HAIKU日本大賞2019夏の写真俳句 発表
2019夏の写真俳句大賞
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(評)まずは写真に惹かれました。まるで宇宙を抱いているような、幻想的な写真です。下は池になっているのでしょうか。きっと苔むしているのであろう黒い岩壁、そこにこぼれ落ちる一筋の光、そして、木立の透ける緑がなんとも涼やかです。そして、俳句のあえて硬い表現がそれらを引き立たせていますね。静謐な写真と端正な言葉選びで日本の夏の美しさが表現されています。(作者はロープ一本を頼りに降りて撮影したそうです)
次点
(評)切なく抱えた恋心が、抑えきれなくなったのでしょうか。花火の一拍遅れて伝わる音に恋のもどかしさがよく表されている、写真俳句らしい良句です。夜空の闇を千々に彩る花火を上部に写した構図が迫力のある写真に仕上がっていて、なおのこと恋の激しさが感じられます。
(評)今にも落ちてきそうな低く垂れ込めた雲とあふれそうな水面が日常を挟み込んで、何かが起こる前の静けさのような抑えた迫力を感じさせる雰囲気があります。故郷に帰ってきた黒南風は何を企んでいるのか、これからどんな物語が始まるのか、想像の翼を広げさせてくれる良句です。
<秀逸賞>
蜘蛛の巣の梅雨のきらめき誰ぞ知る
宮城県仙台市 小林恭士
(評)蜘蛛の巣と雨粒が作り出した産物は、きっと作者も思いもかけなかったほどの美しさ。蜘蛛の巣を雨がアートに変えました。不揃いの雨粒がリズミカルな快い動きのある写真俳句に仕立てています。「梅雨のきらめき」という措辞でこのシーンの美しさを一層増します。
小さきもの夏の陽射しを背負い込む
宮城県仙台市 繁泉祐幸
(評)「小さきもの」に焦点を当てた写真。素直で明るい句に、蜜を求めてやってきたミツバチと一輪の紫色の清楚な花の写真とがマッチして印象に残る写真俳句となりました。「夏の陽射し」の中で、「小さきもの」を優しく見つめる作者の優しさが心に届きます。
潮騒の遠くに引きて秋近し
茨城県水戸市 打越榮
(評)次から次へと押し寄せる白波は台風の余波でしょうか。まだ、雨雲が残っているような海の色です。海鵜たちもやっと静まってきた海に、平穏を取り戻したかのようで暮れゆく海を見つめています。夏の終わりの一抹の寂しさをどこか匂わせる作品です。
燕の子顔より口の大きくて
千葉県市川市 藤田真純
(評)「燕の子」の生命力溢れる食欲の旺盛さ。まるで親燕までも食べてしまいそうです。その勢いがベストなアングルによってユーモアのある一枚となりました。雛の羽毛の柔らかさや巣の土の質感など、触れずとも感じられる生き生きとした感覚が伝わってきます。
紅き実に密かに宿る深宇宙
東京都足立区 繁泉まれん
(評)流麗な句と宝石のように輝く苺の実。深宇宙とは宇宙空間において地球と非常に離れたところのことを言います。この写真に収められた苺に焦点を当てた時、何か異次元のものを見る不思議さを感じ取ることができます。一枚の写真に生命力を吹き込んだ一句が鮮やかな写真俳句。
知る辺なき街の並木に風五月
東京都府中市 涌井哲夫
(評)作者はこの春定年退職し、新たな勤務地で働き出されたとの事。そんな時の街の風景を切り取った一枚です。早朝の風景でしょうか。陽光や緑の木々が五月の清々しい街並みを感じさせてくれる素敵な写真俳句です。下五の「風五月」が不安な心情を打ち消す希望のようでもあります。ここから何か幸せな物語が生まれてきそうです。
夏鴎もめ事もなく並びおり
東京都町田市 渡辺理情
(評)比喩的な「もめ事もなく」が効果的です。友達と思えば頭を寄せ合って、苦手と思えば少しだけ間隔を取って・・・。そんな姿に見える「夏鴎」の所作の面白さが出ています。船のロープに並ぶ「夏鴎」は圧巻です。絶好の休憩場所ですね。
炎昼やのっぴきならぬ話あり
東京都武蔵野市 伊藤由美
(評)ビルの手すりに止まるいかにも話し合っているかのような二羽の鳩。これを掲句は「のっぴきならぬ」と緊張感を高めました。「炎昼」は焼けつくすような昼の暑さです。バックの煉瓦作りの壁の光と影が良いコントラストになっています。存在感のある一羽一羽があたかもそれぞれの主張を述べ合っているかのようです。俳諧味のある一句。
翡翠を待つその土手のそのカメラ
神奈川県厚木市 折原ますみ
(評)背中の瑠璃色が美しく長いくちばし。“渓流の宝石”と言われる「翡翠」の姿を見事に捉えました。小柄なこの鳥は、渓流の小枝に止まり魚を一直線に狙う鮮やかな技を持つハンターです。カメラ好きなら誰もが一度は狙ってみたい対象です。シャッターチャンスが来るまでの緊張感も「翡翠」の姿を狙う面白さの一つでしょう。連語の「その」を重ね、シャッターを切る時の胸のときめきが伝わってきます。
羅漢さん日傘男子が羨まし
神奈川県平塚市 八十日目
(評)都会では日傘を差す男性が増えつつあるという。近頃流行の「日傘男子」です。この写真俳句は、まるで二体の羅漢さんの口から出たそのままの言葉が一句となったような作品です。照り付ける日差しの眩しさに目を細めているかに見える石像。苔むした姿は歳月の重さを物語っており寂寥感が胸に刺さる作品です。
ぼうたんのささやき重ね重ねきて
神奈川県藤沢市 本郷智女
(評)「ぼうたんのささやき」とひらがな表記で優しく包み込んだ一句。牡丹を詠んだ句で有名な句が蕪村の「牡丹散て打かさなりぬ二三片」、虚子の「白牡丹といふといへども紅ほのか」ですね。私たちに客観描写の大切さを教えてくれています。一方、掲句は心象俳句で、花の王と呼ばれる「ぼうたんのささやき」を聞いたという作者の陶酔感が出ています。「重ね重ね」のリフレインで艶やかな一句になりました。
軽鴨や幾度かぞへし雛の数
石川県金沢市 百遍写一句
(評)農家は田んぼの草取りにと「軽鴨」を飼っています。写真には農道を横切り別の田んぼへと移動する親子の姿があります。写真にすれば数えやすいですが、作者は動く「軽鴨」の雛の数を何度も何度も数え直したのでしょう。初夏の風の中、親鴨の後をついて歩く雛たちの微笑ましく愛おしい姿が捉えられています。作者の深い愛情で詠み上げられた写真俳句です。
郭公の影追ひ西へ耳澄ませ
兵庫県西宮市 幸野蒲公英
(評)作者は「郭公」の鳴き声を耳にしたそうです。夕焼けに染まる西の空から童謡にある「カッコウ、カッコウ」の艶のある明るい響き。耳を澄ませど姿は見えず・・・。百人一首81番藤原実定「ほととぎす鳴きつる方を眺むればただ有明の月ぞ残れる」の世界ですね。この写真俳句は素直に表現した俳句と枝葉のそよぐ夕焼けの風景で昔ながらの日本を詠み上げ、余情を感じさせる作品となっています。
夕づく日向日葵とともに君を待つ
奈良県奈良市 恵理
(評)真夏の太陽が沈もうとして西の空をオレンジに染めています。夏の化身のような「向日葵」が一面に広がっています。夏の夕暮れはこんなにも情熱的なのかと思わせるのは句に込められた恋しい人を待つ作者の心が読み取れるからでしょう。夕日のシルエットが美しくロマンティックで中央を横切る電車とのバランスも見事です。
群れ成して香る棲家の金亀子
和歌山県橋本市 徳永康人
(評)「金亀子(こがねむし)」は、「ぶんぶん」や「かなぶん」などの呼び名を持つ身近な昆虫です。野口雨情作詞の童謡「こがねむしは金持ちだ」にもあるように「金亀子」は金運アップの縁起の良い虫とされています。その金亀子の集団とは何とも楽しげです。ほのかに甘い花の香りと共に幸せ感漂う写真俳句となりました。
ひまわりやソフィアローレン大股に
徳島県徳島市 島村広子
(評)イタリアの大女優ソフィアローレンの代表作が「ひまわり」です。エンディングでは地平線の彼方まで続くひまわり畑が広がります。下からのアングルの迫力あるひまわりの写真は、大胆に歩く存在感のある彼女そのものです。生き生きと詠まれた句と写真が相まって、芯の強いイタリア女性と重なります。
<佳作>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。