まってしまったような空間が広がっています。
過疎村や荒るるにまかせ残り柿
岐阜県岐阜市 鈴木白湯
(評)雪の白と空の青のコントラストによって冬の情景が切り取られた一枚。冷たく透き通るような青空の中、雪の纏わりついた「残り柿」が作者の感性を揺さぶったのでしょう。ポツンとある一軒の家屋も尚更、「過疎村」の侘しさを深めます。
顔いろを変えて我慢やずわい蟹
滋賀県大津市 つよし
(評)茹でられた「ずわい蟹」を「顔いろを変えて我慢」と詠んだのか、それとも高値に驚いた作者自身が顔いろを変えたのでしょうか。俳味溢れる写真俳句。整然と並ぶ「ずわい蟹」と目立つ値札は、他の魚介類との格の差を見せつけているようです。「我慢や」の切れ字によって、句の面白みを増しています。
僅かなる暖に目覚むる返り花
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
(評)春に咲く花が初冬に暖かい日が続くと、季節外れの花を咲かせます。これが「返り花」。背景をぼかしピンクの花が鮮明です。時ならぬ花に出会えた喜びが伝わってきます。冬日の中で精一杯可憐に咲く桜と作者の繊細さが滲み出ていて心惹かれます。
寒鴉鳴く鉄塔の曇り空
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
(評)一見、モノトーンの抽象画のように見える一枚。日射しの届かない灰色の空が冬の景を象徴しています。余分な風景が切り捨てられ、三羽の「寒鴉」が印象的に捉えられています。七音・五音・五音の句跨りの句は、省略の上手さも効いて深みのある作品に仕上がっています。
禽獣の深山枯れて人里に
和歌山県橋本市 徳永康人
(評)二羽の鳶が弧を描き、手前に見えるのは猪。「禽獣」が人里に現れ農作物を荒らすことが珍しくありません。誰もが思い浮かべる懐かしい日本の原風景ですが、「禽獣」との関わり合いの中で人里が存在している現実と、鳥や獣にとっては「深山枯れて人里に」という現実があります。
<佳作>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。