HAIKU日本2019春の句大賞結果発表

HAIKU日本2019春の句大賞 金賞

蕗味噌や母の伝えし味母に

[ 神奈川県横浜市 倉田悠子 ]

(評)「蕗味噌」は、早春の香りを伝える蕗の薹を刻んで味噌と一緒に混ぜ合わせた素朴な味。母と娘の愛情がほのぼのと伝わる一句です。食べ物と母の味の取り合わせはよくありますが果たしてこれから先、母の味を伝承していく光景がどれ程の家庭で見られるでしょうか。このような心温まる句を詠む人がこの先も続いてほしいと願わずにはいられません。教わってきた味は母に伝わったでしょうか。掲句が愛おしく思えます。

銀賞

地下バーの別れの間合いヒヤシンス

[ 神奈川県藤沢市 浜野藤江 ]

(評)初春の季語「ヒヤシンス」は、美しく香りも良く誰にも愛される花。今宵の別れなのか別離なのか。同僚や女友達との単なる別れをこんなに意味深に詠むことはないでしょう。恋愛関係にある人との別れ。「地下バー」にたちこめる「ヒヤシンス」の瑞々しい青い香りと共に、若い恋の香り漂う一句。

銅賞

三代を半農半漁島に春

[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)わずか十七音の中に、自身のみならず島の風貌をも詠んでみせた作者。作物を育てる傍ら、海のもの磯のものを獲る日々。俳人・森澄雄は「俳句は見えるように詠むのが大事」と語っていますが、掲句はこの言葉そのもの。永遠に流れる時間の今を「島に春」の下五で切り取った格調高い一句。また、二つの助詞「を」と「に」の働きも見事に使い切っています。

抱きしめて駆けあがる春すべり台

[ 広島県安芸郡 ありちゃんが ]

(評)春の詩情たっぷりの素敵な一句。「抱きしめて」「駆けあがる」の一連の動作に幼子を愛おしむ心が溢れていて、作者の気持ちがストレートに伝わってきます。作者の腕の中で嬉しそうに笑い声をたてている子。作者の心情のこもった一句は、すべり台のある空間に麗しい春の光を見事に描いて見せました。

おぼろげな妹の遠忌や花菜風

[ 岡山県岡山市 森哲州 ]

(評)「遠忌」とは、五十回忌以上になる忌の事を言います。作者もまた、幼少の身であった時の別れ。中七の「妹の遠忌」の措辞が切なく、「おぼろげな」が哀しく響きます。死によって途切れるものではなく、生者と死者が共に紡いでいくものがあります。季語「花菜風」が妹との絆を想い起すかのようにそっと置かれています。

パレットのまっさらな白木の芽風

[ 埼玉県所沢市 内野義悠 ]

(評)新品のパレットにそよりと吹く「木の芽風」。一斉に木々の芽が吹く頃は、一年中で一番自然の生命力を感じます。春の暖かさにスケッチブックを手に野山に出掛けた作者。創作意欲を掻き立てられて、向き合うのは絵の世界。「パレットのまっさらな白」が作者の新鮮な気分を言い表しています。

ぼんぼりに花影映ゆる佐保の川

[ 奈良県奈良市 堀ノ内和夫 ]

(評)佐保川は奈良県北部を流れる一級河川。万葉集を始め古来、詩歌に詠まれることも多かった川です。この川の桜並木は有名で、「ぼんぼり」は古都の春の夜を艶やかに演出します。そんな夜の美しさを見事に詠んでいます。また、「佐保の川」の固有名詞が入ることで情景が一段と鮮明になりました。桜並木の美しさと歴史をも客観的に捉えた一句。

通過待つ鈍行の窓初燕

[ 熊本県熊本市 大江誠 ]

(評)倒置法を用いることでリズムが生まれ、「初燕」を見つけた驚きと喜びがストレートに伝わってきます。春の田園風景の中を、のんびりと走るローカル線の魅力がたっぷりと詠み込まれています。急行列車をやり過ごす鈍行列車。その時目に入った「初燕」は、さぞ印象的だったことでしょう。客観写生の効いた俳句となっています。

<秀逸句>

逢えぬ子を祝う窓辺にしゃぼん玉

[ 岩手県盛岡市 蘭延 ]

(評)野口雨情の童謡「しゃぼん玉」が浮んできます。「産まれてすぐにこわれて消えた」の歌詞は、生まれて7日目に死んでしまった長女を思って書いたとも言われています。掲句は遠くで暮らす子への思いを「しゃぼん玉」に託したのでしょう。誰かが飛ばした「しゃぼん玉」が目に入った時、逢えないもどかしさが呼応しこの句の詩情を深めました。

桜前線わたしの旅と擦れ違う

[ 秋田県秋田市 小林万年青 ]

(評)九州や四国南部から北上する桜前線。片や、南下していく作者の旅。どこの旅の空での擦れ違いでしょうか。列島を挙げての関心事と「わたしの旅」を同じ土俵に上げた詠みっぷりに感服です。俳句で「わたしの」を使うのはなかなか難しいですが、お手本のように見事に決まっています。「私」ではなく「わたし」と一音一音読者に目で追わせるひらがな表記にも、作者の技が冴えています。

ライオンの女座りや春愁

[ 山形県山形市 小林ひさ子 ]

(評)「ライオンの女座り」が何とも可笑しい。動物園の狭い檻の中ではダイナミックな動きなどは望まなくとも、せめて百獣の王たる堂々とした片鱗だけでも・・・。その思いが打ち砕かれたばかりか、「ライオンの女座り」を見てしまった作者。そんなライオンに憂いの影が心をおおう「春愁」を取り合わせました。季語「春愁」がピタリとはまった一句。

廃校に記念碑ひとつ山桜

[ 茨城県常陸太田市 舘健一郎 ]

(評)廃校になった建物。長い歳月を放置されて来たのでしょう。その一角に、草木に埋もれながらも記念碑が今も変わらぬ姿で建っています。それゆえ、寂しさが一層募るのです。「山桜」の美しさだけが今も変わらず当時を偲ばせてくれます。作者の一抹の淋しさが感じ取れる一句。

衝動の午前零時の桜餅

[ 千葉県市川市 田村さよみ ]

(評)こんな語るような一句もまた楽しいものです。「ある。ある!」と、この嘆きの一句に相槌を打った人も多い事でしょう。明日にとっておいたはずの「桜餅」。真夜中に、スイッチが入ってしまいました。食べた後は、きっと心の中を空しい風と後悔が吹き抜けていくことでしょう。でも、欲望には勝てないのが人間の性ですね。ユーモアを交えて楽しい句となりました。

満天星の花揺れやまぬ「まあだだよ」

[ 千葉県船橋市 井土絵理子 ]

(評)「満天星(どうだん)の花」は、ツツジ科の低木で山野に自生したり庭に植えられていたりします。壺状のスズランのような花を咲かせます。「まあだだよ」と、かくれんぼをしている子供たちの姿があります。身を潜めていても動くたびに枝先の花が揺れています。白く可憐な花が幼子の愛らしい姿とも重なり、微笑ましい様子が手に取るように見えてきます。

紙雛ははの手順でおりたたむ

[ 東京都青梅市 渡部洋一 ]

(評)「はは」はすでに亡くなられているご母堂で、「はは」を偲びながら「ははの手順」でおりたたんでいるのでしょうか。それとも、目の前の「はは」を真似ながらおりたたんでいるのでしょうか。平仮名の「おりたたむ」がおぼつかない指の仕草のよう。ほのぼのとしたぬくもりのある景とは違った趣がこの句に漂うのは、一折一折に子の幸せを願う母の気持ちが込められているからでしょう。

レモンティーきっと止まない春の雨

[ 神奈川県鎌倉市 植田虹花 ]

(評)中七の「きっと止まない」には、キッパリと断定して何ともいえない魅力があります。雨が降り続く中、雨さえ楽しんでいるかのような作者の心情が垣間見えます。でも、本当は明日一緒に過ごす時間を思って止んでほしいのか・・・。大切な人との大切な時間。春の長雨は時に疎ましいもの。「レモンティー」が女性の儚くほろ苦い心情を感じさせる一句です。

初蝶やわたしのまえをゆく時間

[ 静岡県富士市 城内幸江 ]

(評)「初蝶」は小さな姿で可愛らしくひらひらと舞います。「初蝶来何色と問ふ黄と答ふ」と色を詠んだ高浜虚子。「めまぐるしきこそ初蝶といふべしや」と動きを詠んだ阿部みどり女。作者が詠んだのは流れていく時間。充実の時を象徴するかのような美しい表現です。「初蝶」に目を止めて、ゆったりとした春の余韻が表現されています。

春の野へ子犬の散歩デビューかな

[ 大阪府大阪市 雛 ]

(評)草花が萌え麗かな陽気の中、のんびりと子犬と一緒に歩む作者。やっと春になった喜びと、待ちに待った子犬の散歩デビューの日。その喜びを素直に詠んで、すっきりとした一句一章句に仕上がりました。作者の優しい眼差しが、読者をほのぼのとした気持ちにさせます。

平成を終えたる富士の春の雲

[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

(評)戦争のなかった平成を平和だったとする人もいれば、大災害に見舞われたと強く意識する人もいます。そんな平成を人それぞれの気持ちで見送る一日がありました。掲句から浮かび上がるのは日本を象徴する美しい富士の山容。人と大自然が一体化して、これから新しい時代を創り上げていく今に相応しい一句です。

仰ぎ見る花の齢を尋ねけり

[ 徳島県阿南市 深山紫 ]

(評)桜並木の美しさもさることながら、一本桜の孤高の美も格別のものがあります。目の前には人を魅了してしまう桜の古木。華麗に咲くその姿を愛でながら、作者は贅沢な時間を過ごしています。「けり」で締めくくった句の形が「仰ぎ見る」桜の力強さにも符合した秀逸句。

大きめの服と鞄に若緑

[ 香川県丸亀市 桃樹 ]

(評)季語「若緑」は、晩春に松の枝から出る松の新芽を言います。真っ直ぐに天に向かって伸びる様が勢いを感じさせ、鞄に夢をいっぱい詰め込んで新天地に向かう姿と重なります。「大きめの服」は、大きくなって帰ってこいよと送り出す親から子へのエールでしょう。春に相応しい未来への煌めきがこの句からは溢れています。

引き鴨や捏造し得ぬひとの縁

[ 愛媛県宇和島市 伊井真 ]

(評)人と人との縁は摩訶不思議。男女の結びつきはさらに不思議で面白い。神の引き合わせとも思えるのが「ひとの縁」ですが、別れともなると必ず春に北へ帰る「引き鴨」のようには上手くいきません。「捏造し得ぬ」という意外性のある着想が、別れの時の縁も決まっているかのように読み手に届きます。「引き鴨」の本能に「ひとの縁」という人間の性を映し出しています。

<佳作賞>

雪残る山に顔あり流れ雲

北海道虻田郡 マサ吉

花筏平成乗せてレクイエム

北海道札幌市 夢老人

ニュートンに逆らい天へ梅の枝

青森県青森市 癇斗裳音

春うらら猫も居眠り勝手口

岩手県八幡平市 千のまさ

散る花の先を見つめて日が暮れる

宮城県仙台市 繁泉祐幸

産声を上げたる稍に春を告げ

山形県米沢市 山口雀昭

恋雀フィガロフィガロと堕ちにけり

福島県白河市 橋本和昌

春うらら連れて出したや仏たち

茨城県土浦市 株木謙一

龍天に異国の路地のロマの歌

群馬県伊勢崎市 白石大介

猫の子の肉球ほどの幸あらば

群馬県高崎市 遠藤幸子

木の芽時葉の揺籠を揺らす風

埼玉県加須市 金子凜果

在りし日の父の背中や別れ霜

埼玉県北本市 須藤秀太

初蝶は光のかけら日に紛る

埼玉県さいたま市 加藤啓子

勤奉の心と令和す雪中桜

埼玉県さいたま市 とおろ

DJポリス花参観に色添える

埼玉県さいたま市 エレガンス

「赤ちやんが眠つてゐます」蝶の昼

埼玉県さいたま市 本橋葉月

平成のなごりや惜しき雪桜

埼玉県さいたま市 蛭川猛

ひとすじの美しき手話初つばめ

埼玉県所沢市 内野義悠

麗かや急須の影の鳥に似て

千葉県市川市 藤田真純

山遊び雀隠れに光り差し

千葉県柏市 青鏡

坂の上草木静まり春満月

千葉県柏市 奈子

梅が香や老若男女おのが内

千葉県勝浦市 黒須静子

山藤の垂れて杣屋を撫でており

千葉県君津市 叶矢龍一郎

染井とふ名の友をりし花の空

千葉県船橋市 川崎登美子

令和なる春満月を仰ぎけり

千葉県船橋市 前畑桂子

春愁や手酌で呷るハイボール

東京都足立区 大野哲太郎

花冷えやベレーぼう深くかぶる朝

東京都江東区 西條匠翔

手すき和紙ひらり舞い込む桜なり

東京都葛飾区 星野真紀子

スマホから衆目奪う車窓の春

東京都品川区 藍太

菜の花や巡る季節のほろ苦さ

東京都杉並区 風花

春風が数ページほど拾い読む

東京都世田谷区 鈴木義久

過ぎ去りし昭和の春を懐かしむ

東京都世田谷区 鈴木倭文子

堰越ゆる度組みかわる花筏

東京都千代田区 ミノリン

サウダージ見送るその背風光る

東京都豊島区 潮丸

震災の風化を憂う彼岸かな

東京都練馬区 符金成峰

リズムよく白のマーチや二輪草

東京都文京区 遠藤玲奈

春風やたかなる空へ令和かな

東京都小平市 佐藤たけし

膝上の丈が気になる母の春

東京都清瀬市 林優

うららかな出会いに別れ育ち行く

東京都立川市 松本七風

春昼の絡繰時計見上げをり

東京都八王子市 村上ヤチ代

入学児背中全部がランドセル

神奈川県海老名市 一徹

ドーナツの穴まで食べて山笑ふ

神奈川県相模原市 あづま一郎

新らしき手甲つけて花遍路

神奈川県相模原市 藤田ミチ子

真夜中に眠るコンビニ街朧

神奈川県相模原市 渡辺一充

散る花を纏い連らなるランドセル

神奈川県茅ケ崎市 つぼ瓦

夜桜のつぼみの中に何かある

神奈川県茅ケ崎市 廣瀬順子

春の雲リハビリ帳に丸三つ

神奈川県三浦郡 葉山さくら

銭湯の天から降りし春の空

神奈川県横浜市 要へい吉

ジョギングに励む老女や春暑し

神奈川県横浜市 竹澤聡

迷い道桜吹雪の舞う出口

新潟県東蒲原郡 斑鳩

ゆらゆらと矛突く小舟春の海

新潟県南魚沼郡 高橋凡夫

楽園においでと誘う蜃気楼

富山県射水市 中村理起子

「それいいね」夫の寝言春の雲

富山県南砺市 夕波

あだ寝重ねしわれ残花と成り果つ

石川県金沢市 玲

畑焼きて煙の交じるモネの空

福井県小浜市 神田雅行

口開く歯科の窓から山笑ふ

山梨県大月市 坂本真史

朧月好きと言うまでかくれてて

山梨県韮崎市 あらぐさ

春眠を電車揺れ行く旅路あり

山梨県北杜市 内田篤哉

春だよとツィピツィピまちもくにも超え

山梨県北杜市 矢合ちひろ

震災も大雪も来て春桜

山梨県南アルプス市 こばやしかつお

尽日やこころ和ます芝さくら

岐阜県多治見市 樋口緑

しゃぼん玉「10えんや」てふ菓子屋あり

静岡県湖西市 市川早美

失恋や日永の空を持て余す

愛知県春日井市 湖黎

マニキュアの指で並べる桜貝

愛知県高浜市 篠田篤

ガラス越し猫の目が追ふ春の鳥

愛知県名古屋市 志村紀昭

幕おわり詠う感ちり桜ちり

愛知県名古屋市 ニシイーモン

うららかや重なり合って甲羅干し

三重県熊野市 南信

廃屋の黒塀越しに初音かな

三重県松阪市 谷口雅春

四畳半ひひなにゆづり川の字に

滋賀県湖南市 岡崎逹栗

麗らかや君のまつげに沿うひかり

滋賀県彦根市 片岡ひまり

野良猫ののそり立ち去る日永かな

滋賀県彦根市 馬場雄一郎

春愁や遠耳ほのか咳ばらい

京都府京都市 太田正己

孫に服す一言居士や春ここに

大阪府池田市 木りん

少年に髭剃りの傷風光る

大阪府和泉市 小野田裕

われに添ふ影ちひさくて春めきぬ

大阪府和泉市 小野田裕

春雲の渡る鳥居を潜りけり

大阪府和泉市 清岡千恵子

川に浮く蛙夢見るふわふわり

大阪府茨木市 元晶

自転車をバタバタ眠らせ春疾風

大阪府茨木市 夏野真昼

メンデルの法則を咲く豆の花

大阪府大阪市 上田禮子

駅弁の春詰め込んで売られけり

大阪府大阪市 清島久門

故郷の島洗ひたる春の海

大阪府大阪市 清島久門

親子して桜並木を通ろうよ

大阪府大阪狭山市 ひでみ

解体の迫りて泣けり雀の子

大阪府堺市 椋本望生

平成の残り香如何に桜餅

大阪府泉南郡 藏野芳男

日の丸に抱かれて春の令和風

大阪府高石市 岡野美雪

波追うて足跡かさね夏近し

大阪府豊中市 有明月

ほうしこと亡父呼びしか土筆出る

大阪府寝屋川市 伊庭直子

チューリップ真似て列なすランドセル

大阪府枚方市 妃斗翠

思ひ出の風捕まえて風車

大阪府枚方市 藤田康子

春塵や駅前本屋廃業す

大阪府八尾市 乾祐子

赤門の胴上げ眩し梅真白

兵庫県明石市 舞子奉仕

思い出の桜の下で舞う奴ら

兵庫県明石市 康子

かくれんぼ母在りし日の春の夢

兵庫県明石市 松岡高丘

影伸びる将棋会館長閑なり

兵庫県尼崎市 大沼遊山

スポイトの吸つては吐きぬ浅き春

兵庫県尼崎市 尼島里志

浅春の髪染めてみる土色に

兵庫県尼崎市 けーい○

猫の恋夜風に乗りて街渡る

兵庫県神戸市 鞍馬睦子

引き潮の忘れものです桜貝

兵庫県神戸市 ももかえたん

下町のもの焼く匂ひ朧月

兵庫県神戸市 平尾美智男

鷹鳩と化し点滴のぽたりぽた

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

前髪が瞼くすぐる春の風

兵庫県西宮市 波美

数へつつ上る石段春の空

兵庫県西宮市 渡部小凛

左手に銃右の手に蕗の薹

和歌山県御坊市 水村凜

同室の友同日に逝く落花かな

和歌山県和歌山市 貴志洋史

清流に鯉も生き生き流し雛

鳥取県東伯郡 谷口潜風

子は昭和孫は平成初つばめ

島根県安来市 永谷明美

幾年のいとわぬ労苦桜咲く

広島県尾道市 広尾健伸

令和なる快と渇きの花見酒

広島県広島市 黒うさ狐

おおいぬのふぐり一面下山口

広島県広島市 山木鶴恵

花曇り寒いと騙り身を寄せる

広島県福山市 霧雨拓真

春雷に鳴門の渦やあばれ龍

山口県岩国市 川辺沓治

球春や手の大き老人と会ふ

山口県山口市 鳥野あさぎ

金閣寺描く鼠の花吹雪

徳島県阿南市 白井百合子

匂い立つ庭の土塊春の雨

徳島県阿南市 深山紫

道問われ説明できぬ朧かな

徳島県徳島市 藍原美子

春耕や夫婦の面のたくましき

徳島県徳島市 雪稜

菜の花の色散りばめし茶巾蒸し

徳島県徳島市 有持貴右

我が書きし文字の難解春遅々と

徳島県徳島市 怜玉

堀りおこす道路工事や春疾風

徳島県徳島市 島村紅彩

水門の扉の開かれし春の川

徳島県徳島市 松葉小夜子

三保の富士裾にまとうは春霞

徳島県徳島市 京

パリ炎上燕は来たか

徳島県徳島市 山之口卜一

夕雲雀遊具忘れて子の帰る

徳島県徳島市 山本明美

万葉の梅香りたり殿の庭

徳島県徳島市 遊月

宙を刺す金の相輪風光る

香川県仲多度郡 佐藤浩章

ひとりふたりと藤棚に喰はれけり

愛媛県伊予郡 松田夜市

癌摘出手術成功雁帰る

愛媛県西条市 渡辺国夫

春の色黄色や緑白が好き

愛媛県松山市 宇都宮千瑞子

鈍行の座席へ春を座らせる

高知県高知市 沢村洋子

香も淡し家路の梅のぼんぼりや

福岡県大野城市 筒井花子

トランシーバの声に答えて初蛙

福岡県飯塚市 長沼祐子

病室の窓のかぎりの春惜しむ

佐賀県唐津市 浦田穂積

春の虹子の来る前に消えにけり

大分県宇佐市 阿倍日出

チョコひとつバレンタインと妻笑ふ

宮崎県日南市 近藤國法

桜舞う日々の重さに馳せる今

鹿児島県鹿児島市 有村孝人

鶯の初音遠くに昼寝かな

鹿児島県鹿児島市 鏡舟

鶯にソプラノアルトありぬべし

鹿児島県鹿屋市 鮫島啓子

始末書のカーソル三つ月朧

沖縄県那覇市 成瀬敦

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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