HAIKU日本大賞2019秋の写真俳句 発表
2019秋の写真俳句大賞
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(評)薄い緑に燦めく銀杏の写真と句に、いたずらっぽいような甘い雰囲気を覚えてしまいました。思わず日本酒が飲みたくなってしまいます。酔いながら翡翠のような夜をどう過ごすのでしょうか。胸がくすぐられる良句です。
次点
(評)煙る山、薄明かりを残す川、そして厚い雲がたなびく平野。風の吹き荒ぶ音が聞こえそうないい写真です。そんな中に木犀の香りが色濃く立ち込めて……。山寺で祈る願いはきっと荒々しいものでしょう。そういった想像を膨らませられるのも、いい写真俳句の特徴です。
(評)中心を少し外して撮った三輪のコスモスのか細い姿が句の意味と重なり、心に迫るものがありました。風に吹かれても、雨に降られても、皆で協力し合ってたくましく生きていこう。そんな思いが伝わり、励まされました。
<秀逸賞>
青空をわが物顔の花芒
山形県米沢市 山口雀昭
(評)穂先が柔らかく開く前の「花芒」。穂先を真っ直ぐに天へ伸ばしています。生き生きとした芒が切り取られています。芒の持つ独特の寂しさの風情はまだなく、元気な姿が秋の青空によく似合っています。「わが物顔の花芒」たちの明るい声が聞こえてきそうな楽しい一句となっています。
大気凪ぎ一人ざわざわ月ゆらり
宮城県仙台市 繁泉祐幸
(評)漆黒の闇の中に捕えた金色の満月。作者はこの月の神秘に惑わされてしまった一人なのでしょう。月に物思う心を「一人ざわざわ月ゆらり」の措辞に預けました。「ゆらり」の優しい響きが秋の月の優しさを詠います。しっとりとした和歌の世界のような俳句となって余韻が広がります。
海越えの富士と並びし秋夕日
千葉県船橋市 井土絵理子
(評)沈む太陽と富士が作る詩情溢れる写真俳句となっています。空、山並み、そして波のひとつひとつにまで溶け込んでいる夕日が壮大な自然の美を見せています。「海越えの」と景を大きく詠んだ表現もこの作品の良さを引き立てています。
あいさつの等間隔に冬隣る
東京都江戸川区 池田遊瓜
(評)冬を前にまだ日射しには温もりの感じられる晩秋。鳥たちの様子にも穏やかさが見受けられます。鴨は小さなグループを作るのが特徴です。4〜5羽で沼や川に渡ってきて冬を過ごします。「あいさつの等間隔に」社交辞令を挟んでいるのかと思うと、鳥たちの様子に親しみが湧いて和やかな気分にさせられます。
見上げるやツリーの先の空高し
東京都府中市 涌井哲夫
(評)秋になると大気が澄むので空が高くなったように感じ「空高し」の季語があります。天を衝くスカイツリーの上にある青空を流れる薄雲。静と動の調和を収めた作者の感性の良さが発揮された写真俳句です。完成して、はや7年。“藍白”というわずかに青みがかった白が都心の秋の空によく馴染んでいます。
心の揺れ水面に映す星月夜
東京都町田市 織辺進一
(評)「星月夜」は星が月のように明るく輝いている夜空です。現代ではもはや見ることは難しく多くの人にとっては想像の世界でしょう。息をつめたような静寂の中、撮影する作者の「心の揺れ」さえも水面に映しとってしまいそうです。神秘的で幻想的な世界に誘われる感動の写真俳句です。
シマウマを隠していそうな秋木立
東京都武蔵野市 伊藤由美
(評)作者によりますとルネ・マグリットの油彩画「白紙委任状」を意識しての写真俳句との事です。アカシアの木々の中にシマウマが確かに隠れていそうな騙し絵的な雰囲気があります。見るほどに不思議さを増す一枚。黄葉が白樺を隠し、白樺が黄葉を隠します。白樺によって刻まれたものの全体像を想像させる楽しさがあります。
秋興や覗きからくりスカイツリー
神奈川県鎌倉市 奈賀子
(評)「秋興」とは、心動かされる秋の風情。一般的には紅葉山や澄み渡る山河、月夜など秋の趣きを詠みます。作者が詠んだのはスカイツリー。しかも、真上から真下に向かって。地表にまで続くほぼ直線からなる幾何学模様に何かしら感じた衝撃。作者の位置から俯瞰すれば、下界はまるで遠近法を用いた「覗きからくり」の如く見えたのでしょう。
吊るされて干されて柿は美味くなり
神奈川県平塚市 八十日目
(評)日本の秋の風物詩となっている吊し柿。令和の時代になっても変わらない山村の風景を切り取った写真俳句。構図の良さが読者の目を引きつけます。鳥避けの網の工夫とたくさんの柿すだれ。晩秋の一日、故郷に重ねて眺めていたい光景です。
家路急く理由なきまま秋桜
岐阜県岐阜市 鈴木白湯
(評)家路を急ぐ作者の目の前の光景。背景をぼかし絵画のようなタッチで一輪の「秋桜」に焦点を当てた作品です。蛇行する川、それに沿ってカーブを描く緑も写真の表情となっています。後方のピンク色は、長野県伊那高原の赤蕎麦畑だそうです。随所に作者の意思が感じられる独特の写真俳句の世界です。
朝顔の憂いは蔓の高さかな
愛知県名古屋市 久喜聖子
(評)日本の朝顔に比べて西洋朝顔は生育が良く大きく育ちます。蔓もよく伸びるのでグリーンカーテンに適していますが、確かに道端には伸び放題のまま高所に咲いているものも多く見かけます。朝顔にもそんな憂いがあったのかと、朝顔の気持ちになっての視点に納得させられます。
老いてなお知ること多し彼岸花
愛知県岡崎市 山田凡一
(評)彼岸の頃、土手や畦一面に咲くのが彼岸花。写真の中いっぱいに咲いています。「知ること多し」は好奇心の表れ、何もない毎日なら発見もないのです。作者の情熱は「老いてなお」消えていません。日々エネルギッシュに活動する作者の姿が彼岸花の赤に投影されています。
頬染めし秋明菊や主人公
滋賀県大津市 つよし
(評)薄桃色の爽やかな秋明菊を捉えました。“菊”と名が付いていますが、アネモネの仲間です。細い茎を伸ばして愛らしく咲く可憐な姿はまさに「主人公」です。つい人は足を止めてしまいます。「頬染めし」と擬人化した秋明菊に作者は心を掴まれ大いに癒されたに違いありません。
新涼や山にやさしき雲の影
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
(評)「新涼」は立秋を過ぎて、夏とは違うすがすがしい涼しさを感じること。清流と高い山に掛かった雲を見事に切り取った美しい光景です。川を写真の下一杯に取り込むことで、読者も川に足を浸けているかのように感じます。爽やかな「新涼」の写真俳句です。
栗拾ふ毬と戯れ懐かしき
和歌山県橋本市 徳永康人
(評)寄り添うような二個の毬栗が印象的な作品です。拾ったその場の景色を取り込んで写したのでしょう。その瞬間でしか出せない被写体の生命力が宿っています。毬栗を拾いながら小さい頃を懐かしく思い出したのでしょう。作者の思いも反映されたアングルの良さが効いた写真俳句。
<佳作>
※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。