HAIKU日本 春の写真俳句大賞発表

HAIKU日本春の写真俳句大賞

水底の静かなりけり花筏

[ 東京都豊島区 増田佳香 ]

(評)花筏の流れるさまが鮮やかで美しいのに、水の底のしんとした印象を思わせる対比が面白い。その裏にはどんなストーリーがあるのかなと感じさせてくれて、その点を評価しました。物事には裏と表があると、教えてくれる作品です。

次点

菜の花に隠れた声の飛び跳ねる

[ 千葉県浦安市 白井桃香 ]

(評)春の陽のまぶしさの中の声は、活き活きとしたお子さんなのでしょうか? その姿が目に浮かぶようです。いつまでもその明るい声を保ってほしいと、作者の気持ちを感じさせてくれる写真俳句です。

<秀逸賞>

何事もなかったように木の芽吹く

宮城県仙台市 大友隆子

(評)春になれば、当然のように、生きとし生けるものは皆生まれ出て来ます。そう、何事も無かったように・・・。さらりと詠んだ一句ながら、上五中七の十二音がたくさんのことを語っている句だと思います。作者自身のことなのか、五年前の震災のことなのか・・・。待ちわびた春の喜びだけではない重みを背負った木の芽のようです。

現世の自由不自由花筏

岩手県一関市 山下暮朝

(評)見事な花筏が撮影されています。散る花をさらに水面に浮かべながら漂っています。桜の短い命と花筏の儚さを象徴した美しい光景です。この句から受け取る何とも言えない雰囲気と、自然の作る美しさ大切にしたいと思います。

ランナーの牽き連れし風春孕み

東京都八王子市 姉刀自

(評)ランナーとランナーの間にある風を俳句に詠んだ作者。着眼点の面白い一句。追う者、逃げる者また、追い越そうとしている者。若いランナーの懸命な姿の間にあるのが春を孕んだ風です。ランナーが牽き連れる風に新鮮な驚きを感じ、その時のイメージを具体的に表現しています。

凜とする白木蓮の輝きや

東京都目黒区 岸本現世

(評)天を向いた白木蓮。ふくいくとした香りが、漂います。輝きながら、周りを圧倒する美しさです。写真俳句の句材として、見逃すことは出来ません。俳句は常に、新鮮な句材を追い求めます。この句では、その句材が素直に十七文字でスケッチされています。

ここかしこ恋する猫の声のする

神奈川県藤沢市 吉田とも女

(評)五七五の頭を「こ」で揃えていて面白い。「こ」の音を多用し、色々な場所で猫の恋が始まっていることを想像させます。リズム感も出て、この句の良さとなっています。発情期の猫は、昼も夜も切なく鳴き続けます。写真の静の姿と、句から想像される動の姿との対比も良いと思います。

山笑う夜空も人も町並みも

山梨県北杜市 矢合ちひろ

(評)写真はハーブティーを撮ったイメージ写真。色が神秘的で、春の訪れを楽しむ心象的な風景を表しています。早春の山と共に、作者にはすべてが喜びを謳歌しているように見えます。動き出した春に合わせて、夜空も人も町並みも。すべてのものから春の喜びが伝わって来ます。

猫の恋恋はしないと誓っても

岐阜県養老郡 鈴木正樹

(評)誓いは、そう守られるものではありません。神様の前で誓った永遠の愛でさえも。春が近づくと、飼っている猫は家をあけて放浪します。恋猫に我が身を重ね合わせ、闇の中へ見送る作者自身への呟きとも取れます。

赤絵具底から切りぬチューリップ

愛知県名古屋市 山田雄一

(評)子供たちの写生の風景。対象は赤のチューリップ。赤の絵具が減っていきます。絵具を底の方から絞り出し、最後には切ってしまいました。細かな動作が表現されています。どんな絵に仕上がっていくのでしょうか。華やかな花壇の景から、子供たちのいきいきとした表情さえ伝わって来そうです。

春空に飛び立ちそうな双葉かな

愛知県西尾市 つかぽん

(評)双葉なので野菜の芽でしょうか。確かにこのまま飛び立ちそうな気がします。白い霰にも見える肥料が、無造作に撒かれています。成長が楽しみです。作者のじっと見守っている姿が思い浮かびます。春の訪れの喜びに溢れている一句。その気持ちを春空のおおらかさが、しっかりと受け止めてくれています。

人通り覗いて春陽もらいけり

徳島県徳島市 今比古

(評)出窓に並んだ鉢植えの花が美しい写真となりました。カフェの一隅で、一人佇む作者。気持ちも優しくなり、のんびりと物想う。幸せなひと時がゆっくりと流れる宝物のような空間です。うららかな春陽が印象深い一句。作者の今の心情を聞いてみたい気持ちです。

春の雲わたしも赤く咲いてます

徳島県徳島市 今比古

(評)藪椿を手前に入れて、早春の穏やかな海と空を捉えた写真。遠慮気味に咲いている椿が、作者に通じるような気がします。句は擬人化された小気味よい一句。平明な句に写真が印象的です。句の明るさに写真がよく合っています。

凛と咲き少女見つめる桃の花

徳島県徳島市 脇田冬波

(評)春風に凛と咲く桃の花。それを見ている少女たち。まさに、句材として申し分ありません。この句の場合は、擬人化されて桃の花が少女を見ています。明るいイメージが次々に浮んで来ます。自分がしっかりと捉えた句材は、どんどん俳句にしていきましょう。

背中から黄昏てゆく遍路笠

香川県高松市 滝川歌仙

(評)徒歩なら二か月位は、かかってしまう四国八十八ケ所。遍路笠を被り、手には金剛杖。「背中から黄昏てゆく」はそんなお遍路さんの影まで見えるような気がします。春の黄昏時だけに、儚さも増します。白装束のお遍路さんの背中に、今を生きる様々な思いが映し出されています。

波立ちて模様の変わる藤の花

佐賀県佐賀市 佐々木元

(評)俳句は文字で行うスケッチです。この句は写生句の見本のような作品です。俳句の写生とは、五感を働かせて行うもの。その時生れるイメージを表現します。自然は色々なものを私たちに教え、与えてくれます。目の前の景を、俳人として文字に定着させていきましょう。

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

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