HAIKU日本大賞 秋の句大賞発表

HAIKU日本秋の句大賞 金賞

新豆腐十字に箸を入れにけり

[ 熊本県阿蘇郡 興呂木和朗 ]

(評)新豆腐は、新しく収穫した大豆で作ったもの。風味が良く、新秋の味。朝の食卓に上ったのでしょう。十字に箸を入れて切る細かな動作を描いた小気味よい俳句。一句一章の見本のような安定した作品。「にけり」の過去詠嘆の助動詞もすっきりとしていて効果的。一語一語が心に沁みて、平和な日常が想像されます。

銀賞

また来る日あるまじ秋のセーヌ川

[ 東京都杉並区 藤井隆彦 ]

(評)パリへ来ることは、もうないだろうと詠んだ作者。現実的ですね。奥様との記念の旅行だったのでしょうか。秋のセーヌの流れが思い出となります。「まじ」という打消しの助動詞がこの句の柱となって味わいを深めます。人生の秋が迫っているのではと思わせる寂しくも愛おしい句。テロ発生でパリも余計に遠く感じられますね。

銅賞

秋風のほかはまとはず草千里

[ 香川県高松市 尾崎妙子 ]

(評)この句の良いところは、一句一章できっぱりと言い切ったところです。趣が伝わってきます。秋の高原を旅しているのでしょうか。風を感じながら、私たちも大きな空間を共有できます。景も大きく、句も大きい。写生句の神髄を突いています。 

どんぐりは悲しいときに固くなる

[ 東京都足立区 西生ゆかり ]

(評)捉え方が斬新。どんな感覚なのでしょうか。想像が膨らみます。若い作者の独特の新鮮な感じ方が、俳句をおもしろくしています。こんな句は驚いて気になって、その後夢も膨らみます。

目もあやにもみぢかつ散る磴だまり

[ 東京都板橋区 増田綾子 ]

(評)ベテランの味が滲み出ています。百人一首・春道列樹の「山川に風の懸けたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり」が浮かびます。磴(石段)を紅葉が流れ来るような・・・。そんな溜りを見上げている作者。女性らしい雅趣溢れる視点による会心の作。

<秀逸句>

妻つれて憑かれし如く秋遍路

[ 東京都国立市 菅野圭 ]

(評)俳句は一人称文芸で、自分の事を主に言うべき。しかし、逆も真なり。ご主人が、遍路に行くと言い出し追従した妻。色んなことに出会う旅でしょう。きっと、ご主人の願いも叶うはずです。リズム感溢れる秀逸句。

秋雨の濡れしづむ獄窓に母の顔

[ 大分県大分市 長畑孝典 ]

(評)獄窓(まど)と言うからには獄中の身なんですね。お詫びと後悔が母に対する思いと共に溢れ出ています。年老いた母に対する何とも言えない気持ちが伝わってきます。

背中しか見せぬコアラの秋思かな

[ 大阪府堺市 やまぐち若葉 ]

(評)背中しか見せぬという客観写生。そのコアラに対する秋思という主観。凋落の色を見せる秋だからこそ、可愛らしいコアラを見ても物悲しさにかられる。作者の心理が、秋思という季語に込められています。

無人駅見えいて遠し刈田道

[ 徳島県鳴門市 斎藤秀雄 ]

(評)鉄路のある美しい光景。刈田が広々としています。何かの帰り道。刈田道を一人で辿る作者。複雑な思いがあるのでしょうか。境涯俳句として味わいたい一句。

湖の四方を包む照紅葉

[ 佐賀県唐津市 浦田穂積 ]

(評)下五の照紅葉で輝く紅葉の美しさに包まれます。俳句は季語を詠うもの。充足感のある写生句。素直な情景描写で、作者の目前のシーンが伝わってきます。

れば・たらの期待裏切る残暑かな

[ 東京都杉並区 大須賀正 ]

(評)面白い発想ですね。立秋を過ぎてから気温三十度を越えるような日。つらいものです。「れば・たら」での予測を見事に裏切ってくれる残暑。作者の素直な実感を表しています。

青蜜柑剥けば老猫しかめ面

[ 徳島県徳島市 宅茶 ]

(評)蜜柑が黄色くなるのは十月過ぎ。青蜜柑は蜜柑の木の匂いさえします。猫でさえしかめ面をする位です。老猫と青蜜柑の組み合わせが楽しい秀逸句。

秋寒や潜水艦のドック入り

[ 兵庫県神戸市 平尾美智男 ]

(評)秋寒は、日中まだ温かく、朝晩などに時々寒さを感じる時期。そんな秋らしい寒さの中で、大きな潜水艦のドック入りがあったという。現実感と奇妙な臨場感の両面を伝えてきます。

秋冷の暮色に紛れ解くこころ

[ 埼玉県加須市 武智敏枝 ]

(評)「秋冷の暮色」に晩秋の情趣たっぷり。そして「解くこころ」。作者の心情が素直に読み取れます。詩情溢れる秀逸句。

赤い羽根その日の内に失へり

[ 愛知県高浜市 篠田篤 ]

(評)毎年十月一日から末日まで催される共同募金運動。募金の為に街角に立ち止まる。確かに胸元に赤い羽根を付けてもらったのに・・・。誰にもありそうなことをさりげなく詠んだところに、この句の妙味があります。

宇宙にも涯のありけり放生会

[ 東京都世田谷区 平松尚樹 ]

(評)放生会は生類を放って供養する行事。京都の石清水八幡はことに有名。今は九月十五日に行なわれます。この宇宙にも涯・限りがあるというこの句。過去詠嘆の助動詞まで使ってきっぱりと言い切った所に、二句一章の良さが出ています。

銀河系干満の星温め酒

[ 宮城県遠田郡 武田悟 ]

(評)俳句では、普通このような三段切れを嫌います。でも、有名な句に「目に青葉山ほととぎすはつ松魚」があります。大宇宙の中の地球ならではの温め酒ですね。壮大な一句です。

遠ざかるさっきの私山粧ふ

[ 茨城県筑西市 宮川礼子 ]

(評)「山粧ふ」は、春の山を「山笑ふ」と形容するように、秋の山を形容する季語。さっきまでの私は、もう本当の私ではない。時は一瞬も止まることなどありません。人生を如実に描いて見事です。文語俳句ですので、促音「っ」は「つ」と書くべきでしょう。

マニキュアが作る水割秋深し

[ 福岡県大牟田市 辻紘一郎 ]

(評)マニキュアの爪。今流行のネイルアートが施されているのでしょうか。スナックの一景と見ても、秋深しの下五が効果的。深まる秋の季節感が、喪失感を伴い物思うことにつながります。味わい深い一句。

秋耕や人をらぬ田のすぐ暮るる

[ 東京都小金井市 あさぬま剛九 ]

(評)落ち着きのある文語俳句の作品。収穫の終わった田畑を起こすのが秋耕。日はすぐに暮れる頃です。「人をらぬ田」の寂しくも自然な詠みぶりが、無常にも通じる境涯俳句の良さがあります。

<佳作賞>

咳一つ子規前を向く獺祭忌

北海道札幌市 鎌田誠

江利チエミのさのさに酔へり温め酒

北海道紋別郡 宮坪勝美

立石寺腹拵への芋の汁

青森県黒石市 福士謙二

山峡の天は原色涼新た

岩手県八幡平市 伊藤紫水

淋しさに秋刀魚つついて酒を飲み

山形県酒田市 石川幸子

敬老日慈雨に逸話の語りあり

山形県東置賜郡 高梨忠美

落椎を隠にはこび瑠璃卓に

福島県郡山市 いらくさ

秋入日何処に帰るか群烏

茨城県北相馬郡 中村一宗

影ふたつ付かず離れず望の月

茨城県取手市 深見昌子

いつまでも手を振る母や秋の暮

茨城県日立市 町井寂石

ポトンボソゴソガサコトン雑木の実

栃木県宇都宮市 湧井美地子

月夜茸古式ゆかしきひとの列

栃木県日光市 森青萄

紅葉に目を病む夫と遠まわり

栃木県真岡市 柳徳子

嫁となる娘をつれて来し菊日和

群馬県伊勢崎市 川野忠夫

終電という秋の灯の中にをり

群馬県みどり市 吉田美津江

山霧を伴い妻と峠越え

埼玉県大里郡 梅澤邦夫

阿波踊膝から下が泥塗れ

埼玉県加須市 佐藤貴白草

色すがた気高さ競う菊まつり

埼玉県春日部市 宇田川美恵子

恋が今たどりつくさき月宮殿

埼玉県所沢市 獅子谷雪

吊るし柿甘くしてゐるニュートリノ

千葉県柏市 岡田春人

紅もみじ終焉前の理想の色

千葉県白井市 中森恭子

日光の滝に色あり初紅葉

千葉県流山市 葛岡昭男

新涼や父の手作りコロッケパン

千葉県松戸市 をがはまなぶ

起き抜けの幼の声や秋彼岸

千葉県山武郡 伊橋徹

きもちわるいいちぢくを食ふ三つ食ふ

東京都足立区 西生ゆかり

秋澄むや戦没学徒の描きし馬

東京都葛飾区 武井清子

日本語でない人も居る紅葉狩

東京都葛飾区 増島浄徳

新月や子のぎこちなきアイウエオ

東京都小金井市 あさぬま剛九

網棚のリュックサックにゐのこづち

東京都新宿区 衣川洋子

続編の待たるる新刊秋灯し

東京都世田谷区 平松尚樹

秋時雨肩を半分濡らすきみ

東京都調布市 あさだ悠野

梵鐘の余韻さばしる秋思かな

東京都八王子市 福岡悟

経木にて持ち帰りたし太刀魚や

東京都文京区 遠藤玲奈

空気入れ体重で押す良夜かな

東京都文京区 大久保昇

花梨の実二度と私を生まぬ母

東京都町田市 栖村舞

塔頭の彼方のチャペル秋二つ

東京都町田市 関根曳月

妻と子と暫く黙す星月夜

東京都町田市 野村信廣

小鳥来るトラピスチヌの避雷針

東京都目黒区 原紀子

横浜のフランス山や鉦叩

神奈川県相模原市 志村宗明

鶺鴒や競歩をしたら君が勝ち

神奈川県相模原市 松田佳子

金と銀芒波打つ吉野川

神奈川県相模原市 廣井博栄

胡弓の音誘ふやおわら風の盆

神奈川県横須賀市 菅原孟

やはらかく子と手をつなぐ花野かな

神奈川県横浜市 大野潤治

秋晴れのしかと腕振るウォーキング

神奈川県横浜市 竹澤聡

秋の畦君一人行き子に還る

富山県高岡市 晒谷摩綾

行秋や京哲学の道歩く

石川県金沢市 河西健二

善し悪しも全てまるめて冬支度

山梨県北杜市 音閑

俳句てふ恋におちたる夜長かな

岐阜県岐阜市 辻雅風

秋の池吾白雲に座してをり

岐阜県多治見市 金井辰義

ソロ・コーラスリフレインあり宵の虫

岐阜県美濃加茂市 喜多隆文

古里や戻り味わう里の秋

静岡県静岡市 吉川山頭火

秋の空航跡の白手でさぐる

静岡県浜松市 杉山千鶴

みづうみの水のやさしき花野かな

愛知県刈谷市 間瀬悦子

小道なりふきゆく風が秋しるべ

愛知県名古屋市 芳賀仁美

また一人友をみおくる冬じたく

三重県津市 梅林伸行

葛野路を通さじとする赤蜻蛉

京都府京都市 天野昌茂

十三夜島を離るる舟灯り

京都府福知山市 山内利男

空の碧金山紅葉川下り

大阪府和泉市 佐藤信昭

どんぐりを拾う子どもはぼうけんしゃ

大阪府大阪市 滝川真澄

紅葉に潜む哀しさ見えにけり

大阪府大阪市 mariceLA

取り手なく鈴生の柿残りをり

大阪府門真市 藤田信義

密やかに深まりし秋ポプラ染め

大阪府東大阪市 米田明子

富士山を両手ですくう秋の水

大阪府枚方市 玉水

咳すれば影もせきする良夜かな

兵庫県相生市 江見巌

採血の腕の白さよ初紅葉

兵庫県神戸市 三木福一

ふるさとの道沿いにあの曼珠沙華

兵庫県宝塚市 家永和治

残月と並んで帰る家もなく

広島県福山市 藤井茂基

鰯雲突堤といふ行き止まり

広島県福山市 田村祐巳子

関門の柿もうまいぞ子規先生

山口県下関市 木嶋政治

ほうじ茶を二人で飲んだ晩秋光

徳島県小松島市 山田雄一

高鵙や夕闇迫る西の空

徳島県徳島市 脇田冬波

LED換えて平成長き夜

徳島県美馬市 白川毅

山里にそつなく生きて柿を剥く

徳島県吉野川市 佐藤静江

渋抜けし柿のごとくに在しけり

香川県高松市 尾崎妙子

新米に塩ひと振りの甘さかな

香川県高松市 宮崎早苗

秋時雨過ぎれば夏日ぶり返す

福岡県北九州市 赤松桔梗

満月や知ってか知らずか雲隠れ

長崎県長崎市 平田摩美

天高しカーブミラーやバスを染め

大分県別府市 小林袈裟雄

母の焚く五右衛門風呂や星流る 

宮崎県日南市 近藤國法

柿紅葉ひとは残りて揺れて居り

熊本県阿蘇郡 興呂木和朗

会い求め芒片手に日奈久旅

熊本県菊池市 安武由加

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

ページの先頭へ