HAIKU日本大賞2019冬の写真俳句 発表

2019冬の写真俳句大賞

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雪明かり湖面に明日を映しけり

[ 徳島県徳島市 勝野楓香 ]

(評)見事な写真です。雪化粧の木々、彫り深い白の空、そして青を含む湖面。中心に東屋をもってきた構図も素晴らしい。そのうち雪は溶けて、明日はどのような情景を映し出すのでしょうか。写真に時の流れを与えた秀逸な写真俳句です。

次点

暁の入江のしじま牡蠣筏

[ 兵庫県芦屋市 榎本恵子 ]

(評)まず目に飛び込んできた様々色合いのブルーに心が動かされました。空も陸も海も岩陰も牡蠣筏も青く、静けさに満ちています。この幽幻さに心奪われました。この風景はきっと一日に一瞬だけみられるのでしょう。それは人々の生活の合間にある一瞬だけの静かさ。その暁の空気感がよく表わされている写真俳句らしい写真俳句です。

迎春に龍が如くと願かけて

[ 和歌山県橋本市 徳永康人 ]

(評)空の灰色、雪に降られつつも細くしなやかな黒い枝、それを支え、上へ上へと命を開こうとする木の幹。これらを龍に例えた妙が冴えています。また、あえてモノクロにしたところにも、この句の力強さが表われています。

<秀逸賞>

朝焼けの冬の湖面に冴ゆる富士

宮城県仙台市 小林恭士

(評)「ルールがないのが写真俳句のルールのようなもの」とは、森村誠一写真俳句連絡協議会名誉会長の言葉です。この句は「朝焼け」、「冬の湖面」と重季です。しかし、夏の季語となっている「朝焼け」は、本来は季節を問わずに現われ東の空を薄紅く染める現象です。この写真は美しい雪富士の最たる姿の一つで、その場に立っているかのように読者を誘います。

野うさぎの跳ねし足跡雪緩む

茨城県水戸市 打越榮

(評)普段は灰褐色の「野うさぎ」ですが、冬には毛が生え変わります。緩んだ新雪に残された可愛い小さな足跡。春の足音が聞こえます。保護色で純白になった野うさぎでしょう。また次、いつ巡り会えるか分からないこの幸運を作者は見逃さず、温もりのある一句に仕上げています。

冬の樹や影に命のあるようで

千葉県市川市 藤田真純

(評)中央の影は作者のものでしょう。何とも不思議な世界を醸し出しています。枯野に落した「冬の樹」の影の芸術に日差しがオレンジ色の暖かみを添えます。句に表れる作者の優しさがそのまま人影の柔らかさとなり魅力的な写真俳句となっています。

着膨れて煮る里芋の丸みかな

東京都江戸川区 大舘圭子

(評)やさしい言葉で詠み上げて、印象深い一句。丁寧な盛り付けと艶やかな煮具合の「里芋」は、大切な人を待っているかのようです。作者の心配りと、食事を共にするそのひとときを待つ喜びが、この写真俳句からひしひしと伝わってきます。

FMのジャズに重なる冬の雨

東京都清瀬市 ベース

(評)カラフルな雨となった芸術的な写真と、流麗な響きの句がマッチした写真俳句。「FMのジャズ」と「冬の雨」が響き合い素敵です。右隅の赤い薔薇が存在感を示し、煌びやかな写真のアクセントとなっています。写真俳句としての完成度の高さに納得させられます。

黎明のあの寒星に母偲ぶ

東京都町田市 織辺進一

(評)日の出が海と空を染め、宇宙の壮大さが凝縮されたかのような一枚。澄み渡った透明な大気の中に、美しい星々があります。その中の一つが最も輝きを放ち印象的です。夜明けと共にもうすぐ消えてしまう「寒星」に重ねた作者の想いは、「母偲ぶ」。下五が実に効果的です。

立ち枯れて暗号残すや冬の池

東京都武蔵野市 伊藤由美

(評)凍て付く池に、黒い木の枝。これから何か怖いドラマでも始まりそうな雰囲気です。作者は枯れ木が何らかの「暗号」のように感じたようです。同じ景色を見ても、人は心境によって見えるものが違ってきます。池の中に辛うじて残っている枯れ木を暗号と詠んだ作者のシュールさが面白い作品です。

持ち寄るは孤食の心年忘れ

神奈川県厚木市 折原ますみ

(評)「孤食」とは、食事の際に孤独を感じてしまう寂しい食事のこと。可愛らしい雀たちの食事風景は、「孤食」の心を慰めているかのような一枚。目の前の雀を詠んだのか、はたまた自分自身の心を投影したのでしょうか。日常の中に冬の詩情を捉え、哀感のある作品に仕上がっています。

白くぐいシンクロナイズ大輪花

神奈川県鎌倉市 奈賀子

(評)「白くぐい」は、伝説や神話に登場する白鳥の古称。円形に群れる白鳥を「シンクロナイズ」した「大輪花」と詠みました。一羽一羽が湖に咲いた大輪の菊の花びらように華やかです。また、湖の錆御納戸の色合いが白を引き立てています。投げ入れられた餌に寄ってきたのでしょうか。一瞬を捉えた美しい作品です。

白鳥のボートの如く岸にをり

神奈川県横浜市 稲畑実可子

(評)句を読めばすぐさま景が想像できる一句ですが、写真にはそれ以上の面白さがあります。“優雅で美しい”が代名詞の白鳥。他の水鳥に混じって、一段とその美しさを増しています。これが作者の目には、湖岸で乗客を待つボートに見えました。「如く」がピッタリと合い、写真の構図が効いています。

枝枝を精緻に紡ぐ寒の水

石川県金沢市 百遍写一句

(評)神秘的な力があると信じられている「寒の水」の二つの違った美しい表情を捉えています。非常に細かに注意を払い紡いでいるかに感じた様を素直な表現で詠んでいます。雪国ならではの冬の詩情たっぷりです。澄み切った緊張感の伝わる写真俳句です。

雪囲天与の色の白極む

岐阜県岐阜市 鈴木白湯

(評)雪深い山里での自然風詠句。ひとたび寒気が押し寄せれば一晩で深い雪に覆われます。雪は、朝日で眩いばかりの白さ。作者は「天与の色」と詠みました。雪は春になると雪解水となって多くの命を育みます。この地に生きる作者の心からの声が迫力ある写真俳句を生みました。

それはさて長生きせよと散紅葉

京都府京都市 富永実

(評)庭に散り敷かれた「散紅葉」の息を飲む美しさには、秋の艶やかな紅葉とは異なる趣きがあります。紅葉の絨毯の風雅な景色は、この名所の持つ歴史の古さを物語っています。「それはさて」の上五の長閑で俳味ある俳句が色を添えます。この場に立ち、大いなる自然からインスピレーションを受け取った作者の深みある作品となっています。

その先はグラスボートの冬休み

大阪府大阪市 翠花

(評)沖縄の美しい自然の中での写真俳句でしょうか。どうやら作者は寒い日が続く日常から脱出したようです。その喜びを省略の利いた一句が心地良く語っています。モノトーンの冬において南の島の眩しい景色が印象的です。

日脚伸び嬉しきこともありにけり

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

(評)冬の終わり、街を歩きながらいかにも見落としてしまいそうな小さな光景にカメラを向けました。我が身に降ってくる落葉をものともせず花を咲かせる菫。きっと菫によって引き寄せられた一枚でしょう。可憐さの中に秘められた力強い生命力が読者を感動させる作品。

初夢や一億年を遡る

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

(評)恐竜は人類が生まれる前には絶滅しました。そんな恐竜のモニュメントが出現。ライトアップで生じる恐竜の光と影、そこに確かに人が生きていることを示すビルの灯が写真の迫力を高めています。「初夢」としたことで、写真と俳句のコラボレーションが生み出す作品のスケールが一段と大きくなったようです。

しんしんと迫る元号寒暁

徳島県徳島市 今比古

(評)「寒暁」は身にしむ寒い夜明けのこと。静まりかえった冬の夜は、気持ちが研ぎ澄まされます。「しんしんと迫る」の措辞から窺える新しい時代への想い。それは決して喜びだけではなく、「寒暁」に込めれた厳しさや緊張にも通ずるもの。「元号」の静かで確かな歩みが、読み手にしっかりと届いてきます。

山茶花や戸は開けたままの村にて

熊本県八代市 柳武久

(評)ひとつ蕾を見つけた時から、この楽しみはスタートしています。次第に増していく蕾の数。蕾のふくらみは日に日に大きくなり、いざ花期の到来です。この日この時の情景を十七音で伸びやかにすっきりと詠み上げています。

<佳作>

時を経て誰を忘るや都鳥

宮城県仙台市 繁泉祐幸

春までも咲いてやるぞと寒椿

埼玉県入間市 荘然

冬電飾月とタワーも夢心地

神奈川県川崎市 事物

人々の迷いを清め雪地蔵

神奈川県平塚市 八十日目

重たげに幾枝垂るる冬木立

新潟県南魚沼郡 高橋凡夫

裸木となりて余生の軽さかな

愛知県名古屋市 久喜聖子

しんしんと静まり返る雪景色

徳島県徳島市 勝野萌菜

雪だるまひとりじゃないよボクがいる

徳島県徳島市 山之口卜一

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。