2016 HAIKU日本大賞2016秋の句大賞発表

HAIKU日本秋の句大賞 金賞

晩学の命の際をちちろ鳴く

[ 青森県八戸市 宮本三千歳 ]

(評)「ちちろ」はコオロギのことです。「晩学の命」というのは、人間の生死ではなく文芸の達成感を言っているのでしょう。「命」という主観語を「晩学の命」とすることで客観性を持たせています。たとえば、趣味の俳句をいつまで楽しめるかなぁ・・・。そんなしみじみとした感情が伝わってきそうです。「ちちろ鳴く」を、儚さよりも秋の虫たちの励ましとして味わってみたい。

銀賞

半ば喰われし鎌切のダンディズム

[ 東京都新宿区 恵島健太 ]

(評)鎌切は肉食で、動くものを餌にする習性があります。この為、雌は交尾の時、雄を食べてしまうことがあるらしい。この句は、なかなかに激しい言葉をぶつけたシュールな一句。雄の鎌切にダンディズムを見出した作者の発想に感服。

銅賞

時刻表つうと横切る秋茜

[ 兵庫県西宮市 幸野蒲公英 ]

(評)音もなく飛翔する秋茜に、より生命感を与えたのが「つう」の二音。時刻表を秋茜が横切ったという事実だけを表現したところに魅かれます。背景には、抜けるような青空があり、刈田の匂いまで届いてきそうです。俳人の眼が捉えた印象深い一句。

句帳閉ぢて秋闌のいろは坂

[ 千葉県市川市 田村さよみ ]

(評)旅吟の句でしょうか。さてさて何か一句と句帳を開けてみたものの、紅葉のあまりの美しさにしばし見入ってしまった作者。人生の充実のひとコマを見事に切り取りました。日光の「いろは坂」の紅葉は格別だったことでしょう。自然と向き合い、美しさを文字で創出した素直で印象鮮明な一句。

去ぬつばめ忘れないでね日本を

[ 東京都杉並区 藤井理沙 ]

(評)小学5年生の俳句です。こんな句に出会うと、何ともほほえましく感じます。女の子の純粋な心情が、一句の中に込められています。子育て中のつばめには関心があるものの、次第にそれは薄れていきます。それでも、作者は語り掛けるようにさようならを言う。若い感性はいつまでも大切にしたいものです。

白波の果を帰燕の群ゆけり

[ 徳島県徳島市 笠松八重子 ]

(評)陸を離れ、まさに今、大海原へ出ていかんとする燕の群れを詠んだ大景。白波を掠め飛んで行く姿を追う作者。目的地に行けず、海中に身を落としてしまう燕もいるでしょう。命がけの渡りの始まりです。作者が捉えた「帰燕」のシーン。十七文字で表わすのが、俳句の醍醐味です。

指先を八丁蜻蛉飛ぶ世界

[ 香川県高松市 青木匠 ]

(評)八丁蜻蛉は、体長1.5センチ程の世界でも最小の蜻蛉です。あまり知られていない八丁蜻蛉を句材にしたことで、インパクトのある句になっています。湿原を軽やかに飛ぶ小さな蜻蛉の世界。今、自分の指の先を飛ぶ姿に、お前も頑張れよと思わず声を掛けたくなります。そんな気持ちがこの句を生んだのでしょう。

<秀逸句>

秋空にはずむ心でこぐペダル

[ 東京都板橋区 大野木和夫 ]

(評)澄み渡った秋の空は爽快で、ペダルも軽く感じられます。行楽の秋、仲間と集い、これから楽しい一日が始まります。素直な心で感じたままの一句。真っ白な心情で詠むのが、俳句の原点です。

赤とんぼ行き交うたびの内緒ごと

[ 東京都新宿区 まめ子 ]

(評)孫と連れ立っての景でしょうか。子供に内緒ごとは付き物です。「このことは内緒ね」などという声が聞こえてきそうで微笑ましい。「赤とんぼ」の温もりが二人の会話を優しく包んでいるようです。

ペットボトル二本飲み干す残暑かな

[ 東京都調布市 万愚節 ]

(評)日常生活の中で、柔軟な思考が見出した一句。俳人として見事というしかありません。日本はもう秋がなくなってしまったのかと思うほどの昨今の残暑。気負うことなく、さらりと詠んでいます。「二本」で暑さが具体的に表現されました。

落花生爆ぜて時間の裏返る

[ 東京都品川区 永野ぼう ]

(評)落花生と裏返る時間。不思議な取り合わせが生み出す不思議な感覚がこの句の特徴です。「時間の裏返る」とは、どういう状況でしょうか。落花生が爆ぜて、びっくりした瞬間でしょうか。この句の良さは、一句一章の配合の妙にあります。

秋に入る声の綺麗な薬剤師

[ 神奈川県横浜市 竹澤聡 ]

(評)薬局で「誰々さん」と呼ばれたのでしょう。それが、そのまま一句となった好例です。清潔感のある素直な叙述に共感できます。「立秋や」とせず、「秋に入る」として成功しました。「秋」の響きが、中七の「声の綺麗な」にピタリと合います。薬剤師の姿を美しく浮き上がらせています。

ゆっくりと親子は離れ鰯雲

[ 静岡県富士市 城内幸江 ]

(評)今生の世を、いつまでも親子として過ごすことはできません。やがては、離れざるを得ない親子です。この感慨を「ゆっくり」と詠んだ作者。上五と中七が、どしりと鰯雲に掛かっています。この季語だから、許されるのかもしれません。

晩秋のまだら斜面に緩き風

[ 兵庫県尼崎市 石垣長司 ]

(評)晩秋の山は紅葉もいよいよ本番。見渡す限り、赤や黄に染まっています。そんな秋の一日をじっくりと味わっている作者。紅葉は斜面がきつい程、美しく見えます。晩秋の渓谷を「緩き風」が渡っていきます。

傾けずただひたすらに踊笠

[ 兵庫県姫路市 佐藤日田路 ]

(評)踊りの所作は、踊りによってまちまち。この句の場合、踊笠を傾けず真っ直ぐに行く踊りです。「ただひたすらに」の中七の平仮名に、作者のその踊りを見て感じたことが凝縮されています。真剣な踊り子の姿が、微笑ましく感じられます。

駒崩しの如く栗飯椀に盛る

[ 広島県東広島市 安芸クイーン ]

(評)駒崩しとは、将棋の駒の山から指一本で一つずつ駒をそーっと引き寄せて来る遊びのこと。お椀に栗飯を丁寧によそう。そこには、ごろごろと秋の味覚が輝いているという何とも幸せなひと時です。比喩が成功し、「如く」の漢文調と共に格調高い一句に仕上がっています。

赤とんぼ我にも定め有るとかや

[ 広島県東広島市 さくらんぼはる ]

(評)下五の止めに終助詞「かや」を使って詠嘆の意を表わしました。「有るということだなあ」という感慨を表しています。秋特有の感傷を「赤とんぼ」に託し見事に切り取っています。

月影のゆらぎに恋の始まれり

[ 広島県福山市 藤井茂基 ]

(評)恋の始めは、いつも揺らぐもの。たとえそれが、カッと照りつける太陽の下であっても。しかし、詩情から言えば、ロマンチックな月影に優るものはありません。俳句は一人称。控えめな表現に、結末が気にかかります。

難題に全戸揃ひて夜長かな

[ 福井県福井市 山下博 ]

(評)どんな難題が降りかかって来たのでしょうか。静かな里の生活に根差した難題なのでしょう。この句は夜の深さを感じさせますが、夜長には、ゆったりと秋の夜を楽しむという意味もあります。難題はあるものの、「全戸揃ひて」集まった人達の姿は何か楽しそうです。

あきのあさつきはつのないコンペイトウ

[ 愛知県大府市 宇堂楽一 ]

(評)上五、中七を平仮名で、下五を片仮名で締めくくりました。朝、白く残る月があります。夜とは、また違った美しさを見せてくれます。それを「コンペイトウ」に例える作者。月を愛でる人の心は、いつもピュアなのです。何かほっとするような作品です。

剣鬼来てゆらり購う秋刀魚かな

[ 東京都国分寺市 小林雅野 ]

(評)「剣鬼」も今や、遣いに出るマイホームパパなのでしょうか。それでも、鋭い目で秋刀魚を見分けて買っていきました。「ゆらり」が句に膨らみを持たせ、作者のセンスが光ります。「剣鬼と秋刀魚」。こんな取り合わせもあるものだと感心しました。

虫時雨ほどよき不協和音かな

[ 熊本県阿蘇郡 興呂木和朗 ]

(評)「ほどよき」が字面に柔らかさを与え、また音としても「不協和音」の強さ、固さを緩和してくれます。秋の夜の庭先から聞こえてくる虫の声は大そう心地よい。静かになったかと思えば、またそれぞれが音色を奏でてくれます。投句者は、去年の「HAIKU日本秋の句大賞」の金賞受賞者。中七から下五へのリズム感が良く、一句一章が成功した好例。

<佳作賞>

紅葉に彩度を預けモノトーン

北海道札幌市 矢島岬

エプロンの紐まだ解けぬ秋の雨

北海道留萌市 三泊みなと

ツキヨタケ妖艶なりき魔精かな

青森県八戸市 金田正太郎

秋茜風に運ばれ路地をゆく

岩手県宮古市 薄墨

野分晴れ三日三晩の暴れ川

岩手県盛岡市 森哲州

秋灯や三者面談苦闘中

宮城県遠田郡 武田悟

松ぼくり夢はワールドカップかな

宮城県仙台市 伊世貴志

熟柿落つ空襲ありし頃思ふ

福島県須賀川市 地肌

激つ瀬の吉野三郎秋うらら

茨城県石岡市 青木祥太

稲荷鮨艶を競ふや秋高し

茨城県常陸大宮市 細貝雅之

バス行くやさながら蕎麦の花街道

栃木県宇都宮市 平野暢月

秋雨が傘を叩いて散歩道

群馬県藤岡市 居間正三

秋気澄む家中の窓全開に

埼玉県さいたま市 加藤啓子

神無月夫婦で参る出雲かな

埼玉県さいたま市 作田のん

朝寒の呼吸の形見えはじめ

埼玉県所沢市 秦多未亜

鳥たちも肥えてかしまし天高く

埼玉県所沢市 福田福子

庭の木に刺したばかりの鵙の贄

埼玉県吉川市 山秀雄

父が逝く母を守りて小春空

千葉県浦安市 白井典康

カメラより肉眼に合う大黄葉

千葉県浦安市 滝三豊

光さす君の背中に秋一葉

千葉県松戸市 橘まゆ

晩学の蛍光ペンや秋涼し

千葉県松戸市 山田和枝

野に遊ぶ児らのいなくて秋鴉

千葉県山武郡 伊橋徹

黒猫の瞳のごとき夜半の月

東京都板橋区 湯浅美登利

むかご飯薄塩遥か泣きし頃

東京都板橋区 小黒松男

爽籟に重なるホルン街角に

東京都北区 高橋久雄

友からの野菜に混じる小菊かな

東京都清瀬市 林優

湯気踊るお茶を啜れば秋深し

東京都小金井市 木村悠佑

湯を纏ひ消へては浮かぶ薄月夜

東京都狛江市 中田潤

変わるより変わらぬことよ金木犀

東京都江東区 堀部宏

小鳥来る水平線の見える窓

東京都渋谷区 倉田有希

放課後のピアノはやまず秋深し

東京都新宿区 牛鬼

秋麗のわれもひとりや街歩き

東京都杉並区 伊藤さやか

直系は早や母ひとり衣被

東京都杉並区 藤川都

遠い日に想いをはせる通草かな

東京都世田谷区 鈴木倭文子

実石榴や開かずの扉のある館

東京都八王子市 村上ヤチ代

天空や熊野古道の神無月

東京都町田市   凡人

秋扇閉ぢて日暮の始まりぬ

東京都府中市 櫻井光

どんぐりをたどり会ひたしトトロかな

東京都文京区 遠藤玲奈

泥水の苦界潜りし彼岸花

東京都文京区 菊地正矩

飛び交ひて赤蜻蛉の争わず

神奈川県厚木市 北村純一

地球より月見て団子恙なし

神奈川県相模原市 相模太郎

棒ふって野を駆ける子や鰯雲

神奈川県川崎市 鈴木奈穂子

店頭の秋刀魚の値札日々変わり

神奈川県平塚市 野村昌弘

もみじの木もみじなくなるさむい風

神奈川県横浜市 彩月

ヒヨドリよ共に戻らんいつの日か

神奈川県横浜市 灯目

握り飯そなふ祠の蔦紅葉

福井県敦賀市 岡本海月

コスモスの迷路の中に孫とゐる

福井県福井市 山下博

月白に出でし墨絵の如き富士

山梨県甲府市 内田幸子

ポケットのぬくもり探る秋の暮れ

山梨県中央市 甲田誠

山の端にひときわ高く鳥渡る

山梨県笛吹市 竹下童女

菊の香やいつかの恋を思い出し

長野県上伊那郡 小沢高男

赤のまま馬塚こんもりせり上がる

長野県松本市 中沢早苗

赤紅葉鬼の魂残しけり

長野県長野市 齋藤俊幸

白壁の蔵の茶房やこぼれ秋

岐阜県岐阜市 洞口健吾

紅葉や笑顔の君に暖まる

静岡県静岡市 鮭

待ち懸く秋心に解る旅基碑めぐり

愛知県稲沢市 照三平六

散歩道三日来ぬ間にキンモクセイ

愛知県刈谷市 小澤夕美子

しんみりとまたしんみりと星月夜

愛知県刈谷市 水仙

母が住み温く黄ばめる秋灯

愛知県高浜市 篠田篤

天高し五臓六腑を点検す

三重県松阪市 谷口雅春

あらばこそ菊人形のシンゴジラ

滋賀県彦根市 馬場雄一郎

夕暮れの空のカーテン秋深し

京都府宇治市 吉村郁代

廃線の先は空へと秋燕

京都府木津川市 初霜若葉

八月の二十日の花火売り場かな

京都府京都市 吉川太郎

下灘の秋の夕日を手に包む

京都府与謝郡 真本笙

あかときの秋思喜悦に似たりけり

大阪府和泉市 小野田裕

窓辺からいざよう月に息吐いて

大阪府大阪市 菊地由佳

酒蔵に沿うて静かや秋の川

大阪府門真市 田中たかし

秋刀魚の香声やわらかく猫の爪

大阪府南河内郡 阪井一夫

うろこ雲バケツに映るはいわし雲

大阪府東大阪市 竹山桃葵

般若寺の庭彩りし秋桜

大阪府東大阪市 明霞

雲の陰一息入るる残暑かな

大阪府箕面市 攝州

どんぐりの小さなぼうしどこ行った

大阪府箕面市 小笠原風香

台風のフジタの裸婦の髪乱れ

兵庫県尼崎市 秋獅子

ひとり一人に囁く長き夜のラジオ

兵庫県神戸市 音羽和俊

黒き稲架いつしか鼻腔乾ききる

兵庫県神戸市 山分大史

いわし雲火灯し頃にほし波へ

兵庫県三木市 井上優里

柿吊す軒の向こうに山河あり

兵庫県姫路市 大塚高史

晴れ晴れと小鳥の歌をききにゆく

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

現わるる紅葉に歓声いろは坂

奈良県奈良市 杜紀郎

吐いてきた嘘の数あり曼珠沙華

和歌山県御坊市 水村凜

温かい母の背中と秋の昼

岡山県岡山市 HANA

鰯雲天に畳を敷き詰める

広島県東広島市 安芸クイーン

秋茜届けオカリナ友の忌に

広島県福山市 藤井深里

糠漬けの西瓜の皮は母の味

山口県岩国市 都毬

全方位よりやつてくる虫時雨

山口県周南市 藤井香子

過去となる街へ月夜のポストかな

山口県山口市 鳥野あさぎ

小鰯を素手で腹割ぐ夜更けかな

徳島県徳島市 粟飯原雪稜

秋日射甲冑の紋輝けり

徳島県徳島市 河野幸枝

郵便夫コスモス畑に消えにけり

徳島県徳島市 島村紅彩

天日のままにゆだねて稲の秋

香川県高松市 尾妙子

濃い夕日無花果臀部停まりけり

香川県仲多度郡 佐藤浩章

逆打ちの秋の遍路に道問はる

愛媛県西条市 渡辺国夫

車椅子乗る老母にも柿ひとつ

愛媛県松山市 宇都宮千瑞子

木の実落ち山は静かになりにけり

愛媛県松山市 森田欣也

彼岸花九割走るバスの旅

福岡県北九州市 赤松桔梗

巫女の髪黒きを束ね神無月

福岡県福岡市 金坂恵美

カバの住む池の濁りも秋めいて

長崎県長崎市 牧野弘志

帰らざる闘病九年蔦葛

佐賀県唐津市 浦田穂積

病癒えし帰郷の空よ秋燕

熊本県八代郡 井田竜樹

りんどうの花言葉のごと生きて、君

大分県別府市 大島綸子

秋晴や面一本の旗上がる

宮崎県日南市 近藤國法

しろき空しろき丸皿しろき梨

沖縄県うるま市 輝龍明

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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