HAIKU日本大賞2020春の写真俳句 発表
2020春の写真俳句大賞
写真をクリックすると新しいウィンドウで大きく表示されます。ぜひ皆様の力作を拡大画面でご覧ください。(オリジナルの写真サイズが小さい場合は拡大されません。)
(評)空の色よりも鮮やかな電車の色が春の訪れを感じさせるいい写真です。手前の線路脇の花雲に煙る山まで奥行きも感じさせ、一両編成の鉄道が走る雰囲気にぴったりです。その全てを「汽車が踏みしむ」と表したところに爽やかさを感じさせてくれるいい写真俳句です。
次点
(評)人はいつ自分の恋に気づくのでしょうか。気付いた瞬間、どのような気持ちになるのでしょうか。それは胸に広がる満開の桜のようではないでしょうか。嬉しさが弾ける気持ちが伝わってきます。
(評)椿は潔く花を落とします。この作者は、そこに自分の人生の何を見ているのでしょうか。そして、写真だからこそ気がつくことは椿は落ちてもなお美しいということです。きっとどの人生も美しいのでしょう。
<秀逸賞>
空青く意識を放ついぬふぐり
宮城県仙台市 繁泉祐幸
(評)背景のぼかしによって天を向く「いぬふぐり」がくっきりと浮かび上がっています。一輪の小さな花が何かを懸命に訴えているかのようにいじらしく、「意識を放つ」の措辞通り凛として印象的です。花の息遣いさえ聞こえてくるようです。
地図広げ世界一周外は春
茨城県水戸市 打越榮
(評)春到来の浮遊感を漂わせる写真ながら、句の方は「外は春」とまるで突き放したかのような下五です。コロナ禍の中での写真俳句かと思われ、作者は家の中で世界地図を広げながら旅をする気分を味わっています。風に吹かれるまま旅する絮を恨めしく思っているのでしょう。
春光の魔法水面の美術展
千葉県市川市 森中ことり
(評)中七に切れを入れて、名詞と助詞のみで詠まれています。メタファーを使い力強く詠むことで作者の感動がストレートに伝わってきます。春先のまだ枝ばかりが目立つ一樹に、あたかも葉っぱのように散りばめられた水草。水面は芸術性を増し独特の世界を創り出しています。
不満げなパンジーの顔見つけたり
千葉県船橋市 井土絵理子
(評)「不満げなパンジーの顔」の措辞通り、写真をよく見るとそんな風に見えてきます。しかめっ面に見えてしまうことにパンジーも困惑していることでしょう。色鮮やかな満開の「パンジー」を人の顔に見立てた作者の遊び心が活きています。
風ゆきて世はこれを呼ぶ春愁、と
東京都足立区 繁泉まれん
(評)美しい調べの句と夕景の写真が印象的な写真俳句。都会の「春愁」が夕暮れの川面に映り込み、人はふっともの悲しさに包まれます。まるでドラマのワンシーンを思わせるような春の夕暮れ。景と句が相まって作者の情感が写し取られています。
散りゆくも水面彩る桜かな
東京都荒川区 涌井哲夫
(評)少しずつ形を変えながら川下へと流れていく花筏。川面を薄紅色に染める華やかさも魅力ですが、漂いながら目の前を過ぎていく一片一片の花びらには奥ゆかしさを感じます。間もなく桜しべを降らす頃。桜の季節の終わりを感じながら、枝に残った一輪が殊更愛おしく見える写真俳句です。
花吹雪と見紛うほどの星の乱
東京都町田市 織辺進一
(評)幽玄の世界を表出させ、座語に「星の乱」と置いた格調高い写真俳句。ダーク系でまとめた配色が神秘を醸し出しています。白い花びらがアクセントとなり桜の美しさがより浮かび上がり、その中に星が散るかの如く捉えられています。幻想的な世界に引き込まれてしまいます。
かばかりの水わかち合い光の芽
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)生き生きとした茎や葉が野菜のパワーを感じさせてくれる一枚。野菜たちの生育を日々楽しみながらキッチンに立つ作者の姿が目に浮かぶようです。「光の芽」の表現は、野菜への感謝の心や生命の不思議にも通じ、キッチン菜園を通して日々の希望の生まれてくる心温まる作品です。
都忘れ形見の色の鮫小紋
神奈川県鎌倉市 奈賀子
(評)「都忘れ」の濃い紫に亡き人を偲ぶ作者。花の名は鎌倉時代に佐渡へ流された順徳天皇の、この花を見ると少しだけでも都への想いを忘れられると話したことに由来し、花言葉も「別れ」や「しばしの慰め」と寂しい言葉が並びます。「鮫小紋」との取り合わせで情感ある作品へと仕上げています。
告白や花びらの滞空時間
神奈川県川崎市 田島春光
(評)散る桜の瞬間を「滞空時間」と詠み、より鮮明に読者に印象付けています。その数秒をズームアウトすれば意味深な「告白」の場面へと展開します。「告白」はどんな言葉だったのでしょうか。一行詩の魅力を遺憾なく発揮した句と、風雅を湛えた写真が幻想的な趣のある写真俳句となっています。
先ず咲くと呼ばれ金縷梅咲き急ぐ
神奈川県平塚市 八十日目
(評)早春の山に真っ先に「先ず咲く」ことから、あるいは枝々に「咲き満つ」ことからこの名が付いたというのが金縷梅(まんさく)の由来です。この句は「呼ばれ」の動詞が効果的に使われていて、咲き急ぐ「金縷梅」の持つ雰囲気をよく醸し出しています。背景の岩の冷たさに、「咲き急ぐ」花の表情を作者は感じ取っているのでしょう。
早春や岩肌寒き城ケ崎
神奈川県横浜市 教示
(評)火山の噴火によって流れ出た溶岩流が絶壁を形成した伊豆半島の「城ケ崎」。肌寒さが続き、日射しはあっても吹く風はまだ冷たい早春に、人影のない城ヶ崎海岸の岩肌の荒々しさが荘厳な自然の緊張感を伝えてきます。「岩肌寒き」に叙景句の佳さが光ります。
ウェブ帰郷母の動画の花便り
岐阜県岐阜市 鈴木白湯
(評)かつてない程多くの新造語を目にしたこの春。「ウェブ帰郷」もその一つです。“新しい生活様式”は今後も世の中の常識を大きく変えていくことでしょう。菜の花の鮮やかな黄色のグラデーションが景色の広がりを感じさせます。コロナ禍に阻まれた帰郷ですが、送られてきた動画には母の愛情がたくさん盛り込まれていたに違いありません。
世の流れ吾関せずと春の猫
愛知県名古屋市 久喜聖子
(評)不思議な感覚を読者にもたらす巧みな写真。「吾関せず」と猫の性格を上手く表現しています。猫ドアと化した障子の剥がれに片足だけ少し見せたところが猫の悪戯ぶりを想像させます。それでいて愛さずにはいられない作者の想いが伝わってきます。
花水木歓喜のスカイダイビング
大阪府大阪市 翠花
(評)「花水木」が見事に咲き誇っています。空から舞い降りてくるかのように咲く様は、パラシュートを開き地上に降りて来る「スカイダイビング」さながら。この迫力はアングルの賜物です。赤く連なる花水木が歓喜と興奮を表わしているかのような写真俳句です。
コロナ禍も花は動じず開きけり
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
(評)例年なら花の宴が賑やかに繰り広げられる春ですが、今年はどこもひっそり。満開の桜に少しだけ立ち止まって、密やかに春を楽しむ作者の心情が伝わってきます。家に閉じこもってばかりの憂さも、いつもと変わらない自然の恩恵があるからこそ明日へと繋いでいけるのでしょう。
よきことのありしごとくに枝垂れ梅
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
(評)風格のあるごつごつとした幹から枝の先をゆるやかに下へと伸ばす「枝垂れ梅」。アングルの良さが特徴を引き出しています。格調の高さから「よきことのありしごとくに」の措辞が良く似合い、微笑みが零れ落ちてくるかのようです。枝垂れ梅の気品ある香りさえも優しく読者に届けてくれます。
禍福あり新芽の向かふ新世界
徳島県徳島市 今比古
(評)木々から萌え出す「新芽」には希望と力強さがあります。「禍福」とは不運と幸運。同じように芽吹いても辿る先はそれぞれです。この春は、見るもの感じるもの全てが今までと異なりました。作者の想いがしみじみと心を打つ作品です。
<佳作>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。