HAIKU日本大賞 大賞発表

HAIKU日本2020春の句大賞

大賞
桜餅身を固めても良い年に
[ 徳島県阿南市 白井百合子 ]

(評)桜餅が風物詩として食される桜の開花時期は、ちょうど年度の節目でもあり、卒業や人事異動など身の回りの対人関係にもなにかしらの変化が及ぶころです。「身を固めても良い年に」とあるので、作者は誕生日を迎えられたのかもしれません。付き合いのある友人たちにも、結婚をして家庭をもつ方が増え、社会的な立場においても、任される責任が増えてきたのでしょう。自分の行く末に思いをいたしながら食べる桜餅に陰翳が生まれ、ドラマ性の宿る作品となりました。

特選

特選
被爆してみんな土筆になるのかな
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)春の長閑な風景の中にある可愛らしい土筆の風趣ではありません。作者が独特の感性で受け止め詠み上げた一句。確かに土筆の茎は生身の人間の色をし、その頭は黒く焦げているようにも見えます。こんな風に土筆を見た人はいないでしょう。春の土筆の光景におよそ似つかわしくない「被爆」という暗喩に、今の社会情勢への作者の心情がよく表されています。ほのぼのとした土筆の写生句とは一線を画した衝撃の一句。

特選
一山の萬の仏花菫
[ 徳島県阿南市 中富はるか ]

(評)苔生した参道の匂い、ひんやりとした肌感と静寂が伝わってきます。「萬(あまた)の仏」は立ち並ぶ慰霊碑や墓石でしょうか。高野山の奥の院参道を思わせますね。そこに可憐に、ひっそりと咲いている菫。説明的な用語を使わずに詠んだ一句です。大と小、剛と柔の対比で作者の感性とイメージが読み手にも伝わってきます。「俳句は体言の文芸」と呼ばれるのにふさわしい一句。

準特選

準特選
荷解きの技に見惚れる初桜
[ 岩手県盛岡市 蘭延 ]

(評)巡る季節の中での「初桜」の発見は大きな喜びでしょう。ちょうど引っ越し荷物の到着場面に遭遇したのか、固く結んだ荷物の紐を素早く解いていく職人技に「見惚れる」作者。「初桜」と一緒に「荷解きの技」に目を奪われてしまった作者の気持ちもよく分かります。新天地でのスタートを「初桜」が暖かく見守っています。

準特選
山に入り囀り染みる山となる
[ 茨城県水戸市 一本槍満滋 ]

(評)鳥が繁殖期に出す鳴き声が「囀り」です。雄たちの縄張り宣言とも求愛の鳴き声とも言われています。「囀り染みる山」の表現は、山が囀りで溢れているような感じなのでしょうか。作者の聞いた「囀り」を全山での出来事と大景で捉えて成功しています。様々な鳥たちが賑やかに歌っています。古来詠み続けられてきた春山の景を今に謳う明るく楽しい一句。

準特選
長編を閉じて余れる日永かな
[ 山梨県中央市 甲田誠 ]

(評)春になって日が長くなったと感じるのが「日永」。作者が長編を読みふけった後にも、日暮れはまだ遠く穏やかな時間が流れます。季語の斡旋が実に良く、のんびりとした時間の流れの中で今日という日が暮れていきます。急き立てられるものは何もない。持て余している一日を「日永」が的確に表現しています。

秀逸句

引鴨の湖新しく展けたる
[ 岩手県一関市 砂金文昭 ]

(評)「引鴨」は秋に渡ってきて越冬した鴨たちが、春になり北方へ帰っていくことを言います。ひと冬を越した湖を離れ、空の彼方へ去っていきます。「湖(うみ)新しく展けたる」の措辞には、作者のさあ春が来たぞという喜びがあります。「展けたる」の連体止めにすることで、情景の印象を留めながら上五へと戻ります。鴨のいた湖を思い出し、去っていった淋しさをも詠み込んでいます。

花むしろ赤子の頬を押せば笑む
[ 群馬県伊勢崎市 川野忠夫 ]

(評)季語「花むしろ」は花見に用いる敷物を指したり、花が散り敷いた景に見立てて詠んだりします。花見を楽しむ微笑ましい様子を詠んだ一句。「赤子」の笑顔が満開の桜の下で輝きを増し、読者も思わず笑みを浮かべてしまいます。ほのぼのとした景が今春は尚更ほっとさせてくれます。

白梅のこごえで足りる暮しかな
[ 群馬県みどり市 吉田美津江 ]

(評)「白梅」には艶やかな紅梅とは違った趣きがあります。ひらがなで「こごえ」とあって「足りる暮しかな」と結んでいます。「こごえ」は小声であり、まだ寒さが残る凍えでもあるのでしょう。掲句の背景には、穏やかで充足した日々が読み取れます。「白梅」の気品ある姿が作者の人生を浮かび上がらせ感慨深い一句です。

紙切り師鋏に春の色ふらせ
[ 千葉県南房総市 沼みくさ ]

(評)「紙切り師」という面白い題材の一句。紙を鋏や小刀で切り抜いて様々な形を作る伝統芸が紙切りです。寄席では客のリクエストに応えて即座に題材を切ると、台紙に載せ大いに会場を沸かせます。「春の色ふらせ」は、次々に色紙を切って鋏が柔らかい春の色を降らせる瞬間でしょうか。鋏から生まれる様子を鮮やかに詠み上げています。

陽光に薄氷晒す始業ベル
[ 神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦 ]

(評)鳴り響く始業ベルの中、薄く張った氷が朝日に晒されキラキラと輝いています。学校でも職場でも使用される「始業ベル」ですが、この句から受けるのは、さあ!今日もと各々の持ち場へ歩き出す情景です。今にも溶けてしまいそうな氷が陽光に晒される中、その儚さと動き出そうとする強い気持ちが一句の中に仕立て上げられています。

変わらない夢を卒業証書裏
[ 長野県北安曇郡 母子草 ]

(評)今年はコロナ禍によって卒業式も様変わりしてしまいました。
そんな中でも「夢」を卒業生ひとりひとりが抱いています。卒業の感慨と未来への希望。「卒業証書裏」に書かれた「変わらない夢を」の言葉。夢をかなえることを応援してくれる人達がいることの幸せ。その夢がいつまでも変わらず続くことを願います。

春光や保育園まだ門を閉ぢ
[ 岐阜県大垣市 西田拓郎 ]

(評)新型コロナウィルス禍。俳句でもこの未曽有の感染病を取り上げずにはいられません。暖かくなれば収まるだろうと迎えた春も、卒業式を見送り入学式を見送り・・・。未だに門を閉じたまま静まり返っている保育園は寂しい限りです。やるせなさでいっぱいの日々が続いている今、大変な時代に突入したことを思い知らされる一句です。

少し老い少し片意地目刺し焼く
[ 愛知県名古屋市 久喜聖子 ]

(評)「少し」をリフレインさせ一句をリズミカルに詠んでいます。台所での普段通りの暮らしですが、今日をあれこれ振り返りながら・・・。片意地をはってしまった相手は傍にいるのでしょうか。悩んでみたり、反省してみたり。「目刺し焼く」の季語で締め様々な感情が広がります。やはり俳句は季語の斡旋が大切なことを教えてくれます。

横笛が遺品となりし竹の秋
[ 愛知県日進市 嶋良二 ]

(評)竹は春になると地中の筍に養分を送る為、一時葉が黄ばんできます。そして秋になると青々とした葉になります。春に葉が枯れることから植物が黄葉する秋に見立てて「竹の秋」と言いますが春の季語です。笛の持つ音色や、風のそよぎに鳴る竹の葉の擦れの音が作者の想いと重なり詩情を深めています。遺品となった横笛に在りし日の姿を偲ぶ作者の心情が伝わってきます。

家々の窓のアンニュイ春の昼
[ 大阪府和泉市 小野田裕 ]

(評)「アンニュイ」はフランス語で物憂さ、倦怠、退屈などの意味を持ちます。麗らかな日差しの中、今春はいつもとは違う気分を味わったことでしょう。「春の昼」との取り合わせにも説得力を感じます。世の中の憂さとどこか晴れない気分を穏やかな言葉でくっきりと描写しています。

家族みな電話中なるおぼろかな
[ 大阪府和泉市 清岡千恵子 ]

(評)昼は霞、夜は朧。「おぼろ」は春の夜のぼんやりとした覚束なさを表わす言葉です。例年なら春休みなどの帰省で家族が顔を揃える場面の多いこの時期ですが、今年はコロナ禍によるステイホームの要請下で寂しい春となりました。それぞれが会えない人を気遣う夜が続いています。季語「おぼろ」に心情を託した秀句です。

蝌蚪に足生えて年長組となる
[ 大阪府大阪市 古田几城 ]

(評)「蝌蚪」はオタマジャクシの別名。昔ながらに可愛らしく俳句に詠まれてきました。日々「蝌蚪」が成長していくのを見ての作。子どもの成長に例えて「年長組」とした所に微笑ましさが表れていて、暖かい気持ちにさせられます。すこやかに成長する園児の表情も見えてきそうな優しい作者の眼差しが読者を魅了します。

テーブルで母とミモザの座談会
[ 大阪府枚方市 妃斗翠 ]

(評)春早々、街に華やぎを与えてくれるのが「ミモザ」。高さ十メートル以上にもなる木で黄色い花が群がって咲きます。鮮やかな色、優しい香り、ふわふわとした丸い形が愛され開花を待ち望んでいた人も多いはず。「母とミモザの座談会」の光景に、花と語らう弾んだ会話が聞こえてきそうです。母が過ごす春の一日を愛情深く詠み上げています。

三月の小指をはじく静電気
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)三月は寒さと暖かさが交互に訪れながら、日が伸びて春の気配を感じます。冬の名残の「三月の静電気」に見舞われた作者。不意を衝かれた驚きを「はじく」という言葉で表現しこの一瞬を印象付けて詠んでいます。ドアノブなどに触れた時にいきなりくる静電気は誰でも嫌なもの。「小指をはじく」の措辞がこの景をうまく伝えています。

横這いの稚魚の遡上や風光る
[ 徳島県徳島市 漆原初子 ]

(評)春にはアユやワカサギが産卵に向けて遡上します。早春の陽光の明るさに、まだ冷たさの残る風さえも光っているように感じられることを「風光る」と言います。この季語に春を告げる遡上を取り合わせました。清流を泳ぐ群れの中、「横這い」になる稚魚の姿に目を留めた一句。優れた観察力の効いた作品です。

夏近し樟の見守る背番号
[ 徳島県徳島市 佐古サヨ子 ]

(評)今年は、春のセンバツも夏の大会も甲子園は中止となりました。高校球児の心境はいかばかりかと思います。樟は夏が近づくと青々と若葉が覆い、その生命力が一段と感じられます。まるで頑張れと云わんばかりに球児たちを包み込んでいるかのようです。「夏近し」の瑞々しい風景の中、下五の「背番号」が何とも切なく響いてきます。

饒舌の浅蜊一夜を惜しむかに
[ 徳島県徳島市 浜野桃華 ]

(評)家人が寝静まった夜、足を出し管を伸ばしてうごめく「浅蜊」の砂出しの様を「饒舌」と表現した作者。何ともユーモラスな愛着のある一句となっています。何気ない日常の光景の中の小さな命に目を向けています。もう一度あの海へ返してやりたい・・・。そんな思いも読み取れる優しい作品となっています。

長電話年老いた事花のこと
[ 徳島県徳島市 宮城幸子 ]

(評)心底花を楽しむには程遠い春でした。ステイホームの浸透で人と会えない分ついつい電話は長くなりがちですね。日頃なかなか電話できない相手とも長電話できたかもしれません。花は何も変わっていないのに、人だけが普段とまるで違う時間を過ごしたこの春だからこそ「長電話」が活きています。

樋落ちて朽ちる空き家や花万朶
[ 徳島県那賀郡 森田道子 ]

(評)数えきれない程の花を付けている「花万朶(はなばんだ)」。主のいない家に咲く桜は空虚さを漂わせ作者は無常を感じます。上五と中七の一語一語が読み手の心に沁み込み、下五の「花万朶」の季語を最大限に生かし切っています。懐かしさや淋しさや思い出と、満開の桜とを対比させて余計にやるせなさが伝わってきます。

流れ来てまた流れゆく花筏
[ 福岡県福岡市 青木草平 ]

(評)「花筏」の本意本情をしっかりと捉え、素直に詠んでいて詩情豊かな作品です。桜の花が水面に散って、様々に形を変え繋がり流れていきます。「また」の副詞が活かされていて、「流れ」のリフレインがぴたりとはまっています。遥か向こうから流れてきて更に彼方へと流れていく時間の経過をやさしい言葉で美しく表しています。

佳作

コロナ禍の春や書棚のカミュ取る
北海道上川郡 夏埜さゆり女
電器店の一本桜客を待つ
北海道札幌市 ニ生
リラ冷えや眠剤少し残ってる
北海道札幌市 夢老人
春・北斗空へこぎだす命なり
北海道千歳市 秋田聡子
春の土どろんこになってあそびたい
北海道函館市 庭田健吾
みな強き母よ小児病棟の春
北海道函館市 庭田麻樹
君想い掬いとったよ朝の春
青森県八戸市 金田正太郎
無観客満開の桜濡れる音
岩手県北上市 川村庸子
疫病避け一億人の春惜しむ
宮城県角田市 山田庸備
ひとつずつ空を数える蒲公英や
宮城県仙台市 繁泉祐幸
はやきこと墓参日和の初燕
宮城県仙台市 奥山凛堂
帰り途目に花うつし巣ごもりの日々
宮城県富谷市 岩渕裕輝
花曇り一人の午後にレモンティー
宮城県名取市 松本裕子
お遍路の草窪むほど腰おろす
秋田県秋田市 小林万年青
棒グラフすべてコロナに見える春
山形県山形市 一日一笑
乳母車赤子の手には桜餅
山形県米沢市 山口雀昭
子ら家で街の静けさどこや春
福島県本宮市 大谷愛子
八重桜傾け吾子の髪飾り
茨城県日立市 松本一枝
地図にない路地から路地へ春の猫
茨城県常陸太田市 舘健一郎
舗装には乾いた音で花の散る
茨城県水戸市 岡崎佐紅
鳴かざれば天へは行けぬ揚雲雀
栃木県宇都宮市 平野暢月
乱世にも恋情のあり花筏
群馬県伊勢崎市 白石大介
主待つ遊具に垂れる花の雨
群馬県高崎市 凡志
浮かれ立つ足も綻ぶ路地菫
群馬県前橋市 藍澤拓紀
春障子笑ひを誘ふ法話かな
埼玉県春日部市 櫻井俊治
右耗りの癖の靴あと春の泥
埼玉県春日部市 大舘信惠
霾や悠々遥か火焔山
埼玉県さいたま市 アヴィス
葬送の列に落花のひとしきり
埼玉県さいたま市 加藤啓子
春の水まいて砂場に富士を生む
埼玉県さいたま市 坂西涼太
結いし髪ほぐして茶化す春疾風
埼玉県所沢市 凛童
船待つや子らの俳句に春の風
埼玉県戸田市 稲田延子
コンビニでコーヒータイム春の雲
埼玉県戸田市 萩原久代
大利根に入りて合流水温む
千葉県我孫子市 八川信也
キック待つ背番号8風光る
千葉県市原市 栗山美津子
愛犬とスキップしつつ風光る
千葉県勝浦市 黒須静子
囀りや小さな山は蓄音器
千葉県君津市 叶矢龍一郎
壺あれば中覗くべし葱坊主
千葉県千葉市 加世堂魯幸
逆上がりして春霞まぜあはす
千葉県千葉市 千葉信子
春の鴨水面の雲に相寄れる
千葉県船橋市 井土絵理子
険難な世にありあまる桜かな
千葉県船橋市 川崎登美子
経ればその時代色濃く昭和の日
東京都足立区 大野哲太郎
ほろ苦く人生深し蕗の薹
東京都足立区 繁泉まれん
大窓の蝶時止めてアラベスク
東京都板橋区 榎本晶子
別れなる形があらば椿餅
東京都板橋区 山月恍
竹林を板木打ちたる春疾風
東京都新宿区 貞住昌彦
花冷えの屋台の灯り老い二人
東京都新宿区 難波美枝子
青き日の岐路ゆらゆらと花篝
東京都世田谷区 アレックス
凛として泰然自若残る花
東京都豊島区 潮丸
晴れの日へ満を持したる桜かな
東京都練馬区 豊島月舟斎
嗚呼悲哀苦痛煩悶実朝忌
東京都練馬区 符金徹
独活和を箸にてつまみ上げ凝視
東京都文京区 遠藤玲奈
一人分椅子空いていて卆業す
東京都青梅市 渡部洋一
古池や蛙緊張芭蕉の眼
東京都小平市 佐藤そうえき
走る背がふわりと軽く花吹雪
東京都調布市 東屋ひと志
エイプリルフールに配る号外ぞ
東京都調布市 原田尚季
練り菓子の鳥の姿や利休の忌
東京都八王子市 村上ヤチ代
淡雪や車窓の母の顔崩れ
東京都東久留米市 鶴田幸男
梅満ちて白く暮れゆく空き家かな
東京都東村山市 鮫島啓子
片口の器めでつつ春灯
東京都武蔵野市 伊藤由美
灯点せばあはれひひなの目の黒き
神奈川県川崎市 長橋すま子
こんなにも重たき春となろうとは
神奈川県相模原市 あづま一郎
チューリップ蕾の中は愛の夢
神奈川県相模原市 金本節子
ふるさとの父母おもふ日永かな
神奈川県相模原市 中村成吾
五つ子の口ばかりなるつばくらめ
神奈川県相模原市 藤田ミチ子
ため息をつけば鶯応へけり
神奈川県相模原市 渡辺一充
囀りに沈黙をよぶ力あり
神奈川県茅ケ崎市 坂口和代
嬰児のごと指閉ぢて海女上がる
神奈川県藤沢市 小久保瞳
大河へと潦あり春の路地
神奈川県横須賀市 石井俊子
語り継ぐ令和の大禍花筏
神奈川県横須賀市 橋本徹
若布干す漁夫の長靴光りをり
神奈川県横浜市 要へい吉
濡れそぼり色香漂うさくらばな
神奈川県横浜市 河野昭彦
新型のウイルス強し冴返る
神奈川県横浜市 竹澤聡
春惜しむ永井荷風の丸眼鏡
神奈川県横浜市 芳賀理音
狭き門入りし誇りや入学す
新潟県長岡市 安木沢修風
逢ひたしと文書き春の雨激し
新潟県新潟市 田代草猫
春園を糾ふ如く恋くちな
新潟県南魚沼郡 高橋凡夫
昼時のくしゃみ二つが春告げる
富山県魚津市 タケさん
紫木蓮私を連れて行きたさう
富山県南砺市 珠凪夕波
花衣滑らせ君と夜開く
石川県金沢市 玲
恍惚と水面へ桜蕊降りぬ
石川県能美郡 松田文女
囀りや病む子が窓を開ける朝
山梨県韮崎市 三八五
花の雨そこから先は分かれ道
山梨県南アルプス市 小林克生
燕らに物干し譲る雨の朝
長野県南佐久郡 高見沢弘美
高台に建売の旗風光る
岐阜県岐阜市 雅風
タンポポ絮猫の手かわし大空へ
岐阜県岐阜市 山崎眞也
陶石を砕く水車に春の水
岐阜県多治見市 緑
洗面はひとりの作業水ぬるむ
静岡県静岡市 川上森
移植ごてさくさく入る春の土
静岡県駿東郡 野月真人
春うららラジオ体操スクワット
静岡県沼津市 空色
菜の花や終着点はここがいい
静岡県富士市 城内幸江
小手毬の庭先揺らす白さかな
愛知県稲沢市 山茂
春の夜の一献自粛の志
愛知県春日井市 荒木健裕
銃口を子に定め撃つしやぼん玉
愛知県高浜市 篠田篤
出棺の長き警笛冴え返る
愛知県知多郡 伊藤京子
人生は不要不急さ猫の恋
愛知県名古屋市 白沢修
花筏隠れた鯉はわが身なり
愛知県名古屋市 幅宏二郎
巣ごもりも花見心地やバスロマン
愛知県名古屋市 藍太
外出自粛根っこから抜く藤菜
三重県伊賀市 さんた
糸柳光となりて縺れ合う
三重県松阪市 宇留田敬子
ポケットに黒タイ里へ春の暮
三重県松阪市 谷口雅春
朝来たる燕の声に目を覚ます
三重県松阪市 春来燕
急行が霞に入り過ぎ去って
三重県三重郡 水越晴子
朧夜やダム湖の影は浣熊
滋賀県大津市 蛍川成
春うらら歴史を抱く琵琶湖畔
滋賀県長浜市 ケイタロウ
地震の地の復興進む春だより
滋賀県東近江市 今宿小夜子
山河みな所を得たりつばくらめ
滋賀県彦根市 馬場雄一郎
春の塵駱駝の匂ひ混じりけり
京都府宇治市 濱岡学
小包の破れ目春の息吹かな
京都府京都市 太田正己
龍天にトロッコ過ぎる嵯峨野かな
京都府京都市 田久保ゆかり
人の恋もどかし猫の恋はじまる
大阪府和泉市 小野田裕
改札を出でれば君と花散らし
大阪府大阪市 正流
この惑星をいたはるやうに麦を踏む
大阪府大阪市 清島久門
ラテアート一杯分の春時雨
大阪府大阪市 古田小春
お転婆の婆転びけり春の山
大阪府大阪市 三木節子
鉛筆と桜のケーキや三回忌
大阪府堺市 伊藤治美
戻りくる春の猫抱く重さかな
大阪府堺市 椋本望生
ただならぬ世はさて置いて目刺焼く
大阪府泉南郡 藏野芳男
桜餅葉も愛おしき年となり
大阪府高石市 岡野美雪
両隣咲きほこりたるさくら草
大阪府豊中市 橋迫富枝
春の闇真っ正面は校舎なり
大阪府豊中市 増田勝子
万物の目覚めて八十八夜かな
大阪府豊中市 増田裕彦
友逝きて心うつろな菜種梅雨
大阪府豊中市 米井みつ子
意志あるごと蒲公英の絮真東へ
大阪府寝屋川市 伊庭直子
葱坊主駆けゆく子等の笑ひ声
大阪府阪南市 岡崎久代
春の雨貼り付けられるボンネット
大阪府箕面市 坂本大輔
春灯ゆれて渡船は尾道へ
大阪府八尾市 乾祐子
変わらねど桜なるかな悲しきは
兵庫県明石市 田淵克洋
銅鏡の鈍き光や鳥雲に
兵庫県相生市 江見巌
半地下のバーの灯りや春の宵
兵庫県尼崎市 大沼遊山
ポッキーをかぽかぽと食ふ花見かな
兵庫県尼崎市 けーい〇
亡き妻と二人で歩む今日の花
兵庫県神戸市 河内きよし
桜咲くひとつひとつのつぼみから
兵庫県神戸市 日の峰桜
ふらふらと惑ふ桜の咲きごこち
兵庫県神戸市 檀凛凪
発車ベル鳴る新駅や初燕
兵庫県神戸市 萩原善恵
お手玉に母の匂ひや春炬燵
兵庫県神戸市 平尾美智男
黄薔薇の芽忘らえなくに棘の日は
兵庫県神戸市 堀尾深放
口語訳枕草子春炬燵
兵庫県三田市 立脇みさを
長閑なる春は幻闇深し
兵庫県宝塚市 桝本光廣
亀鳴くやコロナウィルス自粛中
兵庫家西宮市 幸野蒲公英
振り向けば春の闇からヌートリア
兵庫県西宮市 松田慶一
動物園ベビーラッシュと花吹雪
兵庫県西宮市 森田久美子
春泥の付きしまま師を訪ねけり
奈良県奈良市 堀ノ内和夫
客は鹿若草山の春の朝
奈良県奈良市 明久
花満つる木肌もはんなり桜色
奈良県奈良市 緑風
縦長にラストスパート春マラソン
和歌山県和歌山市 大西隆栄
ごめんねと踏んだタンポポ起こしおり
岡山県岡山市 みくちゃん
独活眠る隔絶の近未来都市
岡山県岡山市 森哲州
災厄の籠りて里に燕来る
広島県尾道市 広尾健伸
訪ね来る人無きままに散る桜
広島県尾道市 帆足あさ
借景に朱の鳥居あり花の島
広島県広島市 大久保喜久子
ふさふさの髪の赤子や春うらら
広島県広島市 向井久美子
ピカピカのランドセル押す春一番
広島県福山市 石崎勝子
婆ひとり残して昼の野焼きかな
広島県福山市 林優
島の春寢釈迦地蔵の恵比寿顔
島根県安来市 鈴本博也
花祭商店街を山羊通る
山口県山口市 鳥野あさぎ
春深し和菓子持ちよる句会かな
徳島県徳島市 藍原美子
花活けて七十路未だ青春なり
徳島県徳島市 粟飯原雪稜
二時間の春眠誘う映画館
徳島県徳島市 有持貴右
鳥語降る三三五五の春帽子
徳島県徳島市 岩佐松女
海峡に壺を眠らせ来る黄砂
徳島県徳島市 大杉幸
春めくや転勤族のお別れ会
徳島県徳島市 島村紅彩
緩やかや千鳥ヶ淵の花筏
徳島県徳島市 平岡宮子
垣根越え風に乗り散る白木蓮
徳島県徳島市 京
腕白の野遊びの脛草のいろ
徳島県徳島市 矢野秀子
聞こえくる汽笛の上の朧月
徳島県徳島市 山本明美
黄の果実赤の果実や春深し
徳島県徳島市 山之口卜一
人見舞う都忘れの濃紫
徳島県徳島市 怜玉
引くと見せ日溜りにおり残り鴨
徳島県阿南市 島玲子
ジグザグに走ってみよう春の雷
徳島県阿南市 高田俊孝
きっぱりと男気のある桜かな
徳島県阿南市 土肥つや子
白蝶の寺の大屋根こえにけり
徳島県阿南市 中川よし子
プロポーズ八坂八浜の花褒めて
徳島県小松島市 田中久子
吹き寄せて磴の端なる花の帯
徳島県鳴門市 木谷重子
思ひ出の千人針や雲雀鳴く
徳島県那賀郡 大石スミ子
戻れない子に故郷の蓬餅
徳島県板野郡 秋月秀月
ひとすじの蜷の行方や試歩の径
徳島県板野郡 伊藤たつお
退院し試歩の農道初つばめ
徳島県板野郡 石川恭子
落第の子に陽光の隔なく
徳島県板野郡 佐藤一子
何にでも躓く齢草青む
徳島県板野郡 佐藤幸子
うどん屋で腹を満たして初音聞く
徳島県板野郡 寺沢カズ子
これよりはおかげ横丁雀の子
徳島県阿波市 井内胡桃
春満月写経の後の窓照らす
徳島県美馬郡 田辺美代子
義父よりの朱印の重き遍路径
徳島県三好市 上西眉
花筏風が櫓をこぐ舵をとる
徳島県三好市 岸野裕子
紅白のトンネルくぐるはなみずき
徳島県三好市 土井清子
先達に合す念佛春遍路
徳島県三好市 中石春代
会釈してしらぬ地を行く遍路道
徳島県三好市 平岡惠美子
三椏の花と遮断機辻地蔵
徳島県三好郡 頭師喜久子
卒業子ドライな笑みを裏返す
香川県仲多度郡 佐藤浩章
小太りの猫の寝ており芝桜
愛媛県新居浜市 翔龍
十万のラッパスイセン潮の道
愛媛県松山市 秋本哲
ぐんぐんの音食べ太る春野菜
愛媛県松山市 宇都宮千瑞子
花蘇芳吹きこぼるる恋なりけり
愛媛県松山市 渡辺月子
土筆採り休校の子等と競いけり
福岡県北九州市 赤松桔梗
一仕事袴むく児の土筆かな
佐賀県唐津市 浦田穂積
Uターン夢にまで見た里の春
大分県国東市 吾亦紅
春の闇目鼻に口や耳の穴
大分県国東市 吾亦紅
岩肌に湿ったままの椿落つ
大分県豊後大野市 後藤洋子
暖かや雨に微笑む石仏
宮崎県日南市 近藤國法
陽だまりにたたずむ姿春香り
鹿児島県鹿児島市 有村孝人

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。