2017HAIKU日本 春の句大賞 結果発表

HAIKU日本春の句大賞 金賞

目瞑ればふるさとの景彼岸潮

[ 愛知県岡崎市 山田草風 ]

(評)彼岸ともなれば、お墓参りをしなくてはと思うのですね。作者は、ふるさとに向かう船の上でしょうか。海辺に一人でしょうか。彼岸潮は、春の大潮で激しく流れます。色々なことを想像させます。都会で、色々あったのでしょうか。優しく整った句を、季語の彼岸潮が引き締めています。ふるさとへの思いがこの句を作らせたのでしょう。忠実に見える描写に、作者の心象風景が詠み込まれているようです。

銀賞

でも父は小さくなりぬ春北風

[ 福井県福井市 清田誠亮 ]

(評)俳句では、言い尽くされた言葉や通念句は使わないことを良しとしています。たとえば、“柿は夕日に照らされて”や“母の背は丸い”等。掲句の「父は小さくなりぬ」も同じことが言えますが、そこを超えて成功したのは「でも」による省略でしょう。この二音に作者の人生が込められています。季語の「春北風」(はるならい)は、季節の戻りを感じさせる冷たい風です。誰しもある親子の葛藤、愛と温もり。深く味わいのある一句です。

銅賞

鈴の音を野路にこぼして遍路行く

[ 栃木県宇都宮市 平野暢月 ]

(評)「野路にこぼして」の中七で、お遍路さんの歩く「野路」を色々と想像してしまいます。花が咲き、小川が流れ、やさしい風がお遍路さんの背中を撫でています。鈴の音に心も和みます。作者はお遍路さんに、どんな思いを重ねたのでしょうか。読者に何かを考えさせる意味の空間を残してくれた一句。

春雷のすぎて水面の夫婦鴨

[ 大阪府東大阪市 明霞 ]

(評)水面に仲の良い鴨の夫婦の姿。優しい言葉で、ふっくらと詠みあげました。印象深い一句。春雷には夏の雷のような激しさはありません。春雷が過ぎて雨も上がっていることでしょう。俳句という文字を通すことで、一つのシーンが読み手により豊かに伝わることがあります。作者はしっかりとした写生の眼で表現しています。

少女らの密談ふふふ春の夜

[ 大阪府八尾市 乾祐子 ]

(評)「春の夜」は、漆黒の闇ではなく、潤いを含んだ朧夜です。日中は生気溢れる春も、夜には艶めいた趣をなす「春の夜」の不思議。そこで、少女らの密談です。成長期の心と体のアンバランス感。匂い立つような夜を「ふふふ」の擬声語が見事に表現しています。思わず読者も聞き耳を立てそうな一句となっています。

田起す土間に揃えるゴムの靴

[ 徳島県徳島市 粟飯原雪稜 ]

(評)上五を四音とすることで、先祖代々の田を耕しに行く緊張感とも言えるやる気がうかがえます。「土間」と「ゴムの靴」は、この作業との絶妙な取り合わせです。ゴムの靴を履き、耕しが進みます。あるがままに詠んだ句に、この作者の歴史が刻まれています。ベテランの味と気迫が伝わってきます。

青い海青い空から桜鯛

[ 香川県観音寺市 滝川歌仙 ]

(評)桜が咲くころ産卵のため内海に集まってくるのが桜鯛。この季語が使われるだけで、豪華さと活きの良さが伝わってきます。そして青い海と青い空。桜鯛が空から降ってくるようなイメージ。釣り上げた瞬間を見事に捉えました。鑑賞の翼が広がります。

<秀逸句>

縁側の砂おむすびや春の風

[ 宮城県仙台市 亘理健太 ]

(評)四季のある日本。風の呼び名は季節ごとに多様です。春ならば、暖かく柔らかに吹く「春の風」、やや荒い早春の風は「東風」、彼岸の頃に吹き続く西風を「彼岸西風」、強風・突風を「春疾風」と呼ぶように。縁側に、小さな手で作られた「砂おむすび」が並びます。春の穏やかな一日。時折、吹く風が心地よい。さりげない日常をさらりと詠んだ秀逸句です。

そよ風のアダージョ響く藤の房

[ 千葉県浦安市 滝大心 ]

(評)「アダージョ」はイタリア語でゆっくりと奏でるの意。「そよ風」のような緩やかさです。藤の房が小さなベルの集まりとなって、心地よい音を響かせているかのようです。花が触れ合っても音はしませんが、聞こえるように思えます。余韻のある奥行深い一句。

はまぐりの開けば家は海になる

[ 東京都豊島区 谷村行海 ]

(評)早稲田大学俳句研究会に所属する作者。若さと、独特の感性で詠んだ一句。はまぐりが口を開いたという写生の眼。こんな瞬間を俳句にするのは楽しい。一度読めば、忘れられない一句となります。これからも新鮮な句材、新鮮な表現を追い求めて下さい。

春めくやこの町にまだ知らぬ道

[ 大阪府和泉市 小野田裕 ]

(評)春めいて来て、気持ちも穏やか。いつもの町を歩いていての発見。道がひとつ違うだけで、見慣れた町の景色も変わって来るものですね。冬の眠りから覚め、万物の命が動き始める春。「春めく」季節だからこそ、この一句にストーリーが見えてきます。

手のひらのゆりかごの中桜貝

[ 兵庫県西宮市 幸野蒲公英 ]

(評)「桜貝」は、ピンクの貝殻が桜の花のように美しいので春の季語とされています。花貝とも呼ばれ、古くから歌に詠まれるなど人に愛されてきた貝です。淡い色合いと薄い殻が儚げで、守りたくなる作者の心情がよく分かります。読む人をどこまでも優しくさせてくれる一句です。

自転車を押す二人連れ土手青む

[ 奈良県奈良市 堀ノ内和夫 ]

(評)冬枯れの大地からほつほつと萌え出した芽は、春の到来を実感させてくれます。やがて、緑が色を増し、足裏にも生命の逞しさが伝わってきます。この若さが自転車を押す二人によく似合います。暑さ寒さは道を急がせますが、今は春。ゆっくりと自転車を押しながら、この春を謳歌するのです。のどかな気分の溢れる一句。

さいはてのアンコールかな花筏

[ 和歌山県御坊市 水村凜 ]

(評)桜の花が水に散って、最後に模様を描くのが花筏。散る桜の美は、もうこれより先はありません。この美しいシーンを「さいはてのアンコール」と表現したのが、作者の俳人たる所以です。散ってしまった桜に対して呼び掛ける作者の声が聞こえてきます。「花筏」は、切なくもリアルに存在感を示します。

水門のひらきて水や春の草

[ 広島県東広島市 蒼そら ]

(評)中七の切れ字「や」が効いています。また、「水門を」とせず「水門の」としたところも上級者ですね。田水取り用の水門を開けるとどっと水が溢れ、春野を潤した景です。ここに、新鮮さを見出したのは作者の力量の賜物。下五の「春の草」の季語が、やさしく決まっています。

つちふるや断頭台に象使い

[ 徳島県徳島市 山之口卜一 ]

(評)二物衝撃的な思いがけない取り合わせが、一気に読み手を引きつけます。印象鮮明な一句。場所は、東南アジアか中東か、はたまたサーカス小屋でしょうか。いずれにしても、この胸騒ぎは「断頭台」にあります。「象使い」の描かれたひとつのシーンにイメージが膨れ上がり、みなぎるエネルギーを感じます。

祝い酒控える夫に春立ちぬ

[ 徳島県徳島市 山本明美 ]

(評)夫に対する妻の優しい眼差しが一句となりました。春がわずかに気配を漂わせている立春。お酒をたしなむ夫ですが、健康第一です。控えてもらい春を味わってもらいましょう。妻の夫への暖かさが伝わってきます。盛春ではなく、「春立ちぬ」の季語が効いています。

億劫の殻を破れぬ余寒あり

[ 愛媛県西条市 渡辺国夫 ]

(評)「億劫の殻」を破れぬ自分がいます。若い時なら何でもなかったことが、精神的にも体力的にもきつくなって来たのでしょう。そんな感慨を詠んだ境涯俳句。「余寒あり」と断定したことで味も深みも増しました。春は寒暖の変化が大きい。春着に着替えてからの思わぬ寒さに動きを鈍らされてしまいました。

<佳作賞>

目瞑れば慈顔浮かぶや黄水仙

北海道留萌市 三泊みなと

よく笑ふ君の卒業写真かな

岩手県盛岡市 森哲州

手水舎の柄杓にすらも花筏

宮城県仙台市  伊世貴志

ただいまと床にひらり山桜

宮城県宮城郡 松浦ゆきみ

鶴首の白磁に開く紅椿

山形県東根市 石川雄大

山桜青いシャツの子かたぐるま

山形県東根市 冨樫正義

菜の花や道草たのし一年生

茨城県土浦市 株木謙一

鳩群れて花の盛りの午睡かな

栃木県大田原市 金野露山

ビニールも踊りたくなる春の風

群馬県藤岡市 居間正三

菜の花や目鼻うすれし道祖神

埼玉県さいたま市 加藤啓子

花見酒淡き紅差す君の顔

埼玉県草加市 清水潤二

春の陽に君の眼差し重ねてる

埼玉県戸田市 千代子

思い出は形状記憶さくら散る

埼玉県和光市 雨人

宮島や鳥居を攻める春の潮

千葉県市川市 田村さよみ

屋台酒議論延々花吹雪

千葉県柏市 柳下勝

くすむ丹の軒ちやうちんや柳の芽

千葉県船橋市 川崎登美子

カーテンに隠れる少女フリージア

東京都品川区 永野ぼう

春の陽をお手玉にする帰り道

東京都新宿区 貞住昌彦

富士の裾つつじの色の交響詩

東京都杉並区 小松梨津子

ランドセル色とりどりに花咲かす

東京都墨田区 中井貴之

たんぽぽをよけて流るる散歩道

東京都世田谷区 白露

菜の花のほの苦き味胡麻よごし

東京都清瀬市 林優

事成りて花紅ねだる散る前に

東京都小金井市 高木美恵

アスパラガス狩りて夕餉は竜の指

東京都国分寺市 小林雅野

太陽の西に傾く木の芽山

東京都小平市 藤森灯火

君の笑み言うに尽くせぬ春の昼

東京都狛江市 中田潤

厚底のワイングラスや花曇

東京都杉並区 藤川都

またひとつ心臓ほどの椿落つ

東京都西東京市 今井名津

燕の巣帰省の我が子重ね見る

東京都練馬区 石野美宙

春嵐折れ遺さるる銀の骨

東京都練馬区 笠間紫苑

藤棚の下から仰ぐ未来かな

東京都練馬区 須々木ひとみ

春昼や路地に影置く車椅子

東京都練馬区 符金徹

矢印の先は駅舎の燕かな

東京都八王子市 村上ヤチ代

過疎の地の若き一本桜かな

東京都府中市 櫻井光

整列の手本のごとき葱坊主

東京都文京区 遠藤玲奈

水車小屋清き流れに座禅草

東京都町田市 山本好夫

春愁や寄せては返す波ばかり

神奈川県足柄上郡 吉田安彦

ふさふさと咲く小手鞠や庭の隅

神奈川県川崎市 初音

洟をかむ鼻のあり処や春の昼

神奈川県相模原市 相模太郎

添い遂げし夫婦の道や花篝

神奈川県横浜市 岩田潤

篝火に盛りて誘う山桜

新潟県佐渡市 金子七郎

青き空雪残る峰たおやかに

新潟県新潟市 川崎郁夫

賑はえる浜の朝市海雲汁

福井県福井市 山下博

昼真中さくらの余韻靴に入る

山梨県大月市 坂本真史

二月堂残煙越しに春の月

長野県松本市 藤松咲希

初蝶や飛ばされぬよう風に乗る

静岡県富士市 城内幸江

引く波も打つ波も白法然忌

愛知県春日井市 荒木健裕

少女の名覚えて帰る入学日

愛知県高浜市 篠田篤

結願のお札参りに風光る

愛知県名古屋市 好児

君想う空にぼんやりおぼろ月

三重県津市 梅林伸行

雨上り裸の幹や花筏

三重県松阪市 谷口雅春

制服の胸元白く初燕

滋賀県彦根市 馬場雄一郎

一番は孤独も褒美蝶出づる

京都府木津川市 初霜若葉

廃校の校章一輪の桜

京都府京都市 おおたまさ己

高瀬川水嵩増して花筏

京都府京都市 田久保ゆかり

靴紐の結び方変え新学期

京都府京都市 与太郎

野辺渡るさらさら空を花あんず

京都府与謝郡 真本笙

サンドイッチ直立不動春ふかし

大阪府和泉市 小野田裕

妖艶に舞う夜桜と赤む頬

大阪府大阪市 妃斗翠

薄雲になお艶めいて春の月

大阪府枚方市 蛙跳

春の海そうこの人と生きていく

兵庫県川西市 木内美由紀

春愁や気になる生命線の先

兵庫県神戸市 音羽和俊

木の芽晴れ乗ればすぐ出る渡し舟

兵庫県神戸市 河内きよし

獅子の檻たんぽぽ風に吹かれをり

兵庫県神戸市 平尾美智男

囀りや鬼の伝説ある山に

兵庫県神戸市 吉田あゆみ

さながらにプリマドンナや揚雲雀

兵庫県西脇市 山尾カツヨ

陽炎の深さ片目に測量機

兵庫県姫路市 佐藤日田路

吾子の髪ふわりと揺らし春来る

奈良県生駒市 松井宏行

靖國や鼻を掠める花万朶

島根県飯石郡 清静亭

雨樋に植ゑたやうなる春の草

岡山県真庭市 憂心

仕舞屋の大路や東風は杉玉へ

山口県下松市 廣中健人

追憶の相聞歌鳴る春の虹

山口県下関市 西村剛

クローバーの葉の雨雫それぞれに

徳島県徳島市 粟飯原雪稜

亀鳴くや持って生まれし孤独癖

徳島県徳島市 笠松八重子

散る桜受ける子追う子転ぶ子も

徳島県徳島市 島村紅彩

裏山のどこも動かず初音かな

香川県高松市 尾妙子

雛視て抱かれ落つる涕かな

香川県仲多度郡 佐藤浩章

石灰化した血管に春の水

愛媛県松山市 宇都宮千瑞子

持ち回るだけの荷物や春の旅

福岡県北九州市 赤松桔梗

灘一望満座となりし藤の城

佐賀県唐津市 浦田穂積

茂吉の忌二二六の項を引く

熊本県阿蘇郡 興呂木和朗

顔なでる風よ春空に手をかざす

熊本県熊本市 丁梁

別れ船テープ舞い飛ぶ春北風

鹿児島県大島郡 未央

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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