HAIKU日本大賞 夏の句大賞発表

HAIKU日本夏の句大賞 金賞

麦茶ゴクッ日は暮れぬ少年の日よ

[ 神奈川県鎌倉市 上崎海風 ]

(評)飲み物を詠んだ句は四季それぞれにありますが、音まで聞かせてくれる句に出会うことは滅多にありません。上五の切れと、「ゴクッ」のオノマトペが、この句の命と言えるでしょう。一杯の麦茶が瞬時に、少年時代へと誘います。昭和の時代のスポーツドリンクは、みな麦茶でした。暗くなるまでボールを追った日のことは、大人になった今も大切な宝物です。現在の作者と、目の前の少年そして、少年の頃の作者とを対比させています。素敵な一句となりました。

銀賞

遠花火ナースの幼児言葉かな

[ 佐賀県佐賀市 佐々木絹子 ]

(評)たとえば、夜の小児病棟。遠くから、花火の音が聞こえてきます。就寝前に、子どもたちに声を掛けていく看護師。その一声が優しい。そんな場面もあるでしょう。作者は、60代の女性です。敢えて「ナース」としたのは、声を掛けられているのは私。私には幼児言葉が馴染まないということなのでしょう。入院時の寂しさと、ちょっとした反感に季語の「遠花火」が効いています。

銅賞

江ノ電の座席ぺたりと梅雨に入る

[ 神奈川県横浜市 林裕恵 ]

(評)江ノ電のレトロな車両が目に浮かびます。沿線の緑は濃く、しっとりと雨に濡れています。ふと背中に感じた違和感を、長閑に「ぺたり」という擬態語で表わしました。都心の電車内では気づかない季節の移り変わりも、海沿いを走る時間の長い江ノ電ゆえに感じられたこと。郷愁を誘う単純で明快な一句。

冷奴只今離婚調停中

[ 岐阜県高山市 湖黎 ]

(評)俳句を通すことで、一つのシーンが読み手により鮮明に伝わることがあります。作者は19歳。掲句は、全て漢字でまとめた力作。漢字ばかりでも句が硬くならないのは、視覚から入ってくる前半の画数の少ない画面。そして、“奴”の促音と“中”の拗音「ゆ」の聴覚からくる調子の軽さにあります。また、内容では、「冷奴」の手っ取り早さと「調停中」の複雑さを対比させています。この技が、秀句となる所以。

サングラスかけて英語が上手くなる

[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

(評)この通りなら、一度試してみたい気になります。近年のオゾン層の破壊を考慮すると、眼の健康のためにサングラスは欠かせません。ファッションアイテムの一つとして、俳諧味を持たせたり、色々なバリエーションを持たせたりされるのがサングラス。作者にとっての効能は、「英語が上手くなる」。明るい響きで、「サングラス」に新風を吹き込んだ二物衝撃の一句。

愚痴言いて時間穢すや夜盗虫

[ 徳島県鳴門市 河野桂華 ]

(評)作者の時間を穢(けが)しているのは、「愚痴」。これまでの人生への哀惜の念があります。「夜盗虫」は、夜になると出てきて白菜やキャベツなどを食い荒らす害虫。そんな「夜盗虫」という季語を斡旋したのが、この句の手柄でしょう。愚痴の元は夜盗虫でしょうか。それとも、夜盗虫は自身の中の腹の虫でしょうか。人の体の中には、“疳の虫”“虫が好かない”“虫の知らせ”と色んな虫が棲みついています。可笑しみのある印象深い一句。

<秀逸句>

吹き終へて法被に仕舞ふ祭笛

[ 愛知県高浜市 篠田篤 ]

(評)上五「吹き終へて」に、作者の感情がとてもよく表れています。「吹き終はる」なら、最後まで吹いて終了したというニュアンスになりますが、「吹き終へる」となると作者の意志が乗っかります。責任を果たした安堵感まで伝わってきます。祭りはまだ、始まったばかり。次の出番を待つ、作者の毅然とした姿が横笛の音色と共に想像できます。

河童忌や死の擬態語を探す昼

[ 山口県下関市 西村剛 ]

(評)高浜虚子に俳句を学んだという芥川龍之介。好んで河童の絵を描いていました。短編小説『河童』は、最晩年に発表されました。「河童忌」は7月24日で、芥川龍之介が命を絶った忌日です。この日に、作者は死について考えました。死後の世界、生とは死とは・・・ではありません。「死の擬態語」について。答えは見つかりましたか。才気渙発な芥川の忌日ならではの探し物ですね。

夜風吹き器並べしやれ冷酒

[ 大阪府大阪市 妃斗翠 ]

(評)気の置けない仲間との宴の始まり。熱帯夜など何処吹く風。開放感を味わえる野外での宴は、風もまた御馳走のひとつです。「やれ」は、一種の掛け声だったり、ほっとした時に使ったりする言葉です。この句の場合、不安が解消した作者の心を表わした感動詞でしょうか。「やれ」の二音が一句に良い味を出しています。

らんらんと雲が雲呑む夏の山

[ 岩手県盛岡市 森哲州 ]

(評)作者は今、山頂に立っている。普段より雲は近い。積乱雲のダイナミックな動きを「雲が雲呑む」と表現しました。しかも「らんらんと」。その場に立っていてこそ、湧いてくる一句です。「らんらんと」を上五に据えたのもとても効果的で、夏山と雲が目の前に迫ってきます。

久闊の文読みをれば遠き雷

[ 栃木県宇都宮市 平野暢月 ]

(評)久闊(きゅうかつ)は、久しく連絡を取っていないことを言います。そんな人からの便りです。感慨深いことでしょう。読んでいると遠くから雷鳴が・・・。さっきまでは鳴っていなかったのに。他の季節に比べて、夏の雷は激しい。遠くの人からの便りに、何か衝撃的なことが書かれていたのかもしれません。しっとりとした情感のこもる一句。

相席は見知らぬ人や鱧料理

[ 愛媛県西条市 渡辺国夫 ]

(評)偶然にも相席となることは、誰もが経験のあることです。最近では、相席を売りにした店もなかなかの繁盛らしい。でも見知らぬ者同士で、人によってはその場を楽しめない時もあるでしょう。鱧料理は夏の風物詩。作者は堪能できたでしょうか。時世を上手く詠んだ一句。

一輪で拈華微笑の仏桑花

[ 鹿児島県大島郡 未央 ]

(評)「拈華微笑」(ねんげみしょう)は、言葉を使わず心から心へと伝わった時の微笑。「仏桑花」は季語で、ハイビスカスのことです。朝咲くとその日の内に落ちてしまいます。傍にいて、きょうも新しい花をつける仏桑花。この花を愛する作者と、応える花。その姿を「拈華微笑」がぴたりと言い当てています。

A面の静寂のあと晩夏光

[ 東京都品川区 永野ぼう ]

(評)昭和生まれは、A面と聞くとレコードを想う。A面を聞き終えた後の余韻と静寂。野球場やテニスコートでの白熱した試合の後も、観客が去り静寂だけが残される。どちらでも良いが、この句はもっと深いのかもしれない。A面という人生の深遠で不思議な世界。その後の余韻と静寂。そこに、烈日の光ではなく、夏の終わりの翳りのある陽光が差していることでだけは確かなのです。

<佳作賞>

太りたる蜘蛛とマニキュア塗る魔女と

北海道旭川市 幸村千里

鳴神の大鼾まだ朝は来ず

北海道札幌市 伊瀬薫

戯れの火照りに溶ける氷菓子

北海道函館市 瑠香

船よりも日焼けて父の帰港せり

北海道留萌市 三泊みなと

今も尚ペンキ乾かぬ青蛙

宮城県仙台市  伊世貴志

去りてなお揺れる遊具や蝉時雨

宮城県仙台市 亘理健太

遠雷や門限迫る初デート

宮城県宮城郡 松浦ゆきみ

キャンプ場テントの土間で俳句詠む

山形県南陽市 藍風

五月晴れ鯉の形に風渡る

茨城県土浦市 株木謙一

夏嵐老いたる馬の優しき目

群馬県伊勢崎市 白石大介

電柱に我はここぞと油蝉

群馬県藤岡市 居間正三

夏期講座北京原人現るる

埼玉県上尾市 くもがくれ

道の駅百円で買う茄子胡瓜

埼玉県さいたま市 加藤啓子

浜風も裸で手繰る地引網

千葉県市川市 田村さよみ

脳天にブラックホールかき氷

千葉県浦安市 三島閑

プールから帰る父子の影法師

千葉県流山市 葛岡昭男

法要の喪主がきらりと蠅打てり

千葉県船橋市 川崎登美子

骨董の壺中で育つ金魚かな

東京都板橋区 湯浅美登利

ゆく夏の浜に遺さる砂の城

東京都大田区 右田俊郎

生ビール仕事の話ばかりして

東京都大田区 伊藤由紀子

側溝の枠噴き上げし梅雨出水

東京都清瀬市 林優

ひまわりと顔すげ替えて里帰り

東京都国分寺市 小林雅野

今日終へるビールや足に寄する波

東京都西東京市 今井名津

海風も目を細めてる夏の陽に

東京都西東京市 なつみ

寝返りで初めて気付く蝉の声

東京都墨田区 水野伸吾

通り雨浴衣の足元気にかけし

東京都世田谷区 鈴木倭文子

前二人浴衣袖のみ触れる距離

東京都豊島区 潮丸

蛍火や源氏と平家戸の隙間

東京都練馬区 符金徹

くちなはに驚く声に驚きぬ

東京都八王子市 村上ヤチ代

帰省して流行りを知らす写真かな

東京都府中市 櫻井光

ソーダ水の瓶に溶かす白昼夢

東京都文京区 遠藤玲奈

連なりて峡を揺るがす鯉幟

神奈川県足柄上郡 吉田安彦

見得を切る顎の白さや青蜥蜴

神奈川県厚木市 北村純一

炎帝に立つ影焼けるアスファルト

神奈川県相模原市 平幸恵

参道に託宣を負う青大将

新潟県佐渡市 金子七郎

この夏はゲリラ豪雨かミサイルか

新潟県南魚沼郡 高橋凡夫

撮りたくもフイルム尽ぬ大夕焼

石川県金沢市 百遍写一句

草笛の音を揺らして得意顔

福井県福井市 山下博

寄合の声鎮めたる新茶かな

山梨県大月市 坂本真史

甚平や男の喉にある仏

岐阜県岐阜市 洞口武雄

海開きみな一斉に波を蹴る

静岡県富士市 城内幸江

明日のぞく茅の輪くぐるや嫁に従き

愛知県岡崎市 松籟

夕立にブラウスびしょびしょ交差点

愛知県名古屋市 横井美佳

蝉時雨今日もてくてくジム通い

三重県松阪市 谷口雅春

夕焼雲遥かに去れば鍬を置く

滋賀県彦根市 馬場雄一郎

老鶯や特攻か舌噛み切るか

京都府木津川市 初霜若葉

白南風や平城京の跡ひろし

京都府京都市 田久保ゆかり

帯とけば簾くすぐる小夜の風

京都府京都市 太田正己

黄昏の紫陽花になり待つ足音

京都府与謝郡 真本笙

天風の孫の寝顔の涼しさや

大阪府大阪市 茶

脳みそとふぐりやはらか昼寝人

大阪府和泉市 小野田裕

ピカソよりシャガールが好き聖五月

大阪府和泉市 小野田裕

長命を恐るる夜の黒ビール

大阪府和泉市 清岡千恵子

縁側をやおら閉じたる夕立かな

大阪府高石市 浅野敬一

生まれくる水きよらかに滝となり

大阪府東大阪市 明霞

まだ生きよまだ生きたいと蝉時雨

大阪府南河内郡 西村道子

琵琶湖へと真っ直ぐ向かふ青田風

大阪府八尾市 乾祐子

帰省子の大きな荷物キャッチする

兵庫県川西市 木内美由紀

さよならをポッケに詰めて夏が行く

兵庫県神戸市 郷司牧子

宇治の夏抹茶ゼリーに姪破顔

兵庫県神戸市 中川兵庫

打ち水に逃げまはる子ら嬉しさう

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

よしきりに負けぬおしゃべり手漕舟

兵庫県西脇市 山尾カツヨ

雷鳥の雛一斉に腹の下

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

親子とて心の奥に五月闇

和歌山県御坊市 水村凜

炎昼にピストルの音じっと待つ

岡山県倉敷市 桃太郎

夕さりて海のにほひの夏帽子

広島県東広島市 蒼そら

朝な夕介護車奔る晩夏かな

広島県福山市 藤井深里

午後からは驟雨の気配草殻焚く

徳島県徳島市 粟飯原雪稜

巴里祭バロン薩摩の住みし家

徳島県徳島市 笠松八重子

夏の月仰げば鍵の鈴鳴れり

徳島県徳島市 笠松八重子

モンローの名札を吊るす紅きバラ

徳島県徳島市 河野章子

仮装せし白雪姫の汗かきて

徳島県徳島市 河野幸枝

いろはにほちりぬるおわか心太

徳島県徳島市 島村紅彩

青蘆の入江に風のあるごとし

徳島県徳島市 隶罐▲ヨ

病める子にゆるりと送る団扇風

徳島県徳島市 松葉小夜子

朔太郎はいま月にゐるソーダ水

徳島県徳島市 山之口卜一

母と子の思い一つに夏遍路

徳島県徳島市 山本明美

這ひ初めし子に開け放つ夏座敷

香川県高松市 雛

明易し頭を垂れた再試験

香川県仲多度郡 佐藤浩章

空蝉と人の世懸けて霊山寺

香川県丸亀市 山口悦子

ひとひらの大きさを知る牡丹かな

愛媛県松山市 宇都宮千瑞子

つくばいや水馬の舞ふ新リンク

高知県高知市 童眼

土用鰻中国産でやむなしと

福岡県北九州市 赤松桔梗

面影は背中だけなり走馬灯

佐賀県唐津市 浦田穂積

ぽつぽつと風の涼しき家あかり

大分県大分市 ふうこ

無農薬このキャベツこそ玉菜かな

熊本県阿蘇郡 興呂木和朗

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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