2016 HAIKU日本春の句大賞 結果発表

HAIKU日本春の句大賞 金賞

春雷や身体ぶつけて入るドア

[ 東京都新宿区 恵島健太 ]

(評)雷は季節を通して発生しますが、立春を過ぎた頃に聞くのが春雷。夏の雷のような激しさはなく、弱々しくて短く終わってしまうことが多い。そんな春雷に出会った時の作者の姿が面白い。両手が塞がっていたのでしょう。「身体ぶつけて入る」は誰にも経験のあることです。こんな情景を俳句に詠むのは、意表を突き楽しい。日常のふとした瞬間を切り取った一句。

銀賞

朧月母は泣かない人となり

[ 静岡県富士市 城内幸江 ]

(評)中七から下五への惜辞に、母を愛する作者の心が充分に伝わって来ます。母という一人の女性の人生を振り返ってみる。この切なさが、詩情性に富む作品となっています。母を朧夜に置くことで、読み手に色々なことを想像させます。泣かないことが良いのでしょうが、泣かないことが悲しい事もあります。この句はどちらのニュアンスでしょうか。俳人としての深い味が感じ取られます。

銅賞

バレンタインときめきもなく日が暮れる

[ 大阪府高槻市 前川あゆ ]

(評)バレンタインデーに、作者は何のときめきもないという。読み手に自由に想像させるつぶやきのような一句。上手い表現です。何事もなく暮れようとする一日。悲哀を感じる人もいるでしょう。何が・・・幸せ?変わらない一日を日々生きることの幸せもあるでしょう。

藤の花新たな風に揺れており

[ 長崎県長崎市 堀祐司 ]

(評)見たまま、感じたままを詠んだ素直な一句。花の周りには、さまざまな景があったでしょうが、その一切を排除し藤一点を見つめた作者。穏やかな情景ですが、説得力があります。写生の眼が、しっかりと捉えた景をそのまま伝えるのは、俳句の得意技です。俳句は文字で行うスケッチ。静かな時の中、心のゆとりが感じられる一句。

ひらがなのような春野となりにけり

[ 愛媛県松山市 森田欣也 ]

(評)一句の中で、比喩がよく効いています。春野は、萌え出る様々な花で彩られています。ひらひらと曲線を描き蝶が飛びます。そんな春野を見ていると、憂きことさえも消え去ります。この風景を「ひらがな」と例えた作者。ひらがなと春野は、何とも素敵な取り合わせです。力のある作品は、句がすくと立ち上がっています。

ママたちの差すフェミニンな春日傘

[ 愛知県名古屋市 志村紀昭 ]

(評)「フェミニンな春日傘」の惜辞が何とも効果的で、一気に「春日傘」の名詞止めとなります。心地良い響きが伝わってきます。「フェミニン」は女性的の意味ですが、女性が皆、楚々として女性的であるとは限りません。こんな現代だからこそ、この句におかしみがあります。

<秀逸句>

大空に土筆で描く夢の文字

[ 青森県八戸市 金田正太郎 ]

(評)作者はきっと、寝そべっているのでしょう。春の大地のぬくもりを背中から感じています。簡潔で分かりやすく、発想力豊かな句。土筆を筆に見立てて大空に描く。しかも大きく大きく「夢」の文字を。さわやかな俳味のある作品です。この十七文字に、生きている証を感じます。

菜の花や茎の色こそやさしけれ

[ 福島県福島市 渡部登志 ]

(評)係り結びの手法で、心地よいリズムを刻む一句。普通は、茎の色までは詠みませんが、この句は違います。古典的な文法を用いてまで、茎の色合いを誉めています。「やさしけれ」の已然形がよく似合っていて、郷愁と深みを増しています。

夢あはし百千鳥だけ確かなり

[ 埼玉県所沢市 獅子谷雪 ]

(評)春の心地良い眠りから覚めた作者。頭の中はぼんやりとしていて、見ていた夢の記憶も淡い。生活の中の何でもない事ですが、今朝違っていたのは、鳥の鳴き声。鳥が一斉に鳴き交わしています。様々な鳥の声を一緒に聞くのが百千鳥。「確かなり」と断定し、小鳥たちの歓びを感じ取った一句。

類想に悩めば浅蜊舌のばす

[ 千葉県浦安市 安藤風子 ]

(評)俳人は類想から脱したいと思います。ただ、十七文字において類想はなかなか避けがたいものです。これを乗り越えての俳句ゆえに、俳人は悩みます。そんな時、「浅蜊舌のばす」は何ともユーモラスで、明快な表現です。作者の悩みを、浅蜊に舌を出して笑われていたのかもしれません。俳味のある一句。

里山を行く鈴の音や風光る

[ 東京都世田谷区 平松尚樹 ]

(評)「里山を行く鈴」は、巡礼者の杖の鈴でしょうか。四国遍路は、今や世界的に有名になりました。いずれにしても、のどかさを感じさせてくれる一句。素直な詠み方の中で、「風光る」の季語が句をぐっと引き締めています。詩情溢れる俳句となっています。

のどけしや伊根の舟屋の昼下がり

[ 岐阜県岐阜市 辻雅風 ]

(評)俳句は季語を詠むもの。「のどけしや」の季語が効果的です。「伊根の舟屋」の情趣ある雰囲気をよく表しています。何とも上手い表現です。舟屋は、舟の収納庫の上に住居がある京都府伊根浦独特のもの。旅吟の句でしょうが、なかなかこうはいきません。汐の香りまで伝わって来るようです。

声だけになってしまへり揚雲雀

[ 愛知県高浜市 篠田篤 ]

(評)雲雀は巣から飛び立つとき、巣が見つからぬよう離れたところから急上昇します。これが「揚雲雀」。その様子を目で追い、最後に残った囀りだけに焦点が当てられました。雲雀は、点よりも小さくなり、もう天高く消えています。作者の視点の鋭さが窺える一句。

春めくやしづかに顔を洗ふ音

[ 大阪府和泉市 小野田裕 ]

(評)一日一日寒さの緩みを感じつつ、春を待つ。「しづかに」が、水が優しくなったと感じる作者の心を物語っています。春の訪れを実感しています。「顔を洗ふ音」が詩的で、艶っぽい一句。きっと、作者の妻でしょう。日常の生活の中の、静かな景をさりげなく詠んでいます。

残雪の穂高を見やる山車人形

[ 山口県下松市 廣中健人 ]

(評)岐阜県高山市の山車人形は、荘厳優美。この山車人形が穂高を眺めています。色々な動きをする山車のからくり人形が、遠景の山々を望む景色を詠んだ作者の心情が分かります。祭りの情景と残雪の穂高が、懐かしい日本の姿と山里の人々の暮らしを思い起こさせてくれます。

末黒野や空に鳶の輪いくたびも

[ 香川県高松市 尾妙子 ]

(評)「末黒野や」の上五がとてもよく効いている一句。全体を引き締めています。末黒野とは、春、枯葉を焼いて一面に黒くなっている野原の事です。俳句は投じた時点で、作者の手を離れて読者のものとなってしまう文芸と言えるでしょう。私には、瞬時に亡き母の面影がよぎりました。作者の脳裏にもあったでしょうか。読者が自分で考えることのできる意味の空間を残してくれた作品です。

<佳作賞>

生徒より遅めに巣立つ桜かな

北海道札幌市 上原大輔

水溜まり雪解の道に点々と

北海道札幌市 小河原菫

湯を潜り色鮮やかな若布かな

青森県三戸郡 栗山朗子

クレソンをお土産と笑う小さな手

岩手県一関市 千葉楓色

春嵐ドンキホーテのごとく行く

宮城県仙台市 玉井朝夕

花吹雪倒れた母の見舞いして

山形県東田川郡 曾根啓視

雪やなぎ初心が向かう道しるべ

茨城県牛久市 小坂四十五

春の雪紅ひとさしの死化粧

茨城県日立市 町井寂石

春風や生後五カ月よく笑ふ

群馬県安中市 佐藤志乃

鞦韆に座せば背後に若き母

群馬県邑楽郡 小林茜

春星を一つ灯して宵となり

群馬県前橋市 石原百合子

古里の桜見上げる決意の陽

埼玉県加須市 平井玲凜

今日もまた春の雪積む鳥海山

埼玉県熊谷市 米山直嘉

花屑の路傍にラストダンスかな

埼玉県志木市 服部撫子

街に風ミントグリーンの春は来ぬ

千葉県市川市 碧川麻里

起こされて言いわけさがす春の朝

千葉県野田市 橋本香織

冠を得しチーム饒舌花むしろ

千葉県船橋市 川登美子

桜吹雪日本海まで二十キロ

千葉県松戸市 山田和子

小用の鼻の先には梅の花

千葉県山武郡 伊橋徹

初桜男のように咲いている

東京都青梅市 坂下あい

いくつもの出会ひと別れヒヤシンス

東京都板橋区 湯浅美翠

いいねとは花ひとひらよTwitter

東京都板橋区 渡邊大智

切株の一等席の二月かな

東京都小平市 藤守灯火

指一本たてて一歳桃の花

東京都新宿区 田中永

待受けは観音菩薩春時雨

東京都杉並区 藤川都

夜桜や真白き蝶の迷い路

東京都世田谷区 川口翠月

蝋石で画かれし電車春惜む

東京都世田谷区 平松尚樹

からっぽの預金口座へ春の風

東京都豊島区 谷村行海

タンポポの綿毛の旅は何処へやら

東京都調布市 古川美由紀

行春や余震真中に無人駅

東京都八王子市 福岡悟

百千鳥笑ひ転げて出る涙

東京都八王子市 村上ヤチ代

群生はせずに孤高の山桜

東京都府中市 櫻井光

祖母の文「都忘れがきれいです」

東京都文京区 遠藤玲奈

入学の化粧香れり親の数

東京都町田市 岩尾邦彦

中高一貫校舎北窓開きけり

東京都目黒区 原紀子

牛小屋にゐるゐる子猫こねこかな

神奈川県足柄下郡 池内テル子

待ちわびし春告鳥は君でした

神奈川県川崎市 石関恵子

舞ふ蝶に操られたる吾子の首

神奈川県川崎市 川口祐子

成長と変わらぬ桜対比見る

神奈川県川崎市 藤木美優

ポストに蝶朝刊取るはまたあとで

神奈川県藤沢市 青柳美芳

いかなご煮女三代並び立つ

神奈川県横浜市 大野潤治

陽光に春背負い笑む我が子かな

神奈川県横浜市 尾友子

このビルに桜咲く庭ありしとは

新潟県新潟市 田代草猫

二駅を乗り越し戻る目借時

岐阜県岐阜市 辻雅風

たんぽぽの畦ゆっくりと車椅子

岐阜県岐阜市 銀の筆

君の香と鼻をくすぶる春の風

静岡県富士宮市 加藤愛莉

茅花ぬく銀ひといろのタペストリー

愛知県江南市 伊神舞子

春雪を踏み明く音ぞあけ烏

愛知県豊川市 長谷川真也

蓬餅食んで見送る川の水

三重県津市 流離いの大坂人

みーつけたつくしの先に露の玉

三重県名張市 弁々

花は五分あとの三分は飲んで待ち

三重県松阪市 谷口雅春

春の日や窓辺で祖母はアンを読む

滋賀県大津市 井田みち

春寒や離れ行く子の段ボール

滋賀県彦根市 馬場雄一郎

桜咲く明日へ向かって疾走す

滋賀県守山市 愛植雄

あの頃はみんな生きてた花の山

京都府相楽郡 田坂正博

土筆採り十円玉を見つけたり

京都府京都市 吉川与太郎

遠足や後ろ向きして進む児も

京都府京都市 水色ママ

夜桜の空に別間のあるごとし

大阪府和泉市 小野田裕

清明の絵本に角のなかりけり

大阪府和泉市 清岡千恵子

懐に天文台や山笑う

大阪府大阪市 木本康雄

飛行雲須叟に消えたり春の空

大阪府河内長野市 北阪清鷺

年重ね夫婦手をとり春日和

大阪府東大阪市 明霞

春の雷老の気弱を笑いけり

大阪府南河内郡 阪井一夫

傍過ぐる車の屋根から花吹雪

大阪府箕面市 小笠原攝洲

ひとり身も十年経ちぬ春手套

大阪府八尾市 乾祐子

天と地を縫いあげている春の雨

兵庫県明石市 種田淑子

修行僧素足の軽さ彼岸来る

兵庫県芦屋市 高橋八重

朧夜に一本残る海の杭

兵庫県神戸市 音羽和俊

せせらぎの旋律くるり桃小舟

兵庫県神戸市 渡邊励人

春日の香りたきしめ文送る

兵庫県たつの市 アサヒメ

宴会の隅に置かれし桜餅

兵庫県宝塚市 桝本芭蝶

人間の手足短し揚雲雀

兵庫県姫路市 佐藤日田路

田の神に花の散りくる散歩道

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

春の風君もろともに抱きしめる

和歌山県御坊市 水村凜

針供養注射針かと子に聞かれ

和歌山県和歌山市 中浴智美

不器用にネクタイ締めて新社員

島根県隠岐郡 あっちゃん

海鳴りが止んで岬に春が来る

島根県隠岐郡 浜千鳥

菜の花やカブトガニ行く泥の跡

岡山県赤磐市 船谷紀之

駄菓子屋にふと立ち寄りし昭和の日

岡山県岡山市 岸野洋介

揺すられて嬉しと粉まく土筆かな

岡山県岡山市 みくちゃん

夕されば菫白きを恋ふごとく

広島県福山市 藤井茂基

花吹雪異人寄せ来る錦川

山口県岩国市 桃井都毬

みくじ引く乙女のうしろ花吹雪

山口県山口市 鳥野あさぎ

バス停も屋敷の内よ桃の花

徳島県徳島市 粟飯原雪稜

押し通すポーカーフェイス夜のおぼろ

徳島県徳島市 笠松怜玉

水温むいつか一人になる暮し

徳島県徳島市 島村紅彩

空海も笑みがこぼれる牡丹の芽

徳島県鳴門市 山口愚知

積年の雄志とどけや春来たる

香川県仲多度郡 佐藤浩章

シャボン玉日々の疲れを閉じ込める

愛媛県松山市 宇都宮千瑞子

白壁の家包むごと藤簾

佐賀県唐津市 浦田穂積

煙る中桜が招き新生活

長崎県長崎市 花園海月

シャボン玉ギリシャの風に吹かれけり

熊本県阿蘇郡 興呂木和朗

桜咲くふと蘇る校舎のにおい

熊本県八代市 一浪丸曽良次

先生は泣き虫と知り卒業す

大分県大分市 金澤諒和

片方の耳にピアスの春神楽

宮崎県日南市 近藤國法

春に啼くあなた待てずに羽抜鳥

沖縄県那覇市 広瀬千風

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

ページの先頭へ